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「ロシア・ウクライナ危機 (2021年-2022年)」の版間の差分

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1991年、[[ソビエト連邦の崩壊]]によりウクライナは独立して国家となり、軍事的には中立を維持してきた<ref name=jbpress2010>{{Cite news|url=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3077|title=それでも欧州統合路線を選ぶウクライナ 親ロとされる新大統領でもロシア寄りにならない理由|date=2010-03-26|author=藤森信吉|publisher=JBpress}}</ref>。2002年、ウクライナの政策に転換期が訪れた<ref name=jbpress2010 />。前年の2001年9月11日に[[アメリカ同時多発テロ事件]]が発生してロシアとアメリカ合衆国が互いに歩み寄ると、2002年、[[レオニード・クチマ|クチマ政権]]下のウクライナは以前から興味を示していたEU([[欧州連合]])および[[北大西洋条約機構]](NATO)への加盟を目指す方向に大きく舵を切ったのである<ref name=jbpress2010 />。このような経緯でウクライナは西側諸国の軍事同盟NATOへの加盟を希望していたが、[[ドイツ]]・[[フランス]]などNATO側の一部諸国がこれを拒否していた<ref name="GourokuTsuyoshi">{{citation|和書|url=https://www.hit-u.ac.jp/kenkyu/eusi/eusicommentary/vol59.pdf|title=ウクライナとNATO加盟問題|date=2015-09-10|volume=59|last=合六|first=強|periodical=EUSI Commentary|publisher=EU Studies Institute in Tokyo}}</ref>。理由は、ウクライナ国民からの加盟への支持の低さや民主化の遅れ、法の支配、経済状況により条件を満たしていないことが主因であるが<ref>{{Cite web |title=米大統領、ウクライナ支援明言 NATO加盟は慎重 |url=https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090200632&g=int |website=時事ドットコム |accessdate=2022-03-12}}</ref>、加盟国がNATOとロシアの関係悪化を懸念したことも影響したともされる。その後、[[ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ|ヤヌコーヴィチ政権]]によってNATO加盟をウクライナ自らが拒否した{{R|GourokuTsuyoshi}}。[[2014年]]、[[ユーロマイダン]]に始まる[[2014年ウクライナ騒乱|尊厳の革命]]の政変をうけ、ロシアはウクライナに帰属する親露派の多い[[クリミア半島]]の[[ロシアによるクリミアの併合|併合を宣言]]した。一方[[ペトロ・ポロシェンコ|ポロシェンコ政権]]下のウクライナは再びNATO加盟に向かった{{R|GourokuTsuyoshi}}。ウクライナ東部の[[ドンバス]]では戦闘が続き<ref>{{cite news|title= Ukraine-Russia crisis: What started the conflict and what will happen next?|url= https://english.elpais.com/usa/2022-01-27/ukraine-russia-crisis-what-started-the-conflict-and-what-will-happen-next.html|date=2022-01-27|newspaper=[[エル・パイス|El País]]}}</ref>、ウクライナはその後、親EUアメリカ的な政策を取り、[[2019年]]にEUとNATOの加盟を目指すように[[ウクライナ憲法|憲法]]を改正した<ref>{{cite news|title= Ukraine President Signs Constitutional Amendment On NATO, EU Membership|url= https://www.rferl.org/amp/ukraine-president-signs-constitutional-amendment-on-nato-eu-membership/29779430.html|date=2019-02-19|publisher=[[ラジオ・フリー・ヨーロッパ|Radio Free Europe / Radio Liberty]]}}</ref>。この頃のNATOはロシアの影響が強い東方に勢力を拡大しており、NATOはロシアと[[新冷戦]]と呼ばれるほど対立していた<ref>{{cite news|url=https://mainichi.jp/articles/20191221/k00/00m/030/188000c|title=ロシアと新たな対立 NATO、米欧亀裂で問われる存在意義|date=2019-12-21|publisher=毎日新聞}}</ref>。
1991年、[[ソビエト連邦の崩壊]]によりウクライナは独立して国家となり、軍事的には中立を維持してきた<ref name=jbpress2010>{{Cite news|url=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3077|title=それでも欧州統合路線を選ぶウクライナ 親ロとされる新大統領でもロシア寄りにならない理由|date=2010-03-26|author=藤森信吉|publisher=JBpress}}</ref>。2002年、ウクライナの政策に転換期が訪れた<ref name=jbpress2010 />。前年の2001年9月11日に[[アメリカ同時多発テロ事件]]が発生してロシアとアメリカ合衆国が互いに歩み寄ると、2002年、[[レオニード・クチマ|クチマ政権]]下のウクライナは以前から興味を示していたEU([[欧州連合]])および[[北大西洋条約機構]](NATO)への加盟を目指す方向に大きく舵を切ったのである<ref name=jbpress2010 />。このような経緯でウクライナは西側諸国の軍事同盟NATOへの加盟を希望していたが、[[ドイツ]]・[[フランス]]などNATO側の一部諸国がこれを拒否していた<ref name="GourokuTsuyoshi">{{citation|和書|url=https://www.hit-u.ac.jp/kenkyu/eusi/eusicommentary/vol59.pdf|title=ウクライナとNATO加盟問題|date=2015-09-10|volume=59|last=合六|first=強|periodical=EUSI Commentary|publisher=EU Studies Institute in Tokyo}}</ref>。理由は、ウクライナ国民からの加盟への支持の低さや民主化の遅れ、法の支配、経済状況により条件を満たしていないことが主因であるが<ref>{{Cite web |title=米大統領、ウクライナ支援明言 NATO加盟は慎重 |url=https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090200632&g=int |website=時事ドットコム |accessdate=2022-03-12}}</ref>、加盟国がNATOとロシアの関係悪化を懸念したことも影響したともされる。その後、[[ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ|ヤヌコーヴィチ政権]]によってNATO加盟をウクライナ自らが拒否した{{R|GourokuTsuyoshi}}。[[2014年]]、[[ユーロマイダン]]に始まる[[2014年ウクライナ騒乱|尊厳の革命]]の政変をうけ、ロシアはウクライナに帰属する親露派の多い[[クリミア半島]]の[[ロシアによるクリミアの併合|併合を宣言]]した。一方[[ペトロ・ポロシェンコ|ポロシェンコ政権]]下のウクライナは再びNATO加盟に向かった{{R|GourokuTsuyoshi}}。ウクライナ東部の[[ドンバス]]では戦闘が続き<ref>{{cite news|title= Ukraine-Russia crisis: What started the conflict and what will happen next?|url= https://english.elpais.com/usa/2022-01-27/ukraine-russia-crisis-what-started-the-conflict-and-what-will-happen-next.html|date=2022-01-27|newspaper=[[エル・パイス|El País]]}}</ref>、ウクライナはその後、親EUアメリカ的な政策を取り、[[2019年]]にEUとNATOの加盟を目指すように[[ウクライナ憲法|憲法]]を改正した<ref>{{cite news|title= Ukraine President Signs Constitutional Amendment On NATO, EU Membership|url= https://www.rferl.org/amp/ukraine-president-signs-constitutional-amendment-on-nato-eu-membership/29779430.html|date=2019-02-19|publisher=[[ラジオ・フリー・ヨーロッパ|Radio Free Europe / Radio Liberty]]}}</ref>。この頃のNATOはロシアの影響が強い東方に勢力を拡大しており、NATOはロシアと[[新冷戦]]と呼ばれるほど対立していた<ref>{{cite news|url=https://mainichi.jp/articles/20191221/k00/00m/030/188000c|title=ロシアと新たな対立 NATO、米欧亀裂で問われる存在意義|date=2019-12-21|publisher=毎日新聞}}</ref>。


