有元秀文
有元 秀文(ありもと ひでふみ、1949年 - )は教育学者、日本ブッククラブ協会理事長。
- 国語教育にコミュニケーション[1]という概念を普及させ、日本の学校教育でスピーチや話し合いが重視されるようになったことに貢献した。
- OECDによる国際的な学力調査PISAの調査結果を分析し、国際的に通用する国語力を育てる指導法を提案し普及した。
- スペインで開発された読書教育方法「読書へのアニマシオン」[2]を初めて現地調査により導入し普及した。
- アメリカで開発された読書による国語の指導法「ブッククラブ」[3]を初めて現地調査により導入し、改良して普及した。
- NPO法人日本ブッククラブ協会を設立しブッククラブの指導方法の開発と普及を行っている。
- 子どもブッククラブセミナーを開設し指導法の研鑽と普及を行っている。
経歴
<大学卒業まで>
1949年東京で生まれた。 小学校・中学校ともに体育と算数・数学が極端にできなかった。また体が小さく弱い上に口がたつのでよくいじめられた。 検事であった父の転勤によって山口県岩国市に引っ越し岩国市立岩国中学校3年に編入するが方言が話せないため、さらにひどくいじめられた。
1964年4月山口県立岩国高等学校*[1] 入学、いじめは続き体育と数学はずっと2であった。高校3年生の時怒鳴りつけることでいじめを克服、成績は最下位であったが猛勉強して 早稲田大学教育学部*[2] 国語国文学科に合格するが、岩国高校の数学の単位が取得できず卒業式に出られなかった。追試験を受け、校長室で卒業証書を与えられた。 卒業時の成績はビリから二番目であった。 早稲田大学入学後は一変して成績優秀となり皆勤して国語国文学についての基礎知識を学んだ。1971年「太平記」で卒業論文を提出して卒業した。
<都立新宿高校教諭として>
東京都立新宿高等学校*[3] 国語科教諭となる。府立第六中学校の歴史を受け継いだ碩学たちから国語教育、国語・国文学について多くの教示を受けた。高校紛争後の混乱期で自分のクラスの学級崩壊も経験したが徐々に自己流の指導技術を身に着けた。
1980年より東京都長期研修生として東京大学言語学科に派遣され国廣哲也教授に従って意味論を研究した。一年間であったが語学を除く修士課程の授業をすべて受講した。この前後数年間にわたり東京理論言語学研究所にて主として東大言語学科の教授たちから言語学全般について学んだ。東京都立教育研究所教員研究生として、東大で学んだ意味論を基礎とし、「山月記における抽象概念の形成」を論文発表した。これは高校教材、中島敦の「山月記」を語彙を通した教材研究によって指導法を提案したものである。具体的には、①物語の進行とともに、使用されているキーワードがどのように変化するかを図示して物語の構造を把握し、②物語の中心キーワードである「あさましい、恥ずかしい、情けない」の意味の違いを150冊の文献から用例を集めて意義素(意味の中核)を抽出し作品理解に役立てた。
<文化庁から国立教育研究所へ>
1986年、文化庁文化部国語課国語調査官に採用された。この間、「ことばシリーズ」「言葉に関する問答集」の編集をし、言語学・国語学の泰斗たちから国語と教育について幅広い知見を得た。 1991年、国立教育研究所*[4] 国語教育研究室主任研究官として採用され、まもなく室長に、その後総括研究官に昇格した。 1994年、カリフォルニア大学サンディエゴ校比較認知科学研究所客員研究員(文部省短期在外研究員)で、ユーロ・エンゲストロム、バッド・ミーハンらの指導を受け、アメリカのスピーチコミュニケーションの授業を小・中・高校で観察し会話分析によって論文発表した。 1999年から2001年にかけて「読書へのアニマシオン講習会(ESTEL文化協会、マドリー)」に教員らとともに参加しスペインの読書教育を導入した。
この頃国際的ないじめ対策を調査した結果、教師の聞く力が欠けていることを痛感し、日系アメリカ人でカリフォルニア大学のカウンセラー、ハワードかつよを講師にして約一週間の講座を教師約10人とともに計5回受講し、最終回はカリフォルニア大学フレズノ校で大学教師・カウンセラーから受講した。この結果、受容・共感・傾聴・激励などのカウンセリング技術がいじめ解消のみならず国語の指導技術にも必須であることを悟った。
下記一覧の論文・著書に示すようにオーストラリア、イギリス、アメリカ、スペインで海外調査し、
1.いじめ解消のためのコミュニケーションスキルの開発
2.アメリカのスピーチコミュニケーションの開発
3.スペインの読書教育の導入
