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褥瘡

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褥瘡(じょくそう 英:Bed sore; Pressure sore; Pressure ulcer; 羅:Decubitus ulcer)は、臨床的には、患者が長期にわたり同じ体勢で寝たきり等になった場合、体と支持面(多くはベッド)との接触局所で血行が不全となって、周辺組織に壊死を起こすものをいう。床ずれ(とこずれ)とも呼ばれる。褥創と書かれることもあるが、日本褥瘡学会は、「創」の字が局所的な創傷を表すのに対し「瘡」の字が全身的な病態を表すとして、後者の使用を推奨している。 褥瘡は偶発性(または突発性)褥瘡と尋常性褥瘡に大別して考察される。 前者は健康な個体に一時的な外力が加わって形成されるものとされ、その負荷が除去されれば速やかに治癒が得られるものである。これに対し後者は慢性的に経過し難治であり、そのような治癒遷延をきたすなんらかの要因を持つ患者群に好発・集積する傾向のあるものを言う。 以下で考察するのは、主として後者であるが、その前提として正しい鑑別診断が行なわれていることが、言うまでもないが、必須である。特に、閉塞性動脈硬化症や糖尿病性壊疽に対して誤った加療を始めないことを厳に心すべきである。また稀ではあるが、膠原病等特殊な皮膚疾患の可能性も排除すべきではない。この意味で、在宅シフトが潮流化されている今、一層のいわゆる「メディカル・コントロール」が必要であることを関係各職は銘記すべきと思われる。

 さて、その発生病理であるが、多くは下記好発部位に示すように、人体の生理的な骨性隆起部周辺の皮膚・軟部組織に圧迫・伸張・剪断応力が外力によって生じ、その結果、組織の微小循環が不全となって壊死が起こり、その部の組織欠損・皮膚潰瘍を生じたものである。  この予防のためには、十分な体位変換をすることが重要とされている。最近では褥瘡などの創傷治癒に特化した皮膚・排泄ケア認定看護師が活躍している。また日本褥瘡学会では独自に褥瘡認定師の制度を2007年から発足させている。  高齢の寝たきりの病人には、在宅看護などで比較的起きやすいものと考えられている。疫学的には、高齢長期臥床者の腰部(仙骨尾骨腸骨部)が大多数を占めている。  新生児においては、長時間同じ体勢のまま寝かせておいても生じた報告はないが、未熟児などには発生することもある。

褥瘡の原因

褥瘡の原因としては外的因子と内的因子に大別される。

外的因子

外的因子は、外力に対して組織内部に発生する内力としての応力が主たるものであるが、経済・社会要因にもその遠因は存在することも念頭におくべきである。
身体とベッド等支持面との接触部分にかかる応力は2つに分けて考察される。
  • 組織に垂直に作用する圧力(いわゆる「体圧」)に対して生ずる圧縮応力
  • 組織と支持面の間の摩擦・ずれにより生じる引っ張り応力・剪断応力

内的因子

内的因子は、加齢、低栄養、麻痺乾皮症などの皮膚の状態等多岐にわたるため、患者を全人的に評価する必要がある。

褥瘡の予防

褥瘡は、やむを得ない発生事例もあるとはいえ、予防の余地の大きい疾患であることもまた論を待たない。

  • 褥瘡のケアの基本は、除・減圧(支持面の調整と体位変換)、皮膚面の保湿と保清(清潔)、栄養管理が主体となる。入浴(不能な場合はせめて足浴)は創の有無を問わずおおいに推奨される。また、水出納の管理(脱水予防)も含め、近時では管理栄養士の役割が飛躍的に重要となっている。他に重要な関連職種として、薬剤師、リハビリテーション療法士があげられる。
  • 褥瘡が起こりやすい人を評価し発生の予測を行なう目的で、ブレーデンスケール(米国式)・OHスケール(大浦・堀田による)・K式スケール(金沢大学式褥瘡発生予測尺度)等が用いられている。
  • 体圧分散寝具を使用する。メディカルムートン(羊毛皮)・ウレタンフォーム(単独・複合)マット・エアマット(圧切換型・静止型)・ウォーターマット・高機能寝台(自動体位変換)などがある。この分野での基礎・応用において工学者の貢献は特筆すべきものがあり、褥瘡の発生病理の理解が急速に進んだ原動力の一翼と言って過言ではない。
  • 定期的に十分な体位変換を行う。2時間ごとが基本とされるが、最近では上記の体圧分散寝具を使用した上で、4時間あるいはそれ以上の間隔で行なわれる場合もある。

