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「芽殖孤虫」の版間の差分

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{{生物分類表
{{生物分類表
|名称 = 芽殖孤虫 ''Sparganum proliferum''
|名称 = 芽殖孤虫
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|画像 = [[File:A Plate of 'Plerocerus prolifer' (= Sparganum proliferum) in Ijima (1905).jpg|220px]]
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|属階級なし = 孤虫{{Sfn|田中|山科|遠藤|加納|1967}}<br/>{{Snamei||Sparganosis|Sparganum}}<br/>{{Efn|孤虫 {{Snamei|Sparganum}} は、成虫が同定されていない[[裂頭条虫科]]の幼虫([[プレロセルコイド]])に対して与えられる[[寄集群|寄集群名]]である{{Sfn|田中|山科|遠藤|加納|1967}}{{Sfn|Stiles|1908}}。寄集群の分類学的地位は[[属 (分類学)|属]]とは異なるが、[[国際動物命名規約]]第4版では「寄集群に対して提唱された[[学名]]は属階級群名として扱う」ことが定められているため、ここでは属名として扱う。本種の分類については本文[[#分類]]節を、寄集群に関しては当該記事を参照。}}
|属 = {{Snamei||Sparganum}}
|種 = '''芽殖孤虫''' ''S. proliferum''
|種 = '''芽殖孤虫''' <br/>'''{{Snamei|S. proliferum}}'''
|和名 = 芽殖孤虫
|和名 = 芽殖孤虫
|学名 = ''Sparganum proliferum''<br />(Ijima, 1905) Stiles, 1908<ref name=kiseichu>{{Cite web|author=日本寄生虫学会用語委員会|date=2008年5月22日|url=http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/modules/tinyd1/content/provisionalJEtable.html|title=暫定新寄生虫和名表|accessdate=2011年5月9日}}</ref>
|学名 = '''{{Snamei|Sparganum proliferum}}''' <br/><small>([[飯島魁|Ijima]], 1905) [[w:Charles Wardell Stiles|Stiles]], 1908</small>{{Sfn|日本寄生虫学会|2018}}
|シノニム =
* {{Snamei|Plerocercoides prolifer}} <small>Ijima, 1905</small>{{Sfn|Stiles|1908}}{{Sfn|吉田|1909}}
}}
}}
'''芽殖孤虫'''(がしょくこちゅう、英:''Sparganum proliferum'')は、ヒトに寄生する人体[[寄生虫]]の1種。[[条虫綱]][[擬葉目]][[裂頭条虫科]]に属する[[扁形動物]]。成虫は同定されていないため、'''孤虫'''の名が付けられている。ヒトの体内に入ると、急速に分裂して全身に転移しながら増殖し、宿主を確実に死に至らしめるという、非常に危険な性質を持つ。


'''芽殖孤虫'''(がしょくこちゅう、学名:'''{{Snamei|Sparganum proliferum}}''')は、[[裂頭条虫目]][[裂頭条虫科]]に属する[[条虫]]の一種{{Sfn|日本寄生虫学会|2018}}。ヒトに感染し、致死的な[[寄生虫病|寄生虫感染症]]とされる'''芽殖孤虫症'''を引き起こすことで知られる{{Sfn|宮崎大学|2021}}。
1904年に発症例が初めて確認され、1905年に東京帝国大学の[[飯島魁]]により「人体内で急激に増殖する新種条虫の幼虫」("On a new cestode larva parasitic inman(Plerocercoides prolifer)" J. College Sci.Imperial Univ. Tokyo Jap., 20: 21, )という題名の論文で新種記載された。幼虫([[プレロセルコイド]])でのみ発見されたことから、飯島は「プレロセルコイド属」(Plerocercoides)に属せしめたが、成虫が見つかっていない幼虫(孤虫)である点が特徴であるとして、1908年にアメリカのスタイルス博士が「孤虫属」(Sparganum)に移管した。いずれも成虫が同定された際にはシノニムとなることを前提とした一時的な属名である。2021年に成虫段階が存在しない可能性を示唆する研究成果が発表された(生活史の項に詳述する)。


