「装輪装甲車」の版間の差分
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: 対戦車ミサイルの高性能化に伴い、装輪戦車という通称とは裏腹に、この種の車両は積極的に対戦車戦闘に投入されることは少なくなっている。たとえばM1128 ストライカーMGSを運用するアメリカ軍においては、FM 3-20.151において、ストライカー旅団の最有力の対戦車火力はM1134 ストライカーATGMであって、MGSの対戦車任務は副次的なものに過ぎないと規定した<ref group="注">ただし対戦車ミサイルは、砲弾と比較して容積が大きいので搭載可能な弾数が減少する上に、コストもはるかに高い</ref>。しかしながら、直接照準の大口径砲による[[火力支援]]という点で、これらの車両は、現在でも極めて大きな有用性を備えている。 |
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: 歩兵戦闘車型や装甲兵員輸送車型から小さな変更で作られるものが多く、後部兵員室の屋根を左右に大きく開き、兵員室床面のターンテーブル基台上の81mmや120mm程度の迫撃砲から攻撃する形式が多いが、[[砲塔]]型で搭載したり、連装砲にする考えもある。また、主たる迫撃砲とは別に、小型の迫撃砲を搭載することもある。 |
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: [[TOW (ミサイル)|BGM-71 TOW]]のような対戦車ミサイルを車体上の全周式発射機から発射する。対戦車ミサイル発射機は見た目にはかさばるが砲・砲塔と比べ軽量であるため、車体を掩蔽しつつ発射体制をとる際に発射機を持ち上げる機構が備わっていたり、走行時は車内に格納できるものもある。 |
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2022年11月29日 (火) 00:03時点における版
この記事のほとんどまたは全てが唯一の出典にのみ基づいています。 (2015年9月) |
装輪装甲車(そうりんそうこうしゃ、wheeled armored vehicle)は、タイヤ付き車輪によって走行する装甲車のことである。
本項目では軍用車両としての「装輪装甲車」について説明する。
概要
装甲車は、走行装置の形態により装軌装甲車と装輪装甲車に2分される[注 1]。装軌装甲車はキャタピラやクローラーと通称される無限軌道によって走行し、装輪装甲車は普通自動車とおおよそ同様のタイヤ付き車輪で走行する。
装輪装甲車と戦車をはじめとする装軌式の装甲車両は、ともに第一次世界大戦からほぼ同時期に実用化が始まった。しかし軍用は重装甲・強武装の大重量に耐え、不整地の野戦における機動性に優る装軌車両が主流派を占め、装輪装甲車の多くは技術的制約から戦線後方でのパトロール等の支援任務。あるいは不整地機動を想定しない警察用などとして運用されてきた。
冷戦が終結し主要国が大幅な軍縮に向かうと、装輪装甲車はコストの低さが注目され、装軌車が占めてきた領分にも急速に普及が進んでいる。このような経緯もあって、「装輪装甲車」は特に軍用の、また冷戦後新世代の車両群をとりあげていうことが多い。
民間や警察機関で用いられる装甲車はほぼ全てがタイヤ式の装輪装甲車であるため、単に「装甲車」と呼ばれる。
特徴
路上走行性能
装輪車両が備えるタイヤ付き車輪は舗装道路上を走行する限り、少ないエネルギー消費で安定した高速走行を行なえる。これは履帯を持つ装軌車両では成しえない特徴であり、少ない燃料消費は長い航続距離と兵站への負担軽減を与える。装軌車両は最高速度が普通70km/h程度である[注 2]が、装輪車両では100km/h以上の速度が出せる。
装軌車両は自身による長距離走行の信頼性不安に加えて、路面に対するダメージも大きいことから、道路網を通じた作戦地への移動にも一般に戦車運搬車(タンクトランスポーター、特大重量物運搬用のトレーラートラック類)を用いるが、装輪装甲車なら自走が可能である。装軌車両の履帯は大きな騒音と振動を生じ、乗員の疲労と故障につながり、被発見性も高まるが、装輪車両ではこれらの問題は小さい。