4.PISA型読解力の開発
5.アメリカのブッククラブの導入・開発・普及 を行った。
1997年からOECDが主催するPISA(国際学習到達度)調査の日本代表として問題作成、結果の集計分析にあたった。
2000年ごろから全国コミュニケーション調査の結果をもとに、国語教育に欧米型のコミュニケーションスキルの指導が欠けていることを主張し、コミュニケーションと言う考え方を国語教育界に普及した。
2003年に行われた第二回PISA調査の成績が急落したことからその原因を分析しPISA型読解力の指導法を開発し普及した。 2009年ごろから米国での調査に基づき、PISA型読解力を育成する方法としてブッククラブの指導法を導入し、日本人に合ったように変えて開発と普及を続けている。
<退職後>
国立教育政策研究所を退職後、2012年よりNPO法人日本ブッククラブ協会理事長に就任し、ブッククラブの普及と開発に努めている。
また2014年より「子どもブッククラブセミナー」を開設し、小中学生にブッククラブを指導している。
理論的発展
1.スピーチ・コミュニケーションを導入した
(「自己実現」の道具としての,スピーチコミュニケーション技能の開発: カリフォルニアの高校でみた,討論の授業の会話分析(1995))
1994年にカリフォルニア州サンディエゴで小学校、中学校、高校、大学の多くの授業を観察し、アメリカ人がどのようにしてスピーチ・コミュニケーション(音声によるコミュニケーション:具体的にはスピーチ、対話、ディスカッション、ディベートなど多様なコミュニケーションの学習体系)を学習しているかを観察して分析した。アメリカでは、高校から大学で広く教えられていて、アメリカ人が公的な場面で活発にコミュニケーションするときの基礎技術となっている。
2.国語教育に相互交流のコミュニケーションの考え方を導入した
(子供が討論に参加する時―小学生の討論の会話分析(1997)、「活発に討論する授業」をどう創造するか―コミュニケーションを核とした「総合的な学習」(1999)、「相互交流のコミュニケーション」が授業を変える(2001))
従来の国語教育では、「教科書を読む」「作文を書く」「教師が教える」「子どもが発表する」のように一方向のコミュニケーションが主であった。「子ども同士が話し合って課題を解決する」というような双方向の課題解決型のコミュニケーションは稀であった。そこで、双方向のコミュニケーションを意味する「相互交流のコミュニケーション」という考え方を初めて導入した。これは子どもたち同士で自発的に双方向のコミュニケーションがあり、子どもたち同士で課題を解決することを目指したものである。しかし、そもそも日本人のコミュニケーションが一方的で双方向にかみあった議論が行われることは稀であるため、教室で実現することも稀であった。それでも有元秀文が長年にわたって指導した学校では実際に実現した。今でも国語の授業は、子ども同士のやりとりは稀で、子どもが一方的に教師に答え、子ども同士のやりとりが行われることは稀である。相互交流のコミュニケーションという言葉は普及したが真意はほとんど伝わらなかったと言える。
3.カウンセリング・スキルを導入した
(オーストラリアの教室で見た、いじめ解消のためのコミュニケーション技能の開発(1997)など)
スピーチコミュニケーションが主として公的な場面での論理的な議論であるのに対して。カウンセリングスキルは詩的な場面での感情を重視したコミュニケーションである。いじめ問題の深刻化を考え、オーストラリア、イギリスで現地調査し、また米国人カウンセラーの指導を受けてカウンセリング・スキルを習得した。このカウンセリング・スキルにおける、とくに受容・共感・傾聴・激励などの技術は、その後の授業実践において必要不可欠な要素となった。なぜなら、教師が子どもの話を受け入れることができなければ、子どもたちは積極的に話すはずがはいからである。
4.読書へのアニマシオンを導入した
(子どもが必ず本好きになる16の方法・実践アニマシオン(2005)など)
