コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

自衛官

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。58.157.252.169 (会話) による 2008年9月6日 (土) 13:43個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (メンタルヘルスの問題)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

自衛官じえいかんSelf-Defense Official)とは、防衛省職員の一種であり、命を受け自衛隊の隊務を行う(防衛省設置法第59条)特別職国家公務員自衛隊員のうちの、いわゆる「制服組」である。自衛隊員と呼ばれる場合もあるが、法的には「自衛隊の隊員」には自衛官以外の防衛省職員を含む(後述)ので、あくまで俗称であり、法的名称は「自衛官」が正規である。

陸上自衛隊の自衛官は陸上自衛官と、海上自衛隊の自衛官は海上自衛官と、航空自衛隊の自衛官は航空自衛官と通称される。現在陸海空の総計は約24万人で、日本国最大の人員を擁する国家公務員の職種である。


身分

パールハーバーにおいて練習艦「かしま」(TV 3508)の側で第3種夏服の服装で整列する海上自衛官(2004年5月4日)

自衛官とは、自衛官を官名とし、階級の呼称の別に従い、陸海空又は統合幕僚監部に定員上所属する者である(任命権に関する訓令の運用通達(昭和36年2月27日 防衛庁人事局長通達)第10条第2項)。

自衛官は、特別職たる防衛大臣防衛副大臣防衛大臣政務官自衛隊員とごく少数の一般職職員からなる防衛省職員の一種であり、そのうちの「自衛隊員」に含まれる。これに対して自衛隊員は、事務次官防衛参事官以下の事務官等(いわゆる「背広組」と呼ばれる行政公務員=文官)と、それに対峙する武官(制服組)の統合幕僚長以下の自衛官に加え、即応予備自衛官予備自衛官予備自衛官補防衛大学校本科学生、防衛医科大学校学生などの防衛省の定員外の職員を加えた概念―つまり防衛省及び自衛隊関係者の全て。自衛隊員⊃自衛官であるが、自衛隊員=自衛官ではない。

政府は、1990年平成2年)10月18日衆議院本会議における外務大臣答弁において、「自衛隊は、憲法上必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。」としている。

このため、通常の政府見解によると、現に自衛官たる者は文民ではなく武官とされ、憲法第66条第2項の規定に従って、内閣総理大臣もしくは防衛大臣を含む国務大臣となる資格を失う。このため、中谷元など、元職業軍人や元職業自衛官が防衛庁長官(防衛大臣の前身)に就任するにあたり、問題になった事があった。いずれのケースでも退役(退職)するなどで軍人、自衛官としての地位を失った後、選挙を経て、防衛庁長官に就任しているため、問題ないとされている。

地位・待遇

自衛官と防衛省内局及び他省庁の官僚との比較

指定職 
号数 自衛官 防衛省内局 他省庁
8号 統合幕僚長 防衛事務次官 事務次官警察庁長官
7号 陸上・海上・航空幕僚長 防衛大学校長 警視総監
6号 防衛監察官 財務省主計局長・海上保安庁長官警察庁次長
5号 陸自方面総監自衛艦隊司令官横須賀地方総監航空総隊司令官航空教育集団司令官 防衛医科大学校長 海上保安庁警備救難監
4号
3号
2号
1号
  • 指定職俸給表の適用を受ける防衛参事官、書記官及びその他の官職並びにこれらに準ずる自衛官の官職を定める省令
  • 防衛省の職員の給与等に関する法律施行令第六条の二十 
  • 人事院規則九―四二(指定職俸給表の適用を受ける職員の俸給月額)

俸給

一般職国家公務員の俸給表ではなく、自衛官俸給表により定められる。階級と号俸で構成され、階級と勤続年数(勤務成績)の二つの要素により決まるようになっている。一般2士の初任給はおよそ15万円前後であり、一般職よりやや高めの設定がなされているが、これは勤務の特性上、2時間程度の残業時間を含む金額とされる。したがって、超過勤務手当は自衛官に対しては支給されない。また、俸給以外にも医療や食事の支給なども現物給付を受けることができる。

なお、曹長以下の自衛官は営舎内居住が原則であるため、隊舎・艦艇で生活するための光熱費・水道代、食事代等は、給与の算定段階で予め控除されている。自衛官俸給表に定められた金額というのは、それらの費用が差し引かれたものである。従って、何らかの理由により営舎外居住が許可された場合は、当然隊舎・艦艇における光熱費・水道代等が必要ないため、この分の金額が「営外居住手当」として給与に加算されて支給される。その反面、通常は食事等も支給されなくなるので、昼食は喫食の申請をして食堂で食べるか、弁当を用意したり基地・駐屯地のBXPX(売店)を利用する事になる。ちなみに食堂を利用した場合、食事代は給与から差し引かれる。

