「オートバイ用オイル」の版間の差分
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全てのSM・SLといった4輪用オイルが低粘度化されたわけでもなく、また低摩擦特性を持つオイルではない。基本的に乾式クラッチ、ミッション・クラッチとエンジンが共通潤滑でない2輪車、[[スクーター]]では殆どの場合4輪用オイルを用いても粘度が適正ならば問題ない。また、湿式クラッチでもワンウエイ方式の[[ヤマハ]]の[[XJR]]や[[FZR]]などはあえてFMを配合した低摩擦特性のMB(純正ヤマルーブ・旧エフェロ FX)を指定し、クラッチミート時に適度に滑りを持たせる事でショックを和らげ、[[エンスト]]を防ごうとする車種もあるし、逆にホンダのビックシングル車では、低摩擦特性の純正オイル・ウルトラS9(MB)を使用してカムチェーンテンショナーに使われている[[ワンウェイクラッチ]]が滑るトラブル事例もある。 |
全てのSM・SLといった4輪用オイルが低粘度化されたわけでもなく、また低摩擦特性を持つオイルではない。基本的に乾式クラッチ、ミッション・クラッチとエンジンが共通潤滑でない2輪車、[[スクーター]]では殆どの場合4輪用オイルを用いても粘度が適正ならば問題ない。また、湿式クラッチでもワンウエイ方式の[[ヤマハ]]の[[XJR]]や[[FZR]]などはあえてFMを配合した低摩擦特性のMB(純正ヤマルーブ・旧エフェロ FX)を指定し、クラッチミート時に適度に滑りを持たせる事でショックを和らげ、[[エンスト]]を防ごうとする車種もあるし、逆にホンダのビックシングル車では、低摩擦特性の純正オイル・ウルトラS9(MB)を使用してカムチェーンテンショナーに使われている[[ワンウェイクラッチ]]が滑るトラブル事例もある。 |
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また一つの手段として、MA指定の湿式多板クラッチを持つバイクでも、ギヤの入りが渋い場合には低摩擦特性のオイルを用いることにより、シフトチェンジの際のストレスを軽減できることもある。(※ホンダ、ヤマハは純正油のラインナップにMA・MB双方揃え、使用する車種を特定している。カワサキは全てMAのみで、MBの純正油はない。ス |
また一つの手段として、MA指定の湿式多板クラッチを持つバイクでも、ギヤの入りが渋い場合には低摩擦特性のオイルを用いることにより、シフトチェンジの際のストレスを軽減できることもある。(※ホンダ、ヤマハは純正油のラインナップにMA・MB双方揃え、使用する車種を特定している。カワサキは全てMAのみで、MBの純正油はない。スズキはメインとなる純正油、エクスター 08はMBである。) |
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ただし、カストロールカスタマーセンターは「MBや4輪用をバイクに用いると始動時に[[セル]]スターターに滑りが生じる場合がある」と主張するが、この様なトラブル希有である。また、MA指定の車種に低摩擦特性のオイルを用いてクラッチに滑りを感じたとしても、根本的な原因はクラッチの寿命にあることが多く、この場合はクラッチをオーバーオールすると解消されることがある。 |
ただし、カストロールカスタマーセンターは「MBや4輪用をバイクに用いると始動時に[[セル]]スターターに滑りが生じる場合がある」と主張するが、この様なトラブル希有である。また、MA指定の車種に低摩擦特性のオイルを用いてクラッチに滑りを感じたとしても、根本的な原因はクラッチの寿命にあることが多く、この場合はクラッチをオーバーオールすると解消されることがある。 |
2010年8月9日 (月) 13:59時点における版
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オートバイ用オイルとは、オートバイ(モーターサイクル)の内燃機関で用いられる潤滑油の事である。また、一部の全地形対応車(ATV)で用いられる場合もある。
通常の自動車で用いられるエンジンオイルとは異なり、オートバイのトランスミッションにはオートバイ用エンジンのクランクケースと筐体を共有し、エンジンとトランスミッション、プライマリー伝達系統及び湿式多板クラッチを一つのオイルで潤滑する内蔵式ギアボックスが用いられる事が多い。この為、オートバイ用エンジンの中でも4ストロークエンジンオイルにはギアボックスやクラッチの潤滑に適した特別な配合が行われている。
