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「ニーマン・ピック病」の版間の差分

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'''ニーマン・ピック病'''(ニーマン・ピックびょう、{{lang|en|Niemann-Pick disease}})は、先天的な遺伝子の変異によって引き起こされる[[酵素]]の異常によって、本来分解されるはずの不溶性の代謝物が細胞内に蓄積する[[先天性代謝異常症]]である<ref name="ロビンス8-279">VinayKumarほか著『ロビンス基礎病理学 原著8版』豊國伸哉ほか監訳、丸善出版、2011年、279頁</ref>。[[遺伝形式#常染色体劣性遺伝|常染色体劣性遺伝]]の遺伝形式をとる<ref name="標準皮膚9"/>。
'''ニーマン・ピック病'''(ニーマン・ピックびょう、{{lang|en|Niemann-Pick disease}})は、先天的な遺伝子の変異によって引き起こされる[[酵素]]の異常によって、本来分解されるはずの不溶性の代謝物が細胞内に蓄積する[[先天性代謝異常症]]である<ref name="ロビンス8-279">VinayKumarほか著『ロビンス基礎病理学 原著8版』豊國伸哉ほか監訳、丸善出版、2011年、279頁</ref>。[[遺伝形式#常染色体劣性遺伝|常染色体劣性遺伝]]の遺伝形式をとる<ref name="標準皮膚9"/>。


分類によって生化学的分子生物学的位置づけが大きく異なる病気であり、ニーマン・ピック病A型およびB型は、[[細胞]]内の酸性スフィンゴミエリナーゼの異常によって起こる[[スフィンゴミエリン]]の蓄積が原因とされ、内臓腫大等の症状を生じる<ref name="ロビンス8-282">VinayKumarほか著『ロビンス基礎病理学 原著8版』豊國伸哉ほか監訳、丸善出版、2011年、282頁</ref>。ニーマン・ピック病C型は脂肪輸送の欠陥によって、細胞内に[[コレステロール]]が蓄積し、小児期に[[運動失調]]やその他の神経症状を生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。
分類によって発症メカニズム症状・予後などが大きく異なる疾患であり、ニーマン・ピック病A型およびB型は、[[細胞]]内の酸性スフィンゴミエリナーゼの異常によって起こる[[スフィンゴミエリン]]の蓄積が原因とされ、内臓腫大等の症状を生じる<ref name="ロビンス8-282">VinayKumarほか著『ロビンス基礎病理学 原著8版』豊國伸哉ほか監訳、丸善出版、2011年、282頁</ref>。ニーマン・ピック病C型は脂肪輸送の欠陥によって、細胞内に[[コレステロール]]が蓄積し、小児期に[[運動失調]]やその他の神経症状を生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。


== 概要 ==
== 概要 ==
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[[細胞小器官]]の一つである[[リソソーム]](ライソゾーム)は、体内のさまざまな物質を[[加水分解酵素]]で分解する役割を持つ<ref name="脳科学辞典">森下 英晃・水島 昇 [http://bsd.neuroinf.jp/wiki/リソソーム リソソーム] 脳科学辞典、2015年10月、2015年11月最終確認</ref>。この[[酵素]](リソソーム酵素と総称される)に先天的な遺伝子の変異が生じると、酵素によって本来分解されるべき代謝物が分解されず、細胞内に蓄積してしまい異常が生じる。このような疾患を[[ライソゾーム病]]と呼び<ref name="脳科学辞典"/>、ニーマン・ピック病もこの一種である。
[[細胞小器官]]の一つである[[リソソーム]](ライソゾーム)は、体内のさまざまな物質を[[加水分解酵素]]で分解する役割を持つ<ref name="脳科学辞典">森下 英晃・水島 昇 [http://bsd.neuroinf.jp/wiki/リソソーム リソソーム] 脳科学辞典、2015年10月、2015年11月最終確認</ref>。この[[酵素]](リソソーム酵素と総称される)に先天的な遺伝子の変異が生じると、酵素によって本来分解されるべき代謝物が分解されず、細胞内に蓄積してしまい異常が生じる。このような疾患を[[ライソゾーム病]]と呼び<ref name="脳科学辞典"/>、ニーマン・ピック病もこの一種である。


変異する遺伝子によって大きく二つに分類され、SMPD1と呼ばれる遺伝子の変異によって生じるものをニーマン・ピック病A型,B型<ref name="厚労省AB"/>、NPCと呼ばれる遺伝子の変異で生じるものをニーマン・ピック病C型と呼ぶ<ref name="厚労省C"/>。蓄積する代謝物はA型,B型とC型とでやや異なり、A型,B型では[[スフィンゴリピド]]の一種である[[スフィンゴミエリン]]が、C型では[[コレステロール]]がおもに蓄積する<ref name="リッピンコット生化学269">Richard A. Harvery,Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、267-269頁</ref>。ニーマン・ピック病の他にも、スフィンゴミエリンとは異なる[[スフィンゴリピド]]が蓄積するライソゾーム病は複数あり、これらを総称して[[ライソゾーム病#主な分類|スフィンゴリピドーシス]]と呼ぶ。<ref>James, William D.; Berger, Timothy G.; et al. (2006). Andrews' Diseases of the Skin: clinical Dermatology. Saunders Elsevier. p. 536. ISBN 0-7216-2921-0.</ref>
変異する遺伝子によって大きく二つに分類され、SMPD1と呼ばれる遺伝子の変異によって生じるものをニーマン・ピック病A型B型<ref name="厚労省AB"/>、NPCと呼ばれる遺伝子の変異で生じるものをニーマン・ピック病C型と呼ぶ<ref name="厚労省C"/>。蓄積する代謝物はA型B型とC型とでやや異なり、A型B型では[[スフィンゴ脂質]]の一種である[[スフィンゴミエリン]]が、C型では[[コレステロール]]がおもに蓄積する<ref name="リッピンコット生化学269">Richard A. Harvery,Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、267-269頁</ref>。ニーマン・ピック病の他にも、スフィンゴミエリンとは異なるスフィンゴ脂質が蓄積するライソゾーム病は複数あり、これらを総称して[[ライソゾーム病#主な分類|スフィンゴリピドーシス]]と呼ぶ。<ref>James, William D.; Berger, Timothy G.; et al. (2006). Andrews' Diseases of the Skin: clinical Dermatology. Saunders Elsevier. p. 536. ISBN 0-7216-2921-0.</ref>


臨床症状としておもに[[脾腫]]が生じ、一部では神経症状を認める。また、ニーマン・ピック細胞とよばれる泡沫状の空胞を有する細胞が特徴である<ref name="STEP136">西基ほか監著『STEP小児科 第3版』海馬書房、2012年、136頁</ref>。[[予後]]は分類によって大きく異なる。
臨床症状としておもに[[脾腫]]が生じ、一部では神経症状を認める。専門とする診療科は[[神経学|神経内科]]であるが、神経症状あるいは発症時期などから[[小児科学|小児科]]あるいは[[精神科]]に受診して、その後神経内科へ紹介される例もある<ref name="PharmaMedica94-95">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、94-95頁</ref>。また、病理組織像としては、主にニーマン・ピック細胞とよばれる泡沫状の空胞を有する細胞が主に[[骨髄]]や[[脾臓]]で観察されることが特徴である<ref name="STEP136">西基ほか監著『STEP小児科 第3版』海馬書房、2012年、136頁</ref><ref name="日本臨牀135"/>。[[予後]]は分類によって大きく異なる。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
ニーマンピック病が最初に報告されたのは、1914年である。ドイツの[[小児科学|小児科]]医、{{仮リンク|アルベルト・ニーマン|en|Albert Niemann (pediatrician)}}が、ユダヤ人幼児において神経症状が急速に進む症例を報告した<ref name="厚労省AB"/>。このとき彼はこの症例を、[[ゴーシェ病]]と似ているが神経症状がゴーシェ病とは一致しない、と評価した<ref name="whonamedit">Ole Daniel Enersen: [https://www.whonamedit.com/synd.cfm/1029.html Niemann-Pick disease (Ludwig Pick)],Whonamedit?</ref>。その後、1926年にドイツの科学者{{仮リンク|ルートヴィヒ・ピック|en|Ludwig Pick}}が、アルベルト・ニーマンの報告した症例は、[[ゴーシェ病]]とは組織学的に異なるものであることを示した<ref>Ole Daniel Enersen: [https://www.whonamedit.com/doctor.cfm/1023.html Ludwig Pick],Whonamedit?</ref>。以後、彼らの名前をとって「ニーマン・ピック病」と呼ばれることになる<ref name="whonamedit">Ole Daniel Enersen: [https://www.whonamedit.com/synd.cfm/1029.html Niemann-Pick disease (Ludwig Pick)],Whonamedit?</ref>。
* 1914年 - Albert Niemannが、ユダヤ人幼児の症状が急速に進む[[ゴーシェ病]]と似た症例を報告する<ref name="厚労省AB"/>。

* 1929年 - Ludwig Pickが、Albert Niemannの発見した症例は[[ゴーシェ病]]とは組織学的に異なると証明する<ref>Ole Daniel Enersen: [http://www.whonamedit.com/doctor.cfm/1023.html Ludwig Pick],Whonamedit?</ref>。ニーマン・ピック病と命名される<ref name="whonamedit">Ole Daniel Enersen: [http://www.whonamedit.com/synd.cfm/1029.html Niemann-Pick disease (Ludwig Pick)],Whonamedit?</ref>。
その後、1961年にクロッカー(Crocker)によって、A型からD型までの4つに分類される<ref name="OMIM-C">Johns Hopkins University:[https://omim.org/entry/257220 #257220 NIEMANN-PICK DISEASE, TYPE C1; NPC1],Online Mendelian Inheritance in Man</ref>。さらにこれに追加して、1967年にリン(Lynn)とテリー(Terry)によって、成人のニーマン・ピック病がE型と分類された<ref name="typeF">E L Schneider et al:[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1013734/ A new form of Niemann-Pick disease characterised by temperature-labile sphingomyelinase.],Journal of Medical Genetics. 1978 Oct; 15(5): 370–374. </ref>。また、シュナイダー(Schneider)らによって神経症状が異なる患者が1978年に報告され、F型と分類された<ref name="typeF">E L Schneider et al:[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1013734/ A new form of Niemann-Pick disease characterised by temperature-labile sphingomyelinase.],Journal of Medical Genetics. 1978 Oct; 15(5): 370–374. </ref>。ただし、現在ではD型はC型として論じられることが多く<ref name="genetic"/>、E型やF型には明確な定義はないとされており<ref name="OMIM-B"/>、主にA型・B型、C型の分類が多く用いられている。
* 1934年 - クレンク博士が蓄積物質を[[スフィンゴミエリン]]と同定<ref name="厚労省AB"/>。

* 1961年 - Crockerによって、A型からD型までの4つに分類される<ref name="OMIM-C">Johns Hopkins University:[https://omim.org/entry/257220 #257220 NIEMANN-PICK DISEASE, TYPE C1; NPC1],Online Mendelian Inheritance in Man</ref>。
分類が進むとともに、病因の解析も進められた。1934年には、クレンク(Klenk)が患者組織に蓄積している物質を[[スフィンゴミエリン]]と同定した<ref name="厚労省AB"/><ref>Klenk, E. (1934) Hoppe-Seyler's Z. Physiol. Chem. 229,151-156.</ref>。1966年には、ブラディ(Brady)によって、[[スフィンゴミエリン]]を分解する酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼが患者組織において欠損していることが示された<ref name="厚労省AB"/><ref>Brady, R. O., Kanfer, J. N., Mock, M. B. & Fredrickson, D. S. (1966) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 55, 366-369. </ref>。さらに、Levran{{訳語疑問点|レーブラン|date=2016年1月}}らによって、遺伝子''SMPD1'' の変異が1991年に発見され<ref name="OMIM-B"/><ref name="OMIM-A">Johns Hopkins University:[https://omim.org/entry/257200 #257200 NIEMANN-PICK DISEASE, TYPE A],Online Mendelian Inheritance in Man</ref>、1992年には[[秋田大学]]の[[高橋勉 (医学者)|高橋勉]]らによって、ニーマン・ピック病A型およびB型がこの''SMPD1'' の変異により生じると報告された<ref name="OMIM-B"/><ref name="OMIM-A"/><ref>resarchmap:[https://researchmap.jp/read0197815/ 高橋 勉]</ref>。C型についても、1997年に、Carstea{{訳語疑問点|カルスタ|date=2016年1月}}らによって、症例の90%以上に特徴的な遺伝子が同定され、''NPC-1'' と命名されている<ref name="ファルマシア1049">西本貴子「2つのニーマンピック病C型原因遺伝子と細胞内コレステロール輸送」『ファルマシア』vol.37 No.11、The Pharmaceutical Society of Japan、2001年、1049頁</ref>。さらに2000年には、Naureckiene{{訳語疑問点|ナウレキーネ|date=2016年1月}}らによって、C型における別の原因遺伝子''NPC2'' が報告されている<ref name="ファルマシア1050">西本貴子「2つのニーマンピック病C型原因遺伝子と細胞内コレステロール輸送」『ファルマシア』vol.37 No.11、The Pharmaceutical Society of Japan、2001年、1050頁</ref>。
* 1966年 - ブラディ博士が患者組織で、[[スフィンゴミエリン]]を分解する酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損していることを示す<ref name="厚労省AB"/>。