また、装軌車両が地雷などで履帯を切断されると走行不能に陥るのに対し、装輪車両は1輪や2輪が損傷しても走行可能なものが多い[注 3]。路面にかかわらず装輪車両の駆動系の信頼性は装軌車両より高い。
こういった利点に対し、装軌車両が持つ「不整地走破能力」、「越壕能力」、「越堤能力」、「登坂能力」などのいわゆる「路外走行性能」が劣るといえる[1]。
軽量
装輪車両は履帯のような広い接地面積を持たず、円筒形状のタイヤがわずかに変形することで狭い接地面を生み出している。柔らかな地面では沈み込むことで接地面積は広がるが、過度に沈み込めば走行できなくなる。必然的に装輪車両は車体重量[注 4]が軽量となり、輸送時の兵站に与える負担が少なくなり、条件が合えば空輸も可能になる[1]。
軽装甲
軽量な車体は装甲厚を制約し、劣った防護能力しか実現できない。ERAなどの付加装甲によって成形炸薬弾、対戦車地雷や即席爆発装置(IED)のような脅威に対しては、辛うじて対応できるが、運動エネルギー弾にはほとんど耐えられない。
ただし冷戦後の普及と高性能化・大重量化が進む中で、かつては主力戦車くらいしか用いられていなかった複合装甲なども採用され、前面装甲は30mmAPFSDS弾に耐えるとされるもの[注 5]もある。
低い威圧感
装軌車両は陸上軍事力の象徴である戦車を想起させ、威圧感がある。戦場であれば威圧感にも意味があるが、治安維持活動では軍事占領を想起させるため、地元住民に警戒感と敵意を生じさせて無用な摩擦の元となる可能性があり、また、ニュース報道を経由した先進国を中心とする国際世論でも良い効果は得られない。装輪車両であれば見慣れた大型トラックのようにも感じられるため威圧感は低く、無用な摩擦を避けられる[1]。また、警察用の装輪車両には市民に威圧感を与えて反感を生じさせないために、装甲防御力を犠牲にして、通常の(防弾仕様の)車両と大差ない外見にしたものもある。
低コスト
装輪車両は車体が軽量であるため、エンジンや走行系全体もそれほど大出力のものは求められない。このため、基本車体の価格は兵器としては比較的安価に製造・入手できる。反対に、装軌車両は車体重量が増すことで、エンジンや走行系全体に大出力のものが求められ、これらの購入価格が装甲を含む車体価格と共に高額になる[1]。
分類
軍用車両である装輪装甲車でも、戦闘用車両と戦闘以外の用途で使用される車両の2種類が存在し、戦闘用車両の方が装甲は厚くなっている。戦闘以外に用いられる装輪装甲車では、固有の武装を持たないものと限定的ながら武装を備えたものがある。
多くの装輪装甲車は、装甲兵員輸送車を基本として、歩兵戦闘車型、機動砲型、迫撃砲搭載型、対戦車ミサイル車型、偵察車型、対NBC装備偵察車型、移動司令部型、火力支援車型、救急搬送型、回収車型、工兵型、などの多様な派生車種をまとめてファミリーとして開発が進められることが多い。各車種を個別に生み出すのに比べて開発と生産のコストや、運用時の保守の共通化が図れるなど、多くの利点がある[1]。
戦闘用装甲車
- 歩兵戦闘車
- 装輪式の戦闘用装甲車の最も代表的なものに、歩兵戦闘車(IFV)がある。冷戦以前に開発されたIFVはほとんどが装軌式であったが、2000年代以後には非常に多くの装輪式IFVが採用された。IFVは、戦闘地域まで戦車に随伴して6-9名程度の歩兵を運搬し、敵との戦闘においては乗車していた歩兵を降車させ戦闘を行わせながらIFVも固有の機関砲や対戦車ミサイルなどで支援的な戦闘を行なう。装甲兵員輸送車に比べて戦闘能力は勝るが、収容できる歩兵の人数はその分だけ減る。また、装甲兵員輸送車に比べれば、装甲が厚く堅固になっていることが多い。
