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「イットリウム」の版間の差分

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</table>
</table>


'''イットリウム'''({{lang-en-short|yttrium}})は[[原子番号]]39の元素である。銀光沢のある[[遷移金属]]で[[ランタノイド]]と化学的性質が似ているので、歴史的に[[希土類元素]]として分類されてきた<ref name="IUPAC" />。イットリウムが他のランタノイドとともに[[希土類鉱物]]に含まれ、自然界に単体としては存在しない。自然界では唯一安定な[[同位体]]<sup>89</sup>Yのみ見出される。
'''イットリウム''' ('''Yttrium'''):[[原子番号]] 39 の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Y'''。[[希土類元素]]の一つ。[[スカンジウム族元素]]の一つでもある(遷移金属にも含まれる場合あり)。灰色の[[金属]]。常温、常圧で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) で、比重は 4.47、[[融点]]は 1520℃、[[沸点]]は 3300℃(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中で表面は酸化されるが、内部までは侵されない。[[酸]]には易溶だが、[[アルカリ]]には溶けない。熱水と反応する(水とはゆっくり反応)。原子価は +3価。
==用途==
[[コバルト]]、[[鉄]]との合金は永久磁石として利用される。赤色の蛍光体、高圧水銀灯などに利用される。また、イットリウム-[[アルミニウム]]-ガーネット(Y<SUB>3</SUB>Al<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>: [[イットリウム・アルミニウム・ガーネット|YAG]])は[[レーザー]]発振に使われる(→[[YAGレーザー]])。<BR>


常温、常圧で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) で、比重は 4.47、[[融点]]は 1520℃、[[沸点]]は 3300℃(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中で表面は酸化されるが、内部までは侵されない。[[酸]]には易溶だが、[[アルカリ]]には溶けない。熱水と反応する(水とはゆっくり反応)。
[[セラミックス]]の原料にイットリウムを混ぜると、[[セラミックス]]の耐久性が増す場合がある。


1787年に[[w:en:Carl Axel Arrhenius|Carl Axel Arrhemois(en)]]がスウェーデンの[[イッテルビー]]の近くで新しい鉱物を見つけ、町名に因んで[[ガドリナイト|イッテルバイト]]と名付けた<ref name="Krogt" />。[[ヨハン・ガドリン]]はArrheniusの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、[[w:en:Anders Gustaf Ekeberg|Anders Gustaf Ekeberg(en)]]はそれをイットリアと名付けた。単体のイットリウムは1828年に[[フリードリヒ・ヴェーラー]]により初めて単離された<ref name="CRC2008">{{Cite book|author = CRC contributors|editor = Lide, David R.|chapter = Yttrium
イットリウムを含む[[銅酸化物高温超伝導体]]は、液体窒素温度(およそ77 K)より高い転移温度を持つ超伝導物質である。([[Y系超伝導体]]を参照のこと。)
|year = 2007–2008|title = CRC Handbook of Chemistry and Physics|volume = 4
|page = 41|location = New York|publisher = [[CRC Press]]|isbn = 978-0-8493-0488-0}}</ref>。


イットリウムの最も重要な用途は[[蛍光体]]であり、赤色蛍光体はテレビの[[ブラウン管]]ディスプレイや[[LED]]に用いられている<ref name="Cotton" />。他の用途では[[電極]]、[[電解質]]、[[フィルタ回路|電気フィルタ]]、[[レーザー]]、[[超伝導体]]などがあり、医療技術にも応用されている。また[[微量元素]]としてさまざまな材料の性質を高めるためにも使われる。イットリウムは[[生理活性|生理活性物質]]ではないが、ヒトがイットリウム化合物にさらされると肺を患う可能性がある<ref name="osha">{{cite web|author
イットリウムを含む酸化物は[[カラーテレビ]]の赤色蛍光体として利用されている。
= OSHA contributors|url = http://www.osha.gov/SLTC/healthguidelines/yttriumandcompounds/recognition.html|title = Occupational Safety and Health Guideline for Yttrium
and Compounds|accessdate = 2008-08-03|publisher = United States Occupational Safety and Health Administration|date = 2007-01-11}} (public domain text)</ref>。

