Care222
Care222®(ケア トゥトゥトゥ)とは、米国コロンビア大学と産業機械メーカーウシオ電機が開発した殺菌用光源装置。新型コロナウイルスの不活化に効果があると証明された。殺菌に適した紫外線 (UVC-222 nm)を主な波長とするランプと、その光を人体に無害な波長域のみ (200 - 230 nm)に制限するフィルターを組み合わせている。この呼称は、ウシオ電機のグループ会社 Ushio America,Inc により商標登録されている。
概要
Care222®は人体へ悪影響を与えないため、人がいる場所での直接照射が可能であり、空気と物質の表面を殺菌することができる紫外線殺菌光源。
人体皮膚・眼への影響は2020年8月、神戸大学大学院医学研究科が、健常な人を対象に検証を終え安全が確認されている。[1]
さらに2020年9月広島大学によってSARS-CoV-2(いわゆる「新型コロナウイルス」)に対し30秒で99.7%の不活化効果があると査読付きの論文として発表された。[2][3][4]
殺菌効果
SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)への照射検証は、2020年9月4日、照度0.1 mW/cm2 の遠紫外線UV-C 222 nmを
10秒間照射で88.5%、30秒間照射で99.7%のウイルスが不活化されたという殺菌効果が広島大学の研究グループにより発表された。[2]
※必要殺菌線量=殺菌線照度×照射時間
尚、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の他、インフルエンザウイルス・エボラウイルス・O-157大腸菌・チフス菌・サルモネラ菌など基本的に全てのウイルス/菌に対しての殺菌ができる。[5]
- 現在取りざたされているSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の変異種に関しても、紫外線による殺菌が効果的であると考えられている。[6][7]
- その理由として、紫外線によるウイルス不活化効果を決める主な要因の一つにウイルスのゲノムサイズがあげられるが、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のゲノムは、現在までに報告されている多数の変異SARS-CoV-2ゲノムのRNAサイズがいずれも約30,000塩基程度と一致している。(報告例の99.9%)したがって今後の変異ウイルスに対してもこの紫外線が不活化効果を示すとされるのは妥当だと考えられる。[8][9]
同様の根拠からカビ等の大きな細胞組織を持つ対象物は、殺菌に時間を要する。
また、ボーイングの研究者は、「アメリカ航空宇宙局 NASAからの委託研究でたくさんの食品において表面殺菌、賞味期限延長を目的とした消毒試験をした。食品は多孔質でザラザラしているため食品表面の状態によりその消毒効果は変わる」と語った。[10]
広島大学の研究グループによる紫外線殺菌の研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)により「新型コロナウイルス感染症に対する 222 nm 紫外線を用いた感染対策に関する研究開発」として支援されている。[11]
紫外線殺菌の原理
紫外線は波長によって、UV-A 320 - 400 nm, UV-B 280 - 320 nm, UV-C 100 - 280 nmに大別される。※nm=ナノ (10-9)メートル
いずれも太陽光にふくまれる電磁波であるが、UV-AおよびUV-Bはオゾン層を通過し地球上に降り注ぎ、
日焼けやシミ、白内障、皮膚がんなど人体に有害である。
(※紫外線は人体に有害であるが、一方で別の用途としても利用されている。後述【殺菌以外の紫外線利用】で補足)
紫外線波長は短いものほど生体に与える影響が強くなるため、UV-Cは更に強力であるといえる。
しかし、UV-Cはオゾン層で吸収され基本的に地上に到達することはないため[12]
以前から人工的に殺菌用光源として作られ、各種の調理室、病院、薬品工場などで無人環境において利用されてきた。[13]
細菌や病原菌の細胞内にあるDNAは、波長260 nm付近の紫外線の吸収帯を持っており、この光をウイルスや病原菌に照射すると、