ウクライナのNATO加盟に向けた動きに対して[[ロシア連邦大統領]]の[[ウラジミール・プーチン]]は、「[[ロシア人]]と[[ウクライナ人]]は一つの民族である」{{Efn2|ロシア人とウクライナ人の多くは[[キリスト教]][[正教会]]の信徒で尚且つ[[東スラブ人]]である。プーチン大統領も生後間もなくキリスト教正教会の洗礼を受けたクリスチャンの申し子であり、その敬虔さと共に、[[ロシア正教会]]最高位を務める[[キリル1世 (モスクワ総主教)|キリル1世]][[総主教]]との親しい間柄がよく知られている。一方、2022年ウクライナ侵攻時のウクライナ大統領[[ウォロディミル・ゼレンスキー|ゼレンスキー]]は[[ユダヤ教]]系の家系である。}}と主張し<ref>{{cite news|title= Putin likes to talk about Russians and Ukrainians as ‘one people.’ Here’s the deeper history.|url= https://www.washingtonpost.com/politics/2022/02/10/putin-likes-talk-about-russians-ukrainians-one-people-heres-deeper-history/|author= Monkey Cage|date=2022-02-10|newspaper=The Washington Post}}</ref><ref>{{cite news|title= Putin is rewriting history to justify his threats to Ukraine|url= https://www.vox.com/2022/1/30/22908600/ukraine-crisis-putin-russia-one-people-myth-nato-europe|author= Ellen Ioanes |date=2022-01-30|publisher=VOX}}</ref>、NATOの東方拡大に反対する態度を表明して、ウクライナ周辺に軍を展開させた<ref>{{cite news|title= 緊迫のウクライナ情勢、いま何が起こっている?ロシア軍“10万人”にNATOが対抗準備(解説)|url= https://www.businessinsider.jp/post-249700|author= 吉川慧|publisher=business insider|date=2022-01-25}}</ref>。2022年2月にはロシアは並行して隣国ベラルーシと軍事演習を行っている<ref name="ロイター20220211}}<ref>{{cite news|title= ベラルーシ、ロシアと軍事演習へ…結束してウクライナに軍事的圧力かける狙い|url= https://www.yomiuri.co.jp/world/20220118-OYT1T50164/|newspaper=読売新聞|date=2022-01-18}}</ref>。
ウクライナのNATO加盟に向けた動きに対して[[ロシア連邦大統領]]の[[ウラジミール・プーチン]]は、「[[ロシア人]]と[[ウクライナ人]]は一つの民族である」{{Efn2|ロシア人とウクライナ人の多くは[[キリスト教]][[正教会]]の信徒で尚且つ[[東スラブ人]]である。プーチン大統領も生後間もなくキリスト教正教会の洗礼を受けたクリスチャンの申し子であり、その敬虔さと共に、[[ロシア正教会]]最高位を務める[[キリル1世 (モスクワ総主教)|キリル1世]][[総主教]]との親しい間柄がよく知られている。一方、2022年ウクライナ侵攻時のウクライナ大統領[[ウォロディミル・ゼレンスキー|ゼレンスキー]]は[[ユダヤ教]]系の家系である。}}と主張し<ref>{{cite news|title= Putin likes to talk about Russians and Ukrainians as ‘one people.’ Here’s the deeper history.|url= https://www.washingtonpost.com/politics/2022/02/10/putin-likes-talk-about-russians-ukrainians-one-people-heres-deeper-history/|author= Monkey Cage|date=2022-02-10|newspaper=The Washington Post}}</ref><ref>{{cite news|title= Putin is rewriting history to justify his threats to Ukraine|url= https://www.vox.com/2022/1/30/22908600/ukraine-crisis-putin-russia-one-people-myth-nato-europe|author= Ellen Ioanes |date=2022-01-30|publisher=VOX}}</ref>、NATOの東方拡大に反対する態度を表明して、ウクライナ周辺に軍を展開させた<ref>{{cite news|title= 緊迫のウクライナ情勢、いま何が起こっている?ロシア軍“10万人”にNATOが対抗準備(解説)|url= https://www.businessinsider.jp/post-249700|author= 吉川慧|publisher=business insider|date=2022-01-25}}</ref>。2022年2月にはロシアは並行して隣国ベラルーシと軍事演習を行っている<ref name="ロイター20220211}}<ref">{{cite news|title= ベラルーシ、ロシアと軍事演習へ…結束してウクライナに軍事的圧力かける狙い|url= https://www.yomiuri.co.jp/world/20220118-OYT1T50164/|newspaper=読売新聞|date=2022-01-18}}</ref>。


同年[[2月11日]]、[[アメリカ合衆国]]やその同盟国などは、自国民にウクライナからの退避を勧告した<ref>{{cite news|title= Ukraine tensions: Russia invasion could begin any day, US warns|publisher=BBC|url= https://www.bbc.com/news/world-europe-60355295|date=2022-02-11}}</ref>。2月18日には、[[アメリカ合衆国大統領]]の[[ジョー・バイデン]]は、「プーチンがウクライナに侵攻すると決断した。」と確信していると述べた<ref>{{cite news|title= Biden says he's now convinced Putin has decided to invade Ukraine, but leaves door open for diplomacy|url= https://edition.cnn.com/2022/02/18/politics/joe-biden-russia-ukraine/index.html|date=2022-02-19|publisher=CNN}}</ref><ref>{{cite news|title= The increasingly complicated Russia-Ukraine crisis, explained|url= https://www.vox.com/22917719/russia-ukraine-invasion-border-crisis-nato-explained|publisher=VOX|date=2022-02-18}}</ref>。
同年[[2月11日]]、[[アメリカ合衆国]]やその同盟国などは、自国民にウクライナからの退避を勧告した<ref>{{cite news|title= Ukraine tensions: Russia invasion could begin any day, US warns|publisher=BBC|url= https://www.bbc.com/news/world-europe-60355295|date=2022-02-11}}</ref>。2月18日には、[[アメリカ合衆国大統領]]の[[ジョー・バイデン]]は、「プーチンがウクライナに侵攻すると決断した。」と確信していると述べた<ref>{{cite news|title= Biden says he's now convinced Putin has decided to invade Ukraine, but leaves door open for diplomacy|url= https://edition.cnn.com/2022/02/18/politics/joe-biden-russia-ukraine/index.html|date=2022-02-19|publisher=CNN}}</ref><ref>{{cite news|title= The increasingly complicated Russia-Ukraine crisis, explained|url= https://www.vox.com/22917719/russia-ukraine-invasion-border-crisis-nato-explained|publisher=VOX|date=2022-02-18}}</ref>。

2022年3月28日 (月) 23:59時点における版

ロシア・ウクライナ危機
戦争ウクライナ東部紛争
年月日:2022年3月〜現在
場所:ロシア・ウクライナ国境
結果:継続中
交戦勢力
 ウクライナ
戦力
約10万人
ロシア・ウクライナ危機
ウクライナ東部紛争中

米国の諜報機関による、2021年12月3日のウクライナとの国境地帯でのロシア軍の配備。この時点でロシア軍は、主にウクライナ国境から100〜200 kmの距離に、約70,000人の軍隊を配備したと推定されている。
  • 2021年3月3日 (2021-03-03) – 2021年4月22日 (2021-04-22)
    (1ヶ月2週5日間)
  • 2021年10月11日 (2021-10-11) – 継続中
    (3年2ヶ月間)
場所ウクライナ
現況 ロシアによるウクライナ侵攻
衝突した勢力

 ウクライナ

指揮官
戦力
  • ウクライナの旗 軍人 209,000人
    準軍事組織 102,000人
    予備役 900,000人[1]

  • ロシアの旗 軍人 900,000人
    準軍事組織 554,000人
    予備役 2,000,000人[1][注 37]
  • ベラルーシの旗軍人 45,350人
    準軍事組織 110,000人
    予備役 289,500人[1]
  • 20,000人[1]
  • 14,000人[1]