* 1967年 - LynnとTerryによって、成人のニーマン・ピック病がE型と分類される<ref name="typeF">E L Schneider et al:[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1013734/ A new form of Niemann-Pick disease characterised by temperature-labile sphingomyelinase.],Journal of Medical Genetics. 1978 Oct; 15(5): 370–374. </ref>。
治療法としては、[[ヨーロッパ連合|EU]]においてニーマン・ピック病C型治療薬ミグルスタットが2009年に承認され<ref name="日経"> 北村 正樹 [https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201206/525356.html ブレーザベス:ニーマン・ピック病C型の治療薬]、日経メディカル、2012年6月,2015年11月最終確認</ref>、日本においても2012年に承認されている。<ref name="ミグルスタット日本承認">アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社 [http://www1.actelion.co.jp/jp/activity/news/archive/2012-04-02.page? ニーマン・ピック病C型治療薬ミグルスタット厚生労働省から製造販売承認を取得],2012年</ref>
* 1978年 - Schneiderらによって神経症状が異なる患者が報告され、F型とされる<ref name="typeF">E L Schneider et al:[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1013734/ A new form of Niemann-Pick disease characterised by temperature-labile sphingomyelinase.],Journal of Medical Genetics. 1978 Oct; 15(5): 370–374. </ref>。
* 1991年 - Levranらによって、A型およびB型に''SMPD1''の変異が発見される<ref name="OMIM-B"/><ref name="OMIM-A">Johns Hopkins University:[https://omim.org/entry/257200 #257200 NIEMANN-PICK DISEASE, TYPE A],Online Mendelian Inheritance in Man</ref>。
* 1992年 - [[秋田大学]]の[[高橋勉]]らによって、A型およびB型は''SMPD1''の変異により生じると報告される<ref name="OMIM-B"/><ref name="OMIM-A"/><ref>resarchmap:[http://researchmap.jp/read0197815/ 高橋 勉]</ref>
* 1997年 - Carsteaらによって、C型の大部分(90%以上)に特徴的な遺伝子が同定され、''NPC-1''と命名される<ref name="ファルマシア1049">西本貴子「2つのニーマンピック病C型原因遺伝子と細胞内コレステロール輸送」『ファルマシア』vol.37 No.11、The Pharmaceutical Society of Japan、2001年、1049頁</ref>。
* 2000年 - Naureckieneらによって、C型の一部の原因遺伝子''NPC2''が報告される<ref name="ファルマシア1050">西本貴子「2つのニーマンピック病C型原因遺伝子と細胞内コレステロール輸送」『ファルマシア』vol.37 No.11、The Pharmaceutical Society of Japan、2001年、1050頁</ref>。
* 2009年 - [[ヨーロッパ連合|EU]]において、ニーマン・ピック病C型の治療薬ミグルスタットが承認される<ref name="日経"> 北村 正樹 [https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201206/525356.html ブレーザベス:ニーマン・ピック病C型の治療薬]、日経メディカル、2012年6月,2015年11月最終確認</ref>。
* 2012年 - 日本においてC型治療薬ミグルスタットが承認される。<ref name="ミグルスタット日本承認">アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社 [http://www1.actelion.co.jp/jp/activity/news/archive/2012-04-02.page? ニーマン・ピック病C型治療薬ミグルスタット厚生労働省から製造販売承認を取得],2012年</ref>


== 分類 ==
== 分類 ==
A~F型に分類される<ref name="標準皮膚9"/>が、D~F型は極めてまれであり、D型はC型としてまとめられることが多い<ref name="genetic">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/condition/niemann-pick-disease Genetics Home Reference],"Niemann-Pick disease", 2015年1月</ref>。
A~F型に分類される<ref name="標準皮膚9"/>が、D~F型は極めてまれであり、D型はC型としてまとめられることが多い<ref name="genetic">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/condition/niemann-pick-disease Genetics Home Reference],"Niemann-Pick disease", 2015年1月</ref>。
=== おもな型 ===
=== おもな型 ===
* A型 (急性神経型) - スフィンゴミエリナーゼ[[酵素]](ASM)活性が5%以下の重症型<ref name="厚労省AB">厚生労働省難治性疾患等政策研究事業に関する調査研究班 [http://www.japan-lsd-mhlw.jp/lsd_doctors/nimann_pick_ab.html ニーマンピック病A、B型]</ref>。''SMPD1''の変異が原因<ref name="SMPD1"/>。
* A型 (急性神経型) - スフィンゴミエリナーゼ[[酵素]](ASM)活性が5%以下の重症型<ref name="厚労省AB">厚生労働省難治性疾患等政策研究事業に関する調査研究班 [http://www.japan-lsd-mhlw.jp/lsd_doctors/nimann_pick_ab.html ニーマンピック病A、B型]</ref>。''SMPD1'' の変異が原因<ref name="SMPD1"/>。
* B型 (慢性非神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)活性は5%以上で、[[ニューロパチー|神経症状]]はみられないのが特徴<ref name="リッピンコット生化学269"/>。''SMPD1''の変異が原因<ref name="SMPD1"/>
* B型 (慢性非神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)活性は5%以上で、[[ニューロパチー|神経症状]]はみられないのが特徴<ref name="リッピンコット生化学269"/>。''SMPD1'' の変異が原因<ref name="SMPD1"/>
* C型 (慢性神経型) - [[コレステロール]]の蓄積がみられ、''NPC''遺伝子の[[変異]]が原因。
* C型 (慢性神経型) - [[コレステロール]]の蓄積がみられ、''NPC'' 遺伝子の[[変異]]が原因。
** C1型 - ''NPC1''の変異が原因の型<ref name="NPC1">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/NPC1 Genetics Home Reference],"NPC1", 2015年1月</ref>。
** C1型 - ''NPC1'' の変異が原因の型<ref name="NPC1">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/NPC1 Genetics Home Reference],"NPC1", 2015年1月</ref>。
** C2型 - ''NPC2''の変異が原因の型<ref name="NPC2">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/NPC2 Genetics Home Reference],"NPC2", 2015年1月</ref>。
** C2型 - ''NPC2'' の変異が原因の型<ref name="NPC2">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/NPC2 Genetics Home Reference],"NPC2", 2015年1月</ref>。
=== 極めてまれな型 ===
=== 極めてまれな型 ===
* D型 - [[カナダ]]の[[ノバスコシア州]]で特有の型として報告されたが、通常C1型として論じられる<ref name="genetic"/>。
* D型 - [[カナダ]]の[[ノバスコシア州]]で特有の型として報告されたが、通常C1型として論じられる<ref name="genetic"/>。
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== 機序・病態 ==
== 機序・病態 ==
[[File:Sphingomyelin.png|thumb|right|200px|スフィンゴミエリン]]
[[File:Sphingomyelin core structure colored.svg|thumb|right|200px|スフィンゴミエリン]]
[[File:Cholesterol with numbering.svg|thumb|right|200px|コレステロール]]
[[File:Cholesterol with numbering.svg|thumb|right|200px|コレステロール]]
[[File:Structure of GM1, GM2, GM3.png|thumb|right|200px|ガングリオシドの構造]]
[[File:Structure of GM1, GM2, GM3.png|thumb|right|200px|ガングリオシドの構造]]
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A型およびB型は、[[組織_(生物学)#神経組織|神経組織]]の[[細胞膜]]を構成する[[リン脂質]]である[[スフィンゴミエリン]]が蓄積することによって生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。
A型およびB型は、[[組織_(生物学)#神経組織|神経組織]]の[[細胞膜]]を構成する[[リン脂質]]である[[スフィンゴミエリン]]が蓄積することによって生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。


[[神経細胞|神経線維]]は、細胞体と軸索によって構成されている。軸索には[[髄鞘|ミエリン]]と呼ばれる絶縁性のリン脂質が存在しており、これによってヒトは[[中枢神経系]]などを保護<ref name="リッピンコット生化学269"/>し、[[電気伝導|伝導]]速度を確保している。このミエリンを構成するのがスフィンゴミエリンであり、その量のバランスを合成経路と代謝経路によって保っている。スフィンゴミエリンの代謝経路では、細胞内の[[リソソーム]]に存在する加水分解酵素の一つである酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)が重要な役割を果たしている。酸性スフィンゴミエリナーゼは[[ホスホリパーゼC]]の一種であり、スフィンゴミエリンの一部を除去し[[セラミド]]へと分解する<ref name="リッピンコット生化学269"/>。
[[神経細胞|神経線維]]は、細胞体と軸索によって構成されている。軸索には[[髄鞘|ミエリン]]と呼ばれる絶縁性のリン脂質が存在しており、これによってヒトは[[中枢神経系]]などを保護<ref name="リッピンコット生化学269"/>し、[[電気伝導|伝導]]速度を確保している。このミエリンを構成するのがスフィンゴミエリンであり、その量のバランスを合成経路と分解経路によって保っている。スフィンゴミエリンの代謝経路では、細胞内の[[リソソーム]]に存在する加水分解酵素の一つである酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM、あるいはスフィンゴミエリン・ホスホジエステラーゼ;SMPD)が重要な役割を果たしている。酸性スフィンゴミエリナーゼは[[ホスホリパーゼC]]の一種であり、スフィンゴミエリンの一部を除去し[[セラミド]]へと分解する<ref name="リッピンコット生化学269"/>。


ニーマン・ピック病A型,B型の原因は、遺伝子異常によって酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損することである<ref name="ロビンス8-282"/>。代謝されずに残ったスフィンゴミエリンが、[[神経細胞]]や除去しようと集まった[[マクロファージ]]に蓄積する。集まったマクロファージは脂肪複合体の小滴や粒子であふれ、[[細胞質]]内に細かい空胞や泡沫が形成される<ref name="ロビンス8-282"/>。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ<ref name="STEP136"/>。また、スフィンゴミエリンが分解されないため、分解産物であるセラミドも生じない。セラミドとセラミドをさらに分解してできる[[スフィンゴシン]]は、アポトーシス促進作用がある<ref name="リッピンコット生化学269"/>。そのため、ニーマン・ピック病の患者にはアポトーシス耐性をもつ細胞も生じる。
ニーマン・ピック病A型,B型の原因は、遺伝子異常によって酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損することである<ref name="ロビンス8-282"/>。代謝されずに残ったスフィンゴミエリンが、[[神経細胞]]や除去しようと集まった[[マクロファージ]]に蓄積する。集まったマクロファージは脂の小滴や粒子であふれ、[[細胞質]]内に細かい空胞や泡沫が形成される<ref name="ロビンス8-282"/>。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ<ref name="STEP136"/>。また、スフィンゴミエリンが分解されないため、分解産物であるセラミドも生じない。セラミドとセラミドをさらに分解してできる[[スフィンゴシン]]は、アポトーシス促進作用がある<ref name="リッピンコット生化学269"/>。そのため、ニーマン・ピック病の患者にはアポトーシス耐性をもつ細胞も生じる。


==== 原因遺伝子 ====
==== 原因遺伝子 ====
原因[[遺伝子]]はスフィンゴミエリナーゼから、''SMPD1''と名付けられている<ref name="SMPD1">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/SMPD1 Genetics Home Reference],"SMPD1", 2015年1月]</ref>。''SMPD1''は酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)をコードしている遺伝子である<ref name="OMIM-A"/>。1991年にこの遺伝子の完全長の[[相補的DNA]]配列が報告され<ref name="AkitaJMed3"/>、同年にはLevranらによって、ニーマン・ピック病A型およびB型に''SMPD1''の変異が発見されている<ref name="OMIM-A"/>。
原因[[遺伝子]]は酸性スフィンゴミエリナーゼ (スフィンゴミエリン・ホスホジエステラーゼ1;Sphingomyelin phosphodiesterase 1([[:en:Sphingomyelin phosphodiesterase|en]]))から、''SMPD1''と名付けられている<ref name="SMPD1">U.S. National Library of Medicine: [http://ghr.nlm.nih.gov/gene/SMPD1 Genetics Home Reference],"SMPD1", 2015年1月]</ref>。''SMPD1''は酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)をコードしている遺伝子である<ref name="OMIM-A"/>。1991年にこの遺伝子の完全長の[[相補的DNA]]配列が報告され<ref name="AkitaJMed3"/>、同年にはLevran{{訳語疑問点|レーブラン|date=2016年1月}}らによって、ニーマン・ピック病A型およびB型に''SMPD1''の変異が発見されている<ref name="OMIM-A"/>。


