かわらけ
かわらけ(カワラケ、漢字表記は「土器」)は、日本の中世から近世(平安時代末 - 江戸時代)にかけて製作・使用された素焼きの土器。その中でも特に碗・皿形の小型器種を指す語である。古墳時代以来の土師器の系統に連なるため、土師質土器(の碗・皿)や中世土師器などとも呼ばれる。
概要
[編集]江戸時代の山岡浚明による百科事典『類聚名物考』(巻256・調度部121、1753年から1779年にかけて執筆)によると「土器:かわらけハ瓦笥(カワラ・ケ)なり。薬(釉薬)かけて焼たるを陶器・瓦器ともいひ、素焼を土器といふなり。後世ハおおくハ訓(訓読み)にいわで音(音読み)を用ひてどきといへるなり」とあり[1]、古来は素焼きの土器全般を「カワラケ」と呼んでいたと考えられている。『大鏡』にある逸話で、村上天皇から厚い寵愛を受ける女御の芳子に嫉妬した中宮・安子が、芳子に向かって投げつけた土器片も「かはらけ」と読まれている。
現代の、特に考古学の世界では、遺跡から出土する土師器系統の小型の皿形・碗形の中世土器に対する用語として使われるようになっている[2]。これらは、口縁部の径が7-8センチメートルから15センチメートルほどの小型の皿が多く、京都産のものは手捏ね(てづくね)で作られたが、その周辺や東日本などでは轆轤成形で作られたものがある[3]。公家や武士などの上級官人の館において、饗宴の席や儀式・儀礼の場で食器または灯明皿として大量に使用され、使い終わると短期間で一括廃棄されたと考えられている[4]。現代の宴会における紙皿や紙コップのような扱いだったともいえる[5]。
遺構
[編集]中世の豪族居館跡などの遺跡からは、上記のように饗応の席などで使われたと見られるかわらけが一括廃棄された遺構が見つかることがあり、「かわらけだまり(土器溜まり)」と呼ばれる[6]。
隠語
[編集]女性の陰部に陰毛が生えていないことや、そうした女性(いわゆるパイパン)を指す隠語として、古くは「かわらけ」が用いられた[7][8]。
脚注
[編集]- ^ 斎藤 2004, p. 101.
- ^ 斎藤 2004, p. 100.
- ^ 吉岡 1997, p. 125.
- ^ 荒川 2005.
- ^ 岩崎城歴史記念館 2011.
- ^ 愛媛県埋蔵文化財調査センター 2009.
- ^ 奥山益朗(編)「パイパン」『罵詈雑言辞典』東京出版、1996年、245-246頁。ISBN 4-490-10423-5。
- ^ 板坂元(監修)「かわらけ」『「業界」用語の基礎知識』日本実業出版社、1995年、36頁。ISBN 4-534-02277-8。
参考文献
[編集]- 吉岡, 康暢「[シンポジウム報告] 〝カワラケ〟小考([2]平安京:古代から中世へ) 」『国立歴史民俗博物館研究報告』第74巻、国立歴史民俗博物館、1997年3月28日、125-129頁、doi:10.15024/00000833、ISSN 02867400、NAID 120005748095。
- 斎藤, 忠「土器(かわらけ)」『日本考古学用語辞典』(改訂新版)学生社、2004年9月1日、100-101頁。ISBN 9784311750335。 NCID BA68729429。
- 愛媛県埋蔵文化財調査センター: “「平成21年度テーマ展 時代のものさし〜中世〜」配布資料1” (PDF). 愛媛県埋蔵文化財調査センター (2009年). 2021年1月23日閲覧。
- 岩崎城歴史記念館, ed (2011-04-01) (PDF). 岩崎城だより. 13. 岩崎城歴史記念館. オリジナルの2011-11-16時点におけるアーカイブ。 2021年1月23日閲覧。.
- 荒川, 正明 (2005年). “やきものに込められた聖性-日本陶磁の隠れた魅力-”. 学習院大学大学院人文科学研究科美術史学専攻ウェブライブラリー. 2021年1月23日閲覧。