菊竹六鼓
菊竹 六鼓(きくたけ ろっこ、男性、1880年1月25日 - 1937年7月21日)は、福岡県出身のジャーナリスト。五・一五事件に際し、福岡日日新聞の紙上で軍部批判・憲政擁護の論陣を張ったことで知られる。六鼓(六皷)[1]は号で、本名は淳(すなお)。
生涯
1880年(明治13年)、福岡県生葉郡福益村(現・うきは市吉井町)に生まれる。生家は代々造り酒屋も兼ねる大地主であり、祖父の代に庄屋も務めた地域の名家であった。
兄
21歳年上の淳の兄博之は、淳が生まれた頃には既に自由党系の自由民権運動の活動家として地域で知られる存在であった。吉井町の生葉郡校「弘道館」で儒学者倉富胤厚(後の福岡県議会副議長)の指導を受けて若い頃から政治に関心を持った博之は、恩師の長男恒二郎との交際を深め、淳が生まれる前年の1879年(明治12年)11月に筑前共愛会、さらに1882年(明治15年)3月に九州改進党が結成されると、恒二郎とともに両党の党勢拡大に尽力した。淳が6歳の1886年(明治19年)には、祖父以来の地域での信用と財産、先輩議員であった恒二郎の推薦もあって福岡県会議員補欠選挙で当選。この時、同僚議員となった野田卯太郎と親交を結んでいる。さらに翌1887年(明治20年)には福益村戸長、1889年(明治22年)には町村制施行に伴い誕生した福富村(470戸、2800人)の初代村長に就任した。
村長に就任した博之は、地域の発展に力を注いだ。とりわけ1897年(明治30年)に村内各戸が毎月10銭ずつ拠出して始まった共同貯蓄は、1914年(大正3年)には総額1万数千円、利子700円余を村民に配当できるまでになり、植林事業や小中学校の整備等の基金として活用された。
1890年(明治23年)と1892年(明治25年)に行われた衆議院議員総選挙で、博之は、自由党系候補への資金提供を含む全面的な支援を行い、政府の選挙干渉に敢然と立ち向かって政府系の候補と激しく争っている。また、1898年(明治31年)の総選挙では、福岡五区から浮羽郡などの福岡四区に鞍替えした野田の支援に奔走した。
こうした村政への取り組みや民権家としての活動は、博之の名声を高め[2]、また、後の淳の政党政治や議会政治に対する考え方に大きな影響を与えたが、一方で菊竹家がそれまで蓄えてきた財産は、急激に失われていくことになった。
1899年(明治32年)頃に始めた乳牛飼育の事業も1903年(明治36年)までには全滅してしまい、翌1904年(明治37年)に福富村長を辞任。1905年(明治38年)1月に僅かに残された財産を整理すると、母と妻子を伴い、福岡日日新聞に入社間もない淳の下宿に夜逃げ同然に転がり込んだ。その後もいくつかの新事業や福富村長への返り咲きを構想したが実現することはなく、1920年(大正9年)5月9日、福岡市舟町の借家で死去した。
経歴
淳は2歳の時に骨髄炎を患い、手術の失敗により歩行が不自由となった。中学明善校(現・福岡県立明善高等学校)を卒業後、山口高等学校に進学を希望したが、すでに家運の傾いていた菊竹家には、当時私学より授業料の高額であった官学に進学させる余裕はすでになく、私学の中でも学費が安く修業年限が短い東京専門学校(現・早稲田大学)英語政治科に進んだ。1903年に同校を卒業を卒業、野田卯太郎の口添えを得て、自由党系紙であった福岡日日新聞社に入社した。1911年に編集局長となり、のちに主筆となった。
1932年(昭和7年)5月15日、犬養毅首相が陸海軍将校に殺害されると(五・一五事件)、六鼓は社説「首相兇手に斃る」(5月16日夕刊)、「敢えて国民の覚悟を促す」(5月17日)を記し、軍部とファシズムを痛烈に批判した。この論説に対して、久留米に師団司令部を置く第十二師団の将校たちは反軍的だとして憤激し、福岡日日新聞の師団司令部への取材が拒絶され、久留米支局長の北島磯次が師団司令部にたびたび呼び出された。また、在郷軍人による不買運動が呼びかけられ、本社上空に軍用機を旋回飛行させるなど、新聞社にはさまざまな恫喝が加えられた。しかし、六鼓は紙面において「騒擾事件と輿論」(5月19日)、「当面の重大問題」(5月20日)、「憲政の価値」(5月21日)などの論陣を張り続けた。五・一五事件一周年を迎えた際には社説「憲政かファッショか」(1933年5月16日)を記し、ファシズム批判・議会政治擁護の主張を行っている。
1935年に副社長となった。1937年(昭和12年)、結核のため満57歳で死去。
評価
日本近代政治史の転換点において、全国の大手新聞社が軒並み軍部支持の記事を掲げ、世論を軍国主義へ誘導し、あるいは軍国主義世論に迎合する中、メディアを通して戦う姿勢は、国民と政治・マスメディアの関係に強い警鐘を鳴らすものであった。福岡日日新聞社の後身である西日本新聞社は、同社の編集綱領第一項に掲げる「言論の自由と独立を守り報道の公正、真実を貫く」で六鼓精神の継承を誓っているとしている。
1963年、郷土のうきは市吉井町に、菊竹六皷顕彰会によって「菊竹六皷記念館」が建設されている。
脚注
- ^ 福岡日日新聞紙面においては、「六皷」(「鼓」の旁が「皮」になっている字体)が使用されていた。(下記外部リンク参照)
- ^ 1961年(昭和36年)に福富森林生産組合によって福富村立福富小学校(現うきは市立福富小学校)の校庭の一角に、「菊竹博之翁頌徳碑」が建立されている。
参考文献
- 篠原正一 『久留米人物誌』 久留米人物誌刊行委員会、1981年。
- 木村栄文 『六鼓菊竹淳-論説・手記・評伝』 葦書房、1975年。
関連項目
外部リンク
- 菊竹六皷記念館 - うきは市
- 信念の言論人・菊竹六皷 - 西日本新聞社