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米国政府は,全地球航法衛星システムを A Global Navigation Satellite System of Sysmtems とよび、GNSSのうち、全地球を利用可能範囲とする衛星系を「全球衛星系」(Global Constellation)、特定地域向けの衛星系を「地域衛星系」(Regional Constellation)、衛星を用いて航法を補強するシステムを「衛星型補強系」(Satellite-Based Augmentation)とよんでいる。 |
米国政府は,全地球航法衛星システムを A Global Navigation Satellite System of Sysmtems とよび、GNSSのうち、全地球を利用可能範囲とする衛星系を「全球衛星系」(Global Constellation)、特定地域向けの衛星系を「地域衛星系」(Regional Constellation)、衛星を用いて航法を補強するシステムを「衛星型補強系」(Satellite-Based Augmentation)とよんでいる。 |
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GNSSがGPS・GLONASS・Galileo・BDSの4つをいい、特定地域向けのシステムを「地域航法衛星システム」(RNSS) とい |
GNSSがGPS・GLONASS・Galileo・BDSの4つをいい、特定地域向けのシステムを「地域航法衛星システム」(RNSS) とよんでいることがあるが、これでは論理的にいって「日本の準天頂衛星システムは、GNSS ではない」ことになる。準天頂衛星システムを RNSS と呼ぶことにより、多くの国際文書において、SBAS よりも下におかれている事態を生んでいる。多くの国が、SBASの計画を発表しており、その下となるため、ロングリストの下位におかれる状況がある。日本国内の多くのサイトや技術資料においても、準天頂衛星システムを RNSS と記載しているものがあるが、望ましくないため、早期に修正する必要がある。 |
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また、RNSS (地域航法衛星システム) という用語は、日本にとってマイナスであるだけではなく、国際標準上の矛盾を生じさせている。ITU の国際標準において、RNSS は RadioNavigation Satellite System と規定されている。また、航空分野も ICAO 条約に基づき、SBAS は GNSS の一部と位置づけられているので、ここにも、矛盾が生じている。 |
また、RNSS (地域航法衛星システム) という用語は、日本にとってマイナスであるだけではなく、国際標準上の矛盾を生じさせている。ITU の国際標準において、RNSS は RadioNavigation Satellite System と規定されている。また、航空分野も ICAO 条約に基づき、SBAS は GNSS の一部と位置づけられているので、ここにも、矛盾が生じている。 |
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インドの測位衛星システムは、Indian Regional Navigation Satellite System (IRNSS) という名称だったが、これをやめて、Navigation with Indian Constellation (NavIC) に変更した。すなわち |
インドの測位衛星システムは、Indian Regional Navigation Satellite System (IRNSS) という名称だったが、これをやめて、Navigation with Indian Constellation (NavIC) に変更した。すなわち「インドの RNSS」 と呼んでいたのを「インドの Constellation」に修正した。 |
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2018年7月12日 (木) 20:00時点における版
衛星測位システム (えいせいそくいシステム)(英語:Satellite positioning, navigation and timing system) とは、人工衛星から発射される電波信号を用いて行う位置計測・航法・調時のシステムをいう。衛星測位システムは、いずれも地上に設置された基準点に基づいて,位置を計測している。この場合、位置とは地球上の位置をいう。しばしば「基準点の必要のない衛星測位システム」との記述が見られるが、これは測位利用者が用意することはないという意味であって、システム全体としてみた場合は必ず基準点は存在しており、原理的にいって例外はない。基準点は、政府や公共機関が運営していることも少なくない。