== 特徴 ==
== 特徴 ==
本種は幼虫([[プレロセルコイド]])段階の個体のみが得られており、成虫が知られていない{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。虫体の[[出芽]]・分岐によって幼虫のみで[[無性生殖|無性的]]に分裂増殖を繰り返す特異な生態を示し{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|小風|1995}}、「芽殖孤虫」の名はこれらの特徴に由来する{{Sfn|宮崎大学|2021}}。虫体は白色で、分岐の程度や体サイズといった形態には個体差が見られる。典型的なものでは糸状、または蠕虫状の形態を示すが、症例によっては卵のような形態を示す個体も見られる{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。宿主の体内においては単体、または2、3個体で被嚢され、嚢内で分裂増殖を行うが、嚢から遊離する個体も観察される{{Sfn|Stiles|1908}}{{Sfn|Ijima|1905}}。皮膚をはじめとしてさまざまな組織・臓器に侵襲するため、本種の感染は宿主にとってしばしば致死的となる{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。
移動性の腫瘤を形成し患者から摘出された虫体は数〜10数mmで不定形である。かつては[[マンソン裂頭条虫]]にある種の[[ウイルス]]が感染したものという報告がなされたが<ref>{{Cite journal |author=Mueller JF, Strano AJ. |title= Sparganum proliferum, a sparganum infected with a virus? |journal= Int J Parasitol |volume=60 |issue=1 |date = 1974-02 |pmid=4360813}}</ref>、遺伝子解析の結果、マンソン裂頭条虫に近縁ではあるが異なるものであることがわかっている。


芽殖孤虫症は世界的に見ても稀な寄生虫症である{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。本症の症例報告を[[総説論文|レビュー]]した {{Harvtxt|Kikuchi|Maruyama|2020}} は、1905年の最初の報告以来115年間における本症の症例として18例を数えている{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。本症のくわしい症状や研究史等については後述する。
芽殖孤虫症の発症者には[[両生類]]、[[爬虫類]]の喫食経験者が多い事から、マンソン孤虫症と同様にヘビ、カエル、スッポンなどの「野味」の生食が原因となっている可能性を示唆している。戦後、[[寄生虫病予防法]]により公衆衛生の改善が推進され、獣肉の生食が厳しく戒められるようになると、日本における芽殖孤虫症の発症例も[[1956年]]を最後に長く途絶えた。


== 分類 ==
しかし、[[1987年]]には東京都心で芽殖孤虫症の死亡者が発生している。患者は当然に野味の喫食歴はなかったが、井戸水を飲んでいた。マンソン裂頭条虫はケンミジンコを一時宿主としており、ミジンコが混ざった生水を飲んだことによりマンソン孤虫症を発症した事例があることから、芽殖孤虫症も同様に生水から感染する可能性が指摘されている。<ref>中村卓郎「PIE症候群、肺塞栓症を合併した芽殖孤虫症の1例」(日本胸部疾患学会雑誌27 1989)</ref>
成虫が得られておらず、症例自体も稀であるため、本種の[[分類学]]的地位は近年まで不確定であった。形態から[[擬葉目]]に属することは示唆されていたが{{Sfn|小風|1995}}、下位分類に関しては、独立種であるとする説と[[マンソン裂頭条虫]]がウイルス感染などによって変異したものであるとする説が提唱されていた{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。その後、1980年代に[[ベネズエラ]]の症例に由来する飼育系統が確立された{{Sfn|de Noya|Torres|Noya|1992}}ことで新鮮な標本を用いた研究が可能になり、近年は[[分子系統学|分子系統解析]]に基づき、本種をマンソン裂頭条虫と近縁な別種であるとする説が優位になっている{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。

== 生活環 ==
成虫が得られていないため、[[生活環]]は不明である{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。本症は[[サル]]、[[イヌ]]、[[ネコ]]への感染報告も知られている[[人畜共通感染症]]だが、いずれの場合も感染経路は明らかになっていない。本種は[[マンソン裂頭条虫|マンソン孤虫]]と近縁であると考えられるため、本種も[[ヘビ]]や[[カエル]]、[[鶏]]などの動物{{Efn|マンソン裂頭条虫の第二[[中間宿主]]。}}の生食や、井戸水中に生息する[[ケンミジンコ]]{{Efn|マンソン裂頭条虫の第一中間宿主。}}に由来する可能性が考えられてきたが、いずれも実証はなされていない{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。<br/>

