「トラウト・マスク・レプリカ」の版間の差分
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* バーンズ,マイク (2006). 『キャプテン・ビーフハート』. 河出書房新社. ISBN |
* バーンズ,マイク (2006). 『キャプテン・ビーフハート』. 河出書房新社. ISBN 978-4309268750 |
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2022年5月29日 (日) 00:00時点における版
『トラウト・マスク・レプリカ』 | ||||
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キャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジック・バンド の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 |
1968年8月、1969年3月 ロサンゼルスカリフォルニア州、サンセット・サウンド・レコーダーズ、ホイットニー・スタジオ | |||
ジャンル | アヴァンギャルド、アート・ロック、ブルースロック、プロト・パンク、サイケデリック・ロック、実験音楽、フリー・ジャズ、スポークン・ワード | |||
時間 | ||||
レーベル | ストレイト・レコード、リプライズ・レコード | |||
プロデュース | フランク・ザッパ | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
チャート最高順位 | ||||
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キャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジック・バンド アルバム 年表 | ||||
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トラウト・マスク・レプリカ (Trout Mask Replica) は、1969年にリリースされたキャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジック・バンドの3枚目のアルバムである。プロデュースはフランク・ザッパが担当した。ブルースや実験音楽、フリー・ジャズ等、様々なジャンルの音楽を取り入れた本作は、後のオルタナティブ・ロックやポスト・パンクに多大な影響を与えた重要な作品として認知されている。
背景
キャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジック・バンドはデビュー当初からレーベルとの契約に頭を悩ませてきた。A&Mレコードがファーストシングル"Diddy Wah Diddy"(ボ・ディドリーのカバー曲)を含む2枚のシングルをリリースしたが、いずれもヒットしなかったので契約を打ち切ってしまった。その後ブッダ・レコードがバンドのファーストアルバムで、またブッダが初めて発売するアルバムであった『セーフ・アズ・ミルク』(Safe As Milk)をリリースするが、その直後にブッダはバブルガム・ポップ路線を志向したので、そのような音楽には縁もゆかりも無いバンドは所属先を失ってしまう。バンドは1967年の終わりから1968年の春にかけて、ボブ・クラスナウのプロデュースにより、後に『ストリクトリー・パーソナル』(Strictly Personal)と『ミラーマン』(Mirror Man)として発売されるレコーディングセッションを何度か行ったが、当時の契約問題によりセッションで録音した音源が発売されるかどうかすら分からない状況であった[注釈 1]。
同じ頃、ビーフハートの高校時代の同級生で、彼に『キャプテン・ビーフハート』という名前を与えた人物でもあるフランク・ザッパはビザール・レコード、ストレイト・レコードという2つのレーベルを設立した。契約問題に苦しんでいたビーフハートに対し、ザッパは自分のレーベルの完全なる芸術的自由の中で制作を行うことを提案した。そして、ストレイト・レコードにおいて、『トラウト・マスク・レプリカ』の制作が始まった。
制作