光化学反応によりウイルス/菌の細胞はDNA・RNA組織のらせん構造が破壊され、死滅・不活化する[14][15]
これが紫外線による殺菌、ウイルスの不活化のメカニズムである。
安全性
UV-A、UV-Bに比べ強力なUV-Cであるが、その中でも低圧水銀ランプがUV-C 254 nm光を効率よく発光することから、
いわゆる「殺菌ランプ」として長く利用されてきた。
UV-C 254nm殺菌ランプは強い殺菌力を持つ反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど
人体に対して有害性が強いことから、これまでは照射中はヒトが立ち入らない環境でのみ使用されてきた。
しかし近年、環境にやさしく「水銀を使わない殺菌ランプ」としてウシオ電機が紫外線エキシマ蛍光ランプを開発。
紫外線エキシマ蛍光ランプは、UV-C 254 nmよりさらに短い波長であるUV-C 222 nm光を照射するランプで、
医療での活用を想定して開発が始まったものである。
そしてこのUV-C 222 nm光は、254 nm光と遜色ない殺菌能力を有しながら[16]、人体に無害であることが様々な研究機関で報告された。[17]
(※次項、【有効とする研究報告】参照)
世界最大の航空宇宙機器製造会社ボーイング社の研究者は「UV-C 222nm光が254nm光よりも人間にとって100倍以上安全である」と考察。[18]
そしてアメリカ国防総省の情報分析センターにおけるウェビナーで「太陽光よりもUV-C 222nm光は相当に安全」と語った。[19]
神戸大学院医学研究科では「健常者ボランティアを対象として、222 nm UV-C照射器による紫外線照射の安全性を確認し、
またその皮膚殺菌作用を検討すること。」を目的として、試験を行い「500 mJ/cm2以下の紫外線照射終了後24時間での皮膚紅斑の有無。」
を調べたところ、「全ての被験者において222 nm UV-Cのすべての照射量で紅斑を認めなかった。
被験者の背中を222 nmのUV-Cを500 mJ/cm2で照射によって、皮膚スワブ培養物中の細菌コロニーの数は有意に減少した。
照射領域で発生したCPD量は、非照射領域のそれよりわずかに高値であった。」という結果が得られている。[20]
222nm光が人体に無害であった大きな理由は、その波長域の深達度にある。
通常、皮膚においては、従来の紫外線が皮膚の表皮の基底層という一番下層にまで到達し、細胞のDNAを損傷させてしまうのに対し、
UV-C 222nmは角質細胞層という極めて表層の(垢になる)部分までしか到達しないため、表皮細胞のDNAを損傷させないことが明らかになった。[21]
またUV-C 222nmの角膜透過率は0.01%以下であり、角膜上皮障害を認めないことから、白内障などの眼疾患を引き起こさないことが検証された。[22]
これには共同研究チームである、米国コロンビア大学放射線研究所所長・デービッド・ブレナー (David Brenner)らの開発した
特殊な光学バンドパスフィルターが大きく関与している。
コロンビア大学は現在、長期照射(マウスに対して60週照射)についての安全検証は完了し、UV-C 222nmにおける環境表面消毒と空間消毒の検証を進行中である。
ウシオ電機はこの紫外線エキシマ蛍光ランプと特殊な光学バンドパスフィルターを組み合わせ
「Care222」®(「ケア トゥトゥトゥ」と発音)として発表した。
有効とする研究報告
Care222®は、米国コロンビア大学[23][24]、シンガポール国立大学[25][26]、神戸大学大学院医学研究科[27][28]、広島大学[29][30]、
島根大学医学部眼科学[31]、弘前大学[32]、ハーバード大学[33]など国内外の複数の機関が研究を行い、効果を実証している。
英国スコットランドのセント・アンドルーズ大学は「現在のCovid-19グローバルパンデミックの原因となっているウイルスを排除するための手段としてUV-C 222 nm光を発するランプを世界中が調査」と発表した。[34][35][36]
Care222®は科学的正当性のみを評価することを目的としている世界最大の学術雑誌 Scientific Reports においてその殺菌性能や安全性が評価された。[37]
実験とデータ分析が厳密に行われたかどうかに重きを置いたオープンアクセスの科学医学雑誌PLOS ONEにおいてもUV-C 222 nm光が、