==特徴==
===性質===
イットリウムは軟らかく、銀光沢のある[[第3族元素|第3族]]の遷移金属である。[[周期律]]から予想される通り、[[電気陰性度]]は同じ第3族で原子番号がより若い[[スカンジウム]]よ り小さく、逆に[[ランタン]]よりは大きい。[[第5周期元素|第5周期]]内では、隣の[[ジルコニウム]]よりイットリウムの電気陰性度のほうが小さい<ref name ="Greenwood1997p946">{{harvnb|Greenwood|1997|p=946}}</ref><ref name="Hammond">{{cite book|url = http://www-d0.fnal.gov/hardware/cal/lvps_info/engineering/elements.pdf|title = The Elements|chapter=Yttrium|author = Hammond, C. R.|accessdate = 2008-08-26|publisher = Fermi National Accelerator Laboratory|pages = 4–33|format=pdf|archiveurl = http://web.archive.org/web/20080626181434/http://www-d0.fnal.gov/hardware/cal/lvps_info/engineering/elements.pdf |archivedate = June 26, 2008|deadurl=yes|isbn = 0049100815}}</ref>。イットリウムは初めの[[Dブロック元素]]である。

ふつうの単体は空気に対し比較的安定で、これは金属表面で保護力の強い[[酸化イットリウム]](Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)の膜が形成し、[[不動態]]化するためである。水蒸気で約750℃にまで熱せられると、この膜は厚さ10[[マイクロメートル|µm]]にまで達することがある<ref name="ECE817" />。ところが純度が非常に高い単体では逆に空気に対して不安定となり、粉末状のイットリウムは400℃を超えると発火する。[[窒化イットリウム]](YN)は単体が1000℃まで熱せられたときに生成する<ref name="ECE817" />。

=== ランタノイドとの類似点===
イットリウムとランタノイド元素はとても似ていて、これらは歴史的に[[希土類元素]]として同一グループに分類されてきた<ref name="IUPAC">{{cite book|author = IUPAC contributors|title = Nomenclature of Inorganic Chemistry: IUPAC Recommendations 2005|editor = Edited by N G Connelly and T
Damhus (with R M Hartshorn and A T Hutton)|pages = 51|year = 2005
|isbn = 0-85404-438-8|url = http://www.iupac.org/publications/books/rbook/Red_Book_2005.pdf |format=PDF| accessdate = 2007-12-17|publisher = RSC Publishing}}</ref>。よってこれらは常に[[希土類鉱物]]中に同時に見出される<ref name="Emsley498">[[#Emsley2001|Emsley 2001]], p. 498</ref>。

イットリウムは[[スカンジウム]]などの周期表での位置が近い元素よりも、ランタノイド元素に化学的性質が似ている<ref name="ECE810">[[#Daane1968|Daane 1968]], p.
810</ref>。もし物理的性質だけに着目すればイットリウムの原子番号は64.5から67.5に相当する。これはランタノイドの[[ガドリニウム]]と[[エルビウム]]の間である<ref name="ECE815">[[#Daane1968|Daane 1968]], p. 815</ref>。

また[[反応次数]]も大体同じであり<ref name="ECE817" />、[[テルビウム]]や[[ジスプロシウム]]と化学反応性が似ている<ref name="Cotton" />。原子半径やイオン半径もランタノイドのものと似てるので、重希土のイオンは'イットリウム族'と呼ばれてることがあり、イットリウムはまるで重希土のように振る舞う<ref name="ECE817"/><ref name="Greenwood1997p945">{{harvnb|Greenwood|1997|p=945}}</ref>。原子半径の類似性は[[ランタノイド収縮]]により説明できる<ref name="Greenwood1997p1234">{{harvnb|Greenwood|1997|p=1234}}</ref>。

イットリウムとランタノイドの注目すべき一つの違いは、イットリウムはもっぱら三価しか取らないが、およそ半数のランタノイド元素は三価以外の原子価を取ることができることである<ref name="ECE817">[[#Daane1968|Daane 1968]], p. 817</ref>。

=== 化合物と化学反応 ===
+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな[[無機化合物]]を形成するし、一般に3つの[[価電子]]を全て結合に使うため酸化数は+3である<ref name="Greenwood1997p948">{{harvnb|Greenwood|1997|p=948}}</ref>。[[酸化イットリウム(III)]](Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)がよい例であり、6つの[[配位結合]]をもつ白色の固体である<ref name="Greenwood1997p947">{{harvnb|Greenwood|1997|p=947}}</ref>。