褥瘡の好発部位

  • 仰臥位で生じる褥瘡:後頭部、肩甲骨部、肋骨角部、脊柱棘突起部、仙尾・仙腸部、踵骨
  • 側臥位で生じる褥瘡:側頭部、耳介、肩峰部、肩甲骨部、肋骨角部、腸骨稜部、大転子部、腓骨頭部、内・外踝部
  • 座位・車椅子などで生じる褥瘡:尾骨部、坐骨部

褥瘡の評価

一般にDESIGN(デザイン)分類が使われる。この分類は、定性的な重症度評価のための尺度(D:深さ・E:浸出液の多寡・S:大きさ・I:感染の有無・G:肉芽組織の性状・N:壊死組織の有無 に加えて、P:ポケットの有無の6項目で評価するもの)と上記6項目に半定量的に評点を付加する経過評価用尺度の2者で構成されている。詳細は褥瘡学会HPを参照されたい。

褥瘡の進行度による分類と治療

褥瘡の進行度による分類

多くの実地医家では深達度のみによる分類法であるNPUAP病期(ステージ)分類かShea氏分類(グレード)が使用されている。この2者は共に米国製で、4段階(Sheaは本来は5段階)の尺度であるが、原著ではその意味が少なからず異なるので注意を要する。一般的に治療に関してはShea分類が、予防に関してはNPUAP分類が用いられる事が多い。以下に示すのはNPUAP分類によるものである。

治療は創の状態により外用薬と被覆材(ドレッシング)による保存的治療や外科手術が主として行われる。 乾燥は創治癒を阻害する。そのため病変部は毎日洗浄し、フィルムなどを使い湿潤を保つ。詳しくは湿潤療法を参照のこと。


I度

傷害が表皮にとどまっている状態。局所の発赤(紅斑)、表皮剥離(びらん)である。

治療
  • 上記ケアの基本による炎症除去と皮膚局所の血行改善に努める。
  • 炎症除去にはステロイド外用剤が使われることもある。
  • 血行改善といっても、褥瘡部位の組織・血管は脆弱化していると考えねばならず、創局所のマッサージやドライヤー等による加熱・乾燥は禁忌である。
  • 表皮にびらん・潰瘍が生じた場合には、創の乾燥を防ぎ湿潤環境を保持すること(moist wound healing)が創治癒の基本である。この目的のためには、創傷被覆材による創面保護が一般的に第一選択である。亜鉛華単軟膏、スルファジアジアジン銀軟膏、アズレン軟膏などが用いられることもある。

II度

傷害が真皮に及び、真皮までの皮膚欠損(=皮膚潰瘍)が生じている状態。水疱が形成されることもあり、壊死組織の付着や細菌感染が生じやすい。

治療
  • 水疱は疱蓋のむやみな破壊を避けるのが原則であるが、実際には臥床生活の中で自然に破壊されてしまうことがしばしばである。このため清潔に小孔を開け水疱液を排出(穿刺)することも考慮してよい。
  • 創はまず洗浄を定期的に(毎日)行なう必要がある。洗浄は、創周囲をむしろ主に、薬用石鹸等を使用して愛護的に行ない、生理食塩水や水道水などでよくすすぐようにする。
  • 皮膚潰瘍内に壊死組織がある場合には壊死組織の除去が必要である。壊死組織の除去には、綿球やガーゼを用いて水洗したり、外科的切除(デブリードマン)やタンパク質分解酵素の軟膏処置などが行なわれる。
  • 創に感染がある場合には、消毒を行うことがある。消毒にはポビドンヨードや、グルコン酸クロルヘキシジンなどが用いられるが、細菌感染がなければ消毒の必要はない。感染による発熱などの全身症状には抗生剤等の治療を行う。
  • 肉芽形成・上皮化促進のため外用剤が使用される。ただし、感染や壊死組織がある場合はその治療を優先させる。
  • 創面の保護・治癒促進のためにポリウレタンフィルムなどが用いられる。
  • 湿潤療法も行われる。ただし、感染や壊死組織がある場合にはその管理を優先させる。

III度

皮下組織に達する欠損が生じている状態。

治療
  • II度と同様の治療を行う。
  • 損傷部位がポケット状になっている場合には、可及的早期に皮膚切開(ポケット開放)や外科手術を行う。感染があり膿貯留が見られる場合は十分な排膿を行なう。


IV度

筋肉まで損傷された状態。骨が壊死して腐骨(ふこつ)となったり、骨髄炎や敗血症を併発することもある。

治療
  • 壊死した筋等の軟部組織や腐骨となった部分は可及的に切除(デブリードマン)する。
  • III度に準じる。すでに全身状態が悪い場合はデブリードマンや創閉鎖術の適応とならないことも多い。そのような場合は、患者の安楽を旨として外用薬等による保存的治療を主体とすることを考慮すべきである。

関連項目

参考文献

外部リンク


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