海外では、軍用や海空交通の用途から、衛星航法システムということも多い。衛星航法とは、複数の航法衛星(人工衛星の一種)が航法信号を地上の不特定多数に向けて電波送信(放送)し、それを受信する受信機を用いる方式の航法(自己の位置や進路を知る仕組み・方法)を指す。システムは航法衛星群とそれらを管制する幾つかの地上局から構成される。
これに対して、日本では地理空間情報活用推進基本法に定義された「衛星測位」の用語を使って、「衛星測位システム」と呼ぶことが多い[注 1][注 2]。
衛星航法システムの草分けは軍用のトランシット (人工衛星) である。現在の身近な用途はカーナビゲーション、歩行ナビゲーションであるが、他にも船舶や航空機の航法支援、建築・土木では測量やICTブルドーザーの制御などに用いられている。
衛星航法システムの構築と保有は、財政的に比較的余裕のある工業国にとって、長期的な安全保障と社会の利便性向上の観点から重要政策と位置づけされることがある。それは電波航法が主流であったときから続く一般論である。
名称
名称(一般的名称)
衛星航法のシステムを指す公式な用語としては、英語圏と日本ともに、「航法衛星システム」"navigation satellite system(s)" (NSS) が用いられる。その衛星を「航法衛星」"navigation satellite" と呼ぶ。一般の間では「衛星航法システム」"satellite navigation system(s)" も多く使用される。
ただし日本では「衛星測位システム」と呼ばれることも多い。また「航法衛星」を「測位衛星」と呼ぶことも多い。
名称(全地球型)
英語圏と日本ともに,「全地球航法衛星システム」または「汎地球航法衛星システム」"Global Navigation Satellite System(s)" (GNSS) という用語が用いられる。国土地理院が定める公共測量に係る作業規程の準則においては、従来の「GPS測量」の用語に代えて、2011年4月からは「GNSS測量」の用語を使用するように改訂された[1][2]。
- 誤用ではあるが、一般の航法衛星システム (NSS) を指して「GPS」と呼び、一般の航法衛星を指して「GPS衛星」と呼ぶ例が見られる。
分類
対象範囲による分類
米国政府は,全地球航法衛星システムを A Global Navigation Satellite System of Sysmtems とよび、GNSSのうち、全地球を利用可能範囲とする衛星系を「全球衛星系」(Global Constellation)、特定地域向けの衛星系を「地域衛星系」(Regional Constellation)、衛星を用いて航法を補強するシステムを「衛星型補強系」(Satellite-Based Augmentation)とよんでいる。
GNSSがGPS・GLONASS・Galileo・BDSの4つをいい、特定地域向けのシステムを「地域航法衛星システム」(RNSS) とよんでいることがあるが、これでは論理的にいって「日本の準天頂衛星システムは、GNSS ではない」ことになる。準天頂衛星システムを RNSS と呼ぶことにより、多くの国際文書において、SBAS よりも下におかれている事態を生んでいる。多くの国が、SBASの計画を発表しており、その下となるため、ロングリストの下位におかれる状況がある。日本国内の多くのサイトや技術資料においても、準天頂衛星システムを RNSS と記載しているものがあるが、望ましくないため、早期に修正する必要がある。
また、RNSS (地域航法衛星システム) という用語は、日本にとってマイナスであるだけではなく、国際標準上の矛盾を生じさせている。ITU の国際標準において、RNSS は RadioNavigation Satellite System と規定されている。また、航空分野も ICAO 条約に基づき、SBAS は GNSS の一部と位置づけられているので、ここにも、矛盾が生じている。
インドの測位衛星システムは、Indian Regional Navigation Satellite System (IRNSS) という名称だったが、これをやめて、Navigation with Indian Constellation (NavIC) に変更した。すなわち「インドの RNSS」 と呼んでいたのを「インドの Constellation」に修正した。
軌道による分類