1999年より三年間、スペイン・マドリードのESTEL文化協会で研修を受け、スペインのモンセラ・サルトが開発した「読書へのアニマシオン」という読書教育メソッドを初めて本格的に日本に導入した。これは本を使った知的なゲームを通してクリティカル・リーディング(批判・評価的読み)の力を育てるものである。モンセラ氏の教育的なねらいは本を楽しむことを通して生きるための批判力を育てようという大真面目なものだが、ゲームとして面白く、授業に使うと簡単に盛り上がるために本来の教育目的が教師たちに容易に伝わらない恨みがある。また本来、国語の授業のために開発されたものでなく、放課後の課外に行われる読書活動として開発されたものなので、授業中に行うことには無理がある。つまりアニマシオンをやれば次第に本好きになり、総合的な国語力は育つのだが、すぐに国語の成績が上がることを目的にしたものではない。したがって有元は2009年ごろからはアニマシオンの指導をやめてブッククラブに全面的に移行している。
5.PISA型読解力を導入した
(必ず「PISA型読解力」が育つ七つの授業改革(2008)など)
2000年にOECDが主催する国際学力到達度調査(PISA)が日本に初めて導入された。この調査問題は①四割が自由記述問題であることや②本文を批判させるクリティカルリーディングの問いがあることや③単独の作文ではなくてテクストを読んで自分の意見を書かせる問題があることなど、今までの国語教育にはない課題があり、日本の国語教育にとっては黒船とも言うべき革新的な調査であった。この調査結果では、とくにクリティカルリーディングの問いに日本の高校1年生の多くが答えられず、国語教育の弱点が露呈された。問題作成と集計・分析に日本代表として参加した有元はこの弱点を克服するためにPISA型読解力と呼ばれる指導法を開発し、文科省の後押しもあって全国的に普及し、その後のPISA調査ではしだいに日本の高校生の得点は向上した。 PISA調査で初めてわが国に導入された「読んだことについて自分の意見を表現する力」を読解表現力と名付けた。
6.ブッククラブを導入した
(ブッククラブ・メソッドで国語力が驚くほど伸びる(2011)など)
ブッククラブとは、成人の読書会を国語の授業に応用したもので、読書したことについて書かせてグループディスカッションさせることによって国語力を飛躍的に育てる指導方法で、アメリカで開発された。1980ごろからタフィー・ラファエルらを中心にした学者と教師の研究グループが独自のブッククラブを発展させた。(言語力を育てるブッククラブ ディスカッションを通した新たな指導法)
有元は2009年にイリノイ大学シカゴ校にタフィー・ラファエルらを訪ね、授業観察や開発者へのインタビューによる現地調査を行った。その後、日本ブッククラブ研究会を教師たちと結成し、2012年からはNPO法人日本ブッククラブ教会を開設して授業方法と理論について開発し、普及を図っている。
理論的発展の各段階における強調点の違い
1.スピーチ・コミュニケーション[4]
・アメリカで発達した公的な場面での論理的なコミュニケーションを強調した。
2.相互交流のコミュニケーション[5]
・日本独特の一方的なコミュニケーションを改革するために、双方向のコミュニケーションを強調した。
3.カウンセリング・スキル[6]
・公的な場面での論理的なスピーチコミュニケーションでも、双方向の相互交流のコミュニケーションでも解決がつかない私的な対人関係における、感情と相互理解を重視したコミュニケーションを強調した。
4.読書へのアニマシオン[7]
・コミュニケーションだけでは質の高い会話や学力を保証しないためにゲームを通して読書を楽しみながら、読んだことについてのコミュニケーションを行い、質の高い、学力に結びつくコミュニケーションを強調した。
5.PISA型読解力[8]
・グローバル(国際的な)コミュニケーションに不可欠な、欧米の国語教育であるリーディング・リテラシーを育てるためにPISA調査で求められた、テクストを正確に理解した上で、クリティカル・リーディング(批判・評価しながら読む)ことを行い、自分独自の意見を表現することを強調した。
6.ブッククラブ[9]
・PISA型読解力は、国際テストの解答に必要な読解表現力であるために、堅苦しい表現が主となり創造的な学習活動が阻害される弊害があった。これを克服するために、成人が余暇に娯楽として行う読書会をリーディング・リテラシーの指導技術として、楽しみながら読んで、書いて、話し合う学習活動を行うことを強調した。
ブッククラブの理論的背景
<理論的立場>
・ヴィゴツキーによる協同学習理論に基づき、個人の学習ではなく、子どもたちどうしで質の高い話合いを行い学習課題を解決させようとする。
・レイヴとウェンガーによる状況論に近い立場をとり、実際的な場面で本を媒介にして個人が協同的に社会参加する中で実際的な課題解決力を育てる。
・本は、実際に見たことのない社会や世界を見る窓であり、同時に自分自身を映す鏡であると考える。
