コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

Motorola DynaTAC

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
DynaTAC 8000Xから転送)
DynaTAC 8000X(世界初の市販携帯電話。1984年発売。)
1973年4月3日に世界初の携帯電話の試作デモを行ったMartin Cooper。写真は2007年に当時の実機を用いてデモを再演した様子。この試作機がDynaTACモデルのプロトタイプとなった。

DynaTACシリーズは、モトローラが1983年から1994年まで開発・発売した携帯電話モデルである。最初のモデルDynaTAC 8000Xは世界初の市販携帯電話である。DynaTACは"Dynamic Adaptive Total Area Coverage"の略語である。

概要

[編集]

最初のモデルであるDynaTAC 8000Xは、FCCによって1983年9月21日に承認され[1]、1984年に発売された。完全に充電するまで約10時間を要し、30分間連続通話することができた[2]LEDディスプレイには、ダイヤルする番号やコンタクトに登録した番号を表示することができた。コンタクトには30件までの電話番号を登録することができた。発売時の1984年の価格は3,995ドルで、2023[3]年の11,716ドルに相当する。

DynaTac 8000Xは、形状や重量がレンガと同様だったため、brick phoneとユーザーから呼ばれることもあった[4]。それでも、当時としてはそれまでは車載機としてしか持ち運び可能でなかったが電話が、真に人が持ち運びできるレベルに到達した画期的な製品であった。

後継モデル8000sは1985年に発売され、1993年のClassic IIまで同シリーズの新モデルの発売は継続された。

DynaTACは携帯電話の市場を切り拓き、度々ニュースやメディアで特集され、裕福さと先進性の象徴であった[5]

DynaTACシリーズの後継として、一層小型軽量化したen:Motorola MicroTACが1989年より、en:Motorola StarTACが1996年より発売され、時代遅れとなったDynaTACに取って代わった。

歴史

[編集]

携帯電話の開発の歴史は、ベル研究所で1947年に最初に提唱されて始まった。1950年代と60年代を通じて、Federal Communications Commission (FCC) へ商用化の承認が訴えられ続けた。技術開発はモトローラが担った。1960年、電気技師のJohn F. Mitchellがモトローラの携帯電話開発の主任技術者となり、トランジスタを使った最初のポケベルが開発・発売された[6][7][8]

モトローラは車載無線電話の開発経験が豊富であったが、携帯電話の開発にはさらなる小型軽量化と内蔵バッテリーによる電源供給が求められるため、車載電話よりも困難な技術であった。MitchellのチームメンバーのMartin Cooperは携帯電話のプロトタイプを開発し、Mitchellのチームは1973年にこの成果に対して特許を取得した。この年の4月3日には世界初の携帯電話による発信・通話の実演がMartin Cooperにより行われた[9][10]。その後、Martin Cooperはチームを率いて、一般ユーザー向けの携帯電話DynaTAC 8000xの開発を行った。基本的な特許は、1975年9月6日のU.S. Patent 3,906,166である[11][12][13]。元々の携帯電話技術の基本的なアイデアはJames J. Mikulskiが提唱したが、当初はMitchellに不十分との理由で却下された[14]。400 MHzのシステムでは通話に制約があることに気づき、修正した内容でこの特許を申請した。

1983年10月13日に、2機のDynaTAC同士で、世界初の商用電話ネットワークを経由した携帯電話の通話が行われた[16] 。David D. Meilahnは彼の1983 Mercedes-Benz 380SLから、Ameritech Mobile Communicationsの元社長であったBob Barnettへと電話をかけ通話した。次にChryslerの車内からBob BarnettはDynaTACを用いて、ドイツにいるアレクサンダー・グラハム・ベルの孫へと電話をかけ通話した。このシカゴソルジャー・フィールドで行われたイベントは、携帯電話時代へ重要な一歩であった[17]。DynaTAC 8000xは、1984年に世界初の市販携帯電話として発売された。この最初のモデルは、非常に重く価格も高かったため、一般には広く普及しなかったが、年々のモデルの改良、小型化と低価格化によって普及が進んでいった。Mitchellが定年退職した1998年には携帯電話と関連サービスは、モトローラの300億ドルの年商の2/3を占めるようになった[18]

モトローラが携帯電話のハンドセットを開発している一方、1968–83年にベル研究所はAMPS (Advanced Mobile Phone System) と呼ばれる移動体通信システムの開発を行った。アナログ通信であるAMPSネットワーク上で使用できたDynaTACは、アナログ通信サービスが終了した後も国際通信網ではGSM 900で使用することができた。

1989年に後継シリーズのMicroTAC Seriesが発売された。

仕様

[編集]

いくつかのプロトタイプが1973年から1983年の間に作成された。FCCの承認を得た時点では、重さ28オンス (790グラム) で、フレキシブルなアンテナを除く高さ10インチ (25センチメートル) であった。典型的な電話に備わった12キーに加え、9つの特別なキーも備わっていた:

