コンテンツにスキップ

十字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
から転送)
全ての棒が同じ長さのギリシャ十字(上)と、それを45度回転させたサルタイアー(下)

十字(じゅうじ、: cross クロス)は、幾何学図形の1つで、2つの線(棒)が互いに直交(直角に交差)して、片方または両方の線が中央で分割されている。線は通常は水平と垂直だが、斜めの場合は斜め十字(ななめじゅうじ、: saltire サルタイアーあるいは聖アンデレ十字)とも呼ばれる。

なお日本では、線が垂直な場合は漢字の「十」と同じ形のため「十文字」(じゅうもんじ)、斜めの場合は「×」(バツ、ペケ)と呼ばれる事もある。

概要

[編集]

十字は最も古代から存在する、人類的とも言えるシンボルの1つであり、多くの地域で使用されている。特によく知られているキリスト教十字架の他にも、四大要素のひとつを示すシンボル、占星術や天文学のシンボルのひとつ、方位を示すシンボルとしても用いられている。

キリスト教と十字

キリスト教において十字は、直接的(表面的)には「キリストの磔刑」を示しているが、その深い意味、キリスト教神学的な意味としては、「もともと天において神ヤハウェの近くにいて天地創造にもかかわわったイエス・キリストが、人類のためにわざわざ受肉してこの地上に現れてくださり、全人類のをあがなうために十字架にかかってくださった。そのお蔭でヤハウェと人類の関係が修復し、人々は来る日には復活永遠のいのちを得る状態となった。」という、聖書に記されている一連のできごとや、その神学的な意味を表すためのシンボルである。 またパウロの哲学(神学)では「垂直線はと人との関係。水平線は人々の間の関係。十字は両者のreconciliation 調和(和解)[1]。」という意味を持ち、その哲学を示すシンボルなどとしても使われている。多くのキリスト教の教派で聖職者や信徒たちが、(ことあるごとに、身体の前、胸や顔の前あたりで)指(手)を「十字」に動かすようになった(日本語では「十字を切る」や「十字を描く」などと表現する)。キリスト教はヨーロッパに広がり、ヨーロッパの王族(の王権)や貴族はキリスト教教会(西ヨーロッパではカトリック、東欧やロシアではオルトドクス)の権威とも結びついていたので十字は王族や貴族の紋章家紋などにも使用されるようになった。またヨーロッパの他の国々でもキリスト教の信仰を示すために国旗に十字が埋め込まれた(たとえば、デンマークの国旗、また北欧諸国の国旗に埋め込まれた十字(スカンディナヴィア十字) 等々)。また大航海時代のヨーロッパ人の世界進出によって世界中に広まり、キリスト教は世界で数十億人の信者を擁するに到ったので、ドミニカ共和国の国旗やトンガの国旗を含めて、多くのキリスト教国の国旗でも使用されるようになった。→キリスト教神学十字の切り方紋章紋章学クロス (紋章学)#国旗の例

スイスでも(十字が貴族の紋章に使われた結果、巡り巡って)スイスの国旗に用いられるようにもなった。そして赤十字社は、その設立にスイスが縁があるため(また、困っている人のためならば人種や国境を越えて手を差し伸べる、という人類愛友愛、キリスト教的理念を暗黙裏に示すためにも)十字の標章を用いることになった。

天体と十字

占星術や古い時代の天文学では、太陽のシンボルとして使われた。また1598年にペトルス・プランシウスによって星座群に「南十字座」が加えられ、その結果それ以降、実際の星座群の中にも十字がある、と見なされるようになった。

アジアと十字

アジア地域での十字について解説すると、中国の、の時代に十字をつけた餅を食して厄除けとする風習があった[2]

日本に、その晋の餅の風習が伝えられると鎌倉時代に流行し、その餅のことを「十字」といったともされる[2]

また日本では家紋に十字を埋め込んだものがある。→#家紋と十字


種類

[編集]

以下は主な十字の例である。十字の持つ特定の意味でまとめたものではなく、十字の全ての種類でもない。名称やデザインは代表的なもので、詳細は各リンク先も参照。

紋章における十字は、他にも非常に多くのバリエーションがある。紋章の背景知識は紋章学を参照。有名なオンライン情報には A Glossary of Terms Used in Heraldry by James Parker (1894) があり、紋章における十字のバリエーションについて多くの情報が参照できる。

旗の例

[編集]
スカンディナヴィア十字

いくつかの旗は十字を含んでいる。

北欧スカンディナヴィア諸国の全ての国の国旗は、スカンディナヴィア十字で知られている(スウェーデンの国旗アイスランドの国旗など)。17世紀以降のスイスの国旗は同じ長さの線による正方形の十字を使用し、赤十字の標章の元となった。ヨーロッパ以外でも キリスト教徒の多い国が、国旗に十字を入れることがある(トンガの国旗ジャマイカの国旗など)。

また南半球の多くの国は、国旗に南十字星(サザンクロス)を使用している(サモアの国旗ブラジルの国旗など)。

国旗の例

[編集]

国旗以外の例

[編集]

家紋と十字

[編集]

十文字紋(じゅうもんじもん)は、漢字の「十」を図案化した家紋である。図案には「丸に十文字」「島津十文字」、「日置十文字」、「猪飼十文字」などがある。その形状から、久留子紋と混同されることが多く、また、島津氏が用いたとされる「丸に十字」は紋と混同されることがある。

鎌倉時代初期の、島津忠久甲冑に記された「十文字」が現存では最古の例である。主に島津氏とその関係の氏族が用いた。フランシスコ・ザビエルが布教のために鹿児島に来た際、島津が「白い十字架」を使用していたことに驚いた、という記録がある[4]

徳川幕府によるキリスト教の禁教令発布後は轡紋(くつわもん)、祇園守紋(ぎおんまもりもん)、桛紋(かせぎもん)、卍紋などとともに久留子紋の代用として用いられることがあった。[2]

脚注

[編集]
  1. ^ [1]
  2. ^ a b c 千鹿野茂監修 高澤等著『家紋の事典』東京堂出版 2008年
  3. ^ 正教会の伝統と象徴
  4. ^ 薩摩・島津家の歴史”. 尚古集成館. 2012年3月27日閲覧。

参考文献

[編集]
  • Chevalier, Jean (1997). "The Penguin Dictionary of Symbols". Penguin ISBN 0140512543
  • Koch, Rudolf (1955). The Book of Signs. Dover, NY. ISBN 0-486-20162-7.
  • Drury, Nevill (1985). Dictionary of Mysticism and the Occult. Harper & Row ISBN 0060620935
  • Webber, F. R. (1927, rev 1938). Church Symbolism: an explanation of the more important symbols of the Old and New Testament, the primitive, the mediaeval and the modern church. Cleveland, OH. OCLC 236708.

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]