*すなわち、本を通して世界がわかり、本を通して自分自身を理解すると言う立場をとり、本を人生をよりよく生きるために活用すると言う立場をとる。
<指導のステップ>
・最終的には、子どもたちだけで課題を解決することを目指し、そのために次のようなステップをふんで行く。
第1段階 ティーチング:教師が基礎的な知識や技能を教える。
第2段階 モデリング:教師が基礎的な技能のお手本を示す。
第3段階 スカフォルディング:教師が最小限の手助けをしながら教材の深い理解に導く。
*スカフォルディングとは足場をかける意味で、子どもたちが自力で課題を解決できるよう言葉かけをすることで、決して一定の方向に誘導しない。
第4段階 ファシリテイティング:最小限の司会進行をして子供たちの課題解決が円滑に進行するようにする。
第5段階 パーティシペイティング:教師が一切の手助けをしないで子どもたちだけで進行する。
*教師も子供たちと対等の立場で発言するが決して教師の意見を押し付けない。
<問いの種類>
・次の問いを、最初は教師が与え、次第に子どもたち自身に問いを作らせる。
①バックグランド:作品理解に最低限必要な基礎知識、予備知識について学ぶ。
- 例えば戦争教材を読むなら、戦争についての基礎知識を学ぶ。
②なぜ:登場人物の行動や作家の表現について、その原因や理由を問う。
③予測:これからどうなるか、登場人物がどういう行動をとるか予測させる。
④クリティカル・クエスチョン:登場人物の行動や作家の表現について評価または批判させる。
⑤クリエイティブ・クエスチョン:作品を正確に理解した上で、次のような創造的な思考や表現を必要とする問いに答える。
- 続き話を考える。
- 登場人物の視点に立って物語を書き変える。
- 物語のほかの解決法を考える。
- 自分だったらどう解決するか考える。
⑥パーソナルクエスチョン:作品を正確に理解した上で、自分にも似た経験があるか、自分だったらどうするか考える(クリエイティブ・クエスチョンと重なる)。
⑦インターテクスチュアル・クエスチョン:ほかの本や文章、映画・ビデオなどとの関連を考える。
⑧テーマについての問い:作者が何を伝えたいか、どのような教訓を与えたいかなど、通常複数のテーマを考えさせる。
<作品理解のためのストラテジー(学習戦略)>
正確な理解のために、とくに次の三つのストラテジーを重視する。
①シーケンスチャート
- 教材の重要な部分を列挙して、それを読んだだけで物語の全体構造が明確に把握できるようにする。
②キャラクターマップ
- 物語の場合、登場人物の性格や特徴、登場人物相互の関係を図に描く
③ビッグクエスチョン
- 物語や文章の主題に迫るような大きな問いを出して、個別に書かせ、書いたことに基づいて小グループでディスカッションさせる。
・ビッグクエスチョンの条件は次の通り ①物語、文章の主題に迫ることができる。 ②子供たちの意見が一通りでなくわかれる。 ③子供たちが興味を持って話し合うことができる。 ④子供たちのレベルにふさわしい難度である。
通常の国語の授業と比べたブッククラブの特徴
日本でよく行われる通常の授業とブッククラブの違いを示す。
- ここでの「ブッククラブ」の定義[5]
- 教科書または絵本や本を教材として、テクストの正確な理解に基づいて、自分の意見を根拠をあげて書いて発表し、教師または子どもたちが考えた、教材の本質を明らかにするための課題について、小グループまたはクラスの中で話し合って課題を解決する、国語科の学習指導方法
- <教材について>
- 通常は教科書だけを使うが
- ブッククラブでは教科書のほかに絵本や児童書を使う
- <読解について>
- 通常は、通読・精読・未読の三読法のようにテクストを繰り返し読解するが
- ブッククラブでは、一回だけ読む中で、適切な問いを与えて理解を促す。
- したがってブッククラブの場合は通常の授業の三分の一程度の時間で正確な読解を可能にする。
- <バックグランド・ナリッジについて>
- 通常は背景となる基礎知識(バックグランド)に多くの時間をかけないが
- ブッククラブでは、読む前、途中でバックグランドに必要十分な時間をかける。
- <問いについて>
- 通常は教師が唯一の答えを用意するが
- ブッククラブでは多様な正解を許容する
- <書くことについて>
- 通常は必ずしも毎時間書かせないが
- ブッククラブでは、毎時間必ず書かせる
- <話し合いについて>
- 通常は子どもたちが教師に対して一方的に答えるだけで子ども同士の話し合いはないが