ロシア・ウクライナ危機 (2021年-2022年)(ロシア・ウクライナきき、ロシア語: Российско-украинский кризис 2021—2022 годоウクライナ語: Російсько-українська криза 2021—2022 років英語: 2021–2022 Russo-Ukrainian crisis)は、2021年3月から2022年にかけて、ロシア連邦ロシア連邦軍を同国のウクライナ国境周辺に20万人規模で集結させ、ウクライナ北隣のベラルーシ国内で軍事演習を行なうなど、ウクライナへの侵略が懸念されてきた[44]国際的な危機で、2022年2月24日ウクライナへの全面侵攻へと発展した。

2014年にはじまるウクライナ紛争[45]以来の一連の出来事の一部に位置付けられる。

概要

1991年、ソビエト連邦の崩壊によりウクライナは独立して国家となり、軍事的には中立を維持してきた[46]。2002年、ウクライナの政策に転換期が訪れた[46]。前年の2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生してロシアとアメリカ合衆国が互いに歩み寄ると、2002年、クチマ政権下のウクライナは以前から興味を示していたEU(欧州連合)および北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指す方向に大きく舵を切ったのである[46]。このような経緯でウクライナは西側諸国の軍事同盟NATOへの加盟を希望していたが、ドイツフランスなどNATO側の一部諸国がこれを拒否していた[47]。理由は、ウクライナ国民からの加盟への支持の低さや民主化の遅れ、法の支配、経済状況により条件を満たしていないことが主因であるが[48]、加盟国がNATOとロシアの関係悪化を懸念したことも影響したともされる。その後、ヤヌコーヴィチ政権によってNATO加盟をウクライナ自らが拒否した[47]2014年ユーロマイダンに始まる尊厳の革命の政変をうけ、ロシアはウクライナに帰属する親露派の多いクリミア半島併合を宣言した。一方ポロシェンコ政権下のウクライナは再びNATO加盟に向かった[47]。ウクライナ東部のドンバスでは戦闘が続き[49]、ウクライナはその後、親EUアメリカ的な政策を取り、2019年にEUとNATOの加盟を目指すように憲法を改正した[50]。この頃のNATOはロシアの影響が強い東方に勢力を拡大しており、NATOはロシアと新冷戦と呼ばれるほど対立していた[51]

ウクライナのNATO加盟に向けた動きに対してロシア連邦大統領ウラジミール・プーチンは、「ロシア人ウクライナ人は一つの民族である」[注 38]と主張し[52][53]、NATOの東方拡大に反対する態度を表明して、ウクライナ周辺に軍を展開させた[54]。2022年2月にはロシアは並行して隣国ベラルーシと軍事演習を行っている[55]

同年2月11日アメリカ合衆国やその同盟国などは、自国民にウクライナからの退避を勧告した[56]。2月18日には、アメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンは、「プーチンがウクライナに侵攻すると決断した。」と確信していると述べた[57][58]

2月24日、プーチン大統領がウクライナ東部で「特殊な軍事作戦を行う」と決断した。バイデン大統領は「プーチン大統領が戦争を選択した」「攻撃がもたらす死と破壊はロシアに責任がある」と非難した[59]

背景

ソ連崩壊から独立まで

青:北大西洋条約機構(NATO)加盟国(30か国)
紫:ウクライナジョージア(NATO加盟希望)
水色:ボスニア・ヘルツェゴビナ(NATO加盟希望)
赤:集団安全保障条約機構 (CSTO):ロシア連邦アルメニアベラルーシカザフスタンキルギスタジキスタンの6カ国
ソ連構成諸国の地図
1.ロシア、2.ウクライナ、3.白ロシア(ベラルーシ)、4.ウズベク、5.カザフ、6.グルジア、7.アゼルバイジャン、8.リトアニア、9.モルダビア、10.ラトビア、11.キルギス、12.タジク、13.アルメニア、14.トルクメン、15.エストニア

1991年のソビエト連邦の崩壊後も、ウクライナとロシアは緊密な関係を維持し続けた。ウクライナはソビエト連邦軍が保有していた核兵器の一部を引き継ぎ、世界第3位の核保有国になった[60][61]1994年、ウクライナは核兵器を放棄することに同意[注 39]し、ロシア、イギリス、アメリカ合衆国が領土保全または政治的独立に対する脅威または武力行使に対する保証を発行することを条件として、安全保障に関するブダペスト覚書に署名した。5年後、ロシアは欧州安全保障憲章欧州安全保障協力機構)の署名当事者に加わり、全ての参加当事者のそれぞれが、進展に応じて同盟条約を含む安全保障の合意を選択し、変更する自由があるという固有の権利を持っていることを再確認した[62]

ウクライナは1991年以来独立国として認められていたが、旧ソビエト連邦構成共和国として、ロシアの指導部から勢力圏の一部であると認識されていた。ルーマニアのアナリスト、Iulian Chifuルーマニア語版らは、2009年に、ウクライナに関して、ロシアはブレジネフ教義の更新版を追求し、それは1980年代後半から1990年代初頭にかけてのソビエトの勢力圏の崩壊以前のワルシャワ条約機構に加盟していた国々の主権程度にしかウクライナの主権を認めないものだと述べた[63]

北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大

1949年に創設された英国米国フランスオランダなどの北大西洋条約機構(NATO)に対し、1989年東欧革命およびソ連崩壊後、社会主義陣営だった東側諸国(東ヨーロッパ諸国)が加盟していった[64][65]

さらにNATOは2008年、ジョージアウクライナを加盟希望国として認めた[65][67]。このような旧東側諸国のNATO加盟、いわゆる「NATO加盟国の東方拡大」に対してロシアは反発を続けてきた[65]

カラー革命と民主化運動の脅威

1991年にソ連から独立したジョージア (グルジア)は2003年のバラ革命後は親欧米路線を採り、EUとNATO加盟を目標としてきた[68]南オセチアアブハジアはジョージアからの分離独立を求めていたが、2008年の南オセチア紛争でジョージア軍と南オセチア軍が衝突すると、ロシアが軍事介入し、同時に南オセチア及びアブハジアの独立を承認した[68]。プーチンは武力によって欧米の旧ソ連圏への影響力拡大に抵抗した[69]

ウクライナでは2004年に親欧米派によるオレンジ革命が起きた[69]バラ革命オレンジ革命などの民主化運動カラー革命と呼ばれた[69]。プーチンはカラー革命をロシアの復活を望まないアメリカとヨーロッパの陰謀であるとみなす[69]

ロシア国内でも、2011年から2012年にかけて民主化運動の波が押し寄せ、反プーチン運動が拡大したが弾圧した[69]。2017年に政治運動家アレクセイ・ナワリヌイメドヴェージェフ首相の蓄財を告発すると、7000人〜8000人が参加した抗議デモが発生したが、ナワリヌイらデモ参加者1000人が逮捕された[70]。2020年にナワリヌイは毒を盛られたが一命をとりとめた[71]が、2021年に収監された。収監直後、ナワリヌイグループは黒海リゾート地にある1400億円相当の豪邸を「プーチン宮殿」だとして暴露した[72]2021年1月23日のナワリヌイ釈放デモでは3000人以上が拘束され、プーチンは抗議デモは違法であり、抗議を通して「政治における自分たちの野心的な目標や目的」を推進しようとすべきではないとロシア国民に警告した[73]

2020年にはベラルーシでも大規模な抗議デモが発生し、女性が花をもって抗議した[69]。プーチン政権にとってこうしたカラー革命などの民主化運動は、自身の権力基盤を崩壊させることにつながる危険を持つものとして脅威とみなされている[74]

尊厳革命(マイダン革命)からクリミア危機・ウクライナ東部紛争へ (2014-)