=== C型 ===
=== C型 ===
C型は、A型およびB型とは病態が異なるとされる。肝臓や脾臓においてスフィンゴミエリンのほかに、[[コレステロール]]やその他の[[糖脂質]]などが蓄積し、脳ではとくにGM2,GM3[[ガングリオシド]]と呼ばれる糖脂質の蓄積がみられる<ref name="C型治療指針546">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、546頁</ref>。
C型は、A型およびB型とは病態が異なるとされる。肝臓や脾臓においてスフィンゴミエリンのほかに、[[コレステロール]]やその他の[[糖脂質]]などが蓄積し、脳ではとくにGM2,GM3[[ガングリオシド]]と呼ばれる糖脂質の蓄積がみられる<ref name="C型治療指針546">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、546頁</ref>。


C型の原因を述べる上で重要なのがコレステロールの代謝経路である。体内に吸収されたコレステロールは、さまざまな種類の[[リポタンパク質]]とよばれる状態で存在する<ref name="リッピンコット生化学292">Richard A. Harvery,Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、292頁</ref>。リポタンパク質のうちコレステロールの占める割合の大きい[[リポタンパク質#低比重リポタンパク/英: Low Density Lipoprotein(LDL)|LDL]](いわゆる悪玉コレステロール)は、LDL受容体を介して肝臓などの細胞中に吸収される。この吸収は[[エンドサイトーシス]]とよばれる方法で行われ、その際吸収されたLDLは[[エンドソーム]]という小胞を形成し、この小胞はリソソーム内の酵素によって分解される<ref name="リッピンコット生化学298">Richard A. Harvery,Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、298-300頁</ref>。このとき、ニーマン・ピック病C型は遺伝子異常によってリソソームからコレステロールを排出できない<ref name="リッピンコット生化学298"/>ため、細胞内に蓄積する。つまり、細胞内にコレステロールが取り込まれたのちの反応がらないことがC型の特徴である<ref name="実験医学145">檜垣克美・大野耕策「ニーマン・ピック病C型原因遺伝子 -細胞内コレステロール輸送関連タンパク-」『実験医学』vol.16 No.2、羊土社、1998年、145頁</ref>。A型やB型と同様に、骨髄中にニーマン・ピック細胞の存在が認められる<ref name="AkitaJMed2">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、2頁</ref>。
C型の原因を述べる上で重要なのがコレステロールの代謝経路である。体内に吸収されたコレステロールは、さまざまな種類の[[リポタンパク質]]とよばれる状態で存在する<ref name="リッピンコット生化学292">Richard A. Harvery, Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、292頁</ref>。リポタンパク質のうちコレステロールの占める割合の大きい[[リポタンパク質#低密度リポタンパク質(LDL)|LDL]](いわゆる悪玉コレステロール)は、LDL受容体を介して肝臓などの細胞中に吸収される。この吸収は[[エンドサイトーシス]]とよばれる方法で行われ、その際吸収されたLDLは[[エンドソーム]]という小胞を形成し、この小胞はリソソーム内の酵素によって分解される<ref name="リッピンコット生化学298">Richard A. Harvery, Denise R. Ferrier『リッピンコット イラストレイテッド生化学 原著6版』石崎泰樹ほか監訳、丸善出版、2015年、298-300頁</ref>。このとき、ニーマン・ピック病C型は遺伝子異常によってリソソームからコレステロールを排出できない<ref name="リッピンコット生化学298"/>ため、コレステロールは分解されずに細胞内に蓄積する。つまり、細胞内にコレステロールが取り込まれたのちの反応が起こらないことがC型の特徴である<ref name="実験医学145">檜垣克美・大野耕策「ニーマン・ピック病C型原因遺伝子 -細胞内コレステロール輸送関連タンパク-」『実験医学』vol.16 No.2、羊土社、1998年、145頁</ref>。A型やB型と同様に、骨髄中にニーマン・ピック細胞の存在が認められる<ref name="AkitaJMed2">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、2頁</ref>。


==== 原因遺伝子 ====
==== 原因遺伝子 ====
原因遺伝子は''NPC1''および''NPC2''と名付けられており、多くの症例は''NPC1''の変異が占めている<ref name="ロビンス8-282"/>。''NPC1''遺伝子は18番[[染色体]]長腕q11-q12に存在し、[[ミスセンス突然変異]]、[[フレームシフト突然変異|挿入]]、[[欠失]]、重複など240以上の変異が報告されている<ref name="BRAINMEDICAL33">戸川雅美・大野耕策「ニーマン・ピック病」『BRAIN MEDICAL』vol.24 No.3、メディカルレビュー社、2012年、33頁(243)</ref>。''NPC2''遺伝子は、14番[[染色体]]長腕q24.3に存在する<ref name="BRAINMEDICAL33"/>。
原因遺伝子はニーマンピック病C型(NPC)から''NPC1'' および''NPC2'' と名付けられており<ref name="OMIM-NPC">Johns Hopkins University:[https://omim.org/entry/607623 NPC1 GENE; NPC1],Online Mendelian Inheritance in Man</ref>、多くの症例は''NPC1'' の変異が占めている<ref name="ロビンス8-282"/>。''NPC1''遺伝子は18番[[染色体]]長腕q11-q12に存在し、[[ミスセンス突然変異]]、[[フレームシフト突然変異|挿入]]、[[欠失]]、重複など240以上の変異が報告されている<ref name="BRAINMEDICAL33">戸川雅美・大野耕策「ニーマン・ピック病」『BRAIN MEDICAL』vol.24 No.3、メディカルレビュー社、2012年、33頁(243)</ref>。''NPC2'' 遺伝子は、14番[[染色体]]長腕q24.3に存在する<ref name="BRAINMEDICAL33"/>。


1980年代後半ごろから原因遺伝子の検索がおこなわれ、1991年に、C型の大部分(90%以上)に特徴的な遺伝子が同定され、''NPC-1''と命名された。遺伝子''NPC1''によるタンパク質NPC1は[[リソソーム]]および後期の[[エンドソーム]]に存在する膜タンパク質であり<ref name="AkitaJMed3">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、3頁</ref>、コレステロールの[[恒常性]]維持に関与すると考えられている<ref name="BRAINMEDICAL33"/>。細胞内コレステロール輸送の重要分子と考えられているが、病態への関与のメカニズムには不明な点が多い<ref name="ミエリン化異常">瀧北彰一「ニーマン-ピック病におけるミエリン化の異常」『生体の科学』Vol.53 No.3、金原一郎記念医学医療振興財団・医学書院、2006年、191頁</ref>。
1980年代後半ごろから原因遺伝子の検索がおこなわれ、1991年に、C型の大部分(90%以上)に特徴的な遺伝子が同定され、''NPC-1'' と命名された。遺伝子''NPC1'' によるタンパク質NPC1は[[リソソーム]]および後期の[[エンドソーム]]に存在する膜タンパク質であり<ref name="AkitaJMed3">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、3頁</ref>、コレステロールの[[恒常性]]維持に関与すると考えられている<ref name="BRAINMEDICAL33"/>。細胞内コレステロール輸送の重要分子と考えられているが、病態への関与のメカニズムには不明な点が多い<ref name="ミエリン化異常">瀧北彰一「ニーマン-ピック病におけるミエリン化の異常」『生体の科学』Vol.53 No.3、金原一郎記念医学医療振興財団・医学書院、2006年、191頁</ref>。


NPC2はリソソーム内のコレステロール結合タンパク質であり、NPC1と相補的に機能していると考えられている<ref name="AkitaJMed3"/>。''NPC2''は、ヒト[[精巣上体]]分泌タンパク質であるHE1を産生する遺伝子であり、2000年にニーマン・ピック病C型の少数型において変異が認められると報告された<ref name="ファルマシア1050"/>。リソソーム内のコレステロールはまずこのHE1(NPC2)と結合し、次に膜タンパク質であるNPC1に受け渡され、リソソームの外へ運ばれているのではないかと予想されている<ref name="ファルマシア1050"/>。NPC1とNPC2には重複する働きはないとされているが、それぞれの正確な機能は十分には明らかになっていない<ref name="TheLipid">斉藤・村山「Niemann-Pick病とリポ蛋白」『The Lipid』vol.15 No.5、メディカルレビュー社、2014年、70頁(498)</ref>。
NPC2はリソソーム内のコレステロール結合タンパク質であり、NPC1と相補的に機能していると考えられている<ref name="AkitaJMed3"/>。''NPC2'' は、ヒト[[精巣上体]]分泌タンパク質であるHE1を産生する遺伝子であり、2000年にニーマン・ピック病C型の少数型において変異が認められると報告された<ref name="ファルマシア1050"/>。リソソーム内のコレステロールはまずこのHE1(NPC2)と結合し、次に膜タンパク質であるNPC1に受け渡され、リソソームの外へ運ばれているのではないかと予想されている<ref name="ファルマシア1050"/>。NPC1とNPC2には重複する働きはないとされているが、それぞれの正確な機能は十分には明らかになっていない<ref name="TheLipid">斉藤・村山「Niemann-Pick病とリポ蛋白」『The Lipid』vol.15 No.5、メディカルレビュー社、2014年、70頁(498)</ref>。


=== ニーマン・ピック細胞 ===
=== ニーマン・ピック細胞 ===
[[File:Niemann pick cell in spleen.jpg|thumb|right|250px|脾臓におけるニーマン・ピック細胞細胞([[染色 (生物学)#ヘマトキシリン・エオシン染色|HE染色]])]]
[[File:Niemann pick cell in spleen.jpg|thumb|250px|脾臓におけるニーマン・ピック細胞([[染色 (生物学)#ヘマトキシリン・エオシン染色|HE染色]])]]
前述の通り、ニーマン・ピック病では蓄積したスフィンゴミエリンなどの[[糖脂質]]を貪食したマクロファージの内部が、脂肪複合体の小滴や粒子であふれ、[[細胞質]]内に細かい空胞や泡沫が形成される<ref name="ロビンス8-282"/>。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ<ref name="STEP136"/>。主に[[骨髄]]や[[脾臓]]で観察され<ref name="日本臨牀135"/>、[[リンパ管]]、[[肺動脈]]、[[肺胞]]へも浸潤がみられることがある<ref name="日本臨牀135"/>。
前述の通り、ニーマン・ピック病では蓄積したスフィンゴミエリンなどの[[糖脂質]]を貪食したマクロファージの内部が、脂の小滴や粒子であふれ、[[細胞質]]内に細かい空胞や泡沫が形成される<ref name="ロビンス8-282"/>。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ<ref name="STEP136"/>。主に[[骨髄]]や[[脾臓]]で観察され、[[リンパ管]]、[[肺動脈]]、[[肺胞]]へも浸潤がみられることがある<ref name="日本臨牀135"/>。


ニーマン・ピック細胞は単核で、たくさんの脂肪滴を含んでいる<ref name="日本臨牀135"/>。脂肪滴の大きさはほぼ均一<ref name="日本臨牀135"/>。スダンブラックBやオイルレッドOと呼ばれる染色で染色されるほか、シュルツのコレステロール染色法(シュルツ反応)が陽性となる。<ref name="STEP136"/>。[[染色 (生物学)#パス染色(PAS染色)(PAS反応)|PAS染色]]でも弱い染色を示す<ref name="日本臨牀135"/>。これらによって[[ゴーシェ病]]におけるゴーシェ細胞(封入体)との区別が可能となる<ref name="日本臨牀135"/>。(ゴーシェ細胞ではシュルツ反応が陰性、PAS染色が陽性となる。)
ニーマン・ピック細胞は単核で、たくさんの脂肪滴を含んでいる<ref name="日本臨牀135"/>。脂肪滴の大きさはほぼ均一<ref name="日本臨牀135"/>。スダンブラックBやオイルレッドOと呼ばれる染色で染色されるほか、シュルツのコレステロール染色法(シュルツ反応)が陽性となる。<ref name="STEP136"/>。[[染色 (生物学)#パス染色(PAS染色)(PAS反応)|PAS染色]]でも弱い染色を示す<ref name="日本臨牀135"/>。これらによって同じ[[先天性代謝異常症]]の一つである[[ゴーシェ病]]におけるゴーシェ細胞(封入体)との区別が可能である<ref name="日本臨牀135"/>。(ゴーシェ細胞ではシュルツ反応が陰性、PAS染色が陽性となる。)