<!-- 研究史に移動すべきかも -->
具体的な生活環は依然として謎に包まれているものの、最近になって本種の生活史の解明につながり得る研究成果ももたらされている。{{Harvtxt|Arrabal|Pérez|Arce|Kamenetzky|2020}} は[[アルゼンチン]]の[[ネコ科]]動物の[[轢死#ランオーバキル(ロードキル)|轢死体]]から得られた条虫を、[[ミトコンドリアゲノム]]を用いた系統解析によって本種の成虫と同定し、ネコ科動物が本種の[[終宿主]]である可能性を提唱している{{Sfn|Arrabal|Pérez|Arce|Kamenetzky|2020}}。また、{{Harvtxt|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}} は {{Harvtxt|Arrabal|Pérez|Arce|Kamenetzky|2020}} の標本が本種と近縁な別種である可能性を指摘し、さらに[[ゲノム]]の機能解析から本種が[[有性生殖]]によって生活環を完了する能力を喪失している可能性を示唆。本種が成虫段階を持たず、幼虫のみで存在する「真の孤虫」であるとする説を提唱している{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。


== 分布 ==
== 分布 ==
世界的に感染報告が少明確なことわかっていないが、日本感染報告が多い。2000年の時点14例の症例が報告されている。内訳日本が6例、[[台湾]]3例、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]2例、[[カナダ]]、[[パラグアイ]]、[[ベネズエラ]]が各1である。
前述のとおり稀寄生虫であり記録散発的である。うち、日本からの報告が多で、国内から6例の症例が知られている。国外では[[タイ王国|タイ]]から3例、[[台湾]]から2例の報告があるほか、[[アメリカ]]、[[パラグアイ]]、ベネズエラ、[[レユニオン]]、[[中国]]、[[韓国]]などからの症報告が記録されてい{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}


== 生活史 ==
== 芽殖孤虫症 ==
'''芽殖孤虫症'''(英:'''Proliferative sparganosis''')は芽殖孤虫による寄生虫症である。本症はヒト以外の[[哺乳類]]への感染も確認されている[[人畜共通感染症]]である{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Arrabal|Pérez|Arce|Kamenetzky|2020}}。
成虫が同定されていないため、生活史は全く不明である。
=== 症状 ===
本症に関しては、虫体の寄生部位によって異なる病態が見られることが知られる{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}。{{Harvtxt|Kikuchi|Maruyama|2020}} はこの病態の差異を皮膚型(Cutaneous)と内部型(Internal)の二種に大別し、[[予後]]や虫体の形態などにも差異が見られることを報告している{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。


==== 皮膚型(Cutaneous proliferative sparganosis) ====
ヒトに寄生した場合、体内では成虫にはなれないため、[[幼虫移行症]]を起こす。また、この類ではよくある事であるが、幼虫のままで宿主体内で分裂して増殖する。
最初の症例報告である {{Harvtxt|Ijima|1905}} に代表される典型的な症状である。上述した18の症例のうち、8例が該当する{{Sfn|宮崎大学|2021}}。感染は虫体の[[真皮]]への侵襲から始まり、共通する症状として[[皮膚]]病変が見られる。8例中3例では、皮膚の[[結節]]状の病変部位を掻いたり潰したりすることで虫体や被嚢を取り出すことができたとされる。8例中すくなくとも4例においては、感染進行に伴い[[腹腔]]、[[後腹膜]]、[[肺]]や[[脳]]など、全身のさまざまな部位への侵襲が見られ、8例中7例で患者が死亡した。発症時期が特定できた症例のうち、発症から診断までにかかった経過年数は最長で23年、中央値が7年で、一般に、発症から[[末期症状]]が見られるようになるまでにはある程度の時間がかかると見られる{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。


