シャンパン・グラス
この項では、シャンパンを飲むために作られたグラスであるシャンパン・グラスについて述べる。一般的な形状として、フルートとクープの2種類が存在する。どちらも脚付きのグラスであるため、手に持っても中身の温度に影響を与えないようになっている[1]。この特徴のため、シャンパン以外のスパークリングワインやある種のビールを飲むのにも好適である。
フルート
[編集]フルートグラス(仏:flûte à Champagne)は、先が細くなった背の高い円錐形、ないしはボウルを縦に引き伸ばしたような形をしている脚付きのグラスである。通常、容量は180~300 mlである[2]。
フルートグラスはスパークリングワインにとって好ましい形状のグラスとして、1700年代初頭に酒器の素材が金属や陶器からガラスに移り変わるのにしたがい、他のワイングラスとともに開発された[3]。当初は背の高い円錐形で細みの形状をしていたが[4]、20世紀には側壁が垂直で、口に当たる部分がわずかに内側にカーブしたグラスが好まれるようになった[5]。
グラス内壁の角度がきつくなっている理由としては、シャンパンの特徴である炭酸を逃がさないために表面積を減らすことが挙げられる[6]。シャンパングラスとの接触面で核形成が起こり、発泡を促すためである。すなわち、接触面積が大きすぎると急速に炭酸が抜けて行ってしまう。飲む人の口の中での発泡が増えれば飲み心地は向上し、加えて深さのあるフルートグラスでは泡が液面まで立ち上るのが見られるため、視覚的効果も優れている[6]。フルートグラスの細さはワインと酸素が触れる面積の割合を減らす効果もあり、ワインの香りと味わいを高めている[3][注釈 1]。
フルートグラスはスパークリングワインを飲むのに最も一般的に用いられるほか、フルーツビールやベルギーのランビックやグーズといったビールを飲むのにも使われる[8][9]。フルートグラスを用いることで、ビールの色が良く見え、香りを十分に感じられる[9]。ピルスナーグラスとの明確な違いとして、フルートグラスには脚が付いていることが挙げられる[10]。
クープ
[編集]クープ(仏:Coupe à champagne)は浅く広口の椀型をした脚付きのグラスであり、容量は通常120~240 mlである[2]。一説によると、フランス国王ルイ15世の公妾であったポンパドゥール夫人の乳房をかたどった形状であると言われているが、実際はポンパドゥール夫人の登場より1世紀前の1663年にスパークリングワインやシャンパンを飲むためにイングランドで作られた[11][12][13]。クープは18世紀にフランスに持ち込まれてから1970年代に至るまでフランスで持てはやされていた[14]ほか、アメリカでは1930年代[15]から1980年代[12]まで流行していた。
チューリップ型
[編集]シャンパンはチューリップ型のグラスで供されることもある。白ワイン用のグラスはフルートグラスに比べて胴も飲み口も幅広である[16]。伝統的に用いられてきたフルートグラスよりも香りを感じ取りやすく、かつ炭酸がすぐに抜けてしまうのを避けられる程度には口が細いという特徴を持つため、ワインの専門家によってはチューリップ型のグラスでシャンパンを飲むことを好む者もいる[7][17]。ワシントン・ポストで食に関するコラムを書いているデイブ・マッキンタイアは「チューリップ型を用いることで、シャンパンが舌に当たる位置を舌の先端ではなく中ほどにすることができるため、ワインの風味をより際立たせることができる」と主張している[18]。ワイングラスメーカーのリーデルは、フルートグラスではワインの香りと味わいの全てを正しく理解することができないとして、フルートグラスを厳しく批判している[19] 。
二重構造のグラス
[編集]1960年代、手の熱がシャンパンやその他の飲み物に伝わりにくくするため、二重構造のグラスが開発された[20]。内壁と外壁の間には、熱伝導率が低い空気で満たされた隙間が空いている。
脚注
[編集]- 注釈
- 引用
- ^ Cech & Schact 2005, p. 32.
- ^ a b Giblin 2011, p. 15.
- ^ a b Sezgin 2010, pp. 72–74.
- ^ Bray 2001, p. 120.
- ^ Walden 2001, p. 9.
- ^ a b Andrews 2014, pp. 138, 140.