勤務・服務

勤務時間は原則午前8時から午後5時までの週休2日制であるが、部署により大きく異なる。24時間態勢を維持するため、シフト制の部署も多い。どの部署も慢性的な欠員に悩まされており、さらに入校や訓練なども多いことが拍車をかけている。当然ながら残業で対応せざるを得ないが、超過勤務という概念が無いため(後述)、労務管理が適切に行われているとは言えず、残業時間の算定自体が不可能な状況である。また部署を問わず、訓練や演習などの際は長時間の勤務(場合によっては不眠不休で48時間など)も珍しくない。幹部自衛官以外は営舎内居住が原則であり、外出も許可制となる。従って拘束という意味では24時間勤務とも解釈できる。こうした勤務実態から、超過勤務という概念自体が存在せず、前述の超過勤務手当の設定がされていない。実際、生活そのものに対して厳しい制約が課され、特に外出や外泊にあたっては重点的な指導を受ける。具体的には、ミスや不祥事を起こした隊員に対し、懲罰的な意味合いを込めて「外出禁止」といった措置を行う場合がある。

自衛官の階級

陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の自衛官の階級は自衛隊法第32条により、それぞれ陸将・海将・空将を最高位とし、17階級が定められている。

自衛官の階級等
区分 陸上自衛官 海上自衛官 航空自衛官 略称
幹部 将官 統合幕僚長たる陸将 統合幕僚長たる海将 統合幕僚長たる空将 統幕長
陸上幕僚長たる陸将 海上幕僚長たる海将 航空幕僚長たる空将 陸幕長海幕長空幕長
陸将 海将 空将
陸将補 海将補 空将補 将補
佐官 1等陸佐 1等海佐 1等空佐 1佐
2等陸佐 2等海佐 2等空佐 2佐
3等陸佐 3等海佐 3等空佐 3佐
尉官 1等陸尉 1等海尉 1等空尉 1尉
2等陸尉 2等海尉 2等空尉 2尉
3等陸尉 3等海尉 3等空尉 3尉
准尉 准陸尉 准海尉 准空尉 准尉
陸曹長 海曹長 空曹長 曹長
1等陸曹 1等海曹 1等空曹 1曹
2等陸曹 2等海曹 2等空曹 2曹
3等陸曹 3等海曹 3等空曹 3曹
陸士長 海士長 空士長 士長
1等陸士 1等海士 1等空士 1士
2等陸士 2等海士 2等空士 2士
3等陸士 3等海士 3等空士 3士
  • 自衛隊法第32条では漢数字(一等陸佐など)が用いられているが、公用文作成の要領(昭和27年内閣閣甲第16号)第3 書き方について 3. に従い、横書きではアラビア数字(1等陸佐など)で書く。
  • 統合幕僚長たる陸将、海将又は空将は、自衛隊法(第32条)上の階級ではないが、防衛省設置法第21条第2項後段により、自衛官の最上位にあるものとされているので、この表では区別して掲載してある。異なった階級章を着用し、階級の英訳も大将に相当するものが用いられている。
  • 陸上幕僚長、海上幕僚長及び航空幕僚長たる陸将、海将又は空将は、自衛隊法(第32条)上の階級ではないが、異なった階級章を着用し、階級の英訳も大将に相当するものが用いられていることから、この表では区別して掲載してある。
  • それぞれの階級に対応する役職は、表中に記載すると煩雑になるので、それぞれの階級の項目に記載してある。

政府の見解によれば、自衛隊は軍隊又は軍隊に準じるものであることが想定されている。そこで、自衛官の階級分類は一般的な軍隊のそれとの整合性が考慮されている。

自衛官の階級呼称は戦前の旧日本陸海軍のものとは異なっているものの(外国の軍隊の階級呼称は日本語ではなく比較は困難なので言及はしない。)、それに類似したものとなっている。また、「大中少」ではなく「一等・二等・三等」と等級制が用いられている点は、歴史上も旧陸軍の将校相当官や旧海軍の下士官などにも見られた用例であり、日本の軍隊の階級呼称として用例のないものではない。

なお、自衛隊の前身たる保安隊警備隊では、「監・正・士」といった文官、初期の陸軍将校相当官又は1919年大正8年)以前の海軍将校相当官に類似した階級呼称を用いていた。しかし、自衛隊の発足に際しては、「将・佐・尉・曹」といった旧軍の兵科軍人の階級呼称として用いられていたものが使用されることとなった。

一般的に軍隊では少尉以上を士官または将校というが、自衛隊では幹部自衛官と呼称する。また、曹長以下伍長は下士官というが、これは自衛隊では曹に相当している。また、一等兵及び二等兵は兵と総称するが、自衛隊では一士、二士に相当し、士に分類されている(他国軍隊との比較は、軍隊における階級呼称一覧#自衛隊を参照)。