==== 内部型(Internal proliferative sparganosis) ====
2021年5月31日、[[宮崎大学]]の菊地泰生を中心とした研究グループは、宮崎大学・[[国立科学博物館]]・[[東京慈恵会医科大学]]を中心とする国際共同研究の成果として、「芽殖孤虫」の全ゲノムの解読に成功したと発表した。発表では、芽殖孤虫において胚発生の際の器官形成に重要な働きをするホメオボックス遺伝子群が非常に少ないことや、個体発生や有性生殖に関与することが知られている複数の遺伝子に選択圧がかかっていない(生存する上での重要性が低下している)ことなどから、「芽殖孤虫には成虫段階が存在せず、この 生虫は幼虫(プレロセルコイド)としてだけで存在する『真の孤虫』である可能性がきわめて濃厚である」とした<ref>{{Cite web|title=謎の寄生虫「芽殖孤虫」のゲノムを解読|url=http://www.jikei.ac.jp/news/press_release_20210531.html|website=www.jikei.ac.jp|accessdate=2021-06-01|publisher=東京慈恵会医科大学|date=2021-05-31}}</ref><ref>{{Cite web|title=【国立科学博物館】謎の寄生虫「芽殖孤虫」のゲノムを解読 -謎に包まれた致死性の寄生虫症「芽殖孤虫症」の病原機構に迫る-|url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000255.000047048.html|website=PR TIMES|accessdate=2021-06-01|date=2021-05-31}}</ref>。
上述した18の症例のうち、10例が該当し{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}、日本では{{Harvtxt|青島|中田|松岡|河端|1989}} が該当する。[[体壁]]または内臓に結節・[[腫瘤]]の形成が見られるが、皮膚病変は見られず、皮膚型とは相互に排他的な症状であると考えられる。共通する皮膚病変の不在を除けば、皮膚型と比べて臨床症状が多様であり、肺や脳への感染のほか、[[骨]]への侵襲を呈した症例もある。骨への感染は皮膚型では見られない内部型特有の症状であるとされ、10例中3例では骨病変のみが見られた。予後が不明の症例も多いが、患者の死亡が確認されているのは10例中3例である。内部型は記録されているすべての症例が1970年以降のものであるため、[[医用画像処理]]技術の発展が早期発見に繋がっていると考えられる。また、内部型においては虫体が卵状の形態を示すことが報告されている{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。


== 宿主 ==
=== 診断 ===
診断は近年まで虫体の形態にもとづいて行われてきたが、宿主体内で分裂による無性生殖を行う{{Efn|ただし、本種とは分裂様式が異なる{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。}}[[円葉目]]条虫が本種と混同されてきたことが後年明らかになった事例{{Sfn|Beaver|Rolon|1981}}などもあり、形態による診断が困難な場合があることが指摘されている。また、本症患者[[血清]]がマンソン孤虫の抗体と反応したことで、一時的にマンソン孤虫症と診断された例{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}もあり、確実な診断には{{仮リンク|分子診断|en|Molecular diagnostics}}が必要であるとされる{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。
成虫段階が存在する場合、ヒトの体内では成虫になれないため、他に終宿主が存在すると思われるが、全く不明である。ヒトへの感染経路が不明であるため、ヒト以外の[[中間宿主]]も明確ではない。ヒトの体内で増殖する理由も不明である。


== 症状 ==
=== 治療 ===
寄生部位ないし虫体を外科的に摘出することが有効な治療法であると考えられるが、感染が進行して全身に寄生が及んだ場合、この治療は現実的に可能なものではなくなる。[[駆虫薬]]の投与もほとんど有効ではなく、一般に予後は不良である{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。<br/>
寄生した幼虫は皮下で増殖し、やがて全身の[[皮膚]]に膨隆が見られるようになり、内臓や脳へ至り慢性化する。臓器や脳の破壊により、[[喀血]]、[[嘔吐]]、[[下痢]]、[[腹痛]]、[[胸痛]]、[[脳障害]]などさまざまな症状を呈する。


{{Harvtxt|Kikuchi|Maruyama|2020}} は表皮型1例、内部型1例の計2例の治療成功例を記録している。前者は[[ボリビア]]、[[ブラジル]]、パラグアイを旅行したドイツ人男性の事例{{Sfn|Schauer|Poppert|Technau-Hafsi|Mockenhaupt|2014}}で、診察時に摘出された未分岐の虫体が[[DNAシークエンシング|DNAシーケンス]]によって本種と同定されたものである。本症例は感染の初期段階における虫体摘出の有効性を示した例であると考えられるが、同定が確実ではない可能性も残されている。後者はタイからの報告{{Sfn|Jirawattanasomkul|Noppakun|2000}}で、駆虫薬[[プラジカンテル]]による治療の唯一の有効例とされている{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。
== 治療法 ==
治療法は確立していない。幼虫移行症を起こす寄生虫は外科手術で幼虫を摘出することが有効であるが、芽殖孤虫は摘出しても体内に残った幼虫が分裂して再び増殖するため効果が薄い。