== 疫学 ==
== 疫学 ==
[[発症]]に男女差はない<ref name="標準皮膚9"/>。日本では、ライソゾーム病の一つとして[[特定疾患]](難病)に指定されている<ref>[http://www.nanbyou.or.jp/entry/513 難病医学研究財団/難病情報センター] 疾患番号44</ref>ため、一定の認定基準のもとで治療費は公費で負担される<ref>[http://www.nanbyou.or.jp/entry/4061 難病医学研究財団/難病情報センター]「ライソゾーム病」</ref>。
[[発症]]に男女差はない<ref name="標準皮膚9"/>。日本では、ライソゾーム病の一つとして[[特定疾患]](難病)に指定されている<ref>[http://www.nanbyou.or.jp/entry/513 難病医学研究財団/難病情報センター] 疾患番号44</ref>ため、一定の認定基準のもとで治療費は公費で負担される<ref>[http://www.nanbyou.or.jp/entry/4061 難病医学研究財団/難病情報センター]「ライソゾーム病」</ref>。また、C型に関しては、患者や家族への情報発信、専門研究機関への治療・研究等の要請や啓発活動を目的とした「ニーマン・ピック病C型患者家族の会」が患者家族によって設立されている<ref name="患者家族会目的">ニーマン・ピック病C型患者家族の会「[http://www.npcj.net/mokuteki.html ニーマン・ピック病C型患者家族の会とは]」</ref>


A型およびB型の発症率はおおむね10万人に1人。すべての人種に見られるが、A型は特に[[アシュケナジム|東欧系ユダヤ人]]に多いとされ<ref name="リッピンコット生化学269"/>、その割合はおおむね4万人に1人である<ref name="genetic"/>。原因遺伝子である''SMPD1''の変異はユダヤ人に高頻度に存在している<ref name="AkitaJMed3"/>。発症頻度の少ないユダヤ人以外の人種においては、B型の遺伝子変異の一部が高頻度に存在している<ref name="AkitaJMed3"/>。日本人においては、高頻度の遺伝子異常は見出されておらず、日本においてニーマン・ピック病がきわめて稀な疾患であることを物語っている<ref name="AkitaJMed3"/>。
A型およびB型の発症率はおおむね10万人に1人。すべての人種に見られるが、A型は特に[[アシュケナジム|東欧系ユダヤ人]]に多いとされ<ref name="リッピンコット生化学269"/>、その割合はおおむね4万人に1人である<ref name="genetic"/>。原因遺伝子である''SMPD1''の変異はユダヤ人に高頻度に存在している<ref name="AkitaJMed3"/>。発症頻度の少ないユダヤ人以外の人種においては、B型の遺伝子変異の一部が高頻度に存在している<ref name="AkitaJMed3"/>。日本人においては、高頻度の遺伝子異常は見出されておらず、日本においてニーマン・ピック病がきわめて稀な疾患であることを物語っている<ref name="AkitaJMed3"/>。
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== 症状 ==
== 症状 ==
[[脾臓]]、[[肝臓]]、[[骨髄]]、[[リンパ節]]、[[肺]]などが最も強く影響を受け、中でも[[脾臓]]が腫大する[[脾腫]]が特徴的である。これは、[[スフィンゴミエリン]]を[[食作用|貪食]]した[[マクロファージ]]の影響である<ref name="ロビンス8-282"/>。その、皮膚の異常としては顔面の黄色調変化のほかに、多汗、[[黄色腫]]、紫斑、カフェオレ斑<ref name="標準皮膚9"/>などさまざまである。骨髄では、ニーマン・ピック細胞がみられる<ref name="STEP136"/>。
[[脾臓]]、[[肝臓]]、[[骨髄]]、[[リンパ節]]、[[肺]]などが最も強く影響を受け、中でも[[脾臓]]が腫大する[[脾腫]]が特徴的である。これは、[[スフィンゴミエリン]]を[[食作用|貪食]]した[[マクロファージ]]の影響である<ref name="ロビンス8-282"/>。そのほか、皮膚の異常としては顔面の黄色調変化のほかに、多汗、[[黄色腫]]、紫斑、カフェオレ斑<ref name="標準皮膚9"/>などさまざまである。骨髄では、ニーマン・ピック細胞がみられる<ref name="STEP136"/>。


=== A型およびB型 ===
=== A型およびB型 ===
[[File:Tay-sachsUMich.jpg|thumb|right|200px|眼底のcherry-red spot(写真は[[テイ・サックス病]]のもの)]]
[[File:Tay-sachsUMich.jpg|thumb|right|200px|眼底のチェリーレッド斑(写真は[[テイ・サックス病]]のもの)]]
A型患者の脳は全体的に小さく、特に小脳の障害が強い<ref name="日本臨牀135"/>。一部の神経細胞は膨化し、その内部には大きな[[封入体]]がみられることもある<ref name="日本臨牀135"/>。また、神経細胞の[[髄鞘]]形成不全を認めることもあり、[[脱髄疾患|脱髄]]を示す<ref name="日本臨牀135"/>。B型においては神経異常はほとんど見られない<ref name="ロビンス8-282"/>。脾臓は10倍近くに腫大、肝臓は2倍近くに腫大する<ref name="日本臨牀135"/>。脾臓では脾洞とよばれる部位において泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)の浸潤を認め、肝臓でも空胞をもった大型の[[クッパー細胞]](肝臓に存在する[[マクロファージ]])が現れる<ref name="日本臨牀135"/>。肺重量も増加し、[[リンパ管]]、[[肺動脈]]、[[肺胞]]への泡沫細胞浸潤がみられる<ref name="日本臨牀135"/>。
A型患者の脳は全体的に小さく、特に小脳の障害が強い<ref name="日本臨牀135"/>。一部の神経細胞は膨化し、その内部には大きな[[封入体]]がみられることもある<ref name="日本臨牀135"/>。また、神経細胞の[[髄鞘]]形成不全を認めることもあり、[[脱髄疾患|脱髄]]を示す<ref name="日本臨牀135"/>。B型においては神経異常はほとんど見られない<ref name="ロビンス8-282"/>。脾臓は10倍近くに腫大、肝臓は2倍近くに腫大する<ref name="日本臨牀135"/>。


発症要因が同じであるため、A型とB型は症状が似ているが、より重症で急速に進むのがA型である。そのためA型は急性神経型と呼ばれる<ref name="STEP136"/>。A型は、生後数か月で肝臓や脾臓の腫大から発症することが多い<ref name="日本臨牀134"/>。次いで神経症状として[[哺乳障害]]がおこり、この頃に筋緊張低下が生じる<ref name="日本臨牀134"/>。また、反復性の[[嘔吐]]がみられるようになり<ref name="日本臨牀134"/>、さらに骨髄や[[神経節]]を含むすべての[[中枢神経系]]が影響を受けるため、重篤な神経学的異常が生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。生後6ヶ月以降、[[運動障害|運動発達遅滞]]が明らかとなり、進行すると筋緊張によって生じる[[痙縮]]と[[固縮]]が著明になる<ref name="厚労省AB"/>。筋緊張の低下によって、座れるようになってから以降の発達は見られることはなく、首が座るなどのすでにできるようになっていたことも徐々にできなくなっていく<ref name="日本臨牀134"/>。[[深部腱反射|腱反射]]は弱くなるか、消失することが多い<ref name="日本臨牀135"/>。眼底にはcherry-red spotと呼ばれる黄斑が赤く見える症状が約半数の患者で現れる<ref name="日本臨牀135">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、135頁</ref>。また、網膜の色素異常を起こすこともあり、網膜電位図(ERG)で異常がみられることが多い<ref name="日本臨牀135"/>。[[末梢神経]]における伝導速度は遅くなる<ref name="日本臨牀135"/>。呼吸障害は顕著ではないが、[[X線撮影|肺レントゲン像]]では肺浸潤影などの所見がみられることが多い<ref name="日本臨牀135"/>。進行すると、やせて手足が細くなり、腹部だけが目立つようになる。[[痙縮|痙性]]などの症状も現れ、周囲への反応もなくなる<ref name="日本臨牀135"/>。皮膚が黄色や黄土色を呈し、[[黄色腫]]が生じる場合もある<ref name="日本臨牀135"/>。通常、生後3年程度で死に至る<ref name="STEP136"/>。
発症要因が同じであるため、A型とB型は症状が似ているが、より重症で急速に進むのがA型である。そのためA型は急性神経型と呼ばれる<ref name="STEP136"/>。A型は、生後数か月で肝臓や脾臓の腫大から発症することが多い<ref name="日本臨牀134"/>。次いで神経症状として[[哺乳障害]]がおこり、この頃に筋緊張低下が生じる<ref name="日本臨牀134"/>。また、反復性の[[嘔吐]]がみられるようになり<ref name="日本臨牀134"/>、さらに骨髄や[[神経節]]を含むすべての[[中枢神経系]]が影響を受けるため、重篤な神経学的異常が生じる<ref name="ロビンス8-282"/>。生後6ヶ月以降、[[運動障害|運動発達遅滞]]が明らかとなり、進行すると筋緊張によって生じる[[痙縮]]と[[固縮]]が著明になる<ref name="厚労省AB"/>。筋緊張の低下によって、座れるようになってから以降の発達は見られることはなく、首が座るなどのすでにできるようになっていたことも徐々にできなくなっていく<ref name="日本臨牀134"/>。[[深部腱反射|腱反射]]は弱くなるか、消失することが多い<ref name="日本臨牀135"/>。眼底にはチェリーレッド斑(cherry-red spot)と呼ばれる黄斑が赤く見える症状が約半数の患者で現れる<ref name="日本臨牀135">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、135頁</ref>。進行すると、やせて手足が細くなり、腹部だけが目立つようになる。[[痙縮|痙性]]などの症状も現れ、周囲への反応もなくなる<ref name="日本臨牀135"/>。皮膚が黄色や黄土色を呈し、[[黄色腫]]が生じる場合もある<ref name="日本臨牀135"/>。通常、生後3年程度で死に至る<ref name="STEP136"/>。


B型では内臓腫大や肝硬変をきたすが、神経学的症状は出現しない<ref name="ロビンス8-282"/>。1歳から2歳ごろに肝脾腫で発見され、肝硬変を呈するが、成年期まで生存することがある<ref name="STEP136"/>。A型ではほぼ同じような発症年齢、臨床経過をたどるのに対し、B型ではばらつきが大きい<ref name="日本臨牀135"/>。通常の[[健康診断]]などによって乳児期から幼児期に発見されることもあれば、成人になってから[[脾腫]]から診断される例もある<ref name="日本臨牀135"/>。肝脾腫は小児期には目立つが、発育とともに目立たなくなる<ref name="日本臨牀135"/>。ほとんどの例で、[[X線撮影|肺レントゲン像]]において肺浸潤影などの所見がみられる<ref name="日本臨牀135"/>。さらに年を重ねると労作時に呼吸困難、[[肺性心]](心臓の右心室肥大)が生じることもある<ref name="日本臨牀135"/>。神経症状が出現しないことが特徴であるが、A型と同じように網膜にcherry-red spotが現れる例や[[末梢神経]]の[[シュワン細胞]]に異常を示す例、[[失調#小脳性運動失調症|小脳性運動失調]]を伴う例の報告もある<ref name="日本臨牀135"/>。
B型では内臓腫大や肝硬変をきたすが、神経学的症状は出現しない<ref name="ロビンス8-282"/>。1歳から2歳ごろに肝脾腫で発見され、肝硬変を呈するが、成年期まで生存することがある<ref name="STEP136"/>。A型ではほぼ同じような発症年齢、臨床経過をたどるのに対し、B型ではばらつきが大きい<ref name="日本臨牀135"/>。通常の[[健康診断]]などによって乳児期から幼児期に発見されることもあれば、成人になってから[[脾腫]]から診断される例もある<ref name="日本臨牀135"/>。肝脾腫は小児期には目立つが、発育とともに目立たなくなる<ref name="日本臨牀135"/>。ほとんどの例で、[[X線撮影|肺レントゲン像]]において[[肺浸潤]]影などの所見がみられる<ref name="日本臨牀135"/>。さらに年を重ねると労作時に呼吸困難、[[肺性心]](心臓の右心室肥大)が生じることもある<ref name="日本臨牀135"/>。神経症状が出現しないことが特徴であるが、A型と同じように網膜にチェリーレッド斑が現れる例や[[末梢神経]]の[[シュワン細胞]]に異常を示す例、[[小脳性運動失調]]を伴う例の報告もある<ref name="日本臨牀135"/>。


