腋臭症
腋臭症(えきしゅうしょう)は、皮膚のアポクリン腺から分泌される汗が原因で強い臭いを発する人体形質で、それを有する個人の属する集団によっては疾患としての扱いを受ける。ワキガとも呼ばれる。
症状
腋窩部(わきの下)からの腋臭臭、つまり運動時などにかくエクリン腺からの汗の臭い(酸っぱい臭い、汗臭いと表現されることが多い)とは異なる特有の臭いがする。その臭い自体は人やその時の環境などによって違いがあるため一概には表現できないが、ゴボウの臭い、ネギの臭い、鉛筆の臭い、書いたやつの臭い、酢の臭い、クミンの臭い[1]、納豆の臭い、古びた洗濯ばさみの臭い、ドリアンの臭いに喩えられることが多い。この臭いはその形質を有する個人の属する集団によっては、しばしば他人に不快感を及ぼすものとして扱われる(腋臭症における問題点を参照)。さらに、その腋臭臭の原因となるアポクリン腺分泌物は衣服に黄色いしみを作り、汗が大量に出る多汗傾向を伴う。腋臭症の女性の一部では、性器や乳輪からもわきが臭が認められる場合がある。その症状はすそわきがと呼ばれる。本形質による臭いを嫌うものの多い集団の中において、腋臭症患者の多くがそれを過度に気にする精神状態に追い込まれ、結果としてうつ病などを併発する恐れがある。そのため、腋臭症が少数派である東アジアなど、人間集団の傾向によっては腋臭症は軽視することはできない重要な健康問題となる。
原因
腋臭臭の発生の原因は腋窩部のアポクリン腺から分泌される汗が原因であるが、アポクリン腺の分泌物自体は無臭である。(アポクリン腺の分泌物自体にニオイ成分が含まれている場合もあると主張する専門医もいる。[2])しかし、その汗が皮膚上に分泌されると皮脂腺から分泌された脂肪分やエクリン腺から分泌された汗と混ざり、それが皮膚や脇毛の常在細菌により分解され、腋臭臭を発する物質が生成される。
また、腋毛が汗などを腋窩部に留め、臭いが出やすい環境を作っている。腋毛や陰毛は、そもそもアポクリン腺分泌物に起因する臭いを効率的に保持する形質として進化してきたとする仮説も有力である。
腋窩、性器、乳輪部分のアポクリン腺が成長し活動するのは第二次性徴が認められる頃のため、一般的に腋臭臭が発生するのは思春期以降である。
遺伝子
ワキガの原因となるアポクリン腺の量は遺伝子により先天的に決定され、腋臭症は優性遺伝すると言われている。また、これと関連して腋臭症であると耳垢が湿性である場合が多い。
腋臭症は優性遺伝するため、人類全体では腋臭症である人の方が圧倒的多数派であるが、例外的に日本人、中国人、朝鮮人などの東アジア人においては腋臭症が5%-20%と少数派である。[3][4][5]これは東アジア人の祖先がシベリアなどで、当時の特に寒冷な気候に適応した結果だと考えられている。[6]
腋臭症の歴史
現代の日本社会では腋臭症を嫌う傾向がある。しかし、古来においては人間の腋臭は一種のフェロモンとして機能する体臭形質のひとつであり、異性を引き付けるためのものであったり、縄張りを主張するためのものとして機能していたと考えられてる。これは、ヒト以外の動物に多くみられる機能である。古代中国の美女、楊貴妃が「体から良い匂いを発していた」というのは腋臭だったのではないかという逸話がある。これは当時、腋臭を「臭くて、不潔なもの」ではなく「魅力的と感じられる体臭要素」と捉えていたと考えられる。
併発する恐れのある疾患
関連診療科目
脚注
- ^ このため、料理にクミンを多用する文化圏では違和感を覚えない
- ^ http://www.gomiclinic.com/oldlog/lg0314.html
- ^ Sherrow, Victoria (2001). For appearance' sake: The historical encyclopedia of good looks, beauty, and grooming. Phoenix: Oryx Press. p. 58. ISBN 978-1-57356-204-1
- ^ Stoddart, D. Michael (1990). The scented ape: The biology and culture of human odour. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 60–61. ISBN 0-521-37511-8
- ^ Martin, Annette; Saathoff, Matthias; Kuhn, Fabian; Max, Heiner; Terstegen, Lara; Natsch, Andreas (2010). “A Functional ABCC11 Allele Is Essential in the Biochemical Formation of Human Axillary Odor”. Journal of Investigative Dermatology 130 (2): 529–540. doi:10.1038/jid.2009.254.
- ^ Yoshiura K; Kinoshita A; Ishida T et al. (2006). “A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type”. Nat. Genet. 38 (3): 324–30. doi:10.1038/ng1733. PMID 16444273 .