== 研究史 ==
国内2例目の症例では、患者死亡後の剖検で全身に幼虫の寄生が広がっていた旨の記述があり、「皮膚筋肉結締組織内のみならず内臓諸器官中心臓の腔内を除くの外殆んど犯されざる処なき」状態で、「一刀を切り入るれば切り口よりは無数の蟲体押し出さるるを見るなり」との有様であったため、「斯の如く多くの蟲に寄生せられては蟲を殺すより人間を殺す方早し。」と治療の無力を嘆じている。<ref>吉田貞雄「Plerocercoides prolifer Iijima に就て」(動物学雑誌244 1909)</ref>
本種は1904年、[[東京大学病院]]を訪れた33歳女性の皮膚から初めて得られ、翌年、[[飯島魁]]によって {{Snamei|Plerocercoides prolifer}} と命名された{{Sfn|Stiles|1908}}{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}{{Sfn|Ijima|1905}}。1907年には[[フロリダ]]で二例目の症例が確認され、[[w:Charles Wardell Stiles|C.W. Stiles]] が翌1908年に本種と同定。{{Harvtxt|Ijima|1905}} が用いた[[寄集群]] {{Snamei|Plerocercoides}} に複数の科が含まれる可能性を指摘し{{Sfn|Stiles|1908}}、本種を寄集群 {{Snamei|Sparganum}} に移動し、学名を {{Snamei|Sparganum proliferum}} とした{{Sfn|Stiles|1908}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。1907年には日本から世界三例目の症例も確認されており、1909年に[[吉田貞雄]]および[[碓居龍太]]によって日本語での報告がなされている{{Sfn|吉田|1909}}{{Sfn|碓居|1909}}。その後も症例報告が続くが、他種の条虫との混同などによる不確実な症例が混在していたようであり、後年のレビュー論文である {{Harvtxt|Kikuchi|Maruyama|2020}} によれば、1921年日本からの6例目の症例{{Sfn|Tashiro|1924}}を境にその後50年以上確実な記録が途切れることとなる{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}。<br/>


本種とマンソン裂頭条虫の関連性の指摘は {{Harvtxt|Ijima|1905}} の時点で行われていたが{{Sfn|Ijima|1905}}、1974年には J.F. Mueller らによって、本種がマンソン裂頭条虫にウイルスが感染したことで形態や増殖様式に変異をきたしたものであるとする説も提唱された{{Sfn|青島|中田|松岡|河端|1989}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}{{Sfn|Mueller|Strano|1974}}。一方、1992年、B.A. de Noya らは1981年のベネズエラの症例{{Sfn|Moulinier|Martinez|Torres|Noya|1982}}から得られた本種の虫体を[[ハツカネズミ#実験用マウス|実験用アルビノマウス]]に接種し、''[[in vivo]]'' での系統維持に成功したことを発表{{Sfn|de Noya|Torres|Noya|1992}}。このベネズエラ由来の系統は後に日本に分与され、[[#分類]]や[[#生活環]]で紹介した、本種が独立種であることを示唆する研究に用いられている{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|小風|1995}}{{Sfn|Kikuchi|Maruyama|2020}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。<br/>
== 予後 ==
現在の感染報告は死亡例が大半である。当面の治療終了後の予後追跡が不明確な例も多いため致死率は不明であるが、幼虫が増殖した状態からの自然治癒が現実的でないため、明確に救命に成功した事例はないと考えられてきた。


上述したように近年は本種に関するDNAレベルの研究が行われ、不明であった生活史の解明に繋がり得る研究成果ももたらされつつある。今後は本種の代謝経路や宿主との相互作用に関する研究が進むことで、有効な治療薬の開発なども期待されている{{Sfn|宮崎大学|2021}}{{Sfn|Kikuchi|Dayi|Hunt|Ishiwata|2021}}。
しかし、2014年のフライブルク大学病院の報告で、脇腹の皮下に寄生した条虫1匹を摘出し快癒した事例に関し、遺伝子解析で芽殖孤虫であることが判明しており<ref>{{Cite journal |author=Schauer et al |title= Travel-acquired subcutaneous Sparganum proliferum infection diagnosed by molecular methods. |journal= Br J Dermatol. |volume=173 |issue=3 |date = 2014-03 |pmid=24124973}}</ref>、芽殖孤虫症が治療可能であることを明らかにしている。この種の奇病は、とかく重症化事例のみが報告されセンセーショナルに考えられる傾向があるが、従来マンソン孤虫症として治療されていた症例が芽殖孤虫である可能性も含め、遺伝子技術も活用した今後の分析が待たれる。