A型からB型までの症状に多様性がおこる原因は明らかではないが、酸性スフィンゴミエリナーゼ活性の残存の程度が症状の多様性に関連していると考えられている<ref name="日本臨牀134">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、134頁</ref>。
A型からB型までの症状に多様性がおこる原因は明らかではないが、酸性スフィンゴミエリナーゼ活性の残存の程度が症状の多様性に関連していると考えられている<ref name="日本臨牀134">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、134頁</ref>。


=== C型 ===
=== C型 ===
A型やB型とは異なりあらゆる年齢で発症する。慢性神経型と呼ばれ<ref name="STEP136"/>、[[脾腫]]のほかに、[[嚥下障害]]、笑うと脱力する[[カタプレキシー]]、[[発達障害|発達の遅れ]]などの中枢神経障害が現れる。進行性で多彩な神経症状が特徴<ref name="PharmaMedica91">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、91頁</ref>。発症時期によって、[[周産期]]型、[[乳児]]早期型、乳児後期型、若年型、[[思春期]]・成人型に分けられ、それぞれ顕著な症状が異なる<ref name="C型治療指針545">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、545頁</ref>。神経症状としては、失調、[[認知症]]、垂直[[眼球運動障害]]はどの年齢においてもみられる<ref name="実験医学147">檜垣克美・大野耕策「ニーマン・ピック病C型原因遺伝子 -細胞内コレステロール輸送関連タンパク-」『実験医学』vol.16 No.2、羊土社、1998年、147頁</ref>。また、注意すべき症状として神経麻痺に伴う嚥下困難があるが、これは誤嚥性[[肺炎]]につながり予後を左右する<ref name="PharmaMedica91"/>。
ニーマン・ピック病C型は主に小児期の疾患とされるものの<ref name="マススクリーニング学会40">大野耕策・二宮治明「ニーマン・ピック病C型の分子生物学と治療的展望」『日本マス・スクリーニング学会誌』第12巻3号、日本マススクリーニング学会、2002年、40頁</ref>、A型やB型とは異なりあらゆる年齢で発症する<ref name="PharmaMedica94"/>。慢性神経型と呼ばれ<ref name="STEP136"/>、[[脾腫]]のほかに、[[嚥下障害]]、笑うと脱力する[[カタプレキシー]]、[[発達障害|発達の遅れ]]などの中枢神経障害が現れる。進行性で多彩な神経症状が特徴<ref name="PharmaMedica91">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、91頁</ref>。発症時期によって、[[周産期]]型、[[乳児]]早期型、乳児後期型、若年型、[[思春期]]・成人型に分けられ、それぞれ顕著な症状が異なる<ref name="C型治療指針545">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、545頁</ref>。神経症状としては、失調、[[認知症]]、垂直[[眼球運動障害]]はどの年齢においてもみられる<ref name="実験医学147">檜垣克美・大野耕策「ニーマン・ピック病C型原因遺伝子 -細胞内コレステロール輸送関連タンパク-」『実験医学』vol.16 No.2、羊土社、1998年、147頁</ref>。また、注意すべき症状として神経麻痺に伴う嚥下困難があるが、これは誤嚥性[[肺炎]]につながり予後を左右する<ref name="PharmaMedica91"/>。


周産期型では、[[胆汁]]うっ滞や[[黄疸]]で発見され、通常は2~4ヵ月で改善するが、約10%の症例で肝不全に移行し6ヵ月までに死亡する例もある。また肝脾腫とともに肺の病気によって呼吸不全に至る例もある<ref name="C型治療指針545"/>。乳児早期・後期型では肝脾腫のほかに、[[発達障害|発達の遅れ]]や[[運動障害]](歩行障害など)、[[カタプレキシー]]が生じる<ref name="C型治療指針545"/><ref name="PharmaMedica93">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、93頁</ref>。ただし、成人期に比べると特徴的な神経症状は少ない<ref name="PharmaMedica94">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、94頁</ref>。小児期にはカタプレキシーに加え、けいれんなどの症状があらわれる[[ジストニア]]などの神経症状が出現し、学業不振や知的退行、問題行動が目立つようになる<ref name="PharmaMedica94"/>。若年型では脾腫は認めないことが多いが、書字困難や集中力低下などのほか、運動障害による歩行の不安定、[[嚥下障害]]などが現れる。[[麻痺|痙性麻痺]]を合併することもある<ref name="C型治療指針545"/>。思春期・成人型では、[[妄想]]、[[幻視]]、[[幻聴]]などの精神症状や攻撃性を示すなどの行動異常がみられる。運動障害としてはけいれんなどの意図しない筋収縮([[ジストニア]])、[[舞踏運動]]、[[パーキンソン病]]と似た症状([[パーキンソン症候群]])を認める<ref name="C型治療指針545"/>。
周産期型では、[[胆汁]]うっ滞や[[黄疸]]で発見され、通常は2~4ヵ月で改善するが、約10%の症例で肝不全に移行し6ヵ月までに死亡する例もある。また肝脾腫とともに肺の病気によって呼吸不全に至る例もある<ref name="C型治療指針545"/>。乳児早期・後期型では肝脾腫のほかに、[[発達障害|発達の遅れ]]や[[運動障害]](歩行障害など)、[[カタプレキシー]]が生じる<ref name="C型治療指針545"/><ref name="PharmaMedica93">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、93頁</ref>。ただし、成人期に比べると特徴的な神経症状は少ない<ref name="PharmaMedica94">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、94頁</ref>。小児期にはカタプレキシーに加え、けいれんなどの症状があらわれる[[ジストニア]]などの神経症状が出現し、学業不振や知的退行、問題行動が目立つようになる<ref name="PharmaMedica94"/>。若年型では脾腫は認めないことが多いが、書字困難や集中力低下などのほか、運動障害による歩行の不安定、[[嚥下障害]]などが現れる。[[麻痺|痙性麻痺]]を合併することもある<ref name="C型治療指針545"/>。思春期・成人型では、[[妄想]]、[[幻視]]、[[幻聴]]などの精神症状や攻撃性を示すなどの行動異常がみられる。運動障害としてはけいれんなどの意図しない筋収縮([[ジストニア]])、[[舞踏運動]]、[[パーキンソン病]]と似た症状([[パーキンソン症候群]])を認める<ref name="C型治療指針545"/>。


== 検査・診断 ==
== 検査・診断 ==
[[File:Bone marrow biopsy.jpg|thumb|right|200px|骨髄穿刺]]
[[File:Bone marrow biopsy.jpg|thumb|right|200px|骨髄穿刺]]
もっとも一般的な検査は[[骨髄検査|骨髄穿刺]]である<ref>堂野純孝「骨髄穿刺」『小児科診療』2012年増刊号、診断と治療社、2012年</ref>が、患者への負担は大きい。[[脾腫]]などの特徴的な症状がみられ、ニーマン・ピック病が疑われる場合に行う。小児においては、骨髄穿刺針を[[骨盤]]の[[腸骨]]または[[腸骨]]に穿刺し、[[骨髄|骨髄液]]を吸入採取する<ref>渡部俊幸・嶋田明「骨髄検査」『小児科診療』2013年増刊号、診断と治療社、2013年、157頁</ref>。採取後、骨髄液を薄く広げて標本にした[[骨髄塗抹標本]]において、前述の泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)が観察される<ref>渡部俊幸・嶋田明「骨髄検査」『小児科診療』2013年増刊号、診断と治療社、2013年、161頁</ref>。また、A型では、[[眼底検査]]において約半数に前述のcherry-red spotを認めることができる<ref name="厚労省AB"/>。C型では骨髄検査および遺伝子検査以外の[[臨床検査]]([[血液検査]]など)での特徴的な異常は確認できない<ref name="C型治療指針545"/>。
もっとも一般的な検査は[[骨髄検査|骨髄穿刺]]である<ref>堂野純孝「骨髄穿刺」『小児科診療』2012年増刊号、診断と治療社、2012年</ref>が、患者への負担は大きい。[[脾腫]]などの特徴的な症状がみられ、ニーマン・ピック病が疑われる場合に行う。骨髄穿刺は、針を[[骨盤]]の[[腸骨]](小児の場合は[[腸骨]]でも可能)に穿刺し、[[骨髄|骨髄液]]を吸入採取する<ref name="日本血液学会">日本血液学会「[http://www.jshem.or.jp/news/pdf/20150821.pdf 成人に対する骨髄穿刺の穿刺部位に関する注意]」、2009年</ref><ref>渡部俊幸・嶋田明「骨髄検査」『小児科診療』2013年増刊号、診断と治療社、2013年、157頁</ref>。採取後、骨髄液を薄く広げて標本にした[[骨髄塗抹標本]]において、前述の泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)が観察される<ref>渡部俊幸・嶋田明「骨髄検査」『小児科診療』2013年増刊号、診断と治療社、2013年、161頁</ref>。また、A型では、[[眼底検査]]において約半数に前述のチェリーレッド斑を認めることができる<ref name="厚労省AB"/>。網膜の色素異常を起こすこともあり、網膜電位図(ERG)で異常がみられることが多い<ref name="日本臨牀135"/>。[[末梢神経]]における伝導速度は遅くなる<ref name="日本臨牀135"/>。呼吸障害は顕著ではないが、[[X線撮影|肺レントゲン像]]では肺浸潤影などの所見がみられることが多い<ref name="日本臨牀135"/>。C型では骨髄検査および遺伝子検査以外の[[臨床検査]]([[血液検査]]など)での特徴的な異常は確認できない<ref name="C型治療指針545"/>。

そのほか病理組織学的には、脾臓では脾洞とよばれる部位において泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)の浸潤を認め、肝臓でも空胞をもった大型の[[クッパー細胞]](肝臓に存在する[[マクロファージ]])が現れる<ref name="日本臨牀135"/>。肺重量も増加し、[[リンパ管]]、[[肺動脈]]、[[肺胞]]への泡沫細胞浸潤がみられる<ref name="日本臨牀135"/>。


=== 診断 ===
=== 診断 ===
A型の診断では、肝脾腫、発達の退行、[[深部腱反射|腱反射]]減弱・消失、cherry-red spotの存在、[[X線撮影|胸部レントゲン検査]]、網膜電位図(ERG)、末梢神経伝達速度、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから診断を行う<ref name="日本臨牀138">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、138頁</ref>。B型においては、神経症状がみられないため、肝脾腫、[[X線撮影|胸部レントゲン検査]]、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから疑う。確定診断としては、培養皮膚の[[線維芽細胞]]における酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の酵素診断を行う。原因遺伝子のSMPD1の[[突然変異|変異]]の解析でも診断が可能である<ref name="厚労省AB"/>。
A型の診断では、肝脾腫、発達の退行、[[深部腱反射|腱反射]]減弱・消失、チェリーレッド斑の存在、[[X線撮影|胸部レントゲン検査]]、網膜電位図(ERG)、末梢神経伝達速度、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから診断を行う<ref name="日本臨牀138">大野耕策「ニーマン・ピック病[A型, B型]」『日本臨牀』53巻12号、日本臨牀社、1995年、138頁</ref>。B型においては、神経症状がみられないため、肝脾腫、[[X線撮影|胸部レントゲン検査]]、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから疑う。それぞれの確定診断としては、培養皮膚の[[線維芽細胞]]における酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の酵素診断を行う。原因遺伝子のSMPD1の[[突然変異|変異]]の解析でも診断が可能である<ref name="厚労省AB"/>。