- ブッククラブでは子ども同士の話し合いが行われることを目標とする。
- <コミュニケーションについて>
- 通常は相互の批判や反論は行われず、一人一人が意見を一方的に述べるが
- ブッククラブでは、子どもどうしが質問して答えたり批判して反論するなど双方向のコミュニケーションを通して相互理解しながら課題解決することを目指す。
ブッククラブの授業の進め方
ブッククラブのすすめかた*[6]
<<教科書教材を主として絵本や短い児童文学を併用する場合>>
・日本の小学校・中学校では、教科書教材を主として用いるからこのやり方が主になる
[基本的な授業構成]
・教科書教材+絵本(児童書)+教科書教材+絵本(児童書)+教科書教材+絵本(児童書)・・・・ のように教科書教材を進めながら関連する絵本や児童書を加えながら進めていく
・絵本(児童書)が複数になる場合もある
1.バックグランド・ナリッジ(テクストを読むのに必要不可欠な背景となる基礎・予備知識)
・例えば戦争教材なら少なくとも30分程度はかけて戦争に関する予備知識を確認する。
・教師による一方的な講義形式ではなく子どもたちに問いかけながら最低限の知識を教師が助言する。
・例えば、
日本には最近どんな戦争があってどんなことがあったか?
なぜ戦争が起きたか?
どのくらいの人が死んでどのくらいの人を殺したか?
原爆ではどんな被害があったか?
アメリカはなぜ原爆投下をしたか?
など
2.リードアラウド
リードアラウド(音読をしながら質問する)は場面ごとに読み進める場面読みではなく一回だけで読み切る。
したがって小学校の短い教材なら1時間、やや長い教材なら2時間、最も長い教材でも3時間で終わる
絵本や児童書の読み進め方は教科書と同じである。
質問の種類は[22]
3 シーケンスチャート(30分~50分)
4 キャラクターマップ(30分~50分)
[24]
5 ビッグクエスチョン(30分~50分)
[25]
進め方は
①問いを選ぶ(10分~15分)
②問いについて個別に書く(10分~15分)
③グループまたはクラスで話し合う(10分~20分)
<<単行本を使う場合>>
・アメリカではこの方法が中心になるが日本では次のような限られた場合である。
①夏休みなどの課題にして本を一冊読ませる場合
②朝の時間や学級活動の時間を使って少しずつ読み進める場合
ここでは②の場合を示す。
[基本的な授業構成]
小学校の朝の時間を使う場合を示す。
①発達に合った本を選び、毎日10分程度教師が音読する。
②音読のあとで1~2問の質問をし、簡単にメモを書かせた後で数人に答えさせる。
③全部を読み終わった時点でビッグクエスチョンを出し、国語の時間を使って意見を書かせたあと、討論させる。
現在のところでは、制限された指導法しか行えないが、将来的に教科書中心の国語の授業から読書中心の国語の授業に以降すればアメリカで行われているような本格的な指導も可能になる。
<<アメリカで行われているブッククラブの基本型>>
・アメリカでは教科書中心の授業はほとんど行われず読書中心でその名称も指導法も千差万別だが一例を示す。
[26]
<単元の課題読書>
①教師が中心になり一冊の本を選び毎時間20ページ前後を教室で黙読する。(全体で7~10週間、アメリカでは通常一日2時間毎日国語の時間がある)
②読解に入る前にバックグランド・ナリッジについて班ごとに調べ学習をし、発表させる。(1~3週間)
③黙読(20分~30分)
③毎時間読んだ後、リーディングログとう読書日誌に、教師の与えた問いについての答えや自分で考えた問いなどを書く。(15分~20分)
④書いたものをもとに小グループに分かれて討論する。(15分~20分)
⑤読むこと、書くこと、話し合うことについてのミニレッスンを必要に応じて教師が行う。(15分~20分)
⑥各グループでどんな話し合いがあったかをクラスでシェアする。(10分~20分)
<グループの読書>
・単元に関連のある本の中から、同じ本を選んだ各4名のグループが、上記の課題読書と同じ方法で読み進める。 一単元の間に数冊を読み、読み終わったら、各グループがクラスで発表してシェアする。
<一人読み>
・単元に関連のある本を一人ずつ別の本を選んで毎日20分ぐらいの時間をとって一人で読む。 やりかたは課題読書と基本的に同じようにリーディングログに自分の問いと答えやシーケンスチャートキャラクターマップを書き、読み終わったらクラスで発表する。
一単元の間に数冊読む。
・合計で一単元の7週から10週の間に10冊前後を読む。
ブッククラブとアクティブラーニング