ビーフハートはほとんどの楽曲を今までに試みたことのない方法で作曲した。演奏経験のないピアノを使用したのである。彼は従来の音楽に関する知識をまったく持ち合わせていなかったため、経験のないピアノを使用することによって既存の音楽の枠組みや構造から逸脱した形で作曲を行うことが出来た。彼は直感だけを頼りに、気に入ったリズムパターン、メロディのパターンを発見するまでピアノの前に座った。以前は、ビーフハートが口笛で吹いたり歌ったりするフレーズをマジック・バンドのメンバーの一人であったジョン・フレンチがテープレコーダーで録音していたが、手違いである部分を消去してしまい叱られたことがあった。そこで、フレンチは今回、ビーフハートがピアノで叩き出すフレーズをすべて記譜し、その演奏をビーフハートに聞かせることにした。大半の楽曲がこのような作曲・記譜の方法で作られたが、"Pena"や"My Human Gets Me Blue"等はビーフハートの口笛による提示をフレンチが記譜した。フレンチはパート譜も書いてマジック・バンドのメンバーに演奏の指導を行った。しかしビーフハートは『トラウト・マスク・レプリカ』の作・編曲を全て独力で完成させたと主張し、フレンチは「自分も編曲者としてクレジットされるべきではないかと感じていたが、一度もされたことはなかった。」[2]と述べている。
マジック・バンドのメンバーはロサンゼルス郊外にあるウッドランド・ヒルの小さなレントハウスに集団で暮らして、ビーフハートが作った難曲を録音する為に1日12時間のリハーサルを8ヶ月に渡って行った。ビーフハートはメンバーの完全なる芸術的・感情的支配を行うことで彼の構想を実行した。フレンチは当時の状況を「カルトじみていた」と回想し、レントハウスを訪問した友人は「まさにマンソン・ファミリーのような環境だった」と形容した。また、メンバーは金銭や食料といった物質的環境においても切迫していた。彼らには生活保護金と親類からの仕送り以外の収入はなく、フレンチによればカップ一杯の大豆だけでひと月を過ごしたこともあった[3]。あまりの苛酷さに彼らが食品を万引きしで逮捕され、ザッパが保釈保証人となったこともあった[4]。
1968年8月、サンセット・サウンド・レコーダーズで、ザッパのプロデュースにより"Moonlight on Vermont"と"Veteran's Day Poppy"が録音された。その後、ベースのゲイリー・"マジック"・マーカーがマジック・バンドを脱退し代わりにマーク・ボストンが加入した。7ヶ月後の1969年3月、バンドは『トラウト・マスク・レプリカ』のレコーディングに入る準備を整えた。ザッパは当初、エンジニアのディック・カンクを伴ってメンバーが住むレントハウスにポータブルの録音機材を持ち込み、別々の部屋でバンドの演奏を録音するフィールド・レコーディングの形を取った。実際に行われた録音自体は素晴らしい仕上がりでザッパは満足したが、ビーフハートはザッパが録音費用を出し惜みしているのではないかという疑惑を持つようになり、スタジオを使用して録音することを主張した。ヴォーカルのスタジオ録りは当初から決まっており、ザッパはバンドのスタジオ入りの段取りを整えた。収録は当時宗教音楽のみを録音していたホイットニー・スタジオで行われた。日頃からリハーサルを重ねていたマジック・バンドは、20のバッキングトラックの録音をわずか6時間で終え[5]、その後ビーフハートはヘッドホンを着用してモニタリングする代わりに、スタジオの窓から微かに聴こえる演奏音のみを頼りに[6]、ヴォーカルトラックと管楽器のオーバーダブを2日で録音した。ミキシング作業を含めても『トラウト・マスク・レプリカ』は4日間で完成した。
アルバムジャケットの撮影とデザインはカル・シェンケルが担当した。彼は地元の魚屋で購入した鯉の頭をマスクに改造してビーフハートに被せた[7]。
評価
BBCの伝説的DJであるジョン・ピールは、「ポップ・ミュージックの歴史において、音楽以外の領域で活動する芸術家たちにも理解し得る、芸術作品として見なすことが出来る音楽作品が存在するとしたら、おそらく『トラウト・マスク・レプリカ』がそのような作品である[8]」と述べている。2003年にはローリングストーン誌の500 Greatest Albums of All Timeの第58位、2012年版には第60位に選出された。
収録曲
作詞・作曲はいずれもドン・ヴァン・ヴリート(キャプテン・ビーフハート)による。
# | タイトル | 時間 |
---|---|---|
1. | 「Frownland」 | |
2. | 「The Dust Blows Forward 'n the Dust Blows Back」 | |
3. | 「Dachau Blues」 | |
4. | 「Ella Guru」 | |
5. | 「Hair Pie: Bake 1」 | |
6. | 「Moonlight on Vermont」 |
# | タイトル | 時間 |
---|---|---|
7. | 「Pachuco Cadaver」 | |
8. | 「Bills Corpse」 | |
9. | 「Sweet Sweet Bulbs」 | |
10. | 「Neon Meate Dream of a Octafish」 | |
11. | 「China Pig」 | |
12. | 「My Human Gets Me Blues」 | |
13. | 「Dali's Car」 |
# | タイトル | 時間 |
---|---|---|
14. | 「Hair Pie: Bake 2」 | |
15. | 「Pena」 | |
16. | 「Well」 | |