成立の背景
1970年代以降のオートバイの大部分は湿式多板クラッチを用いたトランスミッションが、エンジンのクランクケースに内蔵される内蔵式ギアボックスを採用する事が一般的となっている。分離式ギアボックスを用いるハーレーダビッドソンや、乾式クラッチを用いるドゥカティやモトグッツィ、BMWを除いては、エンジンオイルがそのままギアボックス内にも送られてギアやクラッチの潤滑も行う事になる為、こうしたエンジンに用いられるオイルはギアオイルとしての性格もある程度併せ持つ物でなければならない。
オートバイ用エンジンに用いられるエンジンオイルは、1990年代中期頃までは明確な規格は存在せず、一般の自動車用エンジンオイルと同様にAPI規格による基礎性能表示とSAE規格による粘度表示のみが行われており、極端な言い方をすればこの時代までは自動車用エンジンオイルをオートバイ用エンジンに使用しても特に問題はなかった。
しかしAPI規格のSG以降、自動車用エンジンオイルが省燃費化の為に下記のような配合の変化が行われた事で、オートバイ用エンジンの中でも内蔵式ギアボックスと湿式多板クラッチ、スタータークラッチをひとつのエンジンオイルで潤滑するものにおいて、必要な潤滑性能が確保されない事態が発生するようになった。
- エンジンオイルの低粘度化
- エンジンのフリクション低減と燃費向上の為に、自動車においては0W-20等の低粘度オイルが採用される事が増えた。これにより8000rpmを超える高回転域を多用する事が多いオートバイ用エンジンにおいては、油膜切れによるバビットメタルやピストンリング、カムシャフトジャーナル等の摩耗や焼き付きが発生しやすい状況となった。
- 自動車では電子制御式燃料噴射装置を装備する車種においては、三元触媒が装備される事が一般的である。エンジンオイルがシリンダー内で燃焼すると、リンや硫黄などの添加剤の成分が三元触媒を痛めてしまう作用がある事が明らかとなってきた。一度入れたオイルを10000km等出来るだけ長い期間使用し続けるロングドレーン性能を確保して廃油による環境負荷を低減する為や、排ガス規制へのさらなる対応の為にはリンと硫黄分の可能な限りの除去が必須となり、その結果としてオートバイのギアボックスに求められる潤滑性能が低下する結果になった。
- 硫黄分に関しては自動車用エンジンの内部には元々差動装置のような極圧性が求められる箇所が余りない為に、それ以前から低減の努力は行われていたが、エンジン内の高熱・高圧による化学変化で最終的に硫黄を生成する添加剤[1]もエンジンオイルの低硫黄化に際しては問題となり、最終的にはこれらの成分も新たな成分への置き換えが進んでいった。
- 硫黄・リンに代わる新たな添加剤の混和
- 硫黄とリンの低減により不足した耐摩耗性能を補う為に、自動車用オイルは新たな添加剤としてモリブデン(MoDTCやMoDTP)に代表される摩擦調整剤(フリクション・モディファイア、FM剤)が広く用いられるようになった。特に有機モリブデンは化学変化により最終的に二硫化モリブデン(MoS2)へと変化する。MoS2自体も摩擦分散剤としての作用を持ちオイル添加剤として採用される実績を持つが、微粒子状の物質である為にオートバイの湿式多板クラッチに滑りなどの悪影響を与える可能性が指摘[2]されるようになった。
このような背景から、1998年に社団法人自動車技術会は世界に先駆けてオートバイ用エンジンオイルの規格であるJASO T903を制定。このJASO規格認証試験を通過したエンジンオイルのみが、JASO MA又はJASO MBとしてオートバイ用エンジンの内蔵式ギアボックスに安全に使用できるオイルとして広く通知される事になった。これは事実上、オートバイ用オイルというジャンルが一般のエンジンオイルから分離独立した事を意味するものでもあり、オイルメーカーはその後オートバイに適したオイルの研究開発を進めながら現在に至っている。
変速機の潤滑
