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カラスミ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
からすみから転送)
台湾産からすみ
からすみの干し

からすみ(唐墨、鰡子、鱲子)は、ボラなどの卵巣を塩漬けし、塩抜き後、天日干しで乾燥させたもの。名前の由来は形状が中国伝来の「唐墨」に似ていたため。古鰆子こしゅんしともいう。ウニこのわたと共に日本の三大珍味とされている[1]

概要

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日本ではボラを用いた長崎県産のものが有名だが、香川県ではサワラあるいはサバを用いる。日本以外でも台湾イタリアサルデーニャ島ボッタルガを参照)、スペインエジプトでも作られる。原材料として、ヨーロッパではボラ以外の海産魚の卵巣も用いられ、台湾にはアブラソコムツを使うものもある。

江戸時代より、肥前国のからすみは、越前国ウニ三河国コノワタとともに、日本の三大珍味と呼ばれている[1]。塩辛くねっとりとしたチーズのような味わいは、高級な酒肴として珍重される。薄く切り分けて炙り、オードブルに供したり、すりおろして酢を混ぜてからすみ酢にしたりして使用する。

「からすみ」の名は、一説には肥前国名護屋城(現在の佐賀県唐津市)を訪れた豊臣秀吉が、これは何かと長崎代官鍋島信正に尋ねたところ、洒落で「唐墨」と答えたことに由来するとも言われている[2]

ボラを用いた製法

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  1. ボラの腹を注意深く切り開き、卵巣を包む膜を破らないように取り出す。
  2. 取り出した卵巣の形を保ったまま血管を針などで突いて血抜きし、水に漬ける。
  3. 何度か水を替え、卵巣がきれいになったら食塩を塗りつけ、樽に収めて3-6日間の塩漬けを行う。
  4. 樽から出して水洗いし、真水を満たした半切桶に入れる。一昼夜後に水中で揉んで軟らかさを確かめ、卵巣全体が均一に軟らかになっていれば塩抜きを終わる。この時の塩加減が味を左右するといわれる。
  5. 塩漬けと塩抜きとを終えた卵巣を、傾斜させた木板の上に並べる。一並べしたら卵巣の上に別の木板を載せる。これをくり返して5段ほどに積み重ね、一晩放置して余分な水分を除く。翌日になれば板を去り、卵巣全体の形を整え、直射日光を避けて乾燥を続ける。夜間には再び重ねる。水気を抜いて翌日日乾しにし、夜間は再び積み重ねる。
  6. 表面に浮き出る脂肪分を適宜に拭き取りながら、約10日間の天日干しを繰り返して仕上げる。

栄養学的評価

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長崎県産の市販品(メーカー4社)の成分分析結果としては、水分21.8-24.7パーセント(長崎産ボラの未加工卵巣においては約50パーセント)、粗脂肪分30.8-35.2パーセント(同、約20パーセント)、粗たんぱく36.2-40.4パーセント(同、約28パーセント)、塩分4.2-4.9パーセント(同、0.6パーセント)となっている。粗脂肪のうちの50パーセントはワックスエステルが占めている[3]。特有の風味は、原料のボラ卵巣を加工する工程中に進行するタンパク質の分解と遊離アミノ酸の生成によってもたらされると考えられている[4][5]

歴史

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からすみは古くからギリシャエジプトで製造されていた。日本には、安土桃山時代中国)から長崎に伝来したといわれている。

中国からの伝来当時はサワラの卵を原料として製造されていたが、延宝3年(1675年)に高野勇助が長崎県野母崎付近の海域で豊富に漁獲されるボラの卵で製造することを案出した[6]。このため、野母崎・樺島ではからすみが現在でも作られ続けている。