- 従来はIFVは戦車と共に戦場に赴き、ハイローミックス的な役割分担を行なった戦闘形態がとられていた。それに合わせて、2名程度が収まった砲塔に25-35mmの中口径機関砲を装備したものが多かったが、21世紀になってからは、戦車を伴わずに単独での治安維持活動やゲリラに対処する非対称型戦闘にIFVが用いられることが多くなり、機関砲の口径が30-40mmへと拡大する傾向がある。
- 装輪戦車
- 1世代前の戦車と同等の主砲を装輪装甲車に搭載した車両は、かなり初期から運用されており[注 6][注 7]、一部は実戦で使用[注 8]されている。これらは、威力偵察任務の他、歩兵部隊の支援戦力として対戦車戦闘や敵陣地、建造物などへの直射支援砲撃を任務とする。また、不正規戦において輸送用の車列(コンボイ)の護衛にも用いられることがある。
- こういった新たな戦闘車両に対する定まった分類名称はないが、装輪戦車(一般的な名称)、機動砲(アメリカ軍での名称)と呼ばれることが多い。
- 戦車砲に相当する大口径砲を搭載することで攻撃力は高いが、装甲は小銃弾程度、良くても20mm機関砲弾を防ぐほどで、どのような戦車砲弾も防げず、防御力は極めて限定的である。105mm程度の戦車砲を15-25tという中程度の車体に搭載することは元々限界ぎりぎりであり、装甲を充実させるために重量を大きく増やせば装輪では車体を支持できなくなるので、今後、防御力の向上を望めば爆発反応装甲(ERA)のような追加装甲と、敵弾を物理的に撃墜するAPSによって強化されると思われる。故に、本来の用途は対戦車戦闘ではなく、歩兵への直射火力支援であり、自走歩兵砲という言い方もできる。戦車と対峙する場合に初弾で撃破できなければ、機動力を生かして逃走避難を図るのが最良だと考えられ、本格的な機動砲車両では最新戦車と同等の高価な射撃管制装置(FCS)やセンサー類が装備されていて目標の自動追尾まで行なえるものもある[注 9]。
- 対戦車ミサイルの高性能化に伴い、装輪戦車という通称とは裏腹に、この種の車両は積極的に対戦車戦闘に投入されることは少なくなっている。たとえばM1128 ストライカーMGSを運用するアメリカ軍においては、FM 3-20.151において、ストライカー旅団の最有力の対戦車火力はM1134 ストライカーATGMであって、MGSの対戦車任務は副次的なものに過ぎないと規定した[注 10]。しかしながら、直接照準の大口径砲による火力支援という点で、これらの車両は、現在でも極めて大きな有用性を備えている。
- 迫撃砲搭載車(自走迫撃砲)
- 歩兵戦闘車型や装甲兵員輸送車型から小さな変更で作られるものが多く、後部兵員室の屋根を左右に大きく開き、兵員室床面のターンテーブル基台上の81mmや120mm程度の迫撃砲から攻撃する形式が多いが、砲塔型で搭載したり、連装砲にする考えもある。また、主たる迫撃砲とは別に、小型の迫撃砲を搭載することもある。
- 対戦車ミサイル車型(戦車駆逐車)
- BGM-71 TOWのような対戦車ミサイルを車体上の全周式発射機から発射する。対戦車ミサイル発射機は見た目にはかさばるが砲・砲塔と比べ軽量であるため、車体を掩蔽しつつ発射体制をとる際に発射機を持ち上げる機構が備わっていたり、走行時は車内に格納できるものもある。
- 偵察車型
- 比較的4輪駆動車が多いが、タワー状のセンサー装置を10m程にまで上げる偵察車では6輪のものになる。機械的な偵察だけでなく斥候チームを敵性地域内で運ぶ任務を行なう。今後は無人偵察機によって偵察任務は比較的後方から行なえるようになるため、偵察車両も無人航空機(UAV)の運搬操作車両となる可能性がある。
- 対空砲・ミサイル車型(自走対空砲・自走対空ミサイルランチャー)
- 比較的短射程の対空機関砲と対空ミサイルをレーダーと共に備え、部隊規模での防空を担う[注 11][1]。
- 冷戦期、大口径速射機関砲の反動に耐えるため主力戦車の車台を用いた対空戦車ゲパルト等は高価なものとなってしまい、さらには空対地・地対空の双方の攻撃の主軸がより長射程のミサイルとなり、反動がごく小さい対空ミサイルならばもっと低コストのトラック等の車台が採用されることが多く、対空用の装甲戦闘車両は下火となったが、2010年代以後は低性能だが廉価で大量投入可能な小型無人攻撃機(UAV)の脅威が認識されるようになり、開発が活発化しつつある。