2013年からユーロマイダン運動の数週間にわたる抗議行動に続き、2014年にはマイダン革命 (尊厳革命、2014年ウクライナ騒乱)が起きた[75][76][77][78]。2014年2月21日、親露派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領と野党の指導者たちは、早期選挙を求める和解合意に署名した。翌日、ヤヌコーヴィチは弾劾投票に先立って首都キエフからロシアへ逃亡した[79][80][81][82]。ウクライナのロシア語を話す東部地域の指導者たちは、ヤヌコーヴィチへの忠誠を継続すると宣言し[80][83]2014年ウクライナでの親ロシア派騒乱を引き起こした[84]。騒乱に続いて、2014年4月にドンバス戦争が始まり、ドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国が創設され、どちらもロシアに強く支持され、2014年3月18日ロシアがクリミアを併合した[85][86]

ミンスク合意

2014年9月5日、ウクライナロシア連邦ドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国ミンスク議定書に調印したが休戦に失敗した。

2015年2月11日にはミンスク2(ミンスク合意)が調印された。しかし、親ロシア派武装勢力が占領するウクライナ東部の2地域に幅広い自治権を認める「特別な地位」を与えるとの内容も含まれたこの合意は、ウクライナ国内で不満も出ていたことから、2019年に大統領になり、当初融和派だったウォロディミル・ゼレンスキーも翻意して履行せず、反故に動いた[87][88]。一方、合意には「外国の武装組織の撤退」や「違法なグループの武装解除」も定められているが、親露派とロシア側は守ってこなかった実情もある[89]

2021年10月26日、ウクライナ政府軍は親露派との紛争地域で親露派武装勢力にドローン攻撃を実施した[90]。ドローンによる攻撃は、ミンスク2から強化された2020年7月の協定で禁止された違反行為であったため[90]、ロシアからの批判だけでなく、欧米諸国からも異を唱えられた[91]。その禁止行為はロシア軍が行動に移すための口実となった[92]

緊張は高まり続け、2022年2月21日にロシアのプーチン大統領が「もはや存在しない」として、破棄を明言した[89]

略年表

経緯

2021年プーチンの統一論文

2021年7月、ロシアのプーチン大統領は、『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という題名の論文を発表し、ロシア人とウクライナ人は「一つの人民(民族)」であるという彼の見解を再確認した[93]


ロシアは、NATOへのウクライナの加盟の可能性とNATO拡大は一般的に国家安全保障の脅威であると述べた[94][95][96]。次に、ウクライナとロシアに隣接する他のヨーロッパ諸国は、プーチンがソビエト帝国を回復しようとし、積極的な軍国主義政策を追求したとして非難した[97][98][99][100][101]

2021年末:ウクライナ周辺のロシア軍集結

ロシアとウクライナの国境地帯には、通常3万5千人程度のロシア軍が配備されていた[102]

  • 2021年9月10日より開催されたベラルーシとの恒例合同軍事演習「ザーパド2021[103]」を理由として、ロシア連邦軍はベラルーシ国内ウクライナ国境付近の兵員の配備・増強を開始した[104]
  • 10月26日、ロシア軍集結の口実となる停戦協定違反のドローン攻撃をウクライナ軍が親ロシア派武装勢力に行う[92]
  • 11月12日ドミトリー・ペスコフ報道官は「ロシアは誰も脅迫しない」と述べた[105][106]
  • 12月3日、ワシントン・ポスト紙は情報機関からの情報として「2022年の年初にも17万5千人規模の侵攻計画が存在している」と報道した[107][108]。この兵員増強のための戦術行動は民間の衛星によっても確認されており、補給物資が集積されるなど極めて大規模な展開となることが予測されている中、ロシア側は「あくまで演習にすぎない」と述べていた[109]
  • 12月4日にはアメリカのジェイムス・C・マコンビル英語版陸軍参謀総長が「ウクライナ国境に9万5千人から10万人の兵力が配置されている」との発表を行った[108]
  • 12月12日、ドミトリー・ペスコフ報道官は「ウクライナ危機」を称する報道は、ロシアを悪魔化し、潜在的な侵略者とみなしていると非難した[106][105][110]
  • 12月17日、ロシアはウクライナがNATOに加盟しない事や、東方への部隊配備が進んでいるNATOに対し1997年時点の水準にまで後退・縮小させる事などを要求する条約草案を発表した[111][112][113][114]
  • 12月21日にはプーチン大統領が再度欧米諸国を非難し、「攻撃的な態度」を取り続けるのであれば「軍事的措置」を取ることもあると述べた[115]

2022年

2022年1月

2022年1月12日、NATOとロシアはブリュッセルNATOロシア理事会英語版[116]で会談したがロシア側の要求は受け入れられなかった[117][118]

  • 1月17日、ベラルーシのルカシェンコ大統領は同国西部および南部で2月10日〜20日にかけてロシアとの合同軍事演習「同盟の決意2022」を行うと発表。翌18日にはベラルーシ国防省が、合同軍事演習の前段として実施される部隊の点検などに臨むためロシア軍部隊が入国を開始した事を公知し、演習は「国境付近を含む欧州での緊張継続を背景に行われる」と説明した[119]
  • 1月19日、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、「ロシアはウクライナに対して攻撃的行動を意図しておらず、いかなる攻撃的行動も起こさない。ウクライナが何といおうと、攻撃や侵攻侵略を行うことはない」と述べた[106]
  • 1月22日、イギリス政府が諜報機関から、ロシアがウクライナに親ロシア政府を設置する計画を持っているという報告を受けたと発表すると、ロシアは「イギリスはナンセンスを広め、挑発するのを止めよ」と非難した[106]
  • 1月26日
  • 1月31日
    • 国際連合安全保障理事会はウクライナ情勢に関して会議を開いた[125][126][127]
    • 「全ロシア将校の会」会長レオニード・イワショフ退役大将は、NATOは脅威となる活動を展開してはいない、ロシアの死活的国益を損なうものではない、とした上で、ウクライナ危機はロシア国内のエリートのために人為的につくりだされた打算的な性格のものであり、対ウクライナ戦争が起きれば、ロシアとウクライナは永遠に絶対的な敵となるし、ロシアは平和を脅かす国とされ、国際社会の除け者になるだろうと警告し、プーチン大統領の辞任を求めた[128]