Active learning(wikipedia)*[ https://en-two.iwiki.icu/wiki/Active_learning]によればアクティブラーニングとは次のようなものである。
アクティブラーニングは、Bonwell & Eisonのレポートによって1990年代に知られるようになった。(Association for the Study of Higher Education (ASHE) report (Bonwell & Eison 1991))
このレポートではアクティブラーニングが次のように定義されている。
①生徒たちは聞くだけでなく行動する。
つまり、読んで、書いて、ディスカッションし、課題解決を行う。
②生徒たちを受け身の学びから積極的な学びに変える。
つまり、高度の課題を解決するために、探究し、情報を収集して分析することを通して主題を理解させる。
ブッククラブはこれらのすべてを行うことを目指している。
とくに、課題解決のディスカッションを行うことが大きな目標である。
なぜなら課題を解決するためには、お互いの意見を批判しあって一番よい答えを見つけなければならないが、日本人は相互批判が文化的に極めて不得手だからである。
これを克服するには金魚鉢と言うディスカッションの訓練法を用いる。
これは違う意見を持った四人の子供たちを選んで、どの答えが正しいか相互批判を通して一番良い答えを見出させる。
残りの子どもたちは黙って四人のディスカッションを外から観察するので金魚鉢と言う。
ブッククラブのすべての学習活動はアクティブラーニングと呼ぶべきだが、その実行は相互批判のコミュニケーションができるかどうかにかかっているので長い訓練が必要である。
経歴一覧
学歴
- 1967年3月 山口県立岩国高等学校卒業
- 1971年3月 早稲田大学教育学部国語国文学科卒業
研修歴
- 1980年4月~1891年3月 東京都立教育研究所教員研究生(東京大学文学部言語学科派遣)
- 1994年8月~11月 カリフォルニア大学サンディエゴ校比較認知科学研究所客員研究員(文部省短期在外研究員)
- 1999年9月(1日間)、2000年9月(2週間:200時間)、2001年11月(1週間:100時間)
読書へのアニマシオン講習会参加(ESTEL文化協会、マドリー)
職歴
- 1971年4月 東京都立新宿高等学校国語科教諭
- 1986年4月 文化庁文化部国語課国語調査官
- 1991年10月 国立教育研究所教科教育研究部主任研究官
- 2001年1月、2012年3月 国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官
- 2001年4月~2007年3月 国際基督教大学語学科非常勤講師
- 2004年4月~2010年9月 東京大学教育学部非常勤講師
- 2012年4月 日本ブッククラブ協会理事長
- 2014年4月19日 子どもブッククラブセミナー開設
賞
- 2014年11月
「まともな日本語を教えない勘違いだらけの国語教育/なぜ、文科省の国語教育は主張する子どもを育てられないのか!?」(合同出版) が日本文芸アカデミー大賞を受賞
論文
- 「リスニングサービス」における学習の拡張:少女たちが耳を傾けるとき
国立教育研究所研究集録 38 1999.3
- いじめや暴力を解消するためのピアサポートの学習―学習理論によるピアサポートの評価
国立教育研究所研究集録 37 1998.9
- オーストラリアの教室で見た、いじめ解消のためのコミュニケーション技能の開発
国立教育研究所研究集録 35 1997.9
- 子供が討論に参加する時―小学生の討論の会話分析
国立教育研究所研究集録 32 1996.3
- 「自己実現」の道具としての,スピーチコミュニケーション技能の開発: カリフォルニアの高校でみた,討論の授業の会話分析
國立教育研究所研究集録 31, 21-38, 1995
- 「活発に討論する授業」をどう創造するか―コミュニケーションを核とした「総合的な学習」
国語科教育(全国大学国語教育学会編集) 46 1999.3
- 共同体を変える道具としての教室のスピーチジャンル―いじめ解消をめざした日豪の授業の会話分析
国語科教育(全国大学国語教育学会編集)45 1998.3
著書
- ブッククラブ入門: 本が好きになり国語の力がどんどん育つ だれでも明日から授業で使えます [Kindle版] *[8]