非戦闘用装甲車
- 装甲兵員輸送車
- 装甲兵員輸送車は戦場と後方との間、歩兵を運ぶための車両である。自ら積極的な戦闘は避けるが、攻撃を受けた場合の自衛的な兵器として機関銃やミサイル、擲弾発射機がPintle mountのような比較的簡易な形で装備される。20世紀末からは5.56mm、7.62mm、12.7mm程度の機関銃や40mm自動擲弾発射機などを備える遠隔操作式兵器ステーション(RWS)のような形態の自衛火器も搭載されるようになっている。
- 兵員は車体左右の壁面に背を向けて、互いに見合う形で搭乗する形態が多い。
- 歩兵機動車
- 旧来的な区分では装甲兵員輸送車から軽偵察装甲車にまたがる。冷戦終結による正規戦の脅威減退の一方で非正規・非対称戦の機会が増大したが、戦力劣勢の側は主力戦闘部隊との交戦を避け、輸送やパトロールに当たる軽装備の後衛部隊を標的に人的損失を強いるテロリズムやゲリラ戦で対抗。特にアメリカ軍はイラク戦争やアフガニスタン紛争等で正面戦闘では圧勝しながら、占領地域でソフトスキン(非装甲車両)のハンヴィーやトラック等で行動する兵員に多大な犠牲を出し、国内でも大きな政治問題化する事態となった。対策として、テロ・ゲリラ攻撃で主用される地雷やIEDへの対策に重点を置いたMRAP(Mine Resistant Ambush Protected、エムラップ、耐地雷・伏撃防護車両)と総称される各種装甲車を大量調達した。他国もこの戦訓からソフトスキンの置き換えを志向する対爆発重視・低コストの装輪装甲車の取得を進めるようになり、MRAPやそれ以前の類似車種と共に総称する新たなカテゴリを歩兵機動車と呼ぶ。
- 移動司令部(指揮通信車)
- 車内は3-5名程度の士官が前線での指揮・命令任務を行なうための情報通信設備、画像表示装置、机などが置かれ、大人が立てる程度に車内天井高が高く作られているものが多い。司令部機能は車内で完結するが、車外へテント屋根を張り出すことで広い空間が得られるようになっているものが多い。
- 救急搬送型
- 救急搬送型車両は戦場での救急車であり、負傷者を治療施設まで後送することが役割である。担架を2-4人分程度搭載できるようになっており、加えて数名分の看護人用や軽度の負傷者用の席も備えられている。司令部型同様に車内天井高が高いものがある。
- 回収車型(装甲回収車)
- 被弾や故障によって自力走行できなくなった車両を後方の修理可能な地点までレッカー移動させることが主な役割である。また、装備したクレーンでエンジン部であるパワーパックや使い込まれた砲身の交換作業などの保守作業も行なう。
- 工兵型(戦闘工兵車)
- 主に地雷原の啓開を行う為の装備を備えている。車体前部に除雷プラウや除雷ローラーが取り付けられるようになっており、これらで除雷した通路には旗が立てられる。地雷検知装置や除雷用の導爆索発射機が搭載されるものもある。地雷を敷設する役割も担うことや、地雷以外の道路上の障害を排除することも行なう[1]。
- この種の任務に従来充てられてきた装軌式の戦車ないし装甲ブルドーザー等に比べ地面を掘り返していく推進力には劣るが、ストライカー旅団戦闘団のような特定車種に装備を統一した部隊での都合や、あるいは野戦における面での地雷原とは異なる、非対称戦環境における点の爆発物脅威にセンサーとロボットアーム等で対処するバッファローやPEROCC[2]のような新しいタイプの車両が開発されている。
技術
- 装甲
- 軽量化のために装甲厚は限られ、鋼製やアルミニウム合金製の比較的薄い装甲は小銃弾を防ぐ程度の防御性能しか持たないものが多い[注 12]。戦車の要部装甲に採用されることの多い複合装甲は、未だ装輪装甲車に全面的に採用されたことはない[注 13][注 14]。これは重量と厚みが増すことや価格が高いため、想定される被弾リスクや敵の脅威度なども考慮して決められたものと考えられる。
- 車内内壁にスポール・ライナー(spall liner)と呼ばれるアラミド繊維製やプラスチック材などの飛散防護布が貼り付けられているものが多い。