== 脚注・参考文献 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
* {{Cite web|author=[[倉持利明]]|url=https://web.archive.org/web/20090419124450/http://www.nichidokyo.or.jp/animal-doc/warm-5.html|title=謎の寄生虫 第五話|accessdate=2011年5月9日}}
{{Notelist}}
* [http://idsc.nih.go.jp/iasr/CD-ROM/records/15/17007.htm わが国におけるマンソン孤虫症患者発生の現状] [[国立感染症研究所]]
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
=== 和文 ===
* {{Cite journal
| first = 正大
| last = 青島
| first2 = 紘一郎
| last2 = 中田
| first3 = 正裕
| last3 = 松岡
| first4 = 正也
| last4 = 河端
| first5 = 卓郎
| last5 = 中村
| title = PIE症候1群, 肺塞栓症を合併した芽殖孤虫症の1例
| journal = 日本胸部疾患学会雑誌
| volume = 27
| issue = 12
| pages = 1521-1527
| year = 1989
| DOI = 10.11389/jjrs1963.27.1521
| url = https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/27/12/27_12_1521/_article/-char/ja/
| ref=harv
}}
<!-- 青島|中田|松岡|河端|1989 -->

* {{Cite journal
| first = 龍太
| last = 碓居
| title = 分殖性幼縧蟲症
| journal = 醫學中央雜誌
| volume = 77
| issue = 2
| pages = 59-91
| year = 1909
| url = https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1733698/16
| ref=harv
}}
<!-- 碓居|1909 -->

* {{Cite journal
| first = 暁
| last = 小風
| title = DNA配列による芽殖孤虫の系統分類学的研究
| journal = 東京大学学位論文 博士(医学)
| issue = 甲第11353号
| year = 1995
| doi = 10.11501/3115533
| url = http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=111353
| ref=harv
}}
<!-- 小風|1995 -->

* {{Cite journal
| first = 寛
| last = 田中
| first2 = 正平
| last2 = 山科
| first3 = 仁
| last3 = 遠藤
| first4 = 六郎
| last4 = 加納
| first5 = 鴻
| last5 = 小松崎
| first6 = 恂二
| last6 = 川島
| title = 眼孤虫症の2例 特に分岐した孤虫について
| journal = 寄生虫学雑誌
| volume = 16
| issue = 5
| pages = 319-323
| year = 1967
| url = http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/archive/pdf/1967_16_5_02.pdf
| ref=harv
}}
<!-- 田中|山科|遠藤|加納|1967 -->

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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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| title = 謎の寄生虫(第五話)
| url = http://www.nichidokyo.or.jp/animal-doc/warm-5.html
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| archivedate = 2009年4月19日
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* {{Citation
| publisher = 東京慈恵医科大学 熱帯医学講座
| title = 芽殖孤虫の生態の解明と芽殖孤虫症の治療法の探求
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* [https://seesaawiki.jp/book-wiki/d/%a1%da%ea%b5%a1%db%b2%ea%bf%a3%b8%c9%c3%ee%a1%c1%bf%cd%c2%ce%a4%f2%bf%aa%a4%e0%c6%e6%a4%ce%b4%f3%c0%b8%c3%ee 【蟲】芽殖孤虫~人体を蝕む謎の寄生虫, Book Wiki Portal]

* {{Cite news
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| title = 死を招く謎の寄生虫「芽殖孤虫」正体明らかに
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| date = 2021-6-23
}}


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2024年8月22日 (木) 15:31時点における最新版

芽殖孤虫
分類
: 動物界 Animalia
: 扁形動物門 Platyhelminthes
: 条虫綱 Cestoda
亜綱 : 真性条虫亜綱 Eucestoda
: 裂頭条虫目 Diphyllobothriidea
: 裂頭条虫科 Diphyllobothriidae
階級なし : 孤虫[1]
Sparganum
[注釈 1]
: 芽殖孤虫
S. proliferum
学名
Sparganum proliferum
(Ijima, 1905) Stiles, 1908[3]
シノニム
  • Plerocercoides prolifer Ijima, 1905[2][4]
和名
芽殖孤虫

芽殖孤虫(がしょくこちゅう、学名:Sparganum proliferum)は、裂頭条虫目裂頭条虫科に属する条虫の一種[3]。ヒトに感染し、致死的な寄生虫感染症とされる芽殖孤虫症を引き起こすことで知られる[5]

特徴

[編集]

本種は幼虫(プレロセルコイド)段階の個体のみが得られており、成虫が知られていない[5][6][7][8][9]。虫体の出芽・分岐によって幼虫のみで無性的に分裂増殖を繰り返す特異な生態を示し[6][7]、「芽殖孤虫」の名はこれらの特徴に由来する[5]。虫体は白色で、分岐の程度や体サイズといった形態には個体差が見られる。典型的なものでは糸状、または蠕虫状の形態を示すが、症例によっては卵のような形態を示す個体も見られる[8]。宿主の体内においては単体、または2、3個体で被嚢され、嚢内で分裂増殖を行うが、嚢から遊離する個体も観察される[2][10]。皮膚をはじめとしてさまざまな組織・臓器に侵襲するため、本種の感染は宿主にとってしばしば致死的となる[5][6][7][8][9]