全地球的システムでは、中地球軌道すなわち地上高度2万 km前後の赤道面に対して55度から65度ほどの傾斜を持ったほぼ円形の3つや6つなどの軌道状に等間隔になるよう衛星が配置されている[注 3]。特定地域向けのシステムでは、赤道を中心とする8の字状の軌道が構想されている[3]。
機能
代表的な機能は、衛星航法システムの電波を受信することで地表面上や空中で自らの位置を知ることであるが、それ以外にも幾つかの機能が実現できる[3]。
一般的な機能
- 位置決定
- 即時位置決定(航法)
- 高精度位置決定(測量)
- 速度決定(航法)
- 姿勢決定(航法)
- 時刻同期[3]
特殊な機能・利用法
すべての衛星航法システムに備わっているのではないが、以下のような特殊な機能を持つシステムがある。
システム構成
利用者受信機
- 利用者受信機は、複数の航法衛星から電波で送信された航法信号を受信し、その送信時刻を測定する[注 4]。送信時刻の測定は、擬似ランダム雑音 (Pseudo Random Noise; PRN) 変調信号の特性を用いて行う。
- 受信機内での測位計算
- 送信時刻の測定値はおよそ10 nsもしくはそれ以上の誤差を持つ[注 5]。
- また航法衛星の天体暦(軌道)の情報を受信し[注 6]、これにより送信時刻における航法衛星の座標が求められる(これの誤差は視線方向成分がほぼ1.5m以下)。
- 最終的に、利用者受信機の座標及び受信時刻(合わせて4つの未知変数:)の解は、慣性系を仮定し、各航法衛星の時空点座標を頂点とする光円錐(4つ以上が必要)の交点となる[4]。
- 言いかえれば次の連立方程式の解となる。ここでは用いる航法衛星数を4機とし、航法衛星の信号送信時刻、その座標、光速としている。
-
光円錐と交点。縦軸が時間軸。空間は2次元で示されている。
航法衛星
- 地上で測位が可能とするためには、可視衛星(空中の見通せる範囲内の航法衛星)を4機以上必要とする。さらには、良好な測位精度を得るには、精度阻害の少ない可視衛星を4機以上必要とする。加えて測位精度は複数の可視衛星の見通し方向にも依存し、静止軌道のように赤道上に一直線に並んでいては良好な測位は行えず、できる限り互いに離れた位置関係が望ましい。このような要求を満たすために、全地球規模の測位を行うシステムでは合計20機以上の航法衛星を3つや4つの地上2万キロ程の軌道上に等間隔で配置されることが多いが、特定地域向けの測位用では1つの軌道上に数機だけのシステムも計画中として存在する。
- 航法衛星は原子時計を搭載し短中期的な時間揺らぎの少ない航法信号を生成し送信することができる。原子時計の中長期的ずれ(バイアス誤差)については、予測情報(およそ2時間毎に更新)として利用者へ伝え、利用者側で誤差の除去を行う。
地上局/地上施設
- 航法衛星を管制する地上局が1つ以上必要であり、全地球規模のシステムでは関連する地上施設等を合わせると10ヶ所前後の地上局を持つ。航法衛星の軌道を管理する施設の他に、衛星軌道を正確に測距する施設、基準となる時系を保持する施設、電離層監視施設、航法衛星の天体暦及び搭載する原子時計の中長期的バイアスの予測値を決定する施設、衛星へのメッセージ通信施設、そしてシステム全体を運用管理する施設が必要となり、これらのいくつかの施設は統合されていることが多い[3]。
システム例
全球衛星系
複合的なシステムも含む。
各システムの現状については各項目を参照のこと。
GPS
アメリカ合衆国のグローバル・ポジショニング・システム (GPS) は、最大32機の6種類の異なる軌道平面の中地球軌道衛星によって構成される。1978年から運用され、1994年に全地球上で常時使用できるようになった。GPS衛星は、現在世界中で最も普及している衛星航法システムである。
ガリレオ
米国依存からの脱却のため、当時のヨーロッパ共同体とヨーロッパ宇宙機関は、2002年3月にガリレオと呼ばれる独自の全地球航法衛星システムを導入する事で合意した。当初、中華人民共和国も計画に参加している(後に離脱)。当初の予定では24億ポンドで[5]30機の中地球軌道の衛星によって2010年から運用する予定とされた。GPSと共存性・相互運用性が確保される見込みである。
その後財源や事業体制[注 7]などの課題により運用開始は2012年の予定になった。最初の実験衛星ジオベ衛星は、ロシアのソユーズロケットを用いて2005年12月28日に打ち上げられた。2016年12月25日、ようやく全地球サービス開始にこぎつけたと日本では報道された[6]。
GLONASS