- スラット装甲と呼ばれる金属製の柵が車体周囲に張り巡らされることがある。この仕組みは成形炸薬弾を持つ対戦車ミサイルなどに対して、中空装甲と同様に最適なスタンドオフ距離より手前で弾頭を起爆させることで成形された高速侵徹体が収束状態を解かれて威力を失ってから本来の装甲板に達するようにしている。戦車砲弾に良く使用される高速徹甲弾であるAPFSDS弾には無効である[注 15]。
- 高速徹甲弾にも成形炸薬弾にも有効な爆発反応装甲(ERA)は、箱状、またはタイル状の金属製ブロックであり、あらかじめ工場で戦闘車両に取り付けられることもあれば、高脅威な地域で活動する場合に後付けで付けることも可能であり、装輪装甲車のように空輸性が重要な兵器では、軽装甲の戦闘車両を空輸して、後からERAのような追加装甲を加える柔軟性が有用である。ただし、ERAの爆発によって生じる破片と爆風が車両周囲の友軍歩兵や一般住民に付随被害を与える危険性があり、車両の装甲自体が薄ければERAの爆発に耐えられず、たとえ耐えられても軽い車体への衝撃は搭載装置の故障や乗員の負傷を招く。
- 対地雷防御
- 対戦車地雷に備えて車体底部を小舟のようにV字型にするものがある(V字型車体を参照)。装輪車両は1輪程度の破損でも走行が可能なものが多いが、底部での爆発ではたとえ底面を突き破られなくても、爆発の衝撃をうまく逃がさなければ車両が転覆する恐れがあるためである。また、爆発時の衝撃によって車内の乗員が障害を受けないように、座席に衝撃吸収機能[注 16]を持たせて、ヘッドレストを備えシートベルトに固定された乗員の安全を確保するように設計されているものがある。ただ、衝撃吸収式の座席は空間を占めるため、搭乗定員を減らしてしまう。
- 走行駆動系
- 4輪、6輪、または8輪の独立懸架式の全輪駆動を行なうものが多い。4輪式では偵察車が多い。例外的に10輪式の機動砲型[注 17]などもある。また、操向は前部2列4輪の操向操作で行なわれるものが多いが、例外的に後部2輪も操行できるものがあり[注 18][注 19][注 20]、いずれもパワーステアリングである。また、装輪であるにも拘らず戦車のように左右片側の車輪の回転の差によって向きを変えるものがある[注 21]。
- 大多数がディーゼルエンジン[注 22]をオートマチック・トランスミッションで減速して、多数の駆動軸とディファレンシャルギアを経てタイヤを駆動するが、ディーゼル発電機を搭載して生み出した電気でバッテリーを充電しながらインホイール・モーターを駆動するハイブリッド・ディーゼル電気駆動を行なうものもある[注 23]。
- タイヤは破損時でもかなりの距離まで走行できるランフラット・タイヤであり、タイヤ側面のカーカス、またはショルダーと呼ばれる部分を強化した「サイドウォール強化型タイヤ」と、タイヤ内にゴム製の円盤を入れておく「中子式ラジアル・タイヤ」がある。
- 多くの車両が、操縦席からスイッチ1つでタイヤ内の空気圧を調整できる装置を備えるため、空気圧を下げ接地面積を広げることで泥濘地でも比較的走行が可能となっている。
- 基本的には駆動系が車体底部を貫く構造であるため、車内空間を確保すれば装軌車両より車高が高くなる。車内容積が求められる運搬用途の車両が多いのもその傾向を助長し、さらに耐地雷装備として舟形底部や2重3重底を持てば[注 24]、容易に転倒する車両になってしまう。
- 浮航能力
- 多くの装輪装甲車は1.5m程度の徒渉水深を持つが、軽量な車体のものは浮航能力を備える。フィンランド製パトリアAMVは車体後部左右端にあるシュラウドプロペラによって8-10km/hで航行できる。スイス製ピラーニャIIIも同様に10km/hで、オーストリアのパンデュールIIは2基のウォータージェットで10-11km/hで航行できる。
- 車内配置
