エンゲル係数
エンゲル係数(エンゲルけいすう、英語:Engel's coefficient、ドイツ語:Engelsches Gesetz)とは家計の総消費支出のうち食料費が占める割合[1][2]。
ドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲルが論文を1857年に発表した[1]。この指標は食の多様性も無く、食料費が家計の多くを占めた時代を前提条件としている。前提条件の変化・後述の多くの欠点を抱え、国際的には以前ほど重要視されなくなった。同じ国家でも異なる時期の比較時には有用性が落ちるため、ある年度内に国内を各種属性別の家計ごとに比較する時に活用されている[3]。国際的に、国家間の比較には消費者物価指数を用いる[3][4]。
概要
[編集]エンゲル係数は「食料費÷消費支出×100」の式で算出される[5]。 エンゲル係は、ドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲルが提唱した指であり、「家計の消費支出に占める飲食費割合が高いほど生活水準は低い」との説に基づいている。所得が低いほど、生活に必要な食料費に多くの割合を費やすためエンゲル係数は高くなり、反対に所得が上昇するほどエンゲル係数は低くなる傾向にあるこおををエンゲルの法則という。 エンゲルの法則は、生活水準や消費パターンの変化を示す指標としても広く使われ、経済発展の度合いや国ごとの貧困層の割合を測定するためにも利用される。収入が増えると、飲食費以外の支出(住居、娯楽、教育など)が増加し、より豊かな生活を送ることが可能になるため、エンゲル係数は収入の増加に伴い低下するとした[1][2]。ただし、後述のように国際的に、国家間の比較には別の指標である「消費者物価指数」が王道として用いられるようになっている[4]。
有用性の議論・欠点
[編集]エンゲル係数の高低は生活水準を表す指標とされているが、「1世帯あたりの人数や人口に占める生産年齢の割合、価格体系、生活慣習の異なる社会集団」の比較には不適当との指摘がある[2]。
エンゲル係数の欠点として、「同じ国家における同一期間における各種属性別の比較」以外の比較に向かない。同じ国内ですら比較する際には、年齢や世帯内訳、商品価格水準、農村・地方・都市という生活様式、住居費(家賃)、通信費、水道光熱費、食生活、外出度合い、嗜好性、生活環境が類似していないケースでないといけない。特に国家比較の際には、高齢化率上昇・共働き率上昇・国民の食へのこだわり度、医療費の自己負担割合の低さ・家賃の上昇率の緩やかさ、これらは全てエンゲルス係数の数値を高めることを考慮に入れないといけない。例として、アメリカは統計的に常にG7で特出するレベルで最もエンゲル係数が低いが、背景には家計に占める医療費支出や家賃上昇率が高いことで食費の割合が低くなっていることにある。そのため、国際的には時代の変化や前述の多くの欠点により、国家間の比較時には消費者物価指数を用いるようになっている[3]。
経済学者の飯田泰之は、日本では支出に占める食費の割合は最も貧しい20%で約25%、最も豊かな20%で22%ぐらいであるとして、中間層の方が食費にあてる割合が高いとしている[6]。
岐阜大学教授の大藪千穂は、高齢化や為替変動、食文化の変化など複雑な要因によってエンゲル係数が上昇しているので、上昇すなわち貧困ということにはならないと指摘している。ただし、低所得者層の生活の厳しさについての指標としては有用であるとしている朝日新聞はエンゲル係数が高水準となった背景について、食生活の変化が影響したと報道している[7]。
ニッセイ基礎研究所の櫨浩一は、共働き世帯の増加は世帯所得が増えるため、中食による食費増はエンゲル係数の増加には大して影響していないと述べている。また、食品に対する公租公課が一律で増額された場合でその他の生活必需とされる物品や役務への公租公課が増やされなかった場合は、社会全体のエンゲル係数は上昇することが多いと解説している。日本では2014年4月に消費税が5%から8%に増税となったが、食料品が増税となった一方で、医療費、学費、地代といった非課税品目も消費支出に含まれるため、相対的にエンゲル係数が上昇したとしているほか、高齢化に伴う無職世帯の増加が長期的なエンゲル係数の上昇に大きな影響を与えていると述べている[8]。
統計
[編集]日本の統計
[編集]第二次世界大戦以前のエンゲル係数は、都市労働者の場合、3割台だったが、敗戦後には6割前後にまで上昇した[9]。
年度 | 総世帯 | 二人以上の世帯 | 単身世帯 |
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2022年 | 26.0% | 26.6% | 24.2% |