2022年2月

  • 2月4日
    • プーチン大統領は北京冬季オリンピックの開会式などに出席するため、北京を訪問。習近平国家主席と会談し、NATOのさらなる拡大に反対するとした共同声明を発表した。また、プーチン大統領は、ロシア極東から中国向けに年間100億立方メートルの天然ガスを追加供給することで新たに合意したと明らかにした[129]
    • ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、ロシアと中国の首脳共同声明を受け、「中国も世界中にある自身の利益が打撃を受けることについて理解しているはずだ」と述べて牽制した[129]
  • 2月7日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、クレムリンでこの問題などを巡りプーチンと会談した[130][131]。緊迫するウクライナ情勢について平和的な解決を目指すことで一致したが、具体的な行程は不透明なままとなった。プーチンはウクライナが「平和的に国の領土保全を回復するすべての可能性を無視し続けている」と語り、合意を履行していないとして批判した。マクロンは「合意の完全な履行を視野に、努力を続ける」などと表明した[132]
  • 2月8日、マクロン大統領は、ウクライナの首都キエフでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。マクロンは、「ミンスク合意」の履行が「平和と政治的解決につながる唯一の道だ」と強調した[133]
  • 2月10日
  • 事前の通達通りロシア・ベラルーシによる合同演習「同盟の決意2022」が開始され、翌11日、ウクライナ政府はウィーン文書英語版に基づき、国境付近での軍事的な動きを48時間以内に説明するようロシア政府に要求した[136][137]。これが無視されたため、ウクライナは欧州安全保障協力機構の国々とロシアとの会談を要求した[138][139][140]
  • 2月12日、バイデン米大統領がプーチンと会談すると、ユーリ・ウシャコフ外交顧問はウクライナ侵略というロシア脅威論はヒステリーだと述べた[106][105]
  • 13日までに十数カ国の政府がウクライナからの退避を自国民に勧告し、ウクライナ軍の訓練に参加していた150人のアメリカ軍人も退去を行った。また、ロシアも在ウクライナ大使館や領事業務の縮小を行った[141]
  • 2月14日ロシア海軍黒海で軍事演習を行った[142]
  • 2月15日、ドイツのオーラフ・ショルツ首相は、クレムリンでプーチンと会談した[143][144]。また同日には、ロシアが部隊の一部が演習を終え、国境地帯から一部撤収を開始したと発表した[145][146]。しかしアメリカ政府は撤退は虚偽であるとみており、逆に増強が行われているとしている[147]。同日、ロシアの下院では同年1月からロシア連邦共産党が提出していたドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立承認をプーチン大統領に要求する決議が可決された[148]
  • 2月16日以降緊迫が報道されると、セルゲイ・ラブロフ外相は「ヨーロッパでの戦争が今度の水曜日に起こるなんてことはない」とを嘲笑した[106]
  • 2月17日
    • ルガンスク人民共和国」が、ウクライナ側から砲撃を受けたと発表した[149]。一方でウクライナは攻撃を受けたが反撃はしていないと発表している[150]欧州安全保障協力機構(OSCE)特別監視団の主席監視官は、一夜のうちに500回程度の爆発があったと報告しているが、緊張は緩和していると報告している[151]
    • 国際連合安全保障理事会では、議長国のロシアによって設定された、ミンスク合意についての会合が開かれた[152][153][154][155]。この会合でアメリカのブリンケン国務長官はロシアが数日中にウクライナを攻撃できる準備を整えているとして、ロシアがウクライナ侵攻のための口実を捏造することを計画していると述べた[151]。ロシアのヴェルシニン外務次官は「ロシアがウクライナを攻撃するという根拠のない非難」を提示する「サーカス」にしようとしているとアメリカを非難している[151]。同17日、ロシア外務省はアメリカに1月下旬の文書に対する回答を送った[156][157]
  • 2月18日、OSCE(欧州安全保障協力機構)は、境界線のウクライナ側とルガンスクドネツク側の両方で計1,566件の停戦合意違反を確認した[158]
  • 2月19日、「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の両指導者が「総動員令」を布告した[159]。また18歳から55歳までの男性が実効支配地域から出ることも禁じている[160]
  • 2月20日
    • この日は「同盟の決意2022」が終了予定であったが、ベラルーシ国防省のフレニン国防相はドンバスの情勢緊迫などに関連して周辺国が軍備を強化しているとして、プーチン・ルカシェンコ両大統領が「部隊の戦闘能力の点検」継続を決めたと発表。さらに発表の中で、欧米によるウクライナへの軍備供与を念頭に「周辺で最新兵器が蓄えられている」と指摘。最近のNATO側の軍事活動の活発化が「ロシアとベラルーシを狙っていることは明らかだ」とし、演習の延長継続を正当化した[161]
    • アナトリ―・アントノフ駐米ロシア大使は、ロシア軍は「誰も脅迫しない。侵略はありえない。そのような計画はない」と述べた[105]
2月21日:ドネツクとルガンスク両州の「国家承認」と軍派遣の決定
  • 2022年2月21日、ロシア国民に向け、ウラジーミル・プーチン大統領によって行われたビデオ演説(ロシア語・英語字幕)
    2月21日
    • フランス大統領府は、同国のマクロン大統領が提案した米露首脳会談に、アメリカとロシアが「原則として」合意したと発表した。ただしアメリカ政府は、ロシアの侵攻がないことが条件だとしている[162]。一方でアメリカ政府は、ロシア軍に侵攻の命令が出されたとの情報を発表していた[163]
    • プーチン大統領はウクライナの東部に位置するドネツクとルガンスクの両州の一部地域について、「国家承認」を行う方針を固めたことをドイツとフランスの両首脳に通告し[164]、その後、ロシアの安全保障会議でドネツクとルガンスクの両州の一部地域についての「独立」を承認した[165][166][167][168]。これについて、ロシアのプーチン大統領は国民向けのテレビ演説の中で「ウクライナの東部2州のうち、親ロシア派が事実上、支配している地域をめぐり、ウクライナ政府側が停戦合意を守らずに攻撃を続けている」とウクライナを非難し、「独立と主権を速やかに承認することを決断する必要がある」と理由を説明した[169]。この緊急に行われたロシアの安全保障会議は、事前に収録され、その後のプーチン大統領の声明に関しては、およそ45分間にわたって行われ、いずれも、ロシアの国営テレビで放送された[170]。これにより、2015年に締結されたミンスク合意は、その合意の前提が崩れた[171][172]。また、ロイター通信が入手したロシアのプーチン大統領による署名入りの合意文書のコピーによれば、「ロシアはウクライナの2つの親ロシア派地域に軍事基地を建設する権利を獲得した」と記されており、親ロシア派の指導者らと新たに合意を結んだことがうかがえる[173]。これに関しては、10年間を有効期限とした「ロシアによる親露派地域での軍事基地設置や相互防衛義務」が記されている[172]。さらに、ロシアの下院が2月22日に審議を行う法案では、ロシアと親ロシア派地域の間で、「軍事協力と国境保護に関する別の合意」に関して署名することになっている[173]。また、同時に「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の指導者は、ロシアのプーチン大統領に対して、独立の承認を要求すると共に、「軍事支援を念頭にした友好協力条約の検討」についても要請を行った[174]。これに関しては、ロシア外務省が、ウクライナの東部にある親ロシア派のドネツクとルガンスクの「厳密な境界」の問題を議論を行う以前に、ドネツクとルガンスクとの友好条約の批准が必要だと指摘しており、ロシア議会では、ドネツクとルガンスクとの友好条約について、2月22日に審議を行うことになっている[175]。これを受け、あるアメリカの政権の高官は、米ロ首脳会談の開催の「原則条件」に反する可能性があるという見方を示し、ロシアのプーチン大統領の演説についても、戦争を正当化する内容だとした上で、アメリカは「最後まで外交の道を探る方針」という風に述べている[176]。一方で、ロシア外務省のザハロワ報道官は、インターネットで配信された番組の中で、2月24日に設定されているロシアのラブロフ外相とアメリカのブリンケン国務長官との会談について、「対話の用意はある」と述べた[177]
    • 同日、プーチン大統領は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する大統領令[178]、及び、「平和維持」を目的にしてウクライナの東部の一部地域(親露派支配地域)へのロシア軍派遣を命じる命令書に署名した[167][174][179][180][181]。これに関連して、ウクライナの東部にあるドネツク州の首都であるドネツクのその中心部において、軍用の戦車が隊列走行を行っている[172][182][183]
    • ロシアによるウクライナ東部の独立承認を受けて、アメリカ、イギリス、フランスの3か国は国連安全保障理事会の即時会合を要請し、ロシア側もアメリカ東部時間21日21時に行うことを決めた[184][185][186]。これについては、ウクライナ側がこの国連安全保障理事会の会合を行うよう要請を行い、アメリカ、イギリス、それにフランスの3か国を含む、8か国が支持をしたという[187]。会合では、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使が、「平和維持軍だと主張しているが、全くのでたらめだ」と述べ、「米国はロシアに責任を取らせるため、さらなる措置をとる」と述べた上で「ウクライナに対する攻撃は、全ての国連加盟国の主権と国連憲章に対する攻撃だ。迅速かつ厳しい行動を取る」とも述べた[188]。その一方で、ロシアのネベンジャ国連大使は「ウクライナ東部はロシアにとって容認できない新たな「ウクライナの軍事的冒険」の瀬戸際にあった」と主張した上で、ロシアはウクライナ東部において、「「新たな大量殺戮」が起きるのを許さない」と述べた上で「西側諸国は「熟考」すべき」とも述べた[189]。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「ウクライナの主権と領土の保全を侵害している」と批判した[190]
  • 2月22日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる親ロシア派地域の独立承認を受け、ロシアとの国交断絶を検討していると述べた[191][192]。また、ロシア議会の上院はロシア軍の国外への派遣について全会一致をもって承認した[193]。一方で、アメリカのブリンケン国務長官は記者会見を行い、ロシアの独立承認は「侵攻の始まり」と非難し、2月24日に予定していたロシアのラブロフ外相との米露外相会談を取り止めると発表した[194][195]。また、アメリカ・ホワイトハウスのサキ報道官は「バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領との会談は現時点では「当然」選択肢ではない」と述べた[196]
  • 2月23日、ウクライナは、既に発令されている東部の親露派地域を除く全土に非常事態宣言を発令する方針を決定し、ウクライナ軍は予備役の招集を開始した。ウクライナ外務省はロシアに滞在するウクライナ人に対し退避を促した[197]在ウクライナロシア大使館は国旗を降ろした[198]。しかし、ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナ東部に存在する親ロシア派武装勢力が「ウクライナ軍の攻撃を撃退するため」の支援に関して、プーチン大統領に対して要請したことを明らかにした[199]
2月24日:ロシアによるウクライナ侵攻開始
  • ウラジーミル・プーチンによる演説「特別軍事作戦の実施について」2022年2月24日(英語・ロシア語字幕あり)
    2月24日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの東部において、「特別軍事作戦」を実施することを決定し[200][201]、国民に向けたテレビ演説、「特別軍事作戦の実施について」で明らかにした[202]。そして、ロシア軍はウクライナの軍事施設に対して、ミサイルによる攻撃を始めた[203]。この影響で、北東部の中心都市であるハリコフの軍事施設に加え、キエフの軍指令施設が巡航ミサイルでの攻撃を受けた[204][205][206][207]。ロシア国防省は「ロシア軍は、ウクライナの軍の施設や飛行場を高性能の兵器によって無力化している」と述べた上で[208]、「ウクライナの軍事施設や防空、空軍を高精度兵器で標的にしている」ことを明らかにしている[207]。その一方で、「ロシア軍はウクライナの都市に対してミサイル攻撃や空爆をしていない」とも説明している[209]。これに伴い、ウクライナの複数の都市において、激しい爆発音が確認され、東部のクラマトルスクや南部オデッサなどで、爆発音が確認された[204]。また、現地時間の午前5時過ぎから首都のキエフでも爆発音が確認され、その爆発音が30分以上にわたって続いていることが確認されている[204][206]。ロシア軍は、ウクライナ東部において攻撃を始めた[205]。また、ロシア軍はウクライナの南部にあるオデッサと東部にあるマリウポリに対して、侵攻している[205]。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアがウクライナのインフラや国境警備拠点にミサイル攻撃を行い、多くの都市で爆発音が聞こえた」という風に述べた[210]。また、ロシアによる侵攻受け、ウクライナでは、24日午前0時に発出された非常事態宣言より厳しい戒厳令が全土に敷かれた[211]。また、ベラルーシからウクライナへと軍事車両が侵入し、ロシア、ベラルーシと接するウクライナの国境の検問所などが攻撃を受けている[212]。さらに、南部のクリミア半島との境界においても戦闘が発生している[212]。また、ウクライナ軍は南部のオデッサにロシア軍が上陸したという報道については誤りだと述べている[212][213]。ウクライナの国防相は、「ウクライナ東部の部隊や軍司令部、飛行場がロシアからの激しい砲撃を受けている」ことを明らかにしている[213]。また、ウクライナ軍は、「空軍はロシアの空襲撃退に努力している」と述べた[213]。ロシア軍は現地時間の24日の午前5時にロシア側から攻撃を行い、ベラルーシの支援によって、ベラルーシ側からも攻撃を始めた[214]。また、クリミア地域から攻撃も始まっている[214]。この侵攻を受けて同日、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアとの断交を発表した[215]。さらにゼレンスキー大統領は同月25日に「国民総動員令」に署名し、同時に18歳から60歳の男性市民のウクライナからの出国を全面的に禁止した。政令の発効から90日以内に動員を実施するものとみられる[216]