  • Rcl (recall)
  • Clr (clear)
  • Snd (send)
  • Sto (store)
  • Fcn (function)
  • End
  • Pwr (power)
  • Lock
  • Vol (volume)

DynaTAC 8シリーズ、Classic、Classic II、Ultra Classic、そしてUltra Classic IIは赤色LEDディスプレイが、DynaTAC Internationalシリーズは緑色LEDディスプレイが、そしてDynaTAC 6000XLはFLディスプレイが備わっていた。ディスプレイには電話番号など短い情報を表示することができた。バッテリーは最大で60分間の連続通話が可能な容量であり、トリクル充電で最大10時間、別売りの高速充電で1時間かかった[19]。DynaTACシリーズの中でも、6000XLは車載器用であった。

アクセサリー

[編集]

アフターマーケットの付属品として、真鍮の取り外し可能なアンテナがあった。また、1時間の高速充電器も発売されたが、発熱量やバッテリーの消耗の早さ等に難があった。レザー製のケースも発売された。これは、レザーで本体を覆い、ユーザーインターフェースのキー部分はプラスチックとなっていた。カバーには、ばね鋼のベルトクリップが付いていた。アンテナ取り付け部分のスペースがあり、カバーを付けたまま充電することもできたが、バッテリーの交換時にはカバーを取り外す必要があった。

関連項目

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ Motorola DynaTAC 8000X”. Motorola Mobility 2011. 2014年8月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  2. ^ "The History of Mobile Phone Technology". RedOrbit.
  3. ^ Federal Reserve Bank of Minneapolis Community Development Project. "Consumer Price Index (estimate) 1800–" (英語). Federal Reserve Bank of Minneapolis. 2019年1月2日閲覧
  4. ^ Nicola Green, Leslie Haddon (2009). Mobile Communications: An Introduction to New Media. Google Books. p. 20 
  5. ^ DynaTAC, The First Portable Phone”. Eyerys. 2018年5月20日閲覧。
  6. ^ John F. Mitchell Biography
  7. ^ The Top Giants in Telephony Archived 2013-01-17 at the Wayback Machine.
  8. ^ Who invented the cell phone?
  9. ^ Motorola Executive Helped Spur Cellular Revolution, Oversaw Ill-fated Iridium Project, Wall Street Journal, Remembrances, June 20–21, 2009, p. A10
  10. ^ Lane, Clare (June 17, 2009). “John F. Mitchell, 1928-2009: Was president of Motorola from 1980 to '95”. Chicago Tribune. http://articles.chicagotribune.com/2009-06-17/news/0906160393_1_mr-mitchell-cell-phone-john-f-mitchell December 5, 2011閲覧。 
  11. ^ Letter to Middle Schooler, granddaughter of Chuck Lynk, co-inventor of cell phone[リンク切れ], by James J. Mikulski, co-inventor of first cell phone April 3, 1973
  12. ^ Comments by Albert (Jim) Mikulski, co-inventor of first cell phone, June 6, 2009, Chicago Tribune (a):"Mitchell known as a hands on manager" (b): (c): (e): (f): (g): "willing to give credit to those who worked in the trenches." (c): (d): "I remember his delegating his task as...GM to work in the Applied Research Lab and in give and take with the engineers as the Federal Trade Commission (FTC) docket 18262 that would shape Motorola's future...in the 1970s." (h): Mitchell team member, (i) patent holder Archived February 7, 2012, at the Wayback Machine.
  13. ^ Co-inventor, First Cell Phone, J.J.Mikulski[リンク切れ]
  14. ^ Discontinuance of Product Line, Business Case Study Cell Phone[リンク切れ]; Macher, Jeffrey; Richman, Barak D. (2004). “Organizational Responses to Discontinuous Innovation: A Case Study Approach”. International Journal of Innovation Management 7 (1). SSRN 485282. 
  15. ^ 森島光紀「公衆移動通信システムの技術発展の系統化調査」『国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第7集』 独立行政法人 国立科学博物館、2007年3月30日
  16. ^ ただし携帯電話の名称は使用していないものの、日本の日本電信電話公社は4年前の1979年12月3日に、自動車電話として世界初の商用サービスを開始している[15]
  17. ^ Oehmke, Ted (January 6, 2000). “Cell Phones Ruin the Opera? Meet the Culprit”. The New York Times. https://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9F04EED8173BF935A35752C0A9669C8B63 2009年5月26日閲覧。 
  18. ^ John F. Mitchell, Time Magazine Milestones section, July 6, 2009, p.17
  19. ^ 20th Anniversary of the World's First Commercial Cellular Phone”. Motorola. 2007年6月7日閲覧。