芽殖孤虫症は世界的に見ても稀な寄生虫症である[5][6][7][8][9]。本症の症例報告をレビューした Kikuchi & Maruyama (2020) は、1905年の最初の報告以来115年間における本症の症例として18例を数えている[8]。本症のくわしい症状や研究史等については後述する。

分類

[編集]

成虫が得られておらず、症例自体も稀であるため、本種の分類学的地位は近年まで不確定であった。形態から擬葉目に属することは示唆されていたが[7]、下位分類に関しては、独立種であるとする説とマンソン裂頭条虫がウイルス感染などによって変異したものであるとする説が提唱されていた[6][8][9]。その後、1980年代にベネズエラの症例に由来する飼育系統が確立された[11]ことで新鮮な標本を用いた研究が可能になり、近年は分子系統解析に基づき、本種をマンソン裂頭条虫と近縁な別種であるとする説が優位になっている[7][8][9]

生活環

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成虫が得られていないため、生活環は不明である[5][6][7][8][9]。本症はサルイヌネコへの感染報告も知られている人畜共通感染症だが、いずれの場合も感染経路は明らかになっていない。本種はマンソン孤虫と近縁であると考えられるため、本種もヘビカエルなどの動物[注釈 2]の生食や、井戸水中に生息するケンミジンコ[注釈 3]に由来する可能性が考えられてきたが、いずれも実証はなされていない[6][8]

具体的な生活環は依然として謎に包まれているものの、最近になって本種の生活史の解明につながり得る研究成果ももたらされている。Arrabal et al. (2020)アルゼンチンネコ科動物の轢死体から得られた条虫を、ミトコンドリアゲノムを用いた系統解析によって本種の成虫と同定し、ネコ科動物が本種の終宿主である可能性を提唱している[12]。また、Kikuchi et al. (2021)Arrabal et al. (2020) の標本が本種と近縁な別種である可能性を指摘し、さらにゲノムの機能解析から本種が有性生殖によって生活環を完了する能力を喪失している可能性を示唆。本種が成虫段階を持たず、幼虫のみで存在する「真の孤虫」であるとする説を提唱している[5][9]

分布

[編集]

前述のとおり稀な寄生虫であり、記録は散発的である。うち、日本からの報告が最多で、国内から6例の症例が知られている。国外ではタイから3例、台湾から2例の報告があるほか、アメリカパラグアイ、ベネズエラ、レユニオン中国韓国などからの症例報告が記録されている[8]

芽殖孤虫症

[編集]

芽殖孤虫症(英:Proliferative sparganosis)は芽殖孤虫による寄生虫症である。本症はヒト以外の哺乳類への感染も確認されている人畜共通感染症である[6][8][12]

症状

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本症に関しては、虫体の寄生部位によって異なる病態が見られることが知られる[6]Kikuchi & Maruyama (2020) はこの病態の差異を皮膚型(Cutaneous)と内部型(Internal)の二種に大別し、予後や虫体の形態などにも差異が見られることを報告している[8]

皮膚型(Cutaneous proliferative sparganosis)

[編集]

最初の症例報告である Ijima (1905) に代表される典型的な症状である。上述した18の症例のうち、8例が該当する[5]。感染は虫体の真皮への侵襲から始まり、共通する症状として皮膚病変が見られる。8例中3例では、皮膚の結節状の病変部位を掻いたり潰したりすることで虫体や被嚢を取り出すことができたとされる。8例中すくなくとも4例においては、感染進行に伴い腹腔後腹膜など、全身のさまざまな部位への侵襲が見られ、8例中7例で患者が死亡した。発症時期が特定できた症例のうち、発症から診断までにかかった経過年数は最長で23年、中央値が7年で、一般に、発症から末期症状が見られるようになるまでにはある程度の時間がかかると見られる[8]

内部型(Internal proliferative sparganosis)

[編集]