C型が疑われた場合、NP-C-SIと呼ばれるもの用いたスクリーニングをう<ref name="PharmaMedica94"/>。インターネッ上には医師や看護師等の[[医療従事者|医療関係者]]による使用を前提とし<ref name="suspicion_index2">Actelion Pharmaceuticals Ltd: [http://www.npc-si.jp/public/ NP-C Suspicion Indexへようこそ],大野耕策 訳監修,2013年, 2015年11月最終確認</ref>診断の補助のためのスクリーニングサイトが存在する[http://www.npc-si.jp/public/]。Web上のサイトに特有の症状の有無を入力していくと、ニーマン・ピック病C型に該当する可能性を予測スコアとして表示する<ref name="suspicion_index">Actelion Pharmaceuticals Ltd: [http://www.npc-si.jp/calculator NP-C Suspicion Index],大野耕策 訳監修,2013年, 2015年11月最終確認</ref>。ただし、4歳以下で神経症状の少ない例では[[誤診]]する可能性があることに注意して使用する必要がある<ref name="C型治療指針545"/>。2015年現在、4歳未満用の新たなスクリーニングツールの公開が予定されている<ref name="PharmaMedica94"/>。
C型は、A型・B型と異なり早期の治療介入で予後を改善しうるが、特異的な症状が乏しく、疾患自体が稀なため診断が困難である<ref name="suspicion_index_developed">大野耕策 監修「[http://www.npc-si.jp/developed NP-C Suspicion Index(NP-C疑う指標)の開発]」最終更新日 2013年4月19日。2016年2月14日閲覧。</ref>。このめ、2010年に一般臨床医がスクリーニングの補助となるよう設計された「ニーマン・ピック病C型指標」(NP-C-SI, Niemann-Pick type C Suspicion Index)と呼ばれるチェックシートが、小児科医、神経科医、精神科医、生物統計専門家からなる国際チームによって開発された<ref name="suspicion_index_developed"/>。NP-C-SIは、スス製薬企業の[[アクテリオ]]のWebサイで<ref name="Actelion Japan">Actelion Pharmaceuticals Japan Ltd. [http://www1.actelion.co.jp/jp/company-info/index.page? 会社案内], 2016年2月最終確認</ref><!-- アメリカ合衆国在住者以外 -->[[医療従事者|医療関係者]]向けとして公開されている([http://www.npc-si.jp/public/ http://www.npc-si.jp/public/])<ref name="suspicion_index2">Actelion Pharmaceuticals Ltd: [http://www.npc-si.jp/public/ NP-C Suspicion Indexへようこそ],大野耕策 訳監修,2013年, 2015年11月最終確認</ref>。Web上のサイトに内臓症状、神経症状、および精神症状についてチェックリストを入力していくと、ニーマン・ピック病C型である可能性を予測スコアとして算出し表示する<ref name="suspicion_index">Actelion Pharmaceuticals Ltd: [http://www.npc-si.jp/calculator NP-C Suspicion Index],大野耕策 訳監修,2013年, 2015年11月最終確認</ref>。ただし、4歳以下で神経症状の少ない例では[[誤診]]する可能性があることに注意して使用する必要がある<ref name="C型治療指針545"/>。2015年現在、4歳未満用の新たなスクリーニングツールの公開が予定されている<ref name="PharmaMedica94"/>。


C型の確定診断は、前述の骨髄検査によって作成した骨髄塗抹標本<ref name="PharmaMedica96">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、96頁</ref>や、原因遺伝子のNPC1あるいはNPC2の[[突然変異|変異]]の[[同定]]<ref name="C型治療指針545"/>、遊離コレステロールを特異的に結合する[[フィリピン (化合物)|フィリピン]]の染色を皮膚生検による培養皮膚繊維芽細胞に用いて、細胞内コレステロールの蓄積を証明する方法などがある<ref name="AkitaJMed2-3">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、2-3頁,fig.4</ref><ref name="NPC患者家族会2">ニーマン・ピックC型患者家族の会[http://www.npcj.net/npc3.html ニーマン・ピックC型の診断方法],大野耕策 監修</ref>。このうち、培養細胞のフィリピン染色は培養に時間がかかるほか、成人期発症例では[[第一種過誤と第二種過誤#定義|偽陽性]]となりやすいことから、血清を用いた染色法も提案されている<ref name="PharmaMedica96"/>。ただし、この血清を用いた方法もA型やB型をC型と過剰診断する可能性がある<ref name="PharmaMedica96"/>。その一方、新たな検査法として、[[特異度]]・[[感度]]が高い(つまり、実際の疾患の有無と検査結果がより一致しやすい)血清オキシステロール検査が確立されている<ref name="PharmaMedica96"/>。ドイツとイタリアではこの検査の普及によって、2013年から2014年にかけてニーマン・ピック病症例数が急増している<ref name="PharmaMedica91"/>。ただし、[[シトリン欠損症]]でもオキシステロールがやや上昇するため、シトリン欠損症が比較的多い日本においてはこれらとの鑑別も必要となる<ref name="PharmaMedica97">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、97頁</ref>。
C型の確定診断は、前述の骨髄検査によって作成した骨髄塗抹標本<ref name="PharmaMedica96">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、96頁</ref>や、原因遺伝子のNPC1あるいはNPC2の[[突然変異|変異]]の[[同定]]<ref name="C型治療指針545"/>、遊離コレステロールを特異的に結合する[[フィリピン (化合物)|フィリピン]]の染色を皮膚生検による培養皮膚繊維芽細胞に用いて、細胞内コレステロールの蓄積を証明する方法などがある<ref name="AkitaJMed2-3">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、2-3頁,fig.4</ref><ref name="NPC患者家族会2">ニーマン・ピックC型患者家族の会[http://www.npcj.net/npc3.html ニーマン・ピックC型の診断方法],大野耕策 監修</ref>。このうち、培養細胞のフィリピン染色は培養に時間がかかるほか、成人期発症例では[[第一種過誤と第二種過誤#定義|偽陽性]]となりやすいことから、血清を用いた染色法も提案されている<ref name="PharmaMedica96"/>。ただし、この血清を用いた方法もA型やB型をC型と過剰診断する可能性がある<ref name="PharmaMedica96"/>。その一方、新たな検査法として、[[特異度]]・[[感度 (医学)|感度]]が高い(つまり、実際の疾患の有無と検査結果がより一致しやすい)血清オキシステロール検査が確立されている<ref name="PharmaMedica96"/>。ドイツとイタリアではこの検査の普及によって、2013年から2014年にかけてニーマン・ピック病症例数が急増している<ref name="PharmaMedica91"/>。ただし、[[シトルリン血症#II型|シトリン欠損症]]でもオキシステロールがやや上昇するため、シトリン欠損症が比較的多い日本においてはこれらとの鑑別も必要となる<ref name="PharmaMedica97">大野・阿部ほか「ニーマンピック病C型-早期診断と治療」『Pharma Medica』vol.33 No.5、メディカルレビュー社、2015年、97頁</ref>。


=== 出生前診断 ===
=== 出生前診断 ===
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A型は著しく予後が悪く、生後3年程度で死亡する。B型では症状の程度によって成年期まで生存することもある<ref name="STEP136"/>。
A型は著しく予後が悪く、生後3年程度で死亡する。B型では症状の程度によって成年期まで生存することもある<ref name="STEP136"/>。


治療法として[[骨髄移植]]がある。肝脾腫の改善などがみられるが[[中枢神経系|中枢神経]]には無効であり<ref name="厚労省AB"/>、死亡が避けられるわけではない<ref name="STEP136"/>。B型でも肝脾腫大の縮小や[[肝臓]]内の[[スフィンゴミエリン]]の減少などが観察されているが、骨髄移植の有効性は明確に立証されていない<ref name="厚労省AB"/>。また、異常な[[酵素]]の代わりとして正常な酵素を外から補充する[[酸素補充療法]]の効果が期待されている<ref name="AkitaJMed7">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、7頁</ref>。ただし、この療法もマウスの実験段階では中枢神経系への効果は認められず、治療によって生命予後は変化していない<ref name="AkitaJMed7"/>。そのため、現在神経症状のないB型に関しては、欧米などで臨床試験中である<ref name="厚労省AB"/>。そのほかの治療は症状を緩和するための対症療法に限られ<ref name=Curto-treatment>{{cite web |work=Medscape Reference: Drugs, Diseases & Procedures |chapter=Medical Care |first=Lynne last=Ierardi-Curto |title=Sphingomyelinase Deficiency Treatment & Management |accessdate=2015-11 |date=2014-03-27 |url=http://emedicine.medscape.com/article/951564-treatment}}</ref>、現在のところ有効な根治療法は存在しない。
治療法として[[骨髄移植]]がある。肝脾腫の改善などがみられるが[[中枢神経系|中枢神経]]には無効であり<ref name="厚労省AB"/>、死亡が避けられるわけではない<ref name="STEP136"/>。B型でも肝脾腫大の縮小や[[肝臓]]内の[[スフィンゴミエリン]]の減少などが観察されているが、骨髄移植の有効性は明確に立証されていない<ref name="厚労省AB"/>。また、異常な[[酵素]]の代わりとして正常な酵素を外から補充する[[酸素補充療法]]の効果が期待されている<ref name="AkitaJMed7">高橋勉「先天代謝異常症: 遺伝子クローニング以降の展開 -ニーマンピック病を中心に-」『Akita Journal of Medicine』第35巻1号、秋田大学、2008年、7頁</ref>。ただし、この療法もマウスの実験段階では中枢神経系への効果は認められず、治療によって生命予後は変化していない<ref name="AkitaJMed7"/>。そのため、神経症状のないB型に関しては、2015年現在欧米などで臨床試験中である<ref name="厚労省AB"/>。そのほかの治療は症状を緩和するための対症療法に限られ<ref name=Curto-treatment>{{cite web |work=Medscape Reference: Drugs, Diseases & Procedures |chapter=Medical Care |first=Lynne last=Ierardi-Curto |title=Sphingomyelinase Deficiency Treatment & Management |accessdate=2015-11 |date=2014-03-27 |url=http://emedicine.medscape.com/article/951564-treatment}}</ref>、2015年現在有効な根治療法は存在しない。

2021年、サノフィ株式会社は、ヒト酸性フィンゴミエリナーゼ製剤「olipudase alfa」について、成人および小児における非中枢神経系病変に対する唯一の治療法として、世界で初めて日本で承認申請をしたと発表した。


=== C型 ===
=== C型 ===
神経症状のひとつである嚥下障害にともなう合併症として誤嚥性[[肺炎]]があり、これによる死亡リスク高い<ref name="PharmaMedica91"/>。
予後は発症時期によって異なり、発症後10年間の死亡率は未治療の場合、2歳未満の発症の場合はほぼ100%、2歳から11歳までの場合83%、11歳以上の場合は32%となっている<ref name="OrphanetJ">Mark Walterfang M,et al "Dysphagia as a risk factor for mortality in Niemann-Pick disease type C: systematic literature review and evidence from studies with miglustat":Orphanet J Rare Dis. 2012; 7: 76.</ref>。神経症状のひとつである嚥下障害にともなう合併症として誤嚥性[[肺炎]]があり、治療を行わない場合の死亡リスク高いものの、治療薬の開発によって大きく改善してきている<ref name="PharmaMedica91"/>。


C型の治療薬としては、一般名「ミグルスタット」(商品名「ブレザーベス」)が開発され、複数の国で承認されている<ref name="ミグルスタット日本承認"/>。ミグルスタットの投与によって生存率は大きく改善している<ref name="PharmaMedica91"/>。この治療薬は、C型において蓄積する[[代謝物]]の一つである[[グルコシルセラミド]]の生成を抑制する。これによって、神経症状発現の遅延や、生存期間の延長、[[脳]]における[[ガングリオシド]]蓄積の抑制などの効果があるとされる<ref>アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社 [http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00060362.pdf ブレザーベスカプセル]</ref>。神経症状発症前の使用で発症を予防できる可能性も報告されている<ref name="C型治療指針546">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、546頁</ref>。ただし、腸内にガスがたまる鼓腸や、[[下痢]]、体重増加不良、[[振戦]]などの副作用もあり、さらに肝脾腫などへの効果はないとされる<ref name="C型治療指針546"/>。その他の治療薬としては、[[シクロデキストリン]]が、治験中の人道的使用(Compassionate Use)として[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)から認められており、ミグルスタットとの併用で肝脾腫の縮小などが報告されている<ref name="PharmaMedica97"/>。
C型の治療薬としては、一般名「[[ミグルスタット]]」(商品名「ブレザーベス」)が開発され、複数の国で承認されている<ref name="ミグルスタット日本承認"/>。ミグルスタットの投与によって生存率は大きく改善している<ref name="PharmaMedica91"/>。この治療薬は、C型において蓄積する[[代謝物]]の一つである[[グルコシルセラミド]]の生成を抑制する。これによって、神経症状発現の遅延や、生存期間の延長、[[脳]]における[[ガングリオシド]]蓄積の抑制などの効果があるとされる<ref>アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社 [http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00060362.pdf ブレザーベスカプセル]</ref>。神経症状発症前の使用で発症を予防できる可能性も報告されている<ref name="C型治療指針546">大野耕索「ライソゾーム病6:Niemmann-Pick病C型」『小児科診療』2014年増刊号、診断と治療社、2014年、546頁</ref>。ただし、腸内にガスがたまる鼓腸や、[[下痢]]、体重増加不良、[[振戦]]などの副作用もあり、さらに肝脾腫などへの効果はないとされる<ref name="C型治療指針546"/>。その他の治療薬としては、[[シクロデキストリン]]が、治験中の人道的使用(Compassionate Use)として[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)から認められており、ミグルスタットとの併用で肝脾腫の縮小などが報告されている<ref name="PharmaMedica97"/>。


その、対症療法として、嚥下障害が認められる場合の[[胃瘻]]、[[気管切開]]や、眼球乾燥を防ぐ点眼なども考慮される<ref name="C型治療指針546"/>。
そのほか、対症療法として、嚥下障害が認められる場合の[[胃瘻]]、[[気管切開]]や、眼球乾燥を防ぐ点眼なども考慮される<ref name="C型治療指針546"/>。