反応

ロシア

ロシア政府は一貫して侵攻の計画はなく、軍隊の集結は演習によるものであり、部隊は帰還を始めていると述べてきた。一方で、NATOの東方拡大などを含むロシアの要求が満たされない場合は、軍事的措置[217]「軍事技術的な措置」[218]を取るとたびたび表明してきた。

ロシア国営メディアは以前からウクライナを親ナチス国家であると報道しており、またウクライナ軍によって虐殺が行われているという報道もしばしば行っている[219]。また国営メディアではロシアが西側の世論に支持されているという報道がしばしば行われ、それは西側諸国のニュースサイトにあるユーザーからのコメントを引用することで行われている[219]。2022年1月下旬から2月にかけて、独立系世論調査機関レバダ・センターが行った世論調査によると、プーチンの支持率は2021年12月の調査より4ポイント増加して69%となり、50%の回答者が「ロシアの進んでいる方向は正しい」と回答している[220]

一方で全ロシア将校協会の会長である退役軍人のレオニド・イヴァショフロシア語版上級大将は、1月31日に、プーチンに辞任を求める書簡を公開した[221][222][223][224][225]。100人〜数千人のインテリゲンツィアも侵攻に反対している[226][227]

ロシアのプロパガンダに対抗するとしている団体ミソス・ラブスは、2021年11月ごろからインターネット上で、親ロシアのプロパガンダを行うアカウントの活動が急激に増加したとしている[219]

セルビア

2022年3月4日 セルビア人とロシア人は永遠の同志として、セルビアの首都ベオグラードで、ロシアのウクライナ侵攻への支持を表明するデモが行われた。[228]

2022年3月5日 仏マクロン大統領、ロシア非難決議に賛成したセルビアを称賛した[229]

ウクライナ

ロシア連邦軍はウクライナ軍に比べ強大であるうえ、ロシアは不正規戦争サイバー攻撃、世論・情報工作を併用するハイブリッド戦争を重視している。ウクライナ政府はロシアに対抗する情報安全保障戦略の策定、本土決戦に備えたレジスタンス活動[230]民兵による「領土防衛軍」(領土防衛隊)の組織化[231]を進めている。

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、侵攻の可能性があるとされていた2月16日を「団結の日」と制定してウクライナの団結を示した[232][233][234]

ベラルーシ

ベラルーシはロシア支援の態度を明確にしており、2021年11月30日にアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はクリミアはロシア領であると表明している[235]。また2022年2月18日にはプーチンと首脳会談を行い、連携を確認している[236]

ルーマニア

2022年2月8日、ウクライナ情勢緊迫を受けた米軍増派を歓迎、世論も支持。まず100人以上が到着した。米国防総省は東欧諸国などに3000人規模の米軍派遣を表明[237]

2022年2月25日、フランスが、ルーマニアに500人派兵[238]

2022年2月26日、ロシアのウクライナ侵攻で東欧諸国に難民受け入れ態勢[239]

2022年3月1日、NATOは、即応部隊をルーマニアに展開させた[240]

2022年3月4日、ウクライナ避難民、16.76万人がルーマニアに入国[241]

2022年3月6日、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、「ルーマニアなどにウクライナの軍用機が飛来しているのを知っている。軍用機を駐留させたり、ロシア攻撃のため空域を使用させたりすることは参戦と見なす」と警告した[242]

アメリカ

2022年2月22日、前大統領ドナルド・トランプは、ロシアがウクライナ東部に軍を派兵した行動は、「天才」(genius)だと評した[243][244][245]