- 車幅は2-3m、車体長は4-8m弱の大きさの中で設計すればほぼ同じような車内レイアウトになり、多くの装輪装甲車両では、エンジン部は車両前方の左右いずれか片側に位置し、その逆側となる操縦士席はその設計生産国の自動車の操縦士席の座席位置と同じであることが多い。車長や機関銃手が操縦士席の後ろに並列に位置するものが多く、その後部全体が兵員室などに当てられる[注 25]。
- 車輪上の車体左右の空間にディーゼル燃料である軽油のタンクを持つものが多く、2重底となっている底部空間にも燃料タンクを備えるものがある。車体前方上面はスラントノーズの1枚平面で構成されるものが多い。車体側面はほぼ単純な平面で構成され、車両の装備が露出することは少ない[注 26]。
- 標準装備かオプションで、車内のいずれかにエアコンと自動消火装置が備えられるようになっている。NBC防護を備えるにはエアコンは必須となる。車体上面後部に2個程度の簡易なハッチを持つものが多い。車体後部にドアが開口しており、大型ドアでは油圧やモーターによって床面位置のヒンジで倒れるように開口して、車外への降車搭乗時に大きなステップとなるものがあり、小さなドアでは横に開くものがある。
- 装輪車は自力での路上走行が多くなるので、装軌車両と異なりいずれの国でも車体左右にミラーが備わっている。
- ネットワーク中心の戦いへの対応
- 射程が延びて命中率の高くなった誘導兵器が多用され敵味方が交錯する現代型の戦場では、戦域内の互いの位置を知らせあう情報ネットワークが必須となりつつある。また、友軍による誤射を防ぐだけでなく、敵の位置を味方の長射程なミサイル部隊や砲兵、または空軍に知らせて、ミサイルや砲弾、近接航空支援やJDAMのような誘導爆弾による攻撃を求めることも簡単になる。
- アクティブ・プロテクション・システム
- アクティブ・プロテクション・システム(APS; active protection system)は車両に向けて飛来する敵の弾を車体から離れた空中で撃墜する装置であり、21世紀初頭現在、ごく初期技術に基づくAPSの搭載が始まっている段階である。詳しくはアクティブ防護システムを参照のこと[1]。
- モジュール方式
- 従来の装輪装甲車はニーズに合わせ各目的に特化した車両が開発されてきたが、基本的に車台の設計に違いはないため、車台は共通とし各任務に必要となる機能をモジュール化し、必要に応じて交換することで通信指揮車、装甲トラック、装甲救急車、自走迫撃砲などとして使用できる『モジュール方式』が考案された。2016年現在はCM-32やボクサー装輪装甲車などが配備されている。
- 車体を覆う装甲についても、任務あるいは輸送機等の制限に応じ加減が効くよう、全面に増加装甲を装着したものが装輪・装軌を問わず一般化してきている。
ギャラリー
-
第二次世界大戦時のM3装甲車
脚注
注釈
- ^ この他にもソビエト連邦は極地用としてアエロサンやアルキメディアン・スクリュー推進などを試みた例がある。
- ^ 世界最高速度の装軌車両は英FV101 スコーピオン軽戦車の最高速度87kmであると云われる
- ^ 現地でのスペアタイヤへの交換も可能。ただし装軌車でも、多くの戦車が予備履帯を装着携行していることからも分かるように、手間はかかるが破損部を応急修理することは可能である
- ^ 1つのタイヤ当りでは2.5-3トン程度が上限とされてきたが、2010年代以後は4トン(4輪15トン、8輪なら30トン級)台も現れている
- ^ パトリアAMV。額面上は第二次世界大戦時の中戦車に匹敵することになる。
- ^ 第2次世界大戦中にはアメリカ軍がM8装甲車を使用しており、また、戦後には、イギリスのFV601 サラディンやフランスのEBR装甲車が開発された。105mm砲ではAMX-10RC(6x6), チェンタウロ戦闘偵察車, M1128ストライカーMGS, 独ヘンシェルヴェアテクニカ社製TH400(6x6), 米キャデラック・ゲージ社製コマンドーLAV600(6x6), 仏ジアット社製ベクストラ, 独ラインメタル・ランドシステム社製NAWV, 台湾Timoney Tech.社製CM-32雲豹機動砲型, 中国NORICO社製VN-1戦車駆逐車型, スイス・モワク社製ピラーニャIII戦車駆逐車型(10x10)