オートバイのトランスミッションを潤滑する為には、自動車のトランスミッションに用いられるギアオイルと同様の潤滑特性を持っていなければならない。旧来のギアオイルは極圧添加剤等のオイル添加剤を大量に含んだシングルグレードのオイルが主流であったが、このような組成のオイルの多くは燃焼により人体や環境に有害なガスが発生する事が欠点でもあった。近年の自動車用オイルには環境対策の為に有害性を発揮する極圧添加剤等は忌避される傾向があり、このようなオイルによる変速機の無用な摩耗を防ぐ為にも専用のオイルが必要であるとされる。
現在のエンジンオイルの主流であるマルチグレードオイルには増粘剤が含まれており、この作用により高温のエンジン内でも粘度が低下して油膜が切れることなく潤滑が行われる。しかしこのようなオイルや添加剤の多くはトランスミッションのギアの間で発生する強いせん断力には弱い傾向があり、10W-40の粘度指数を持つオイルでも自動車に比べて比較的短期間で10W-30程度の粘度にまで粘度指数が落ちてしまうとされる。その為に一般的な自動車のエンジンオイルに比較して早いサイクルでのオイル交換が推奨されている。
このせん断力による粘度低下に対応する為には二つの方法があり、一つは単一の粘度指数を持つシングルグレードオイルを使用する事である。このような手法は自動車のギアボックスやオートバイの分離式ギアボックス、或いは2ストロークエンジンのギアボックスにおいては現在でも主流の方法であるが、エンジンで使用する場合には低温での高い粘度によって始動性が悪化する為に、極めて旧式のオートバイ用エンジンを除いてはこのようなオイルは用いられない。
もう一つは化学合成油の利用である。化学合成油は旧来のオイルの主流であった鉱物油と比較してせん断力への耐性が高いとされ、近年のオートバイ用オイルの主流となっている。
クラッチの潤滑
現在の殆どのオートバイは湿式多板クラッチを用いており、クラッチ板はオイルに浸った状態で駆動力の伝達と断続を行っている。湿式クラッチのフリクションプレートは完全に繋がった状態でもオイルが緩衝材となって、極僅かな半クラッチ状態でエンジンのトルクを和らげながら動力の伝達を行う。その為、スラッジや鉄粉などの微粒子状の物質が挟まるとフリクションプレート同士がしっかりと接触できない為にクラッチの滑りが発生する。
近年の5W-20や10W-30、0W-20等の自動車用オイルの中には、省燃費対策の為に微粒子状の摩擦分散剤を大量に含んだ物が存在する。このようなオイルにはAPIドーナツマークのEC表記やILSAC スターバーストマークなどの特別な表記がおこなわれている。なお、自動車用オイルでも粘度指数が40を超える場合、このような粘度指数が要求される条件下では油膜が厚く摩擦分散を行う必要性自体が少ない為に、摩擦分散剤は配合されていない場合が多く、オートバイに用いてもあまり問題はないとされている。
なお、日本が主導となって規格制定が行われたJASO規格においてはJASO MA、JASO MBと呼ばれる二種類のオートバイ用オイルの規格が制定されている。このような規格を満たしているものについては、クラッチの滑りが発生しない事が試験認証により証明されている為に安全に使用する事が可能である。適切なオイルを使用する事でクラッチの無駄な摩擦が減る為に、クラッチ板の寿命が伸び、オイルの油温が無用に上昇する事も防いでくれるとされる。
禁忌とされる自動車用エンジンオイル
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大量のオイル漏れなどに対する緊急補充の際に最寄りの店舗でオートバイ用オイルが購入できない場合など、何らかの理由によりオートバイ用エンジンに自動車用エンジンオイルをやむを得ず使用せざるを得なくなった事態に直面した場合には、特に下記の点に留意して決して使用してはいけないオイルの判別を行う必要がある。
- エンジンオイルのSAE粘度区分が純正オイルと大幅に異なるもの
- 10W-40指定のエンジンに0W-20を使用する(或いはその逆)など、極端な粘度のミスマッチは自動車用エンジンにおいてもメカノイズの増大やガスケットからのオイル漏れ、燃費の悪化などの不具合が発生する論外の行為であるが、特に高回転を多用するオートバイ用エンジンの場合には油膜切れによる焼き付きの恐れが高い為に純正指定粘度と極端に異なるエンジンオイルは絶対に使用してはいけない。
- API規格について、下記の要件に当てはまるもの