旧ソ連は米国との対抗上、GPSと同様のGLONASS(グロナス)を構築しようとしたが必要な衛星を全て打上げる前にソ連が崩壊してしまい、予算の縮小から衛星打ち上げが頓挫。一部の地域で部分的に運用されていた[注 8]。ロシアになってから計画が再開され、2005年には再開後初の衛星を打ち上げ、2010年9月までに24基の衛星を打ち上げ、GLONASSは復旧した(24機中24機が運用中である。)。2011年には全世界で測位可能となり、現在は測位精度を高めるためにGLONASSとGPSを併用する受信機が登場している(GLONASS#受信機も参照のこと)。
北斗系統
中国は、北斗系統 と呼ばれる地域衛星系を拡張することで、2020年までに全地球規模で測位できるようにする[7]。計画はBeiDou navigation System (BDS) と中国の公式の報道機関である新華社で呼ばれる。BDS は30機の中地球軌道の衛星と5機の静止衛星から構成される。
全球衛星系の比較
システム | 国 | 信号方式 | 軌道 遠地点と近地点 | 衛星数 | 周波数 | 状態 |
---|---|---|---|---|---|---|
GPS | アメリカ | CDMA | 20,200 km, 12.0h | ≥ 24機 | 1.57542 GHz(L1信号) 1.2276 GHz(L2信号) |
運用中 |
GLONASS | ロシア | FDMA/CDMA | 19,100 km, 11.3h | 24機(CDMA対応機を打ち上げた場合は30機) | 約 1.602 GHz (SP) 約 1.246 GHz (SP) |
再構築後運用中 CDMAは準備中 |
Galileo | ヨーロッパ共同体 | CDMA | 23,222 km, 14.1h | 2機の試験機が周回中 22機の衛星の運用予算が認可 |
1.164-1.215 GHz (E5a and E5b) 1.215-1.300 GHz (E6) 1.559-1.592 GHz (E2-L1-E11) |
準備中 |
BDS | 中国 | CDMA | 21,150 km, 12.6h | 35機[8] | B1: 1,561098 GHz B1-2: 1.589742 GHz B2: 1.207.14 GHz B3: 1.26852 GHz |
15機運用中、20機追加予定 |
地域衛星系
- 準天頂衛星システム - 日本
- インドの計画 インド地域航法衛星システム(NavIC)
北斗 1
中国の地域航法衛星システムで全地球規模のCompass ナビゲーションシステムへ拡張中。
DORIS
Doppler Orbitography and Radio-positioning Integrated by Satellite (DORIS) はフランスの衛星測位システムである[9]。
NavIC
NavIC : Navigation with Indian Constellation はインド政府の下でインド宇宙研究機関によって現在開発が進められている衛星航法システムである。2006年5月に政府は計画を承認して2014年に完成して運用を始める予定である[10]。7機の航法衛星から構成される[11]。7機の衛星は全て静止軌道から地域の地図情報を送信する。天候に関わらず7.6m以上の精度でインドとその周辺のおよそ1,500 kmの地域を網羅する[12]。最終目標はインド全域で端末も全てインド製になる予定である[13]。
QZSS
日本には、3基の人工衛星からなりGPSの位置情報を補正して高精度の測位を可能とする準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System, QZSS)と呼ばれる計画がある。すでに事業化を検討する民間の主体として、新衛星ビジネス株式会社が2002年(平成14年)に設立されており、高速で移動する車輛の内部で精度25cmとされる測位精度を用いた各種事業が検討されていた。
最初の人工衛星は、2008年(平成20年)に打ち上げられる予定であった。予算の都合で、通信・放送との複合機能衛星となっており、それらのサービスのシナジー効果が期待されていたが、採算性の面から2006年(平成18年)3月に放送・通信の事業化が断念され、純粋な測位衛星として利用されることになった(新衛星ビジネス株式会社は2007年8月2日に解散し、財団法人衛星測位利用促進センターが、測位分野のみ継続)。
ちなみに日本では2005年(平成17年)、第44回衆議院議員総選挙の自由民主党マニフェストである「政権公約2005」の52項目に「国家基盤としての衛星測位の確立と骨格的空間情報の整備」との記載があり、日本独自の高精度な位置測定衛星を打ち上げる可能性があった。
日本ではその後、内閣官房に測位・地理情報システム等推進会議が設置され、2006年(平成18年)3月には「準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針」を発表した。それによると、国家が衛星測位の重要性を認識し、民間の資金負担がないとしても、国家が衛星測位システムを整備することを宣言している。