17. | 「When Big Joan Sets Up」 | |
18. | 「Fallin' Ditch」 | |
19. | 「Sugar 'n Spikes」 | |
20. | 「Ant Man Bee」 |
# | タイトル | 時間 |
---|---|---|
21. | 「Orange Claw Hammer」 | |
22. | 「Wild Life」 | |
23. | 「She's Too Much for My Mirror」 | |
24. | 「Hobo Chang Ba」 | |
25. | 「The Blimp (mousetrapreplica)」 | |
26. | 「Steal Softly thru Snow」 | |
27. | 「Old Fart at Play」 | |
28. | 「Veteran's Day Poppy」 |
参加メンバー
ザ・マジック・バンド
- キャプテン・ビーフハート (ドン・ヴァン・ヴリート) - ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、スポークン・ワード、テナー・サックス、ソプラノ・サックス、ベース・クラリネット
- アンテナ・ジミー・ザーメンズ (ジェフ・コットン) - ギター、スライド・ギター、ヴォーカル("Pena"、"The Blimp")
- ズート・ホーン・ロロ (ビル・ハークルロード) - ギター、スライド・ギター、フルート("Hobo Chang Ba")
- ロケット・モートン (マーク・ボストン) - ベース・ギター、ナレーション("Dachau Blues"、"Fallin' Ditch")
- ドランボ (ジョン・フレンチ) - ドラムス、パーカッション
- マスカラ・スネイク (ビクター・ヘイデン) - ベース・クラリネット、バッキング・ヴォーカル("Ella Guru")
その他
- ダグ・ムーン - アコースティック・ギター("Ella Guru")
- ゲイリー・"マジック"・マーカー - ベース("Moonlight on Vermont"、"Veteran's Day Poppy")クレジットなし
制作
- フランク・ザッパ - プロデューサー
- カル・シェンケル - アルバムデザイン、撮影
- エド・カラエフ - 撮影
脚注
出典
- ^ “The Official Charts Company - Trout Mask Replica”. officialcharts.com. 2014年4月18日閲覧。
- ^ Drum clinic, Conway Hall, London, 26 May 1996; transcribed by Mike Barnes and published in Resonance, Vol.6, No.1, 1997
- ^ Elaine Shepard (Producer), Declan Smith (Film research) (1997). The Artist Formerly Known as Captain Beefheart (Documentary). BBC.
- ^ French,John (2010). Beefheart: Through the Eyes of Magic. pp=389-391
- ^ Miles, Barry (2005). Zappa: A Biography. pp. 182–183. Grove Press
- ^ Chusid, Irwin (2000). Songs in the Key of Z: The Curious Universe of Outsider Music, pp. 129–140. London: Cherry Red Books. ISBN 1-901447-11-1
- ^ “United Mutations interview with Schenkel”. United mutations.com. 2010 02 11閲覧。
- ^ Barnes, Mike (February 1999). “Captain Beefheart and the Magic Band: Trout Mask Replica”. Perfect Sound Forever. 2014年4月18日閲覧。
注釈
- ^ 『ストリクトリー・パーソナル』(Strictly Personal)はプロデューサーのボブ・クラスナウが1968年に設立したブルー・サム・レコードからバンドのセカンドアルバムとして同年発売された。クラスナウは収録曲の数曲に無断でサイケデリックな音響効果を加え、発売後にそれを知ったビーフハート達を激怒させた。『ミラーマン』(Mirror Man)は1971年にブッダ・レコードから発売された。
参考文献
- バーンズ,マイク (2006). 『キャプテン・ビーフハート』. 河出書房新社. ISBN 978-4309268750