「安全な照射線であり、将来的に感染の予防に貢献すると期待されている」と発表された。[38]
また、ボーイング社の研究者はアメリカ国防総省の情報分析センターにおけるウェビナーで「この技術はアメリカ国防総省にも設置されているが、まだ始まったばかりで周知されておらず、広まっていくことが(未来のパンデミック予防に)必要で、それを望んでいる」と語った。[39]
特許内容
米国コロンビア大学 (所在地 : 米国ニューヨーク市)は222nmを含む波長で発光する光源と、
その中の有害波長を遮蔽するフィルタを組み合わせ、
人体に無害な紫外線波長域 (200 - 230 nm)のみを照射する技術について2012年に特許化している。
ウシオ電機はその特許の全世界における独占実施権を有している。[40]
他社との結びつき
ウシオ電機のグループ会社である Ushio America, Incは、北米最大級の照明器具メーカーのアキュイティ・ブランズ(Acuity Brands)社と供給契約を結んだ。[41]
アキュイティ社は自社製品にCare222®のモジュールを組み込み、壁や床、ドアノブなどに付着したウイルスや細菌を不活化・殺菌できる製品を開発。[42]
日本においては、紫外線装置のOEM(相手先ブランドによる生産)供給の一環として、東芝ライテック(神奈川県横須賀市)と業務提携。[43]
2021年1月、Care222®光源モジュールを組み込んだウイルス抑制・除菌用照射器、UVee (ユービー)を発売。[44]
殺菌に関する今後の課題
影の部分は殺菌ができない。いわゆるシャドウ効果があると言われている。
殺菌効果はランプからの距離に関係し、ランプから離れるほど殺菌線照度が低くなり殺菌効果は低下する。
(必要殺菌線量=殺菌線照度×照射時間)
ランプの使用状況や使用時間により殺菌線照度が低下するためランプを交換する必要がある。
殺菌以外の紫外線利用法
紫外線は人体に有害であるものの、一方で殺菌以外の利用法もある。
紫外線療法
アトピー性皮膚炎などの症状に対し、
医療機関の適切な照射量管理下において紫外線療法として広く利用されている。[45]
この際に用いられる紫外線波長としては、UV-A(薬剤と組み合わせたPUVA療法)、
UV-A1 (340 - 400 nm)、広帯域UV-B (280 - 315 nm)、ナローバンドUV-B (311 nm)、Excimer Laser療法 (308 nm)などが用いられる。
スギ花粉のアレルゲンを不活化 (UV-C 222nm)
UV-C 222nmの紫外線は、スギ花粉のアレルゲンを効率的に低減することが報告されている。
この論文では、波長がおよそUV-C 220 nmから260 nmの深紫外線を発生する装置を用い、精製スギ花粉抗原Cry j1に照射し、
照射後の抗原抗体反応が起きるアレルゲンの濃度の変化によって評価した。[46]
その結果、波長がUV-C 220 nmに近いほどアレルゲンの不活化効果が高く、一般的な紫外光源である水銀紫外線ランプより低い照射量で、スギ花粉のアレルゲンを不活化できている。
外部リンク
ウシオ電機株式会社公式[47]
Ushio America,Inc 公式[48]
共同研究者 コロンビア大学 放射線研究所所長 デービッド・ブレナー (David Brenner)のTEDにおける講演[49]
Care222技術紹介動画[50]
Care222全国設置MAP[51]
Care222最新情報[52]
脚注・参考資料
- ^ “222nm紫外線の人体皮膚への安全性と殺菌効果の両立を立証 ― これまでにない、新たな感染症予防・治療法開発へ”. 神戸大学. 2020年8月15日閲覧。
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- ^ “ウシオ電機と広島大、紫外線装置で新型コロナ消毒”. 日本経済新聞. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “新型コロナ不活化を実証、222nm紫外線30秒照射で99.7%”. 日経XTECH. 2020年9月5日閲覧。
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