2010年(平成22年)9月11日に、準天頂衛星の実用試験機として初号機みちびき (QZS-1)「みちびき」が打ち上げられた。2013年に運用が開始され、2016年現在は1機体制でL1-SAIF信号を送出しており、高精度なSBAS(衛星航法補強システム)的利用が可能である。今後、2017年に衛星3機が追加で打ち上げられ、2018年に4機体制でシステムを運用開始し、さらに2020年に初号機の後継1機と2023年に衛星3機を追加して7機体制で運用することが決定された[14][15]。
衛星航法補強システム
航空機での精度向上を当初目的として、衛星航法補強システム (SBAS: Satellite Based Augmentation System) が運用されている。
また、以下の地球的地域においてSBASが計画されている。[16]
この節の加筆が望まれています。 |
技術
航法信号
衛星側から利用者側への情報の流れは、2010年現在の航法衛星システムのすべてが、一方向の電波によるダウンリンクのみで実現されている。航法信号は、衛星メッセージとコードの2つを重ねて多重化したデジタルデータで搬送波を変調して生成される。このデジタルデータは衛星時刻と高度に同期している。
- 衛星メッセージ(データ層)
- 送信時刻や衛星軌道情報などが含まれる。
- コード(コード層)
- 周期的に変調されたコードを受信側が航法信号から分別することによって、伝播時間の測定が行われる。
- 搬送波(基層)
- 搬送波はC, S, Lのバンドが使用される[注 9]。Cバンドがアップリンクに使用され、SバンドとLバンドが利用者への航法信号の搬送波に使用されているが、将来、Cバンドを航法信号への使用することも考えられている。
衛星メッセージはコードを排他的論理和 (Exclusive-Or) によって変調することで両者は多重化される。この多重化されたコードを元に搬送波がスペクトル拡散による変調を受けて送信すべき航法信号が生成される。
- PRNによるコード生成
一般にはコードは擬似ランダム雑音 (Pseudo Random Noise; PRN) を使って生成される。擬似ランダム系列の信号は、開始位置の時刻を定めておけば、復調時にその生成時刻を知ることができる。
原子時計
航法衛星は航法信号生成の基準として原子時計を搭載している。航法衛星搭載の原子時計には、時計バイアスの短中期的変動予測が規定誤差内に収まる品質が求められ、宇宙空間で長期に亘る稼働を続ける信頼度が求められる。
一般に航法衛星には複数個の原子時計を搭載し、そのうちの一つを動作させるが、寿命等による信頼度低下が地上局での監視により限界を超えると判断された場合は停止させ、残りの原子時計の一つへ動作切り替えを行う。搭載している全ての原子時計が劣化した場合には、その航法衛星は退役とする。
米国のGPSでは衛星搭載原子時計の高い技術と運用実績を持ち、寿命限界の近くまで原子時計を動作させることも行われている反面、予期せず急速に劣化する事象への対処が遅れ、利用者への通知が遅れるトラブルも発生している。
ディファレンシャル測位
ディファレンシャル測位もしくはディファレンシャルGNSS (DGNSS) と呼ばれる。各衛星からの航法信号送信時刻に関わる精度阻害の程度のうち、系統誤差に分類される要因(衛星の天体暦と原子時計の誤差及び大気遅延)によるものを合わせた寄与(和)はおよそ1から7mに相当する範囲にある。これを補正情報として利用者へ伝送すれば、測位計算の際に系統誤差だけは相殺でき正確な測位に近づけることができる。補正情報は、位置情報が既知である地上に固定された基準局受信機における各衛星の測定値を用いてほぼ実時間的に生成し利用者へ伝送する。陸域では誤差が1cm以下の高精度補正情報を基準局網から生成することが日本国内では既に行われている。なおランダム誤差については補正情報(ディファレンシャル測位)によっては除去できない。
誤差要因
測位の精度阻害の程度は、各阻害要因からの誤差の総和で決まってくる。誤差の統計的性質は系統誤差とランダム誤差とに分類される。ここでは単独測位の場合の各誤差要因を取り上げる。
衛星クロック誤差
信号基準である衛星クロックの時刻ずれ(バイアス)は、その中長期的変動値の情報が航法衛星から送信され、利用者側で補正計算を施す。しかし、このバイアス補正値には多少の誤差が含まれ、また短期的変動については補正されない。最終的には、ほぼ確実に5 ns(距離に換算して1.5 m)以内にバイアスは補正される。
衛星軌道誤差
