歩行補助車
歩行補助車(ほこうほじょしゃ)とは、主に高齢者その他運動能力が少し低下した個人の移動の補助などに使われる車およびこれに類する車の総称である。
分類
本来の意味としては、高齢者その他運動能力が少し低下した者の移動の補助などに使われる。なお、定義、分類が曖昧な呼称としてはいわゆる「歩行車」「老人車」と呼ばれる事がある。
- シルバーカー - 高齢者向けの手押し車であって、荷物の運搬を主眼とするもの。歩行補助の目的ではなく体重を掛ける設計になっていない。介護保険の対象外。
- 四輪歩行器(四輪歩行車) - 高齢者向けの手押し車であって、歩行の補助を主眼とするもの。歩行器ほどでは無いがある程度体重を掛けられる設計になっている。介護保険の対象。
- 歩行器 - 乳幼児用、リハビリ用、介護用などの医療用具類。
道路交通法
日本の道路交通法においては、前述の本来の意味の歩行補助車両をも含めて「歩行補助車等」として、以下の定義に該当し一定の基準を満たす車は、一括して歩行者と同じ扱いを受ける。また、運転免許は不要である。
定義(令和元年改正法)
道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)[1]改正施行後の定義は、次の1または2のいずれかに該当するものとなる[2][3][4]。
- 1 歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カート
- 2 レール又は架線によらないで通行させる車であって、次のイおよびロのいずれにも該当するもの[注 1]
2のロの「普通自転車の乗車装置(幼児用座席を除く)を使用することができないようにした車」については、乳幼児が一緒に乗車可の自転車とベビーカーとの間で構造的転換が可能な特種車(Taga Bike-Strollerなど)を想定していると考えられる。ただし、多くのそのような特種車で、幅60cmを超えていることが多いため、幅60cm以上の特種車は、2のロの基準には該当しない。ただし、後述のとおり、一般的な乳幼児用の手押し車、乳母車の形状およびサイズであれば、明文で規定はないが「歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カート」と扱われる可能性がある。
2のロの「その他の車」については、車の要件が特定されていないことから、例えば(長さ190cm以下、幅60cm以下の)比較的小型な台車も、「歩行補助車等」として扱われる可能性がある。
電動のもの
前項に該当する車のうち、原動機として電動機(モーター)を用いるものは、次の1または2のいずれかに該当するものであって、かつ、次の構造要件を満たす場合に「歩行補助車等」の扱いを受ける[2][3][4]。
- 1 歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カートであって、次の各号のいずれにも該当するもの
- 長さ 120cm
- 幅 70cm
- 高さ 120cm
- ただし、特定の経路を通行させることその他の特定の方法により通行させる小児用の車(通行させる者が乗車することができないものに限る。)で、当該方法が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものであることにつきその通行の場所を管轄する警察署長などの確認を受けたものについては、長さ・幅・高さの制限は解除される(後述の構造要件はそのまま)。
- 2 レール又は架線によらないで通行させる車であって、前述(動力無しの場合)の、2のイ、2のロのいずれをも満たす車[注 2][注 1]
(構造要件)
- 車体の構造は、次のいずれにも該当すること(構造要件)
- 原動機は電動機(エンジンは不可)
- 六キロメートル毎時を超える速度を出すことができない
- 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がない
- 車を通行させている者が当該車から離れた場合には、原動機が停止する
なお電動アシスト自転車とは異なり、法改正前後を通じて、単に電動駆動であれば良いため、フル電動、電動アシストのいずれの方式でも良い。
旧定義
改正前の道路交通法上の「歩行補助車等」の定義は次の通りであった。
- 「歩行補助車及びショッピング・カート(これらの車で原動機を用いるものにあつては、内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)」[7]
原動機を用いるもの(旧定義)
改正前は、原動機を用いるものについては次の「内閣府令で定める基準」[8]を満たす必要があった。なお、満たさないものは原動機付自転車などの扱いとなった。
- 車体の大きさは、次に掲げる長さ、幅及び高さを超えないこと。
- 長さ 120cm
- 幅 70cm
- 高さ 109cm
- 車体の構造は、次に掲げるものであること。
- 原動機として、電動機を用いること。(エンジンは不可)
- 六キロメートル毎時を超える速度を出すことができないこと。
- 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
- 歩行補助車等を通行させている者が当該車から離れた場合には、原動機が停止すること。
具体例
「歩行補助車」そのものの定義は法令にはないため解釈に依存する。ただし改正法では小児用の車が「歩行補助車等」に加えられて明記されるなどの変更があった[5][6]。なお、以下のいずれの物も、電動のものは、前述のとおり一定の基準を満たすものに限られる[注 3]。
(以下は歩行補助車等のガイドライン的な列挙であり、以下を「歩行補助車等の定義および要件」と解釈してはならない。)
- 高齢者等用の歩行補助車
- 歩行器 - 明文で規定はないが「身体障害者用の車並びに歩行補助車、小児用の車」と扱われる可能性がある。
- 一般的な乳幼児用の手押し車、乳母車、ベビーカー - 明文で規定はないが「身体障害者用の車並びに歩行補助車、小児用の車」と扱われる可能性がある[注 4]。