イットリウムは水に対し不溶性の[[フッ化物]]、[[水素化物]]、[[シュウ酸|シュウ酸塩]]を作るが、その臭化物、塩化物、ヨウ価物、窒化物、硫化物はすべて水溶性物質である<ref name="ECE817"/>。Y<sup>3+</sup>イオンはd軌道とf軌道が空であるから、その溶液は無色である<ref name="ECE817"/>。

[[水]]は容易にイットリウムと反応してY<sub>2</sub>O<sub>3</sub>を生成する<ref name="Emsley498" />。濃[[硝酸]]や[[フッ化水素酸]]との反応性は高くないが、その他の強酸とは容易に反応する<ref name="ECE817" />。

約200℃の下で[[ハロゲン]]と反応して[[フッ化イットリウム(III)]](YF<sub>3</sub>)や[[塩化イットリウム(III)]](YCl<sub>3</sub>)、[[臭化イットリウム(III)]](YBr<sub>3</sub>)などの[[ハロゲン化物]]を生成する<ref name="osha" />。同様に、適当に高い温度下でイットリウムは[[炭素]]、[[リン]]、[[セレン]]、[[ケイ素]]、[[硫黄]]などと反応し[[2成分化合物]]を作る<ref name="ECE817" />。

[[有機イットリウム化学]]は炭素-イットリウム結合を含む化合物を研究する分野である。これらの化合物の中で、酸化数が0のイットリウムの存在が知られている<ref
name="Cloke1993">{{cite journal
|journal = Chem. Soc. Rev.|year = 1993|volume = 22|pages = 17–24|first = F. Geoffrey N.|last = Cloke|title = Zero Oxidation State Compounds of Scandium, Yttrium, and
the Lanthanides|doi = 10.1039/CS9932200017}}</ref><ref name="Schumann">{{cite journal|journal = Encyclopedia of Inorganic Chemistry|title = Scandium, Yttrium & The
Lanthanides: Organometallic Chemistry|first = Herbert|last = Schumann|coauthors = Fedushkin, Igor L.|doi = 10.1002/0470862106.ia212|year = 2006}}</ref>。(塩化物の融解状態で+2のものが確認されていて<ref name="Mikheev1992">{{cite journal|title = The anomalous stabilisation of the oxidation state 2+ of lanthanides and actinides
|first = Mikheev|last = Nikolai B.|journal = Russian Chemical Reviews|volume = 61|issue = 10|year = 1992|doi = 10.1070/RC1992v061n10ABEH001011|pages = 990–998|last2 =
Auerman|first2 = L N|last3 = Rumer|first3 = Igor A|last4 = Kamenskaya|first4 = Alla N|last5 = Kazakevich|first5 = M Z}}</ref>、+1のものは気相のクラスター中で見つかっている<ref name="Kang2005">{{cite journal|doi = 10.5012/bkcs.2005.26.2.345|url = http://newjournal.kcsnet.or.kr/main/j_search/j_download.htm?code=B050237|title =
Formation of Yttrium Oxide Clusters Using Pulsed Laser Vaporization|journal = Bull. Korean Chem. Soc.
|year = 2005|volume = 26|issue = 2|pages=345–348|first = Weekyung|last = Kang|coauthor = E. R. Bernstein}}</ref>。)いくつかの三量体の合成反応で有機イットリウム化合物が触媒の役割を担っていることが観察された。<ref name="Schumann" />これらの化合物はYCl<sub>3</sub>を初めの物質として使い、次にY<sub>2</sub>O<sub>3</sub>と濃縮した[[塩酸]]や[[塩化アンモニウム]]を代わる代わる使っていた<ref>{{Cite book|last = Turner, Jr.|first = Francis M.|coauthors = Berolzheimer, Daniel D.;
Cutter, William P.; Helfrich, John|year = 1920|title = The Condensed Chemical Dictionary|location = New York|publisher = Chemical Catalog Company|pages = 492|url =
http://books.google.com/?id=y8y0XE0nsYEC&pg=PA492&dq=%22Yttrium+chloride%22|accessdate = 2008-08-12}}</ref><ref>{{Cite book|last = Spencer|first = James F.|year =
1919|title = The Metals of the Rare Earths
|location = New York|publisher = Longmans, Green, and Co|pages = 135|url = http://books.google.com/?id=W2zxN_FLQm8C&pg=PA135&dq=%22Yttrium+chloride%22
|accessdate =2008-08-12}}</ref>。