航法衛星から送信される、その天体暦(軌道座標)の情報には、多少の誤差が含まれる。これの誤差は視線方向成分がほぼ1.5m以下となる。
電離圏遅延誤差
大気の屈折率は大気中を伝播する衛星電波信号の伝播遅延を生じ、これを大気遅延と呼んでいる。衛星航法システムではおおよその推定値を利用者へ伝送し、利用者はこれを用いて大気遅延の影響を取り除く測位計算の処理をおこなう。また大気遅延の大きさは衛星視線方向が低仰角になるほど増大するが、この遅延量は通常は、天頂方向遅延に仰角依存性係数(傾斜係数)を乗じた形を用いてモデル化される。大気遅延の推定誤差は測位座標へ誤差を生じさせる。
この大気の屈折率を決める大きい要因は、大気を構成する気体中の電離電子の量である総電子数 (total electron content, TEC) であり、電離電子は主に電離圏及びプラズマ圏に存在する。電離電子に起因する伝播遅延を指して習慣上、電離圏遅延と呼んでいる(天頂方向ではおよそ2mから20mに相当する遅延となる)。TECは太陽黒点活動、季節変化、日変化、高度と位置による変化があり、これを高精度に推定することは容易ではない[注 10]。GPSで利用者へ伝送される電離圏天頂遅延値の推測値に含まれる誤差は距離に換算しておおよそ1.5 m以下であるが、これを超えることもある。電離圏遅延の傾斜係数は仰角30度ではおよそ1.7、仰角20度ではおよそ2.1の値となる。
対流圏遅延誤差
中性大気とは大気中の電離電子を排除して考えた大気成分を言い、主に対流圏及び成層圏に存在する。この中性大気成分も屈折率を生ずる。中性大気に起因する衛星電波信号の伝播遅延を指して習慣上、対流圏遅延と呼んでいる(天頂方向ではおよそ2mに相当する伝播遅延となる)。
中性大気はさらに気体としての水(水蒸気)とそれ以外の気体成分とへ二分でき、湿潤成分及び乾燥成分と呼ばれる[注 11]。対流圏遅延のうち湿潤成分による伝播遅延はおよそ10%以下であり(湿度:水蒸気分圧の寄与)、すなわち天頂方向遅延は0mから0.2mの範囲にある(したがって±0.1mの誤差)。利用者受信機においては乾燥成分に比べ湿潤成分の屈折率を高精度に推定することは容易ではなく、測位座標へ誤差を生じさせる[注 12]。これらの対流圏遅延の傾斜係数は仰角30度ではおよそ2.0、仰角20度ではおよそ2.9の値となる。
マルチパス
航法信号は衛星のアンテナから受信機のアンテナまで直接到達することを前提に衛星航法システムは構築されているが、電波が地面や建物のような面に反射してから受信機のアンテナに到達するマルチパスが起きると、測定精度は大きく低下する。カーナビのような移動体での大きな誤差の主な原因として考えられているが、個別に対処するだけであり容易に解決できない。マルチパスによる誤差はランダム誤差の性質を持つ。受信機及びアンテナの作りによっては、誤差の大きさは数十mを超える場合がある。
測量用に用いられる受信機及びアンテナではマルチパス誤差軽減の技術が進んでおり、ほぼ数m以下に軽減されている。しかし普及型の受信機及びアンテナではこのような技術の採用は困難とされている。
COCOM limits
対共産圏輸出統制委員会(COCOM)規制の名残で高度18,000 m (59,000 ft)以上、速度1,900km/h以上では大陸間弾道ミサイルのような用途への搭載を防ぐために使用できない[17][18][19]。
アンテナ位相中心の位置
受信アンテナの形状に応じてアンテナ平均位相中心が変わるため、フィールド研究のような精密な測量を行う場合には、キャリブレーションが必要になる。
航法衛星システムの統合運用
2010年現在運用中、もしくは運用の現実化がある程度期待される全地球航法衛星システムとして、GPS、GLONASS、ガリレオ、北斗の4つがあり全てが稼働すると100機以上の航法衛星が運用されることになる。また、地域航法衛星システムとしてIRNSSや準天頂衛星システムも計画されている。このような航法衛星システムの構築と維持には多額の経費が掛かるため、特定の国家や軍組織が関与する割合が高い。
利用者側の立場から考えれば、GPSに限らず複数の航法衛星システムを1つの安価な受信機で測位に使用できれば可用性もしくは利便性や冗長性が向上が期待できる。具体的には、空が開けていない場所等の条件下でも、利用者受信機が可視衛星(さらには精度阻害の小さい可視衛星)を4機以上受信できる可能性が増大することになる。
また利用者にとって、特定の1つの航法衛星システムだけに頼って永続的なサービスの受益を期待することには不安が付きまとう。例えば、GPSは、航法衛星の長期運用の優れた技術を有しているが、その反面、寿命リスクが高まるぎりぎりまで衛星の更新を遅らせる傾向も見られ、利用者の立場では信頼度低下及び衛星数減少の不安も若干生じている。