2021年 | 26.6% | 27.2% | 24.8% |
2020年 | 27.0% | 27.5% | 25.4% |
2019年 | 25.4% | 25.7% | 24.6% |
2018年 | 25.5% | 25.7% | 24.6% |
2017年 | 25.5% | 25.7% | 24.5% |
2016年 | 25.7% | 25.8% | 25.1% |
2015年 | 25.0% | 25.0% | 25.1% |
2014年 | 24.0% | 24.0% | 23.8% |
2013年 | 23.6% | 23.6% | 23.5% |
2012年 | 23.6% | 23.5% | 24.1% |
2011年 | 23.6% | 23.6% | 23.5% |
2010年 | 23.2% | 23.3% | 23.1% |
2009年 | 23.4% | 23.4% | 23.1% |
2008年 | 23.2% | 23.2% | 23.0% |
2007年 | 22.9% | 23.0% | 22.5% |
2006年 | 23.1% | 23.1% | 22.9% |
2005年 | 22.7% | 22.9% | 22.1% |
2004年 | 23.0% | 23.0% | 23.0% |
2003年 | 23.1% | 23.2% | 22.6% |
2002年 | 23.3% | 23.3% | 23.3% |
2001年 | 23.2% | 23.2% | 22.9% |
2020年はバブル以降もっとも高い数字となった。[10]
年度 | 北海道 | 東北 | 関東 | 北陸 | 東海 | 近畿 | 中国 | 四国 | 九州 | 沖縄 |
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2017年 | 24.5% | 25.6% | 25.8% | 26.2% | 25.2% | 27.1% | 25.9% | 24.5% | 24.3% | 28.0% |
世界の統計
[編集]日本 | 25.4% |
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アメリカ | 19.3% |
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カナダ | 23.5% |
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イギリス | 24.9% |
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イタリア | 24.4% |
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トルコ | 35.5% |
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韓国 | 32.9% |
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スペイン | 26.9% |
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- 総務省統計局 『世界の統計2008』 "13-補2 家計の収入"より
脚注
[編集]- ^ a b c 「エンゲルの法則」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ブリタニカ・ジャパン。
- ^ a b c 志田明「エンゲル係数」『日本大百科全書』小学館。
- ^ a b c 週刊SPA!2016年3/1号p 38-39
- ^ a b “日本のエンゲル係数は先進国で「圧倒的1位」28%超…今後も「食費率」が上がり続ける物価高以外の2つの根本理由(プレジデントオンライン)”. Yahoo!ニュース. 2024年12月21日閲覧。
- ^ “家計調査 用語の解説”. 総務省統計局. 2024年9月21日閲覧。
- ^ 軽減税率は貧困対策に効果的なのか? / 飯田泰之×荻上チキ SYNODOS -シノドス- 2015年11月11日 2021年3月15日閲覧
- ^ エンゲル係数、29年ぶり高水準 食生活の変化が影響か 朝日新聞デジタル 2017年3月30日 2021年3月15日閲覧
- ^ 基礎研レポート エンゲル係数の上昇を考える ニッセイ基礎研究所 2017年5月 2021年3月15日閲覧 (PDF)
- ^ 佐々木潤之介他 『概論日本歴史』 吉川弘文館 2000年 p.264
- ^ 出典:家計調査速報 総務省
- ^ 明治から続く統計指標:エンゲル係数 総務省統計局