- ^ 120mm砲では仏Nexter社製VBCIの120mm機動砲システムがある
- ^ 76mm砲を搭載したルーイカット装甲車は実戦で使用された
- ^ チェンタウロACV装甲戦闘車やRooikat AFVには高度なFCSが装備されている
- ^ ただし対戦車ミサイルは、砲弾と比較して容積が大きいので搭載可能な弾数が減少する上に、コストもはるかに高い
- ^ 2004年にエリコン・コントラベス社は、ピラニアIIIをベースに対空用レーダ車、35mm自走対空機関砲車、自走対空ミサイル車を組み合わせたスカイレンジャー防空システムを発表し現在開発中である
- ^ アルミニウムは鋼鉄の3分の1程度の強度しか持たないが重さも3分の1程度であり、重量当りの強度は鋼鉄とそれほど変わらない。アルミニウムで車体を作ると厚みが出るため、曲がりに抗する剛性が高く座屈のような破壊が起きにくくなる。アルミニウム製の車体は燃えやすいという風聞があるが、テルミット剤のような微粉状でもなければ燃えるということはあまりない。ただしアルミは融点が660℃程度に過ぎないため火災時に車体が融け落ちてしまうことがある。
- ^ ストライカー装輪装甲車は付加装甲としてMEXASセラミック装甲タイルを後付けする
- ^ 複合装甲とはアルミナ、ボロンカーバイド、シリコン・カーバイドなどのセラミック板をチタンなどの箱で覆ったタイルブロック状のものであり、車体の鋼製装甲板に最初から挟み込んで使うものや、付加装甲として外面に付け加えるものがある
- ^ ストライカー装輪装甲車に使われているスラット装甲の重量は約2,360kgである
- ^ 衝撃吸収機能付き座席はヘリコプター用座席の技術が生かされている
- ^ モワク社製ピラーニャIII戦車駆逐車型。ただし大径のタイヤを履く装輪装甲車では車体が長くなりすぎ、旋回半径の拡大や、凹凸を越える際に車体の一部が浮きやすくなり接地輪に過荷重が加わるといった問題から不整地走行性能が悪化する。
- ^ センタウロの操行系は最後部2輪が前部4輪と逆に操行できるモードへ切り替えできる
- ^ 2006年から開発中のピラーニャVでは、8輪中に前6輪がステアリングできるようにも設計される
- ^ オーストラリアのパンデュールIIのように、ステアリング・ブレーキを備えたものもある
- ^ AMX-10RCは装軌車であるAMX-10P歩兵戦闘車と共通に作られたため、スキッド・ステアリングと呼ばれる方式で操行操作を行い、戦車同様に信地旋回や超信地旋回が行なえるがタイヤは早くに磨耗する。ステアリングの余地をタイヤハウスに設ける必要がなくなるので車内の幅が広くできる
- ^ 搭載するディーゼルエンジンは、8輪のものでは300-500馬力程度の出力を備える
- ^ スウェーデンのBAEシステムズ・ヘグルンド社製SEP(spitter skyddad enhets platform; modular armoured teactical system; モジュラー装甲戦術システム)は2基の130kW(176hp相当)の豪Steyr社製3.2リットルのディーゼル・エンジンと独ZF社製発電機を車体両側面部に2組備え、6輪のホイール内の100kWのモーターが2段減速ギヤを経由して車輪を駆動する。仏Nexter社でもVBCIの次世代車種としてDPEと呼ばれる普段はディーゼルエンジン駆動で105km/hであるが、ステルスモードにすればバッテリーとモーターだけで15km/hの速度で走れる6×6の偵察車両を試作している
- ^ 耐地雷用に多層舟形底部を持った装輪装甲車の中でも、米軍のMRAP車両群が特に車高が高くなる傾向が強い
- ^ 特に軽量の型や、1950年代以前の古いものでは普通自動車と同様、車両先頭中央にエンジンがあるものが多い。また1980年代以前のものは車体の中ほどや後部に有することが多かった。
- ^ 中国製VN-1は車体右側側面のほぼ中央に、サウジアラビアのアル・ファードは車体左側側面のほぼ中央にそれぞれ大きな排気管のマフラーが露出している