- 大型乳母車、お散歩カー、避難車 - これも明文で規定はないが「身体障害者用の車並びに歩行補助車、小児用の車」と扱われる可能性がある[注 5]。
- ショッピングカート - 買い物用の台車。
- キャリーカート - 買い物以外の空港などにおける手荷物用の台車で、ショッピングカートに類するもの。また、車輪が付いた小型の荷物運搬用のシャシで、搬送台車とは言えないものも含む。
- トロリーバッグ、トロリーケース
なお、電動のものは、以上に列挙したものや、後述する台車なども含めて、これらは全て、前述の規定から、速度が6km/h以下となる。また、これらは手押し・手引きでなければならないとする要件は無いが、通行させる者の歩行速度も、要件上6km/h以下となる。
台車など
(以下は歩行補助車等のガイドライン的な列挙であり、以下を「歩行補助車等の定義および要件」と解釈してはならない。)
法改正前は、原則として一律に軽車両として扱われていた台車[注 6][注 7]であるが、改正施行後は、前述(動力無しの場合)の、2のイ、2のロの規定により、例えば長さ190cm以下、幅60cm以下の比較的小型で動力無しの台車も、「歩行補助車等」として扱われる可能性がある。
よって、以下の運用が想定される。
- 台車であって、一般的なショッピングカート、キャリーカート、トロリーバッグやトロリーケースのいずれにも該当しないもの
- 長さ190cm以下、幅60cm以下の要件を満たせば、電動または動力無しのどちらでも、「歩行補助車等」として扱われる可能性がある
- 長さ190cmまたは幅60cmを1mmでも超える場合は、動力無しのものは軽車両、動力有りのものは自動車等[注 8]として扱われる。
- 一般的なショッピングカート、キャリーカート、トロリーバッグやトロリーケース
要件を満たさない車
以上の「歩行補助車等」の要件を満たさない車両については、原則として、適宜、軽車両、原動機付自転車または自動車に該当する事となる。
身体障害者用の車
道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)以前は「身体障害者用の車いす」と言う規定の文言であったが、同法改正後は「身体障害者用の車」と、文言の表現の変更があった。
車椅子は通例、歩行などに困難を伴う身体障害者が利用する事が前提であり、その延長線上で、歩行が不自由な高齢者等が利用する事が前提である「シニアカー」も「身体障害者用の車いす」と言う扱いにおいて、最高速度6km/hのほか各条件を満たす電動のシニアカーも歩行者扱いとなっていた経緯がある。
なお、身体障害者または高齢者等が利用する事が前提となっていない移動用小型車についても、最高速度6km/hのほか各条件を満たす電動のものが歩行者扱いとなるように改正された。
脚注
注釈
- ^ a b 文理上、「歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カート」である場合は、この2.号は適用できない。しかし、法令上「歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カート」に明確な定義がない以上は、『一般的に「歩行補助車、小児用の車及びショッピング・カート」であると評価できる車』でない限り、この2.号を適用可能と推定できる。
- ^ この2.の場合、寸法要件は「長さ 190cm以下、幅 60cm以下」だけが適用され、「長さ 120cm以下、幅 70cm以下、高さ 120cm以下」の寸法要件は適用されないことに注意。
- ^ なお改正前は、「小児用の車」には分類されず台車(改正前後を通じて軽車両)として扱われる余地があったうえに、「小児用の車」も「歩行補助車等」としての位置づけが明確でなかった。
- ^ 改正前は、法令上、高齢者用には限定されておらず、また、小児用の車(ただし電動のものは原動機付自転車など)に分類される余地もあった。
- ^ 改正前は、法令上、軽車両(電動のものは原動機付自転車など)に分類される余地もあった。
- ^ ただし、台車であっても、一般的なショッピングカート、キャリーカート、トロリーバッグやトロリーケースに該当するものについては、法律の厳密な定義はともかく、道路交通法の軽車両として扱われる事は少なくとも一般的ではなかった。
- ^ つまり、一般的なショッピングカート、キャリーカート、トロリーバッグやトロリーケースを道路交通法の軽車両として扱ったと言う刑事訴訟法の警察や検察による刑事捜査の運用や裁判所の決定、判例の記録が発見されない限り、運用上は軽車両として扱われなかったこととなる。
- ^ a b 小型特殊自動車を含む自動車、または原動機付自転車
出典
- ^ “法律|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月29日閲覧。
- ^ a b 令和元年法律第20号改正(以下、単に「改正」と言う)後の道路交通法第2条各号、道路交通法施行令第1条、道路交通法施行規則第1条各項
- ^ a b “政令|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月30日閲覧。
- ^ a b “府令|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月30日閲覧。
- ^ a b https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000190596 p.9
- ^ a b https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/291030/7.pdf
- ^ (改正前道路交通法第2条第1項第9号)
- ^ (改正前道路交通法施行規則第1条)
関連項目
外部リンク
- ^ “第4回専門チーム会合 議事次第 : 規制改革 - 内閣府”. www8.cao.go.jp. 2020年1月31日閲覧。