== 出典 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[ゴーシェ病]]
* [[ゴーシェ病]]


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== 出典 ==
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[[Category:先天性代謝異常]]
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[[Category:小児科学]]
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[[Category:希少疾患]]
[[Category:希少疾患]]
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2024年10月26日 (土) 22:17時点における最新版

ニーマン・ピック病
概要
診療科 小児科神経内科
分類および外部参照情報
ICD-10 E75.2 (ILDS E75.230)
ICD-9-CM 272.7
OMIM 257200 257220 601015 607608 607616 607623 607625
DiseasesDB 9016 34341 33390
MedlinePlus 001207
eMedicine derm/699
Patient UK ニーマン・ピック病
MeSH D009542
GeneReviews

ニーマン・ピック病(ニーマン・ピックびょう、Niemann-Pick disease)は、先天的な遺伝子の変異によって引き起こされる酵素の異常によって、本来分解されるはずの不溶性の代謝物が細胞内に蓄積する先天性代謝異常症である[1]常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる[2]

分類によって発症メカニズム・症状・予後などが大きく異なる疾患であり、ニーマン・ピック病A型およびB型は、細胞内の酸性スフィンゴミエリナーゼの異常によって起こるスフィンゴミエリンの蓄積が原因とされ、内臓腫大等の症状を生じる[3]。ニーマン・ピック病C型は脂肪輸送の欠陥によって、細胞内にコレステロールが蓄積し、小児期に運動失調やその他の神経症状を生じる[3]

概要

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常染色体劣性遺伝(両親ともに遺伝的保因者の場合)

常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる先天性遺伝子疾患である[2]

細胞小器官の一つであるリソソーム(ライソゾーム)は、体内のさまざまな物質を加水分解酵素で分解する役割を持つ[4]。この酵素(リソソーム酵素と総称される)に先天的な遺伝子の変異が生じると、酵素によって本来分解されるべき代謝物が分解されず、細胞内に蓄積してしまい異常が生じる。このような疾患をライソゾーム病と呼び[4]、ニーマン・ピック病もこの一種である。

変異する遺伝子によって大きく二つに分類され、SMPD1と呼ばれる遺伝子の変異によって生じるものをニーマン・ピック病A型・B型[5]、NPCと呼ばれる遺伝子の変異で生じるものをニーマン・ピック病C型と呼ぶ[6]。蓄積する代謝物はA型・B型とC型とでやや異なり、A型・B型ではスフィンゴ脂質の一種であるスフィンゴミエリンが、C型ではコレステロールがおもに蓄積する[7]。ニーマン・ピック病の他にも、スフィンゴミエリンとは異なるスフィンゴ脂質が蓄積するライソゾーム病は複数あり、これらを総称してスフィンゴリピドーシスと呼ぶ。[8]

臨床症状としておもに脾腫が生じ、一部では神経症状を認める。専門とする診療科は神経内科であるが、神経症状あるいは発症時期などから小児科あるいは精神科に受診して、その後神経内科へ紹介される例もある[9]。また、病理組織像としては、主にニーマン・ピック細胞とよばれる泡沫状の空胞を有する細胞が主に骨髄脾臓で観察されることが特徴である[10][11]予後は分類によって大きく異なる。

歴史

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ニーマンピック病が最初に報告されたのは、1914年である。ドイツの小児科医、アルベルト・ニーマン英語版が、ユダヤ人幼児において神経症状が急速に進む症例を報告した[5]。このとき彼はこの症例を、ゴーシェ病と似ているが神経症状がゴーシェ病とは一致しない、と評価した[12]。その後、1926年にドイツの科学者ルートヴィヒ・ピック英語版が、アルベルト・ニーマンの報告した症例は、ゴーシェ病とは組織学的に異なるものであることを示した[13]。以後、彼らの名前をとって「ニーマン・ピック病」と呼ばれることになる[12]

その後、1961年にクロッカー(Crocker)によって、A型からD型までの4つに分類される[14]。さらにこれに追加して、1967年にリン(Lynn)とテリー(Terry)によって、成人のニーマン・ピック病がE型と分類された[15]。また、シュナイダー(Schneider)らによって神経症状が異なる患者が1978年に報告され、F型と分類された[15]。ただし、現在ではD型はC型として論じられることが多く[16]、E型やF型には明確な定義はないとされており[17]、主にA型・B型、C型の分類が多く用いられている。

分類が進むとともに、病因の解析も進められた。1934年には、クレンク(Klenk)が患者組織に蓄積している物質をスフィンゴミエリンと同定した[5][18]。1966年には、ブラディ(Brady)によって、スフィンゴミエリンを分解する酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼが患者組織において欠損していることが示された[5][19]。さらに、Levran[訳語疑問点]らによって、遺伝子SMPD1 の変異が1991年に発見され[17][20]、1992年には秋田大学高橋勉らによって、ニーマン・ピック病A型およびB型がこのSMPD1 の変異により生じると報告された[17][20][21]。C型についても、1997年に、Carstea[訳語疑問点]らによって、症例の90%以上に特徴的な遺伝子が同定され、NPC-1 と命名されている[22]。さらに2000年には、Naureckiene[訳語疑問点]らによって、C型における別の原因遺伝子NPC2 が報告されている[23]

治療法としては、EUにおいてニーマン・ピック病C型の治療薬ミグルスタットが2009年に承認され[24]、日本においても2012年に承認されている。[25]

分類

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A~F型に分類される[2]が、D~F型は極めてまれであり、D型はC型としてまとめられることが多い[16]

おもな型

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  • A型 (急性神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)活性が5%以下の重症型[5]SMPD1 の変異が原因[26]
  • B型 (慢性非神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)活性は5%以上で、神経症状はみられないのが特徴[7]SMPD1 の変異が原因[26]
  • C型 (慢性神経型) - コレステロールの蓄積がみられ、NPC 遺伝子の変異が原因。
    • C1型 - NPC1 の変異が原因の型[27]
    • C2型 - NPC2 の変異が原因の型[28]

極めてまれな型

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  • D型 - カナダノバスコシア州で特有の型として報告されたが、通常C1型として論じられる[16]
  • E型 - 思春期以降に発症するものが分類される[29]が、明確な定義はない[17]
  • F型 - 1978年に報告された症状が他のものと少し異なる型だが、明確な定義はない[17]

機序・病態

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スフィンゴミエリン
コレステロール
ガングリオシドの構造

A型およびB型

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A型およびB型は、神経組織細胞膜を構成するリン脂質であるスフィンゴミエリンが蓄積することによって生じる[3]

神経線維は、細胞体と軸索によって構成されている。軸索にはミエリンと呼ばれる絶縁性のリン脂質が存在しており、これによってヒトは中枢神経系などを保護[7]し、伝導速度を確保している。このミエリンを構成するのがスフィンゴミエリンであり、その量のバランスを合成経路と分解経路によって保っている。スフィンゴミエリンの代謝経路では、細胞内のリソソームに存在する加水分解酵素の一つである酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM、あるいはスフィンゴミエリン・ホスホジエステラーゼ;SMPD)が重要な役割を果たしている。酸性スフィンゴミエリナーゼはホスホリパーゼCの一種であり、スフィンゴミエリンの一部を除去しセラミドへと分解する[7]

ニーマン・ピック病A型,B型の原因は、遺伝子異常によって酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損することである[3]。代謝されずに残ったスフィンゴミエリンが、神経細胞や除去しようと集まったマクロファージに蓄積する。集まったマクロファージは脂質の小滴や粒子であふれ、細胞質内に細かい空胞や泡沫が形成される[3]。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ[10]。また、スフィンゴミエリンが分解されないため、分解産物であるセラミドも生じない。セラミドとセラミドをさらに分解してできるスフィンゴシンは、アポトーシス促進作用がある[7]。そのため、ニーマン・ピック病の患者にはアポトーシス耐性をもつ細胞も生じる。

原因遺伝子

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原因遺伝子は酸性スフィンゴミエリナーゼ (スフィンゴミエリン・ホスホジエステラーゼ1;Sphingomyelin phosphodiesterase 1(en))から、SMPD1と名付けられている[26]SMPD1は酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)をコードしている遺伝子である[20]。1991年にこの遺伝子の完全長の相補的DNA配列が報告され[30]、同年にはLevran[訳語疑問点]らによって、ニーマン・ピック病A型およびB型にSMPD1の変異が発見されている[20]

C型

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C型は、A型およびB型とは病態が異なるとされる。肝臓や脾臓においてスフィンゴミエリンのほかに、コレステロールやその他の糖脂質などが蓄積し、脳ではとくにGM2,GM3ガングリオシドと呼ばれる糖脂質の蓄積がみられる[31]

C型の原因を述べる上で重要なのがコレステロールの代謝経路である。体内に吸収されたコレステロールは、さまざまな種類のリポタンパク質とよばれる状態で存在する[32]。リポタンパク質のうちコレステロールの占める割合の大きいLDL(いわゆる悪玉コレステロール)は、LDL受容体を介して肝臓などの細胞中に吸収される。この吸収はエンドサイトーシスとよばれる方法で行われ、その際吸収されたLDLはエンドソームという小胞を形成し、この小胞はリソソーム内の酵素によって分解される[33]。このとき、ニーマン・ピック病C型では遺伝子異常によってリソソームからコレステロールを排出できない[33]ため、コレステロールは分解されずに細胞質内に蓄積する。つまり、細胞内にコレステロールが取り込まれたのちの反応が起こらないことがC型の特徴である[34]。A型やB型と同様に、骨髄中にニーマン・ピック細胞の存在が認められる[35]

原因遺伝子

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原因遺伝子はニーマンピック病C型(NPC)からNPC1 およびNPC2 と名付けられており[36]、多くの症例はNPC1 の変異が占めている[3]NPC1遺伝子は18番染色体長腕q11-q12に存在し、ミスセンス突然変異挿入欠失、重複など240以上の変異が報告されている[37]NPC2 遺伝子は、14番染色体長腕q24.3に存在する[37]

1980年代後半ごろから原因遺伝子の検索がおこなわれ、1991年に、C型の大部分(90%以上)に特徴的な遺伝子が同定され、NPC-1 と命名された。遺伝子NPC1 によるタンパク質NPC1はリソソームおよび後期のエンドソームに存在する膜タンパク質であり[30]、コレステロールの恒常性維持に関与すると考えられている[37]。細胞内コレステロール輸送の重要分子と考えられているが、病態への関与のメカニズムには不明な点が多い[38]

NPC2はリソソーム内のコレステロール結合タンパク質であり、NPC1と相補的に機能していると考えられている[30]NPC2 は、ヒト精巣上体分泌タンパク質であるHE1を産生する遺伝子であり、2000年にニーマン・ピック病C型の少数型において変異が認められると報告された[23]。リソソーム内のコレステロールはまずこのHE1(NPC2)と結合し、次に膜タンパク質であるNPC1に受け渡され、リソソームの外へ運ばれているのではないかと予想されている[23]。NPC1とNPC2には重複する働きはないとされているが、それぞれの正確な機能は十分には明らかになっていない[39]

ニーマン・ピック細胞

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脾臓におけるニーマン・ピック細胞(HE染色

前述の通り、ニーマン・ピック病では蓄積したスフィンゴミエリンなどの糖脂質を貪食したマクロファージの内部が、脂質の小滴や粒子であふれ、細胞質内に細かい空胞や泡沫が形成される[3]。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ[10]。主に骨髄脾臓で観察され、リンパ管肺動脈肺胞へも浸潤がみられることがある[11]

ニーマン・ピック細胞は単核で、たくさんの脂肪滴を含んでいる[11]。脂肪滴の大きさはほぼ均一[11]。スダンブラックBやオイルレッドOと呼ばれる染色で染色されるほか、シュルツのコレステロール染色法(シュルツ反応)が陽性となる。[10]PAS染色でも弱い染色を示す[11]。これらによって同じ先天性代謝異常症の一つであるゴーシェ病におけるゴーシェ細胞(封入体)との区別が可能である[11]。(ゴーシェ細胞ではシュルツ反応が陰性、PAS染色が陽性となる。)

疫学

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発症に男女差はない[2]。日本では、ライソゾーム病の一つとして特定疾患(難病)に指定されている[40]ため、一定の認定基準のもとで治療費は公費で負担される[41]。また、C型に関しては、患者や家族への情報発信、専門研究機関への治療・研究等の要請や啓発活動を目的とした「ニーマン・ピック病C型患者家族の会」が患者家族によって設立されている[42]