2007年1月3日、時の防衛庁長官久間章生が外遊先のタイバンコクにおいて、2008年度以降、自衛官の階級において、将補と一佐の間に准将の階級を、准尉と曹長の間に上級曹長の階級を定めることを明らかにしている。

入隊時の区分等

2008年(平成20年)3月現在行われている任用区分

自衛官の宣誓

自衛官は、入隊時に以下のような文章の記された宣誓文に署名捺印をする事が義務付けられている。 いかなる理由でもこれを拒否した場合は、入隊することができない。

“私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。”

過去には、公務員の拝命宣誓には当然に存在する(日本国憲法第99条に基づく義務)“日本国憲法及び法令を遵守し”の語句が存在せず、「自衛隊は憲法に従わなくてよいのか」と問題になった。

自衛官の心がまえ

1961年(昭和36年)6月28日に制定された自衛隊における精神教育の準拠[1]。以下の5つの徳目が列挙されている。

  • 使命の自覚
  • 個人の充実
  • 責任の遂行
  • 規律の厳守
  • 団結の強化

自衛官の義務

  • 指定場所に居住する義務 (自衛隊法第55条)
  • 職務遂行の義務 (第56条)
  • 上官の職務上の命令に服従する義務 (第57条)
  • 品位を保つ義務 (第58条)
  • 秘密を守る義務 (第59条)
  • 職務に専念する義務 (第60条)

自衛官の懲戒処分

自衛隊法第46条により、隊員が次の各号のいずれかに該当する場合には免職、降任、停職、減給又は戒告の懲戒処分をすることができる。

  • 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
  • 隊員たるにふさわしくない行為のあつた場合
  • その他この法律若しくは自衛隊員倫理法 (平成十一年法律第百三十号)又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合

なお、これは人事記録上の措置であり、これに至らない軽微なものは所属長の判断により、指導の延長として外出を禁ぜられる等の処置がとられる。一例としては、軽微な交通違反、官品の破損・紛失、職務上のミスなどであるが、あくまで現場の判断による。

問題点

人材不足の問題

自衛官は、慢性的に人材不足である。

若年定年制の問題

一般2士での入隊では、陸自が2年(海自・空自が3年(初任期のみ))1任期として扱う、いわば契約社員である。一旦退職金の支給を受けることもできる(満期金と呼ぶ)。これにより、若年層の隊員を大量に確保することで戦力の維持向上を図るとされる。しかし、近年の少子高齢化の時代においては様々な問題もある。以前は自衛隊の除隊後は再就職も容易であったが、近年は景気の伸び悩みにより再就職先の確保も難しい状態が続いている。

さらに、曹以上のいわゆる職業軍人であっても定年は早く(概ね50代前半)、再就職に関してはこちらの方が事態は深刻である。これまで日本経済は拡大傾向にあったため深刻な問題は生じなかったが、現在は状況が一変している。除隊後、年金の支給まで10年以上待たねばならないためこの間の再就職は必須とも言えるが、自衛隊に寄せられる求人は多くが肉体労働主体である。

メンタルヘルスの問題

特殊な勤務環境とその閉鎖性から、メンタルヘルスは重要な課題である。自衛官の自殺は2004年からは3年連続で年間100人を超え、2007年度は上半期だけで53人が自殺しており、これは一般職国家公務員の自殺者数の2倍強となる。原因は半数以上が「不明」と発表されている。一般に、人は「職場」「地域」「家庭」という三つの要素により人間関係を構成するが、自衛官における人間関係は「職場」のみとなりやすい。外出に許可が必要な営舎内居住では地域コミュニティーへの参加は困難であり、また独身者ならば家庭というものも存在しない。人間関係が上手くいっている状態なら良いが、職場の人間関係のトラブル、いじめ等が生活の全てに影響してしまうために逃げ場がなく、深刻な事態を招く。また、精神的な疾患等で通院し薬を処方された場合「職務遂行に堪えられない」という名目で上司より依願退職するよう勧奨させられる事があり、精神科通院への抵抗感が強いが、部内カウンセラー制度の導入や相談ダイヤルの設置などは行われている。ただし、自衛隊という閉鎖社会からこの制度を利用しても解決出来ないどころか、事態を悪化する事が発生している。部内カウンセラーは教育を受けた自衛官が行う事が多く、その相談が所属部隊に報告され部隊で不利な扱いを受けている事案もある。2003年まで、自衛官の自殺に公務災害が適用されたのは2件となっている。

脚注

  1. ^ 第72回国会衆議院決算委員会第9号(昭和49年4月24日)大西政府委員答弁

関連項目

外部リンク

');