- API SH/SJ/SL規格のうち、API ドーナツマークの下半分にEnergy Conserving表記のあるもの、ILSACのGF規格に適合しているものやILSAC スターバーストマークを有するもの - ILSAC GF規格は省燃費オイルとしての規格であり、この規格に合致しているものは低粘度化や摩擦分散剤の配合など、オートバイ用エンジンのオイルとして相応しくない配合がなされている事が殆どである為、緊急補充用のオイルとしても選定を避けるべきである。また、一定の省燃費化が達成された事が認められたオイルのみに表示が許されるスターバーストマークやドーナツマークのEC表記もこれらの配合の有無を量る上での重要な指標となりうる。
- API SM規格以降のもの - 典型的な省燃費オイルの為に絶対に使用してはいけない。
4輪自動車用オイルの充填の問題点
実際には「現代の全ての4輪用自動車オイルが、全ての2輪には絶対的に使えないか?」と言えばとそうではない。ただ、メカニック、販売店員、そしてユーザーの大半はオイルに対しての知識が乏しいために細かな正しいオイル選択ができない場合が多い。それゆえトラブル・クレーム回避のための便宜的な方便として、あるいは他社製品との差別化を図るなど、売り手側の販売戦略上の理由で4輪への使用を主にする製品には「2輪には使えません」と表示される場合も多い。
これは4輪用オイルの規格が低環境負荷・省燃費方向に重点がおかれたことにより低粘度化が進み、×W-20のような軟らかいオイルの比率が増え、ミッションも共通して潤滑する2輪車のギヤオイルとしては粘度が不足し、ギヤ部の過度の磨耗が懸念される様になったことと、燃費向上の為に添加される有機モリブデン(MODTC)などの摩擦調整剤(FM・フリクションモディファィヤー)が、2輪車の湿式クラッチを滑らすトラブルが生じる可能性があるためである。
以前は2輪用も4輪用もエンジンオイルに関しては大差ないとされており、両者を区別して販売される事は少なかった。ビーピーカストロール社のWEBサイトでも、BPブランドのページ(bpオイルディクショナリー)では、「2輪車にもILSACのスターバーストマークのないオイルは4輪用でも問題なく使える」と解説されていたが、(カストロールブランドのページでは、全ての4輪用として販売しているオイルに「2輪車は使えません」と但し書きが付けられている。
また、民族系石油元売りのWEBサイトでも、出光興産のページでは「2輪には(4輪用の)15W-40などの高粘度オイルを」と推奨しているのに対して、旧ジャパンエナジーのサイトでは、「4輪用オイル(ドリーマ)はJASOの摩擦特性試験を行っていないためバイクには使えない」と注意している。
この様に同じ企業内、同業他社間においても異なる見解を表明している。
具体的な商品名で例に挙げると、以前は2輪用と販売されていたモービル1の中身は4輪用と同じ配合であった。(後にモービル1は2輪・4輪は異なるフォーミュレーションとなる。APIがSMに移行後も2輪用・4TはSJ相当。) またマニアックなライダーに愛用者が多いモチュール300Vも従来2輪・4輪同じ処方であったが、ある時期から2輪・4輪それぞれ異なる処方とした。しかし当初実際に処方が変更されたのは4輪用の300Vのみであり、この時に2輪用として販売されたのは一世代前の2輪・4輪共用時代の300Vであった。その後2輪用300Vも高摩擦特性に処方され、2輪専用300V 4T FACTORY LINEとして販売された経緯がある。(300Vは2輪、4輪用共にSL相当)
メカ・オイルの寿命を考慮しなくても構わない純競技用のバイクには、短距離レースでは0W-20の様な低粘度オイルも用いられる。オイルは本来は低フリクション=良く滑るオイルの方がクラッチに支障がなければ望ましい。粘度による粘性抵抗のみならず、摩擦によるフリクションロスも小さい程良い。300Vも高摩擦特性のFACTORY LINEと相反する低摩擦特性の、300V RACING KIT OIL 2172H 0W30を2輪向けのラインナップに揃えている。またモチュール社の300Vのライバル的な存在である和光ケミカル(ワコーズ)の4CRは、APIの等級およびJASOの摩擦特性の表示はない。APIのサービス等級がないのはAPIの規格に囚われないことによるが、JASOの表示もされないわけは、ベースオイルにコンプレックスエステルを用い、それにFMとして有機モリブデンを加えているためにローフリクションな特性を持ち、JASOのMBに相当することによる。4輪用オイルと同じく、MBだとイメージ的に「クラッチが滑る」(実際滑り易いのも事実)というユーザーが先入観を持ってしまうためのの販売戦略上の措置である。