からすみを使う料理

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日本以外でのからすみ

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台湾ではボラのからすみを「烏魚子」(北京語:ウーユーズー、台湾語:オーヒージー)という。台湾での食べ方は表面の薄い膜を剥ぎ取ってから、酒を表面に軽く塗り、弱火で裏表を一、二分ずつ繰り返しあぶり、表面が白くぶつぶつになるまでかりかりに焼き上げる。出来上がったら、薄くスライスして食べる。大根または葉ニンニクと一緒に爪楊枝で刺して食べられることが多い。夜市屋台でも焼いたからすみを売っている。

また、油魚(アブラソコムツバラムツの総称)を使った「油魚子」(北京語:ヨウユーズー、廈門語:イウヒージー)と呼ばれる食品が屏東県東港鎮で考案され、クロマグロサクラエビと合わせて「東港三宝」と称する特産品として販売されている。ボラのからすみよりも大きいため、塩漬けも乾燥も時間が余計にかかり、技巧を要する。乾燥は季節や大きさにより異なるが、2週間からひと月を要する。ボラは網で捕るため、時にストレスで魚卵に血が入り、色が黒く、臭みのあるものができるが、アブラソコムツは延縄漁で釣るため、血が入ることは少ないという違いがある[8]。大きいことや製作に手間がかかることから、産地でも一腹数千円とボラのものよりも数倍高価である。

イタリア語ではボッタルガ (Bottarga) という(英語ではボターゴ Botargo)。ボッタルガには必ずしもボラの卵巣だけを使用するのではなく、タラマグロなど他の海産魚の卵巣を利用する製品もある。ほぐして、パスタにあえて食べる例が多い。東地中海沿岸ではメゼの一品として親しまれており、薄く切ってオリーブ油レモン汁をかけ、パンと共に食べる。

韓国語では魚卵(オラン、어란)という。塩漬けをする日本に対し韓国では醤油を希釈した出汁で漬けており、毎日3 - 4回ゴマ油を塗り付けて干す点が日本のからすみとの違いである。また日本ではボラの卵巣のみを漬けるのに対し、韓国ではボラだけでなくニベの卵巣も漬ける事も日本との違いである。

脚注

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  1. ^ a b 小林 1996, p. 276.
  2. ^ 日本おさかな雑学研究会 『頭がよくなる おさかな雑学大事典』 幻冬舎〈幻冬舎文庫〉、2002年、36-37頁、ISBN 4-344-40294-4
  3. ^ 伊藤克磨; 松嶋はるか; 野崎征宣; 大迫一史; 松林法寛「長崎産ボラ卵巣およびからすみの成分評価」『日本水産学会誌』第72巻、第1号、70-75頁、2006年1月15日。doi:10.2331/suisan.72.70hdl:10069/21601CRID 1390282681390893312国立国会図書館書誌ID:7811332https://doi.org/10.2331/suisan.72.702022年10月14日閲覧 
  4. ^ 邱思魁、鴻巣章二「からすみ製造中のエキス成分の変化 / (英題)Changes in extractive components during processing of dried mullet roe.」『日本水産学会誌』第54巻第2号、日本水産学会、1988年、307-313頁、doi:10.2331/suisan.54.307ISSN 0021-5392NAID 130001544379 
  5. ^ 邱思魁, 松居隆, 鴻巣章二「ボラおよびスケトウダラ卵巣のプロテアーゼ活性とその加工中の変化 / (英題)Proteolytic Activities of Mullet and Alaska Pollack Roes and Their Changes during Processing」『日本水産学会誌』第55巻第5号、日本水産学会、1989年、805-809頁、doi:10.2331/suisan.55.805ISSN 0021-5392 
  6. ^ 長崎県 文化振興課. “文化百選 事始め編 あじわう 31 からすみ”. 2008年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年3月19日閲覧。
  7. ^ 小林 1996, p. 217.
  8. ^ 東港三寶之油魚子”. 東港鎮文史學會. 2012年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月2日閲覧。

参考文献

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  • 小林弘『読む食辞苑 : 日本料理ことば尽くし』同文書院、東京、1996年。ISBN 4-8103-0027-7 

関連項目

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外部リンク

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