上述した18の症例のうち、10例が該当し[8]、日本では青島 et al. (1989) が該当する。体壁または内臓に結節・腫瘤の形成が見られるが、皮膚病変は見られず、皮膚型とは相互に排他的な症状であると考えられる。共通する皮膚病変の不在を除けば、皮膚型と比べて臨床症状が多様であり、肺や脳への感染のほか、への侵襲を呈した症例もある。骨への感染は皮膚型では見られない内部型特有の症状であるとされ、10例中3例では骨病変のみが見られた。予後が不明の症例も多いが、患者の死亡が確認されているのは10例中3例である。内部型は記録されているすべての症例が1970年以降のものであるため、医用画像処理技術の発展が早期発見に繋がっていると考えられる。また、内部型においては虫体が卵状の形態を示すことが報告されている[8]

診断

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診断は近年まで虫体の形態にもとづいて行われてきたが、宿主体内で分裂による無性生殖を行う[注釈 4]円葉目条虫が本種と混同されてきたことが後年明らかになった事例[13]などもあり、形態による診断が困難な場合があることが指摘されている。また、本症患者血清がマンソン孤虫の抗体と反応したことで、一時的にマンソン孤虫症と診断された例[6]もあり、確実な診断には分子診断英語版が必要であるとされる[8]

治療

[編集]

寄生部位ないし虫体を外科的に摘出することが有効な治療法であると考えられるが、感染が進行して全身に寄生が及んだ場合、この治療は現実的に可能なものではなくなる。駆虫薬の投与もほとんど有効ではなく、一般に予後は不良である[6][8]

Kikuchi & Maruyama (2020) は表皮型1例、内部型1例の計2例の治療成功例を記録している。前者はボリビアブラジル、パラグアイを旅行したドイツ人男性の事例[14]で、診察時に摘出された未分岐の虫体がDNAシーケンスによって本種と同定されたものである。本症例は感染の初期段階における虫体摘出の有効性を示した例であると考えられるが、同定が確実ではない可能性も残されている。後者はタイからの報告[15]で、駆虫薬プラジカンテルによる治療の唯一の有効例とされている[8]

研究史

[編集]

本種は1904年、東京大学病院を訪れた33歳女性の皮膚から初めて得られ、翌年、飯島魁によって Plerocercoides prolifer と命名された[2][5][8][9][10]。1907年にはフロリダで二例目の症例が確認され、C.W. Stiles が翌1908年に本種と同定。Ijima (1905) が用いた寄集群 Plerocercoides に複数の科が含まれる可能性を指摘し[2]、本種を寄集群 Sparganum に移動し、学名を Sparganum proliferum とした[2][8][9]。1907年には日本から世界三例目の症例も確認されており、1909年に吉田貞雄および碓居龍太によって日本語での報告がなされている[4][16]。その後も症例報告が続くが、他種の条虫との混同などによる不確実な症例が混在していたようであり、後年のレビュー論文である Kikuchi & Maruyama (2020) によれば、1921年日本からの6例目の症例[17]を境にその後50年以上確実な記録が途切れることとなる[8]

本種とマンソン裂頭条虫の関連性の指摘は Ijima (1905) の時点で行われていたが[10]、1974年には J.F. Mueller らによって、本種がマンソン裂頭条虫にウイルスが感染したことで形態や増殖様式に変異をきたしたものであるとする説も提唱された[6][9][18]。一方、1992年、B.A. de Noya らは1981年のベネズエラの症例[19]から得られた本種の虫体を実験用アルビノマウスに接種し、in vivo での系統維持に成功したことを発表[11]。このベネズエラ由来の系統は後に日本に分与され、#分類#生活環で紹介した、本種が独立種であることを示唆する研究に用いられている[5][7][8][9]

上述したように近年は本種に関するDNAレベルの研究が行われ、不明であった生活史の解明に繋がり得る研究成果ももたらされつつある。今後は本種の代謝経路や宿主との相互作用に関する研究が進むことで、有効な治療薬の開発なども期待されている[5][9]

脚注

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注釈

[編集]
  1. ^ 孤虫 Sparganum は、成虫が同定されていない裂頭条虫科の幼虫(プレロセルコイド)に対して与えられる寄集群名である[1][2]。寄集群の分類学的地位はとは異なるが、国際動物命名規約第4版では「寄集群に対して提唱された学名は属階級群名として扱う」ことが定められているため、ここでは属名として扱う。本種の分類については本文#分類節を、寄集群に関しては当該記事を参照。
  2. ^ マンソン裂頭条虫の第二中間宿主
  3. ^ マンソン裂頭条虫の第一中間宿主。
  4. ^ ただし、本種とは分裂様式が異なる[9]

出典

[編集]

参考文献

[編集]

和文

[編集]
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外部リンク

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