(ワコーズのオイルはWRを除いて4CR、4CT-S、トリプルアール、プロステージなどは2輪4輪共用として販売している。)
近年、8耐などのレースで好成績を収めているニューテックは「良いオイルは2輪にも4輪にも良い」という見地から、市販品に関しては2輪/4輪という用途の区別は基本的にしていない。またトタルの純競技用オイル、エルフHTXも2輪・4輪共用である。実際問題、2輪用品店で売られているストリートユースの「2輪用」として販売されているオイルでも、中身は4輪用と同じブレンドのオイルも多く存在する。特に小さなブレンダーの高価格帯のオイルに見られる。こういったオイルには缶やプラボトルに「MOTO」や「2輪用」とシールを貼っている場合がある。カタログで確認すると同じ銘柄が4輪用のラインナップに見られ、また代表性状の動粘度や粘度指数といったデータが一致する。加えてAPIのSL/CFの相当表示があるにも関わらず、JASOの摩擦特性の表示がない場合もある。
しかし、「2輪用」とシールを貼ることで2輪向けオイルという認識を与え、ライダーである購買者が安心できる。
(本来2輪専用として販売するのであれば、CF、CF4といったディーゼル規格を通すための添加剤は不要であり、アンチノック性でも不利になる。ブレンダーでは自社でベース油や添加剤は作れない。調達した既製の配合済み添加剤(DIパッケージ)にディーゼル向けの清浄分散剤が含まれているためである。)
オイルとメカに関する知識が乏しければ「API ドーナツマークの下半分にEnergy Conserving表記のあるもの、ILSACのGF規格に適合しているもの...」は確かにMA指定の湿式クラッチを持つオートバイには使わない方が無難であり、大きな目安になるのも事実である。ただ、SMと書かれていても正式認証でない自称SMのオイルはあくまでSM相当のオイルであるから、ドーナツマークもスターバーストマークも表記されない。またSHやSJの廃止規格では、ドーナツマークは一定の猶予期間を過ぎると表示できない。特筆する点として、JASO T903の運用マニュアルにはAPI SMやILSAC GF-3の省燃費オイルも対象に含まれている。(※注 GF-4は対象外)
(API・ILSACの認証は正式にテストを受け、合格したオイルのみがドーナツマーク、及びスターバーストマークの表示が許され、eolcsにリストが載る。対してJASOの場合は自主試験の届出制であり、所定の手続きを踏めばロゴマークの表示が許され、リストにオンファイルされる。)
以前はギヤボックスとエンジンが共通潤滑の2輪車にはギヤの歯面の極圧潤滑条件が厳しいため、APIのSG以前のSGやSF等級が望ましいとする意見もあった。これは環境面で不利になるもののSG以前はギヤの焼き付き、齧り防止として有効に作用するリン・硫黄系の極圧添加剤(EP剤)の配合量の規制を受けないためである。しかし、2輪車に用いられるギヤは一般的な平歯車であるため、4輪車のディファレンシャル部のハイポイドギヤに用いられるような多量の極圧剤は必要ない。
75W-90 GL-3のギヤオイルは、大よそエンジンオイルの12W-45 SG程度の粘度と極圧特性を持つため、4輪車でもホンダやいすゞの一部の車種にはマニュアルトランスミッションオイルにエンジンオイルの充填を指定していた。
また、2006年のJASO T903の改正でJASO T903の対象からSEとSFは削除された。基本的なオイルの要求性能が高くなったことに加え、2輪車といえども高まる環境意識の高まりに対応して、触媒が装着されるようになり、触媒の浄化寿命を縮めるリン・硫黄系の添加剤(ジアルキルジチオリン酸亜鉛 ZnDTP・ZDDPなど)を制限する必要が迫られたためある。極圧剤による摺動面による表面改質は活性・腐食であるから、多量の極圧剤の投与は必ずしも望ましいとはいえないが、ZDTPの削減は4輪でも境界潤滑が前提の動弁系では大きく影響を受ける。そのためリンや硫黄の削減分を補う良質のベースオイルの使用、代替添加剤が必要になった。
- API SH リン量 0.12mass%以下、 SJ、SL リン量 0.1mass%以下、SM リン量 0.06~0.08mass%、硫黄分 0.5mass%以下、SN(案)リン量0.07mass%以下、硫黄分 0.5mass%以下