ただし上記の複数の航法衛星システムは互いに独立して運用中、または運用が計画されており、軍用/民間用の種別や有料/無料の種別や使用周波数帯[注 13]を含めた電波特性や基準系、時系、信号構造、コードも含めて、ほとんどが異なる仕様に基づいているため、共用受信機の設計においてはそれぞれの仕様を取り込む必要がある[3][注 14]。
しかし、今後計画されているGPS Block III 衛星及びガリレオ衛星については、そのL1C信号の仕様について相互運用性が確保されており、共用受信機の設計は容易である。したがって両システムが稼働すれば利用者にとってあたかも現状の2倍すなわち50機以上の航法衛星を持つ全地球航法衛星システムとして利用できることが期待され、特に都市ビル街など天頂方向しか空が開けていない場所での可視衛星数の増加に劇的に寄与する。なお準天頂衛星システムの航法衛星(1機、もしくは3機体制を計画)はGPSと統合運用を前提に設計されており、従って共通化されたL1C信号を送信するので上記の衛星群(50機以上)に加えて利用できる。
ただし信号共通仕様化がそれほど完全でなくても、各国の航法衛星システムの航法信号は中心周波数の共通化(L1周波数及びL5周波数)、共存性の確保、CDMA方式の採用、変調帯域幅のおおよその共通化、及びこれらの信号の民生使用開放が行われる見通しであり、多数の航法衛星システム信号に対応し100機以上の航法衛星に対応可能な安価な受信機も作り易く、将来は普及することが見込まれている。
最近では一般向けのGPS受信機(L1周波数)もGPS, GLONASS, SBAS, QZSS対応のICチップの発表が始まっている[20]。iPhone 4S にもQualcommの MDM6610 が搭載され、衛星測位の受信機機能を担っている。
NEYRPIC ACS 450
NEYRPIC ACS 450はアルストム社が開発した衛星追跡システムでLバンドからKuバンドの帯域の周波数をカバーする。走行中の車両から正確に赤道上に位置する任意の静止衛星にパラボラアンテナを向ける事が可能である。
Enhanced GPS
GSMとW-CDMA携帯電話でGPS信号を組み合わせることによってより高精度に短時間で位置情報を提供する事が出来るシステム。
ハイブリッド測位システム
異なる規格の複数の測位システムを使用してより高精度に測位する。
ローカルエリア航法補強システム (LAAS)
GPS信号を受信することによって着陸を支援するシステム。着陸支援設備の整備されていない空港で視界の悪い状態で従来であれば着陸を断念しなければならなかったような気象状況においても従来よりも高精度で進入、着陸することが出来る。また、着陸支援設備が災害等で被害を受けた場合でや未整備の地域でも効果を発揮する。
脚注
注釈
- ^ 2011年(平成23年)4月からは国土地理院では全地球型のシステム(全地球航法衛星システム)を、GNSSと呼称することになった。
- ^ よく誤解されるが、GPSはあくまでも衛星測位システムの中の1つ(固有名詞)であり、衛星測位システムそのものを指すものではない。
- ^ GPSは地上約20,200 kmのほぼ円軌道をとる。傾斜角55度の6つの軌道に4機ずつの合計24機に加えて、予備に何機かを軌道上で常に用意している。周期はおよそ12時間である。GLONASSは19,100 kmの高度を120度ごとの傾斜角64.8度3つの円軌道に45度異なる8機、合計24機の衛星を配置する予定である。周期は11時間15分44秒である。ガリレオは傾斜角65度で長半径29,601.297 kmの3つのMEO (Medium Earth Orbit) 軌道内に各9機の衛星が40度ごとに離れて置かれ、合計27機が予備3機と共に置かれる。予備衛星も各軌道で1機を持ち、およそ1週間で移動を完了する。周期は14時間4分45秒17である。
- ^ 受信機測定値である信号送信時刻は、そのままの形よりも、「受信機で仮り決めした受信時刻」=「伝播時間」という形で表現されることが多い。「この伝播時間×真空中の光速度」は擬似距離と呼ばれる。受信・測定時刻については受信した複数の航法衛星に対して同一時刻で行われる。この受信時刻は、GPS時に同期させる場合が多い。例えば、測定レートが 1 Hz の受信機では、GPS時の正秒時との差が±1 ms 以内になるよう受信機内部で調整される。
- ^ ただし送信時刻の測定値には、航法衛星での航法信号の生成の時刻ずれ(つまり信号基準である衛星時計のずれ、バイアス)が元来含まれている。そこで正確な送信時刻を得るために、このバイアス値の情報を航法衛星から受信し利用者側で差し引くことで、ほぼ確実に5 ns(距離に換算して1.5 m)以内にバイアス誤差が除去された送信時刻を得ることができる。
