柔道
柔道(じゅうどう)は、明治15年に嘉納治五郎が創始した武道であり、格闘技、スポーツにも分類される。2人の選手が組み合って、相手を投げて背中から落とす、相手の足をはらい倒す、あるいは一定時間以上押さえ込むことができれば勝ち。「精力善用」「自他共栄」を基本理念とし、単なる勝利至上主義ではなく、精神鍛錬を目的としている。
学校体育の「武道」の領域にも組み入れられており(平成元年より「格技」から「武道」に名称変更)、柔道場を有する学校も多い。剣道や空手と並び、日本でもっとも広く行われている武道の一つ。
ルール
試合場は、8m×8mから10m×10m四方の畳の上。講道館規定67種類,国際規定66種類の「投げ技」と29種類(講道館,国際共)の「固め技」を使って、相手を制することを競う。
試合は規定の試合時間の中で行われ、優勢なものの勝ちとなるが、「一本」の場合残り時間にかかわらずその時点で試合は終了する。また、両者に投げ技や抑え込みによるスコアがなかった場合には、試合を同じ時間延長しどちらかが先にポイントをとった時点で試合終了となる(ゴールデンスコア方式)。それでもなお時間切れになった場合は主審および副審の判定により優勢勝ちが告げられる。大会の規定によっては引き分けとする場合もある。
試合時間はオリンピックをはじめとした公式大会では5分だが、中学や高校では4分や3分で試合終了としている大会もある。
国際大会の敗者復活トーナメント戦
また、オリンピックや世界選手権では、3位決定戦を行う関係上、敗者組の復活トーナメントも行われる。これは予選トーナメントで敗れた選手の中から、ベスト4の選手と直接対決した選手が出場できる。
投げ技
相手を制しながら背を大きく畳につくように,相当な強さと速さをもって投げたとき「一本」となる。「一本」に準ずるスコアは「技あり」、「技あり」に準ずるスコアは「有効」、さらに下には「効果」がある。「技あり」2回で、合わせて「一本」になる。「有効」・「効果」は、何回とっても上位のスコアに及ばない。(講道館規定は有効まで)
- 背負い投げ、一本背負い
- 跳ね腰、払い腰
- 大外刈り、内股
- 巴投げ、など
固め技
相手の背,両肩または片方の肩を畳につくように制し,25秒間経過すると、「一本」勝ちになる。20秒以上25秒未満で「技あり」、15秒以上20秒未満で「有効」、10秒以上15秒未満で「効果」である。(講道館規定では30秒で「一本」,25秒以上30秒未満で「技有り」,20秒以上25秒未満で「有効」)
- 上四方固め、袈裟固め、など
歴史
古くは、12世紀以降の武家社会の中で、武芸十八般と言われる武士の鍛錬法の一つとして柔術が発展していた。江戸時代までには、百を越える流派が生まれていたとされる。
1882年に、嘉納治五郎が、固め技を中心とする天神真揚流柔術、投げ技を中心とする起倒流柔術の技をベースに、自ら発見した「崩し」の原理を加えて整理体系化し、修身法,練体法,勝負法として今までの武術の修行面に加えて人間教育の手段としての講道館柔道を創設した。
1964年の東京オリンピックで、正式種目となる。女子種目も、1988年のソウルオリンピックで公開競技、1992年のバルセロナオリンピックでは正式種目に採用された。
現在は、世界中に普及し、世界柔道連盟の加盟国・地域も184カ国ある。日本以外では、欧州で人気が高く、特にフランスの競技人口は、日本の競技人口を大きく上回っている。
技術体系
講道館柔道の技は「投げ」「固め」「当身(あてみ)」の3種類に分類されるが、嘉納自身、当身技は競技中で行うには危険として乱取り・試合では「投げ」「固め」のみとした。このゆえにスポーツとしての柔道は安全性を獲得し、広く普及していくこととなった。
当身技については、現在では昇級・昇段審査においても行われることが稀であるため、柔道修行者でもその存在を知らないことが多く、また指導できる師範も少ないのが現実である。
段級位制
段級位は、数字の大きい級位から始まり、上達につれて数字の小さな級位となり、初段の上はまた数字の大きな段位になってゆく。
こういった段級位制は現在さまざまな武道や、あるいはその他書道などにおいても広くおこなわれているが、講道館柔道のそれをベースにしているといわれる。
初段が黒帯というのは広く知られており、クロオビは英語圏でも通用する単語となっている。(もともと道着の帯は洗濯しないのが基本であり、稽古の年月を重ねるうちに黒くなっていくことから、黒帯が強さの象徴となったのであり、茶帯が白から黒に至る中途に設定されているのはこの残存形式であるとも言う)
成年部の場合の帯と段級位の関係は以下のようになっている。(四級以下については、道場によって違いもある)
- 四級以下:白帯
- 三級から一級:茶帯
- 初段から五段:黒帯
- 六段から八段:紅白交じりの帯
- 九段から十段:紅(赤)帯
※六段以上は黒帯でも構わない。
※女子部は1/5幅の白線入りが基本。ただし国際規定では決まっていない。
整体との関連
活殺自在というように、古来、武道は相手を殺すための殺法と、治療や応急処置のための活法から成っていた。
現在、市井で「整体」と一般に呼ばれている技術体系は、正式には「柔道整復」といい、講道館柔道の活法をもとにしている。そのため、整体師を兼業している柔道の師範も少なからず存在する。
柔道の町道場の隣に整復院があるのは、何も「怪我した道場生を担ぎ込むため」ではなく(無論その効用も大きいが)、道場主が整復院を営んでいる(二カ所も借りるのは非能率的)ゆえ、という場合が基本である。もとより受け身などを非常に重視する柔道の稽古では、当て身を行わなず投げや固めを主体とする現在の競技・試合体系からいって、他の格闘技と比して身体の重大な損傷は少ない。(それを目的のひとつとして嘉納は柔道を「設計」したのである。)ただしその技法の特徴から、打撲ではなく脱臼などの怪我を負うことは比率としては多く、技と表裏一体の関係にある柔道整復の技術は、まさにそこで役に立つ。
流派
柔道には、空手と違い流派というものが基本的に存在せず、講道館柔道のみの一武道一流派となっている。
あえて数えるならば、旧制高校で工夫を加えられた、寝技に特化した高専柔道が唯一の分派と言えるであろう。これは近代柔道史の中で異彩を放っており、本流に与えた影響も無視できない。