鰹節
鰹節(かつおぶし)は、カツオを原料とする保存食品。
基本的には魚体を三枚以上におろし、「節」(ふし)と呼ばれる舟方に整形してから加工された物を鰹節と言う。
日本のほかモルディブにも見られ、旨み成分のイノシン酸を豊富に含有し、調味料として好んで用いられる。ビタミンB群を含む。
また、枯節(かれぶし)と呼ばれる物は旨味成分やビタミン類が他の鰹節より多く含まれ、高級品として扱われている。
歴史
カツオ自体は古くから日本人の食用となっており、5世紀頃には干しカツオが作られていたようであるが、文献において、いわゆる鰹節らしいものが現れるのは飛鳥時代以降である。
万葉集に石上堅魚(いそのかみのかつお)と言う役人が登場することから、持統天皇の時代には既に乾燥された鰹が用いられていたことが伺える。また石上は伊勢神宮の神饌を司る一宮、伊雑宮の関係者でもあった。志摩国志摩郡伊雑郷には魚切里(後の英虞郡名錐郷)と呼ばれる村があったことから、節と呼ばれる形に整えていたことが推測できる。飛鳥・奈良・平安期においては神饌として用いられ、宮中では志摩国英虞郡名錐郷(現在の三重県志摩郡大王町)の鰹を毎年正月から4ヶ月程度、節句の神饌として用いた。この事から、「節句に使う鰹」=「鰹節」という名が付いたとも言われている。伊勢神宮などの神社の社にある丸太は「鰹木」と呼ばれ、当時の鰹を干した様子を模した物である。持統天皇の後に即位した文武天皇の時代、701年に制定された大宝律令では志摩国に加え、伊豆国、駿河国、紀伊国、土佐国の五国が税として納める様に定められる。また、天皇への食材及び神饌を供える国は「御食つ国」と呼ばれ、伊勢国、志摩国、摂津国の三国があり、このうち志摩国が鰹を供する義務を負っていた。(和漢三才図絵には天皇自ら産地を「志摩国」と指定したと言われている。)
節にして用いる以前は、鰹をそのまま干して乾燥させただけであったが、あらかじめ煮たり、三枚におろしたりするなど各種の製法が広まっていった。
戦国時代に入ると織田信長が戦時の食料として利用するなど携帯食品としても普及した。信長は「勝男武士」と語呂合わせするほど気に入ったと伝えられている。特に、信長の支配した地域には鰹節を使う料理が多く、現在でも「伊勢うどん」や「きしめん」などはトッピングとして鰹節を大量に使う。
現代の鰹節の原型(薫製法)が出来上がったのは江戸時代で、紀州の基太郎という人物が薫製で魚肉中の水分を除去したことに始まる。薩摩や土佐、阿波、紀州、志摩、伊勢、伊豆など太平洋沿岸のカツオ主産地で多く作られるようになった。
江戸時代には鰹節の番付表も作成され、それには伊勢の「阿曾節」、志摩の「波切節」等が行司役、土州(静岡)の「清水節」、薩摩の「屋久島節」などが大関として名を連ねている。主に京料理などで使われていたのは行司役の鰹節で、現在でも志摩の「波切節」等の枯節は京都の寺社の茶懐石料理などに使われている。また、江戸時代にはいると、海運業が盛んになり、九州や四国などの鰹節も江戸の町に運ばれるようになった。
明治以降、尖閣諸島の魚釣島や日本が国際連盟の委任統治領としていた南洋諸島(南太平洋の島々)でも製造されるようになった。特に南洋ものは安価であったことから大いに市場を拡大した。
--参考・文政五年の諸国鰹節番付--
行司(上段)-阿曾節・慥栖節(伊勢)、波切節(志摩)-左記の三つは番付け中、最も文字が大きい。立行司役と思われる。
行司(下段)-由黄浦節・ムキ浦節・大島節(阿波)、田の浦節(土佐)
大関-清水節(東方・遠州)、役島節(西方・薩摩)
関脇-宇佐節(東方・遠州)、御前節(西方・土佐)
小結-福島節(東方・遠州)、須崎節(西方・土佐)
以下、前頭、世話方、勧進元が続く。
用途
保存性がよく、滋養・風味に優れることから、調味料として盛んに用いられる。特に上質なだし汁のベースとして、また料理の仕上げとして最後に振りかける材料として、日本料理に欠かせない食材である。
鰹を三枚におろした物を亀節、三枚から背と腹におろした物を本節、本節の中でも背側を使ったものを雄節(または背節)、腹側を使ったものを雌節という。
昔は、各家庭に「鰹節削り器」があり、使用する直前に鰹節を削っていた。この鰹節削り器は、大工道具のカンナを刃を上向きにして小箱に据え付けたもので、小箱には引き出しがついており、削った鰹節が取り出せるようになっている。現在では節の状態で売られることは少なく、チップ状に削られたものに窒素を入れ気密パックの状態で販売され、用いられることが多い。しかし割烹料亭などの和食のプロの多くは、今でも節の状態から削って使っている。
一般的な料理では「花鰹」(はなかつお)と呼ばれる荒削りの物を出汁によく使うが、高級料亭などは「枯節」を使うところが多い。
また、削節を佃煮にしたものや醤油であえたものは握飯の具として人気がある。
伝統的製法の例
- カツオを解体する。頭部、内臓を取り除き、三枚におろして形を整える。
- これを籠に入れて、釜で100分前後煮る。慎重な温度管理を要する。
- 取り出したカツオのうろこをはぎ、脂肪や骨の除去を行う。ここまでが済んだものを「なまり節」と言い、鰹節産地の隠れた珍味であるが、最近は通信販売などで購入も可能となっている。
- 薫蒸して乾燥させる。ナラやシイなどの木を用いる。必要に応じて幾度か繰り返す。この行程を終えた物が「荒節」で、いわゆる「花がつお」の原料となる。
- 表面を削って汚れを除いてから、水分を落とし、天日干しで乾燥させる。その後閉め切った室に入れ、カビを自然繁殖させる。
- カビが繁殖したらこれを削り落とし、5の行程を繰り返す。
- 行程5→6の繰り返しで、最終的に水分が失われて木材のように硬くなり、カビも付かなくなる。重量は加工前のカツオの20%以下となる。これが枯節の完成となる。良質の枯節どうしをぶつけると、「カンカン」とガラス同士を叩いたような硬質な音がし、割れると一見ルビーに似た透明感のある濃い赤色の断面が表れる。
他の魚を用いたもの
同様の製法(荒節までの場合が多い)でカツオ以外の魚を用いたものに
- そうだ節(ソウダガツオ)
- さば節(ゴマサバ)
- あじ節(ムロアジ)
- いわし節(カタクチイワシ、マイワシなど)
などがある。