A型およびB型の発症率はおおむね10万人に1人。すべての人種に見られるが、A型は特に東欧系ユダヤ人に多いとされ[7]、その割合はおおむね4万人に1人である[16]。原因遺伝子であるSMPD1の変異はユダヤ人に高頻度に存在している[30]。発症頻度の少ないユダヤ人以外の人種においては、B型の遺伝子変異の一部が高頻度に存在している[30]。日本人においては、高頻度の遺伝子異常は見出されておらず、日本においてニーマン・ピック病がきわめて稀な疾患であることを物語っている[30]

C型は、欧米では12万人に1人の頻度と考えられており、日本人における頻度は明確ではないが、欧米とほぼ同じと考えられている[6]

症状

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脾臓肝臓骨髄リンパ節などが最も強く影響を受け、中でも脾臓が腫大する脾腫が特徴的である。これは、スフィンゴミエリン貪食したマクロファージの影響である[3]。そのほか、皮膚の異常としては顔面の黄色調変化のほかに、多汗、黄色腫、紫斑、カフェオレ斑[2]などさまざまである。骨髄では、ニーマン・ピック細胞がみられる[10]

A型およびB型

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眼底のチェリーレッド斑(写真はテイ・サックス病のもの)

A型患者の脳は全体的に小さく、特に小脳の障害が強い[11]。一部の神経細胞は膨化し、その内部には大きな封入体がみられることもある[11]。また、神経細胞の髄鞘形成不全を認めることもあり、脱髄を示す[11]。B型においては神経異常はほとんど見られない[3]。脾臓は10倍近くに腫大、肝臓は2倍近くに腫大する[11]

発症要因が同じであるため、A型とB型は症状が似ているが、より重症で急速に進むのがA型である。そのためA型は急性神経型と呼ばれる[10]。A型は、生後数か月で肝臓や脾臓の腫大から発症することが多い[43]。次いで神経症状として哺乳障害がおこり、この頃に筋緊張低下が生じる[43]。また、反復性の嘔吐がみられるようになり[43]、さらに骨髄や神経節を含むすべての中枢神経系が影響を受けるため、重篤な神経学的異常が生じる[3]。生後6ヶ月以降、運動発達遅滞が明らかとなり、進行すると筋緊張によって生じる痙縮固縮が著明になる[5]。筋緊張の低下によって、座れるようになってから以降の発達は見られることはなく、首が座るなどのすでにできるようになっていたことも徐々にできなくなっていく[43]腱反射は弱くなるか、消失することが多い[11]。眼底にはチェリーレッド斑(cherry-red spot)と呼ばれる黄斑が赤く見える症状が約半数の患者で現れる[11]。進行すると、やせて手足が細くなり、腹部だけが目立つようになる。痙性などの症状も現れ、周囲への反応もなくなる[11]。皮膚が黄色や黄土色を呈し、黄色腫が生じる場合もある[11]。通常、生後3年程度で死に至る[10]

B型では内臓腫大や肝硬変をきたすが、神経学的症状は出現しない[3]。1歳から2歳ごろに肝脾腫で発見され、肝硬変を呈するが、成年期まで生存することがある[10]。A型ではほぼ同じような発症年齢、臨床経過をたどるのに対し、B型ではばらつきが大きい[11]。通常の健康診断などによって乳児期から幼児期に発見されることもあれば、成人になってから脾腫から診断される例もある[11]。肝脾腫は小児期には目立つが、発育とともに目立たなくなる[11]。ほとんどの例で、肺レントゲン像において肺浸潤影などの所見がみられる[11]。さらに年を重ねると労作時に呼吸困難、肺性心(心臓の右心室肥大)が生じることもある[11]。神経症状が出現しないことが特徴であるが、A型と同じように網膜にチェリーレッド斑が現れる例や末梢神経シュワン細胞に異常を示す例、小脳性運動失調を伴う例の報告もある[11]

A型からB型までの症状に多様性がおこる原因は明らかではないが、酸性スフィンゴミエリナーゼ活性の残存の程度が症状の多様性に関連していると考えられている[43]

C型

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ニーマン・ピック病C型は主に小児期の疾患とされるものの[44]、A型やB型とは異なりあらゆる年齢で発症する[45]。慢性神経型と呼ばれ[10]脾腫のほかに、嚥下障害、笑うと脱力するカタプレキシー発達の遅れなどの中枢神経障害が現れる。進行性で多彩な神経症状が特徴[46]。発症時期によって、周産期型、乳児早期型、乳児後期型、若年型、思春期・成人型に分けられ、それぞれ顕著な症状が異なる[47]。神経症状としては、失調、認知症、垂直眼球運動障害はどの年齢においてもみられる[48]。また、注意すべき症状として神経麻痺に伴う嚥下困難があるが、これは誤嚥性肺炎につながり予後を左右する[46]

周産期型では、胆汁うっ滞や黄疸で発見され、通常は2~4ヵ月で改善するが、約10%の症例で肝不全に移行し6ヵ月までに死亡する例もある。また肝脾腫とともに肺の病気によって呼吸不全に至る例もある[47]。乳児早期・後期型では肝脾腫のほかに、発達の遅れ運動障害(歩行障害など)、カタプレキシーが生じる[47][49]。ただし、成人期に比べると特徴的な神経症状は少ない[45]。小児期にはカタプレキシーに加え、けいれんなどの症状があらわれるジストニアなどの神経症状が出現し、学業不振や知的退行、問題行動が目立つようになる[45]。若年型では脾腫は認めないことが多いが、書字困難や集中力低下などのほか、運動障害による歩行の不安定、嚥下障害などが現れる。痙性麻痺を合併することもある[47]。思春期・成人型では、妄想幻視幻聴などの精神症状や攻撃性を示すなどの行動異常がみられる。運動障害としてはけいれんなどの意図しない筋収縮(ジストニア)、舞踏運動パーキンソン病と似た症状(パーキンソン症候群)を認める[47]

検査・診断

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骨髄穿刺

もっとも一般的な検査は骨髄穿刺である[50]が、患者への負担は大きい。脾腫などの特徴的な症状がみられ、ニーマン・ピック病が疑われる場合に行う。骨髄穿刺は、針を骨盤後腸骨棘(小児の場合は前腸骨稜でも可能)に穿刺し、骨髄液を吸入採取する[51][52]。採取後、骨髄液を薄く広げて標本にした骨髄塗抹標本において、前述の泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)が観察される[53]。また、A型では、眼底検査において約半数に前述のチェリーレッド斑を認めることができる[5]。網膜の色素異常を起こすこともあり、網膜電位図(ERG)で異常がみられることが多い[11]末梢神経における伝導速度は遅くなる[11]。呼吸障害は顕著ではないが、肺レントゲン像では肺浸潤影などの所見がみられることが多い[11]。C型では骨髄検査および遺伝子検査以外の臨床検査血液検査など)での特徴的な異常は確認できない[47]

そのほか病理組織学的には、脾臓では脾洞とよばれる部位において泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)の浸潤を認め、肝臓でも空胞をもった大型のクッパー細胞(肝臓に存在するマクロファージ)が現れる[11]。肺重量も増加し、リンパ管肺動脈肺胞への泡沫細胞浸潤がみられる[11]

診断

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A型の診断では、肝脾腫、発達の退行、腱反射減弱・消失、チェリーレッド斑の存在、胸部レントゲン検査、網膜電位図(ERG)、末梢神経伝達速度、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから診断を行う[54]。B型においては、神経症状がみられないため、肝脾腫、胸部レントゲン検査、骨髄穿刺によるニーマンピック細胞の存在などから疑う。それぞれの確定診断としては、培養皮膚の線維芽細胞における酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の酵素診断を行う。原因遺伝子のSMPD1の変異の解析でも診断が可能である[5]

C型は、A型・B型と異なり早期の治療介入で予後を改善しうるが、特異的な症状が乏しく、疾患自体が稀なため診断が困難である[55]。このため、2010年に一般臨床医がスクリーニングの補助となるよう設計された「ニーマン・ピック病C型を疑う指標」(NP-C-SI, Niemann-Pick type C Suspicion Index)と呼ばれるチェックシートが、小児科医、神経科医、精神科医、生物統計専門家からなる国際チームによって開発された[55]。NP-C-SIは、スイス製薬企業のアクテリオンのWebサイトで[56]医療関係者向けとして公開されている(http://www.npc-si.jp/public/[57]。Web上のサイトに内臓症状、神経症状、および精神症状についてのチェックリストを入力していくと、ニーマン・ピック病C型である可能性を予測スコアとして算出し表示する[58]。ただし、4歳以下で神経症状の少ない例では誤診する可能性があることに注意して使用する必要がある[47]。2015年現在、4歳未満用の新たなスクリーニングツールの公開が予定されている[45]

C型の確定診断は、前述の骨髄検査によって作成した骨髄塗抹標本[59]や、原因遺伝子のNPC1あるいはNPC2の変異同定[47]、遊離コレステロールを特異的に結合するフィリピンの染色を皮膚生検による培養皮膚繊維芽細胞に用いて、細胞内コレステロールの蓄積を証明する方法などがある[60][61]。このうち、培養細胞のフィリピン染色は培養に時間がかかるほか、成人期発症例では偽陽性となりやすいことから、血清を用いた染色法も提案されている[59]。ただし、この血清を用いた方法もA型やB型をC型と過剰診断する可能性がある[59]。その一方、新たな検査法として、特異度感度が高い(つまり、実際の疾患の有無と検査結果がより一致しやすい)血清オキシステロール検査が確立されている[59]。ドイツとイタリアではこの検査の普及によって、2013年から2014年にかけてニーマン・ピック病症例数が急増している[46]。ただし、シトリン欠損症でもオキシステロールがやや上昇するため、シトリン欠損症が比較的多い日本においてはこれらとの鑑別も必要となる[62]

出生前診断

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遺伝子検査や酵素解析などによる出生前診断が可能である。遺伝子解析では、両親および兄弟の遺伝子解析を行い、同じ遺伝子の変異を同定する方法で行う[54]。酵素検査では、A型・B型においては酸性スフィンゴミエリナーゼ活性を酵素測定する[3]ことによって、C型では羊水中に含まれる羊水細胞や絨毛細胞におけるコレステロール蓄積の測定によって行う[61]

治療・予後

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A型およびB型と、C型とでは原因が異なるため、治療予後ともに異なる。

A型およびB型

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A型は著しく予後が悪く、生後3年程度で死亡する。B型では症状の程度によって成年期まで生存することもある[10]

治療法として骨髄移植がある。肝脾腫の改善などがみられるが中枢神経には無効であり[5]、死亡が避けられるわけではない[10]。B型でも肝脾腫大の縮小や肝臓内のスフィンゴミエリンの減少などが観察されているが、骨髄移植の有効性は明確に立証されていない[5]。また、異常な酵素の代わりとして正常な酵素を外から補充する酸素補充療法の効果が期待されている[63]。ただし、この療法もマウスの実験段階では中枢神経系への効果は認められず、治療によって生命予後は変化していない[63]。そのため、神経症状のないB型に関しては、2015年現在欧米などで臨床試験中である[5]。そのほかの治療は症状を緩和するための対症療法に限られ[64]、2015年現在、有効な根治療法は存在しない。

2021年、サノフィ株式会社は、ヒト酸性フィンゴミエリナーゼ製剤「olipudase alfa」について、成人および小児における非中枢神経系病変に対する唯一の治療法として、世界で初めて日本で承認申請をしたと発表した。

C型

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予後は発症時期によって異なり、発症後10年間の死亡率は未治療の場合、2歳未満の発症の場合はほぼ100%、2歳から11歳までの場合83%、11歳以上の場合は32%となっている[65]。神経症状のひとつである嚥下障害にともなう合併症として誤嚥性肺炎があり、治療を行わない場合の死亡リスクが高いものの、治療薬の開発によって大きく改善してきている[46]

C型の治療薬としては、一般名「ミグルスタット」(商品名「ブレザーベス」)が開発され、複数の国で承認されている[25]。ミグルスタットの投与によって生存率は大きく改善している[46]。この治療薬は、C型において蓄積する代謝物の一つであるグルコシルセラミドの生成を抑制する。これによって、神経症状発現の遅延や、生存期間の延長、におけるガングリオシド蓄積の抑制などの効果があるとされる[66]。神経症状発症前の使用で発症を予防できる可能性も報告されている[31]。ただし、腸内にガスがたまる鼓腸や、下痢、体重増加不良、振戦などの副作用もあり、さらに肝脾腫などへの効果はないとされる[31]。その他の治療薬としては、シクロデキストリンが、治験中の人道的使用(Compassionate Use)としてアメリカ食品医薬品局(FDA)から認められており、ミグルスタットとの併用で肝脾腫の縮小などが報告されている[62]

そのほか、対症療法として、嚥下障害が認められる場合の胃瘻気管切開や、眼球乾燥を防ぐ点眼なども考慮される[31]

出典

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関連項目

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