- 小学校教科書教材でできるブッククラブ・ガイド: 有名40教材で楽しく簡単に、読む力・考える力・話し合う力が育ちます [Kindle版]*[9]
- 中学・高校教科書教材ブッククラブ・ガイド: 中学・高校教科書の有名12教材 [Kindle版]*[10]
- 中学・高校教科書教材ブッククラブガイド(2016)*[11]
- 教科書材できるブッククラブ・ガイド(2015)*[12]
- ブッククラブ入門(2015)*[13]
- まともな日本語を教えない勘違いだらけの国語教育 合同出版 2012年
- 言語力を育てるブッククラブ ディスカッションを通した新たな指導法 T・E・ラファエル 著 有元 秀文 訳 ミネルヴァ書房 2012年
- ブッククラブ・メソッドで国語力が驚くほど伸びる 合同出版 2011年
- ブッククラブで楽しく学ぶクリティカル・リーディング入門国際化時代を生き抜く読書力がだれでも身につく ナカニシヤ 2010年
- 読解力が飛躍的に向上するブッククラブの実践入門―だれでも明日からできる七つのストラテジー― 明治図書 2010年
- PISAに対応できる「国際的な読解力」を育てる新しい読書教育の方法-アニマシオンからブッククラブへ- 少年写真新聞社 2009年
- 「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門 明治図書 2009年
- 子どもの読解力がぐんぐんのびる! 戦争と平和の名作をクリティカルに読み解く 合同出版 2009年
- 『言語力検定公式ガイド』(2009年,日本能率協会マネジメントセンター,ISBN 4820745654)
- 『教科書教材で出来るPISA型読解力の授業プラン集』(2009年,明治図書出版,ISBN 4183248167)
- 『新学習指導要領に沿ったPISA型読解力が必ず育つ10の鉄則』(2009年,明治図書出版,ISBN 4183393132)
- 『PISA型読解力が絶対育つ授業実践事例集』(2008年,教育開発研究所,ISBN 4873805090)
- 『ネットいじめ・言葉の暴力克服の取り組み』(2008年,教育開発研究所,ISBN 4873809762)
- 『必ず「PISA型読解力」が育つ七つの授業改革』(2008年,明治図書出版,ISBN 418321713X)
- 『子どもが本好きになる七つの法則』(2008年,主婦の友社,ISBN 407261226X)
- 『「国際的な読解力」を育てるための「相互交流のコミュニケーション」の授業改革』(2006年,渓水社,ISBN 4874409210)
- 『子どもが必ず本好きになる16の方法・実践アニマシオン』(2005年,合同出版,ISBN 4772603484)
- 『読書へのアニマシオン入門』(2002年,学習研究社,ISBN 4054014763)
- 『「相互交流のコミュニケーション」が授業を変える』(2001年,明治図書出版,ISBN 4182563174)
- そのほかの著書
関連項目
外部リンク
- 略歴
- 日本ブッククラブ協会公式ウェブサイト
- 日本ブッククラブ協会公式ブログ
- 日本ブッククラブ協会face book
- ありもとひでふみface book
- 子どもブッククラブセミナーface book
- ありもとひでふみひろば
- ありもとひでふみ日記
- 聖書とともに
- 国立教育政策研究所による紹介
- ^ 従来の国語教育では、「教科書を読む」「作文を書く」「教師が教える」「子どもが発表する」のように一方向のコミュニケーションが主であった。「子ども同士が話し合って課題を解決する」というような双方向の課題解決型のコミュニケーションは稀であった。そこで、双方向のコミュニケーションを意味する「相互交流のコミュニケーション」という考え方を初めて導入した。これは子どもたち同士で自発的に双方向のコミュニケーションがあり、子どもたち同士で課題を解決することを目指したものである。しかし、そもそも日本人のコミュニケーションが一方的で双方向にかみあった議論が行われることは稀であるため、教室で実現することも稀であった
- ^ 1999年より三年間、スペイン・マドリードのESTEL文化協会で研修を受け、スペインのモンセラ・サルトが開発した「読書へのアニマシオン」という読書教育メソッドを初めて本格的に日本に導入した。これは本を使った知的なゲームを通してクリティカル・リーディング(批判・評価的読み)の力を育てるものである。モンセラ氏の教育的なねらいは本を楽しむことを通して生きるための批判力を育てようという大真面目なものだが、ゲームとして面白く、授業に使うと簡単に盛り上がるために本来の教育目的が教師たちに容易に伝わらない恨みがある。