同26日にブリンケン国務長官は、ウクライナに対し最大3億5000万ドルの軍事支援を行うと発表した。この発表の中では、ウクライナに殺傷能力のある防衛兵器を貸与するとしており、この中に対戦車ミサイルのジャベリンも含まれると明らかにした[246]

イギリス

2022年1月18日には、ウクライナに対し対戦車ミサイルの供与を行っていることを発表している[247]。2月17日、イギリス・ポーランド・ウクライナの外相は共同声明を発し、ウクライナの独立・領土保全を確認し、戦略的協力関係をさらに強化する枠組みを成立させると発表した[248]

ドイツ

ウクライナへの武器供与は基本的に行っていない[249][250][251]。ウクライナ政府からは要望があるものの、ドイツ政府は拒否を続けていた。1月21日にカイ=アヒム・シェーンバッハ海軍総監が講演において、ロシアがウクライナに侵攻することはありえないと述べ、「(プーチン大統領が)本当に求めているのは敬意で、それを与えるのは簡単なことだ」「クリミアはもう二度と戻ってこない」などと発言し、22日に辞職に追い込まれている[252]。1月27日にドイツはヘルメット5,000個の供与を行い、キエフのビタリー・クリチコ市長が「言葉を失った」と批判し、ドイツ国内からも批判が起こった[253]。しかしながら、2月27日にドイツはこれまでの方針を一転し、ドイツ連邦軍が保有する対戦車砲を1000基、及び地対空ミサイルの「スティンガー」500基をウクライナに提供すると発表した[254][255]

フィンランド

2021年12月24日、ロシア外務省のザハロワ報道官は、フィンランドスウェーデンがNATOの演習に参加していることに触れ、両国がNATOに加盟した場合は「軍事的、政治的に深刻な結果をもたらし、ロシア側に適切な対応が求められるだろう」と述べた[256]。これは両国への圧力ととらえられ、両国ではロシアに対する反発を招いた。2022年1月1日、サウリ・ニーニスト大統領は「フィンランドの戦略と選択の自由には、NATOへの加盟申請の可能性が含まれる」と発言している[256]。1月19日、サンナ・マリン首相は、ウクライナ侵攻が行われた場合の経済制裁への参加を表明したが、NATOへの加盟については近い将来には起こらないと述べている[257]

バルト諸国

リトアニアラトビアエストニアは、ウクライナへの安全保障支援を行うことで合意しており、アメリカ製の対戦車ミサイルや地対空ミサイルの供与を行っている[258]

中国

中華人民共和国外交部は2022年2月18日に「一部西側諸国の継続的なデマ発信」が行われているとし、アメリカが軍事的脅威を演出し、緊張を作出していると発表している[259]

日本

2022年1月24日、ロシアとの軍事的緊張が高まるウクライナ情勢を受け、日本の外務省は、海外安全ホームページのウクライナの「危険情報」を渡航中止を勧告するレベル3に引き上げた[260][261]。さらに、2月11日、ウクライナの危険情報を、退避を勧告する最も高いレベル4に引き上げた[262][263]

2月8日と9日に、衆議院参議院はそれぞれウクライナ問題を深く憂慮するという決議をれいわ新選組を除く各党賛成のもと行なったが、「ロシア」の国名については言及されない決議となった[264][265][266][267]

また2月13日にはアメリカ・大韓民国と三国外相会談を行い、ウクライナ国境でのロシアの活動拡大を阻止するための協力を行うことを表明している[268]

2月20日には、元防衛大臣小野寺五典がテレビで「このままではロシアに口先だけだと思われる」とアメリカのウクライナに軍を派遣しない方針に懸念を表し、「もうすでにハイブリッド戦は始まっている」との見方を示した。さらに、「日本もウクライナと同じことになる可能性がある」として、自国のことは自国で守るというスタンスが大切だとした[269]

2月22日、林外相はG7の声明でロシアのドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国の独立承認を強く非難した[270]

さらに23日、岸田首相は「いわゆる2つの共和国の関係者の査証発給停止と資産凍結」「いわゆる2つの共和国との輸出入の禁止」「ロシア政府による新たなソブリン債の日本での発行・流通の禁止」の3つの対露制裁を発表した[271]

台湾

2022年2月25日、台湾では在台ウクライナ人によって、ロシアの駐台湾代表機関前で抗議が行われた[272]。「今日のウクライナ、明日の台湾」という言葉もネット上で広がりを見せた[273][274][275][276]。これは、ひまわり学生運動で使われたスローガン、「今日の香港、明日の台湾」が語源となっている。

その他

ロシアは世界有数の天然ガス資源国であり、ヨーロッパの天然ガス需要の4割を占めている[277]。侵攻が現実化した場合には、ロシアからのガス輸入が停止する事態が想定されている[278][279]。ドイツとロシアの間に開通したガスのパイプラインノルド・ストリーム2」について、アメリカのバイデン大統領は侵攻が開始された場合には停止させると声明し、ドイツもノルド・ストリーム2を制裁対象にするとしている[280][281]。また、日本は輸入したLNGをヨーロッパに融通する異例の政策を取ると発表した[282][283][277]

2月22日、ドネツク・ルガンスク両人民共和国をロシアが国家承認したことに対して、アブハジア共和国アルツァフ共和国南オセチア共和国の3か国は相次いで歓迎する声明を発表した[284]。いずれの国も国際的に独立は認められておらず、ロシアが軍事的に支援しているという共通点を持つ。

2月25日、ミクロネシア連邦はロシア軍のウクライナ侵攻について抗議のため、ロシアとの断交を決定した[285]

分析

戦術

ロシアは米国に行動をさせるための強要(compellence)戦術をとっていると指摘される[286]

また、ロシアにはマスキロフカという軍事欺瞞の伝統があり、プーチン大統領も意図的に相手の印象を操作する訓練を受けて実践している[286]

ジョージア・南オセチア紛争 (2008年)との共通性

2022年2月21日にプーチンが署名した「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の独立国家承認文書は、2008年のジョージア (グルジア)における南オセチア紛争での南オセチアアブハジアの独立承認文書と言葉遣いもほぼ同じであったと指摘されている[68]ジョージア (グルジア)は、ソ連から1991年に独立、2003年のバラ革命後は親欧米路線を採り、EUとNATO加盟を目標としてきた[68]南オセチアアブハジアはジョージアからの分離独立を求めていたが、2008年の南オセチア紛争でジョージア軍と南オセチア軍が衝突すると、ロシアが軍事介入し、南オセチア及びアブハジアの独立を一方的に承認した[68]

プーチン政権の国家観・歴史観

プーチンは、エカテリーナ女帝がウクライナを「小ロシア」として併合し同化させたロシア帝国のような「帝国復活」の願望を持っていると指摘される[287]。2012年の民主化運動の大弾圧以降、プーチン政権では、対欧米協調派が衰退し、旧KGB出身のニコライ・パトルシェフロシア連邦安全保障会議書記ら強硬派のチェキストが主導権を握り、欧米のリベラルな価値観がロシアの精神的基盤を破壊するという危機感を持ち、2021年に改訂された戦略文書「安全保障戦略」にも明記された[287]

2021年7月のプーチンの論文では「ウクライナとロシアは一つの民族」「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」と結論づけ、ウクライナの主権を否定した[287]。アメリカの歴史家ティモシー・スナイダーは、プーチンの論文の思想を帝国主義と表現し[288]、イギリスのジャーナリスト、エドワード・ルーカスはそれを修正主義者と表現した[289]。他のオブザーバーは、ロシアの指導部が現代ウクライナとその歴史について歪んだ見方をしていると指摘している[290][291][292]

ウクライナ侵攻直前の2月22日の演説で「ウクライナは真の国家として安定した伝統がない」とウクライナ国家の正統性を否定した[287]