- JASO T903 (2006) リン量 0.08~0.12mass%
- ACEA A1、A3、A5 リン量、硫黄分 報告のみで規制なし
尚、2006年の改正ではAPI SMが追認され、摩擦特性による分類もMAとMBの二分類からMA、MA1、MA2、MBの四分類に細分された。
巷の誤解・迷信として、「バイクのオイルは高回転を多様するため4輪用よりせん断安定性が高い」とか、「MA=せん断安定性が高い」という認識が広まっているが、せん断安定性はベースオイル(基油)の素性、粘度、そしてポリマー(粘度指数向上剤)の依存度で決まるため、2輪・4輪用では区別できない。耐熱・耐せん断能力の指標となるJASOのHTHS粘度(High Temperature High Shear 高温高せん断粘度)は、MA、MA1、MA2、MBの全てが粘度に関わり無く2.9mPa・sであり、MAのせん断安定性の仕様が特別高いことはない。一部の2輪・オイルメーカーのサイトでも「MA=せん断安定性に優れたオイル」と解説されているが、早急な訂正が望まれる。
(アウトバーンも擁する欧州のACEAのA3や、メルセデスベンツの社内規格ではHTHSが3.5mPa・s以上と決められている)
環境対策として低粘度化の波は2輪車用オイルにも押し寄せている。
本田技研は省燃費対策として純正2輪用オイル・ウルトラシリーズのラインナップを一新し、低粘度化を図った、APIの等級をSL相当として主力商品の粘度を10W-40から10W-30に変更し、また0W-30の低粘度オイルも発売した。その後続いてホンダが中心となり、2輪の独自規格HMEOC(High Quality Motorcycle Engine Oil Conception)を規定し、推進を開始した。
結論からすると全ての4輪用オイルが全ての2輪車に使えないわけでなく、その答えはケースバイケースで一定ではない。またライダーの指向・要求性能、使用条件でも異なってくる。
全てのSM・SLといった4輪用オイルが低粘度化されたわけでもなく、また低摩擦特性を持つオイルではない。基本的に乾式クラッチ、ミッション・クラッチとエンジンが共通潤滑でない2輪車、スクーターでは殆どの場合4輪用オイルを用いても粘度が適正ならば問題ない。また、湿式クラッチでもワンウエイ方式のヤマハのXJRやFZRなどはあえてFMを配合した低摩擦特性のMB(純正ヤマルーブ・旧エフェロ FX)を指定し、クラッチミート時に適度に滑りを持たせる事でショックを和らげ、エンストを防ごうとする車種もあるし、逆にホンダのビックシングル車では、低摩擦特性の純正オイル・ウルトラS9(MB)を使用してカムチェーンテンショナーに使われているワンウェイクラッチが滑るトラブル事例もある。 また一つの手段として、MA指定の湿式多板クラッチを持つバイクでも、ギヤの入りが渋い場合には低摩擦特性のオイルを用いることにより、シフトチェンジの際のストレスを軽減できることもある。(※ホンダ、ヤマハは純正油のラインナップにMA・MB双方揃え、使用する車種を特定している。カワサキは全てMAのみで、MBの純正油はない。スズキはメインとなる純正油、エクスター 08はMBである。)
ただし、カストロールカスタマーセンターは「MBや4輪用をバイクに用いると始動時にセルスターターに滑りが生じる場合がある」と主張するが、この様なトラブル希有である。また、MA指定の車種に低摩擦特性のオイルを用いてクラッチに滑りを感じたとしても、根本的な原因はクラッチの寿命にあることが多く、この場合はクラッチをオーバーオールすると解消されることがある。
【参考】
- 月刊トライボロジー
- 月刊潤滑経済
- 潤滑油銘柄便覧 (潤滑通信社刊・※日本で販売される殆どの潤滑油の性状の詳細が掲載されている。)
- JASO T903 運用マニュアル(2006改訂版)
- 自動車用潤滑油Q&A (エクソンモービル編)
関連項目
外部リンク
- ELF web site - オイルの規格について
- エンジンオイルの粘度と粘度指数 Lubricant Viscosity & Viscosity Index
- ILSAC 車とバイクのエンジンオイル
- ドーナツマークとスターバーストマーク 自動車用語・自動車用語集
- モリブデンと有機モリブデン
- MoS2系エンジンオイル添加剤の疑問