- ^ ブッククラブとは、成人の読書会を国語の授業に応用したもので、読書したことについて書かせてグループディスカッションさせることによって国語力を飛躍的に育てる指導方法で、アメリカで開発された。1980ごろからタフィー・ラファエルらを中心にした学者と教師の研究グループが独自のブッククラブを発展させた。
- ^ 「自己実現」の道具としての,スピーチコミュニケーション技能の開発: カリフォルニアの高校でみた,討論の授業の会話分析 國立教育研究所研究集録 31, 21-38, 1995
- ^ *『「相互交流のコミュニケーション」が授業を変える』(2001年,明治図書出版,ISBN 4182563174)
- ^ オーストラリアの教室で見た、いじめ解消のためのコミュニケーション技能の開発 国立教育研究所研究集録 35 1997.9
- ^ *『子どもが必ず本好きになる16の方法・実践アニマシオン』(2005年,合同出版,ISBN 4772603484)
- ^ *「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門 明治図書 2009年
- ^ ブッククラブ・メソッドで国語力が驚くほど伸びる 合同出版 2011年
- ^ 言語力を育てるブッククラブ ディスカッションを通した新たな指導法 T・E・ラファエル 著 有元 秀文 訳 ミネルヴァ書房 2012年
- ^ まともな日本語を教えない勘違いだらけの国語教育 合同出版 2012年
- ^ ブッククラブ入門(2015)*[14]
- ^ ブッククラブ・メソッドで国語力が驚くほど伸びる 合同出版 2011年
- ^ 言語力を育てるブッククラブ ディスカッションを通した新たな指導法 T・E・ラファエル 著 有元 秀文 訳 ミネルヴァ書房 2012年
- ^ まともな日本語を教えない勘違いだらけの国語教育 合同出版 2012年
- ^ ブッククラブ入門(2015)*[15]
- ^ ブッククラブ・メソッドで国語力が驚くほど伸びる 合同出版 2011年
- ^ ブッククラブ入門: 本が好きになり国語の力がどんどん育つ だれでも明日から授業で使えます [Kindle版] *[16]
- ^ 小学校教科書教材でできるブッククラブ・ガイド: 有名40教材で楽しく簡単に、読む力・考える力・話し合う力が育ちます [Kindle版]*[17]
- ^ 中学・高校教科書教材ブッククラブ・ガイド: 中学・高校教科書の有名12教材 [Kindle版]*[http://www.amazon.co.jp/dp/B01BCU69AQ
- ^ 小学校教科書教材でできるブッククラブ・ガイド: 有名40教材で楽しく簡単に、読む力・考える力・話し合う力が育ちます [Kindle版]*[18]
- ^ <問いの種類>
・次の問いを、最初は教師が与え、次第に子どもたち自身に問いを作らせる。
(この場合、バックグラウンドについての問いはあらかじめすませてあるが、テクストによってはリードアラウドの中で行うこともある。)
①なぜ:登場人物の行動や作家の表現について、その原因や理由を問う。
②予測:これからどうなるか、登場人物がどういう行動をとるか予測させる。
③クリティカル・クエスチョン:登場人物の行動や作家の表現について評価または批判させる。
④クリエイティブ・クエスチョン:作品を正確に理解した上で、次のような創造的な思考や表現を必要とする問いに答える。
- 続き話を考える。
- 登場人物の視点に立って物語を書き変える。
- 物語のほかの解決法を考える。
- 自分だったらどう解決するか考える。
- ^ 教材の重要な部分を列挙して、それを読んだだけで物語の全体構造が明確に把握できるようにする。
- ^ 物語の場合、登場人物の性格や特徴、登場人物相互の関係を図に描く
- ^ 物語や文章の主題に迫るような大きな問いを出して、個別に書かせ、書いたことに基づいて小グループでディスカッションさせる。 ・ビッグクエスチョンの条件は次の通り ①物語、文章の主題に迫ることができる。 ②子供たちの意見が一通りでなくわかれる。 ③子供たちが興味を持って話し合うことができる。 ④子供たちのレベルにふさわしい難度である。
- ^ 言語力を育てるブッククラブ ディスカッションを通した新たな指導法 T・E・ラファエル 著 有元 秀文 訳 ミネルヴァ書房 2012年