- ^ a b Moore, Victoria (21 October 2014). “Why settle for a flute when you can savour the whole symphony?”. The Daily Telegraph 31 December 2015閲覧。
- ^ Jackson 1908, p. 114.
- ^ a b Villa 2012, p. 373.
- ^ Kohn 2013, p. 175.
- ^ Lamprey 2010, p. 35.
- ^ a b Boehmer 2009, p. 55.
- ^ Ray 1967, p. 59.
- ^ Liger-Belair 2004, p. 31.
- ^ Andrews 2014, p. 138.
- ^ Robards 1984, pp. 55–56.
- ^ Krebiehl, Anne (January 5, 2016). “Farewell to Champagne flutes in 2016?”. Decanter.com. November 20, 2016閲覧。; “The Trouble with Champagne Flutes”. Milk Street: p. 29. (Fall 2016)
- ^ McIntyre, Dave (October 1, 2017). “Don;t believe the hype. You don;t need glasses in multiple shapes and sizes to enjoy wine”. The Washington Post December 9, 2017閲覧。
- ^ Mercer, Chris (November 28, 2013). “My goal is to make Champagne flutes 'obsolete', says Maximilian Riedel”. Decanter.com. November 20, 2016閲覧。
- ^ “Beverage Glasses”. The Hardware Retailer: p. 183. (February 11, 1968)
参考文献
[編集]- Andrews, Deborah (2014). Shopping: Material Culture Perspectives. Newark, N.J.: University of Delaware Press. ISBN 9781611495188
- Blume, Lesley M.M.; McFerrin, Grady (2010). Let's Bring Back: An Encyclopedia of Forgotten-Yet-Delightful Chic, Useful, Curious, and Otherwise Commendable Things From Times Gone By. San Francisco: Chronicle Books. ISBN 9781452103501
- Boehmer, Alan (2009). Knack Wine Basics: A Complete Illustrated Guide to Understanding, Selecting and Enjoying Wine. Guilford, Conn.: Knack. ISBN 9781599215402
- Bray, Charles (2001). Dictionary of Glass: Materials and Techniques. London: A. & C. Black. ISBN 9780713657920
- Cech, Mary; Schact, Jennie (2005). The Wine Lover's Dessert Cookbook: Recipes and Pairings for the Perfect Glass of Wine. San Francisco: Chronicle Books. ISBN 9780811842372
- DeGroff, Dale (2002). The Craft of the Cocktail. New York: Clarkson Potter. ISBN 9780609608753
- Giblin, Sheri (2011). American Cocktail: 50 Recipes That Celebrate the Craft of Mixing Drinks From Coast to Coast. San Francisco: Chronicle Press. ISBN 9781452110332
- Jackson, Michael (1908). Michael Jackson's Great Beers of Belgium. Philadelphia: Running Press. ISBN 9780762404032
- Kohn, Rita (2013). The Complete Idiot's Guide to Beer Tasting. New York: Alpha Books. ISBN 9781615643523
- Lamprey, Zane (2010). Three Sheets: Drinking Made Easy! 6 Continents, 15 Countries, 190 Drinks, and 1 Mean Hangover!. New York: Villard. ISBN 9780345511584
- Liger-Belair, Gérard (2004). Uncorked: The Science of Champagne. Princeton, N.J.: Princeton University Press. ISBN 9780691119199
- Ray, Cyril (1967). In a Glass Lightly. South Brunswick, N.J.: A.S. Barnes. ISBN 9780498074592
- Robards, Terry (1984). Terry Robards' New Book of Wine: The Ultimate Guide to Wines Throughout the World. New York: G.P. Putnam's Sons. ISBN 9780399129094
- Sezgin, Pam (2010). “Drinking Glasses and Vessels”. In Black, Rachel. Alcohol in Popular Culture: An Encyclopedia. Santa Barbara, Calif.: Greenwood Press. ISBN 9780313380488
- Villa, Keith (2012). “Framboise”. In Oliver, Garrett. The Oxford Companion to Beer. New York: Oxford University Press. ISBN 9780195367133
- Walden, Hilaire (2001). The Book of Cocktails. Volume 2. New York: HP Books. ISBN 9781557883728