プーチンの側近には、パトルシェフ安保会議書記ナルイシキン対外情報庁長官ボルトニコフ保安庁長官ショイグ国防相の4人がおり、ショイグを除く3人はKGBでプーチンの同僚だった[293]。これらはシロビキ(武闘派)のサンクトペテルブルク派ともいわれ、特にパトルシェフ安保会議書記はプーチンが最も信頼する側近とされ、その権力は強いと政治学者ワレリー・ソロベイは指摘する[293]。パトルシェフ書記は2021年末にウクライナ指導部は「ヒトラー並みの悪人」「人間以下」だと語っており、これはウクライナ侵攻後のプーチンの非ナチ化発言と関連しているとみられている[293]。ウクライナ国内には、ナチス・ドイツに加担したウクライナ民族主義者ステパーン・バンデーラを英雄視する風潮や、極右政党スヴォボーダなどネオナチ勢力の存在がある。その一方でウクライナ東部の紛争に影響を受け[294]、2015年5月にポロシェンコ政権下で「脱共産主義法」(ウクライナ語: «Про засудження комуністичного та націонал-соціалістичного режимів»)が発効し、共産主義およびナチスのプロパガンダが禁止されている。

筑波大学中村逸郎教授は、プーチン大統領は自らの政治を正当化するため、国家・国益・国家主権を重視して、「ロシアの神話」シリーズの著者であるウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官の思想を必要としていたと指摘する[295]

ロシアの政治評論家アンドレイ・コレスニコフは、ウクライナ危機はロシアの帝国主義の結果であり、プーチン政権の目標はロシア帝国の復活にあると指摘した[293]

プーチン大統領の関連人物

プーチンの心理的要因

プーチンはカラー革命などの旧ソ連地域への民主化運動の浸透を脅威とみなしており、ロシアで民主主義にもとづく政治運動が起こり、自らの権力体制が崩壊することを一番恐れているのではないか、ロシア周辺にはベラルーシのルカシェンコ大統領のような傀儡政権を構築していくことで自分の政治生命を守っていきたいのではないか、と早稲田大学(国際公共政策)の中林美恵子は指摘する[296]

ジャーナリストの木村太郎や政治学者で拓殖大学名越健郎らは、プーチンはKGB諜報員だった時代に、1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連崩壊を体験しており、民衆革命によって政権が倒されることがトラウマになっており、自分の尊厳が損なわれた経験によるPTSDなのではないか、プーチンにとってウクライナの民主化運動は、東ドイツでKGBを襲った群衆に見えているのではないか、そしてその裏にはアメリカの陰謀があるとみていると語った[297]

また、コロナ禍の隔離生活や独裁体制によってプーチンが心理的に孤立感を深めたとの指摘もある。マクロン仏大統領は2月7日の会談後、「プーチンは3年前とは別人だ。頑固で、孤立している」と語った[293]。フィオナ・ヒル元米国家安全保障会議欧州ロシア部長や、マイケル・マクフォール元駐ロシア大使らは、20年に及ぶ権力集中やコロナ禍の隔離生活によって、プーチンの精神状態は不安定になっており、側近としか話をしなくなったと指摘される[293]

脚注

注釈

  1. ^ カナダは指導教官を派遣した[1]
  2. ^ リトアニアは弾薬と指導教官を送った[2][1]
  3. ^ ポーランドはインストラクターを派遣した[1]
  4. ^ スペインは黒海に2隻の軍艦を送り、ブルガリアに戦闘機を送る予定[3]
  5. ^ スウェーデンは指導教官を派遣した[4]
  6. ^ イギリスは武器(特にNLAWATGM)と指導教官を送った[1]
  7. ^ アメリカは武器と指導教官を送った[5][1]
  8. ^ 欧州連合は、ロシアの侵攻の場合の制裁措置の枠組に合意し[6]、12億ユーロのマクロ金融支援を割り当てる予定[7]
  9. ^ アルバニアは、連立の一環としてウクライナに軍隊を派遣する用意がある[8]
  10. ^ チェコ共和国は、武器と軍隊を送ることを計画している[9][10]
  11. ^ ブルガリアは、スペインとオランダからの外国のジェット機を取り扱う[11]
  12. ^ デンマークは、防衛目的で財政支援を割り当てることを決定した[12]
  13. ^ エストニアは、アメリカ製の対戦車ミサイルと対空ミサイルを送る予定[13]
  14. ^ ドイツは、ウクライナの野戦病院に530万ユーロを割り当て、5,000個のヘルメットを送る予定。特に、ドイツは病院の建設と使用に関する訓練を実施する。また、ロシアの侵攻があった場合、ドイツはノルド・ストリーム2の運用を拒否する。[14][15]
  15. ^ コソボは、連立の一環としてウクライナに軍隊を派遣する用意がある[16]
  16. ^ ラトビアは武器と軍隊を送ることを計画している[17][18]
  17. ^ オランダは武器を送ることを計画している[19]
  18. ^ 北マケドニアはウクライナへのNATOの任務に参加する用意がある[20]
  19. ^ ルーマニアは、ウクライナとルーマニアに対するロシアの侵攻を阻止するために、NATO軍をルーマニアに駐留させることを許可する[21]
  20. ^ On 14 January, presidents of Azerbaijan and Ukraine signed a joint declaration on "readiness to provide mutual support for the sovereignty and territorial integrity" of both countries "within internationally recognized borders, joint counteraction to hybrid threats, the desire to ensure peace and stability in the Black Sea-Caspian region and beyond".[22][23]
  21. ^ ベルギーは、深刻化した場合に備えて軍隊を警戒態勢に置いている[24]
  22. ^ フィンランドはロシアの侵攻により軍事力を強化し始め、ウクライナの主権への支持を宣言した[25]
  23. ^ フランスは「ウクライナの領土保全を守る」つもりであり、ルーマニアに軍隊を派遣することを検討している[26][27]
  24. ^ ジョージアは、ロシアの侵攻の中でウクライナとの連帯を表明している[28]
  25. ^ ギリシャはロシアに対する強力なEUの行動を支持している[29]
  26. ^ アイルランドはウクライナの外交的支持を表明し、ロシアの軍艦は沿岸で歓迎されないと述べた[30]
  27. ^ イタリアは、ロシアがウクライナに侵攻した場合、「深刻な結果」を警告している[31]
  28. ^ 日本は、他の同盟国やパートナーと緊密に連絡を取り合い、いかなる攻撃にも強力な行動で対処し、コミュニケーションを続けることを約束した[32]
  29. ^ ニュージーランドはウクライナの主権と領土保全を強力に支持している[33]
  30. ^ ノルウェーは、ウクライナへの侵攻は大きな誤りであり、「弱さの兆候」であると警告している[34]
  31. ^ ポルトガルはウクライナと「卓越した関係」を持っているとポルトガルの外務大臣が発言した[35]
  32. ^ スロバキア首相は、「ウクライナに対する脅威はスロバキアに対する脅威である」と明言した[36]
  33. ^ トルコは、ウクライナへの侵攻は「賢明ではない」と警告している。
  34. ^ サイバー戦争[37][38]
  35. ^ オーストラリアはサイバー戦争を支援する予定[39]
  36. ^ 中国は、ウクライナにおける西側の干渉に対するロシアの懸念を支持している[41]
  37. ^ ウクライナ国境の175,000人の兵士を含む[43]
  38. ^ ロシア人とウクライナ人の多くはキリスト教正教会の信徒で尚且つ東スラブ人である。プーチン大統領も生後間もなくキリスト教正教会の洗礼を受けたクリスチャンの申し子であり、その敬虔さと共に、ロシア正教会最高位を務めるキリル1世総主教との親しい間柄がよく知られている。一方、2022年ウクライナ侵攻時のウクライナ大統領ゼレンスキーユダヤ教系の家系である。
  39. ^ en:Nuclear weapons and Ukraineを参照。

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関連項目

外部リンク