- ^ 航法衛星の天体暦(軌道)、衛星時計のバイアスは航法メッセージ信号を復調して得る。
- ^ 民間企業も採算の見込みが立たないと手を引いたため、本格運用開始の共同事業体の体制がととのわず、目処が立たない状況となっていた。
- ^ このことは、航法衛星システムの維持がいかに財政的な裏付けを必要とする困難な事業であるかを物語っている。
- ^ Cバンドは4-8GHz、Sバンドは2-4GHz、Lバンドは1-2GHzである。
- ^ 日本では長年の電離層観測による「臨界プラズマ周波数値」によって、TECとの相関を利用した高い精度の補正値が得られており、他国も同様の研究を行っている。
- ^ 正確には、慣習上、乾燥成分と呼ぶものは大気分子全てを非分極気体分子と見なした屈折率寄与の和(静水圧項)を指す。気体としての水(水蒸気)からの屈折率寄与については非分極項と分極項(すなわち非静水圧項)とに分け、後者を指して慣習上、湿潤成分と呼ぶ。
- ^ 中性大気の屈折率は15GHzまでの周波数帯に対して一定値を示し、衛星航法に使用される電波帯では周波数差から屈折率推定を行うことはできない。
- ^ 衛星航法システムの衛星が使用する搬送波の周波数帯は、国際電気通信連合 (ITU) の割り当てを受けているが、複数のシステム同士は2010年現在、互いの周波数は離散的に配置されている。
- ^ 従来のGPSだけが存在していた時代ではSAによる測位精度操作に大きな意味があったが、複数のシステムが並立するようになれば相対的に1つのシステムごとのSAの価値は希薄化する。
出典
- ^ [1] 2011年度施行改正公共測量作業規程の準則(基準点測量)解説、アイサンテクノロジー
- ^ [2] 平成 22 年度 -公共測量- 作業規程の準則の一部改正 第2編 基準点測量 新旧対照表、国土地理院、赤字で示されている箇所。
- ^ a b c d e f ヴェレンホーフ、リヒテンエッガ、ヴァスレ著、西修二郎訳、『GNSSのすべて』、古今書院、2010年2月10日初版第1刷発行、ISBN9784772220088
- ^ en:GNSS_positioning_calculation#The_solution_illustrated
- ^ “Boost to Galileo sat-nav system”. BBC News. (25 August 2006) 2008年6月10日閲覧。
- ^ ついに運用が始まった欧州版GPS「ガリレオ」
- ^ Beidou satellite navigation system to cover whole world in 2020
- ^ China to send third navigation satellite into orbit
- ^ DORIS information page
- ^ April 15 launch to give India its own GPS
- ^ India to develop its own version of GPS
- ^ Launch of first satellite for Indian Regional Navigation Satellite system next year
- ^ India to build a constellation of 7 navigation satellites by 2012
- ^ “宇宙基本計画(平成28年4月1日閣議決定)” (PDF). 内閣府宇宙基本計画. 宇宙開発戦略本部. p. 17 (2016年4月1日). 2016年12月20日閲覧。
- ^ “宇宙基本計画工程表(平成27年度改訂版)” (PDF). 内閣府宇宙基本計画. 宇宙開発戦略本部. p. 3 (2015年12月8日). 2016年12月20日閲覧。
- ^ http://www.navipedia.net/index.php/Other_SBAS
- ^ GPS without limits
- ^ Why are there altitude and velocity limits for GPS equipment?
- ^ COCOM Limits
- ^ 例えばBroadcomは、http://ja.broadcom.com/products/GPS/GPS-Silicon-Solutions/BCM47511
関連項目
- 測量
- 最小二乗法
- PND (Personal Navigation Device)
- GPS補強システム
- WAAS
- GPS Block IIIA
- GPS信号
- 電波伝播
- 電離圏全電子数分布
- Real Time Kinematic