[[ハプト数]]とは隣接する[[配位子]]が中心原子にどのように配位結合しているかを表すもので、これはギリシャ文字の''イータ''ηで示される。イットリウム錯体はd<sup>0</sup>金属中心にハプト数η<sup>7</sup>として[[カルボラン]]が配位したものの最初の例である<!--「最初」が「η7」と「d0金属原子」のどちらにかかっているのかが分かりません。--><ref name="Schumann" />。[[w:en:graphite intercalation compound|炭素インターカレーション化合物(en)|]]のグラファイト-Yまたはグラファイト-Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の気化によりY@C<sub>82</sub>のような[[w:en:endohedral fullerene|原子内包フラーレン(en)]]が生成する<ref name="Cotton" />。[[電子スピン共鳴]]による研究でY<sup>+3</sup>や(C<sub>82</sub>)<sup>3-</sup>のイオン対の生成が認められた<ref name="Cotton" />。Y<sub>3</sub>、Y<sub>2</sub>、YC<sub>2</sub>などの[[炭化物]]を水素化することで[[炭水化物]]をつくれる<ref name="ECE817" />。
==歴史==
1794年に[[ガドリン]](J.Gadolin)が新元素として発見。始めはイットルビアと呼ばれた。これは、スウェーデンの小さな町[[イッテルビー]]にちなんで名づけられた。イッテルビーからは、イットリウム(Yttrium)の他、[[イッテルビウム]](Ytterbium)、[[テルビウム]](Terbium)、[[エルビウム]](Erbium)、と合計4つの新元素が発見されている。これらの新元素はいずれも、イッテルビーから名称の一部をとって、命名された。


==イットリウムの化合物==
===主な化合物===
*Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>(酸化イットリウム)
*Y<sub>2</sub>O<sub>3</sub>(酸化イットリウム)
*Y<SUB>3</SUB>Fe<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>(YIG:イットリウム-鉄-ガーネット)
*Y<SUB>3</SUB>Fe<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>(YIG:イットリウム-鉄-ガーネット)
124行目: 167行目:
*YBa<SUB>2</SUB>Cu<SUB>3</SUB>O<SUB>7</SUB>([[Y系超伝導体]])
*YBa<SUB>2</SUB>Cu<SUB>3</SUB>O<SUB>7</SUB>([[Y系超伝導体]])


== 同位体 ==
=== 元素合成と同位体 ===
{{main|イットリウムの同位体}}
{{main|イットリウムの同位体}}
[[太陽系]]内のイットリウムは[[恒星内元素合成]]によりつくられ、そのうち約72%が[[s過程]]、約28%が[[r過程]]による。<ref name="Pack">{{cite journal|journal = Geochimica et Cosmochimica Acta|volume = 71|issue = 18|year = 2007|doi = 10.1016/j.gca.2007.07.010|title = Geo- and cosmochemistry
of the twin elements yttrium and holmium|first = Andreas|last = Pack|coauthor = Sara S. Russell, J. Michael G. Shelley and Mark van Zuilen|pages = 4592–4608}}</ref>r過程は[[超新星]]爆発に伴う軽い元素による[[中性子捕獲]]からなっており、s過程は脈動[[赤色巨星]]の内側での遅い中性子捕獲である。<ref name="Greenwood1997p12-13">{{harvnb|Greenwood|1997|pp=12–13}}</ref>

[[File:Mira 1997.jpg|thumb|alt=Grainy irregular shaped yellow spot with red rim on a black background|[[ミラ]]は太陽系内のほとんどのイットリウムを創った赤色巨星のうちの1つである。]]

イットリウムの同位体はウランの[[核分裂反応]]の主要生成物である。廃棄物処理の観点からみると、最も重要なイットリウム同位体は<sup>91</sup>Y、<sup>90</sup>Yであり、それぞれの半減期は58.1日、64時間である。<ref name="NNDC" />前者は分裂により直接に生成するが、後者はその短い半減期にもかかわらず、29年の長い半減期を持つ親核種の[[ストロンチウム]]-90(<sup>90</sup>Sr)と平衡状態になる。
<!--
以下の翻訳をどなたかお願いします。
All group 3 elements have an odd number of [[proton]]s and therefore have few stable [[isotope]]s.<ref name ="Greenwood1997p946" />
Yttrium itself has only one [[stable isotope]], <sup>89</sup>Y, which is also its only naturally occurring one. <sup>89</sup>Y is thought to be more abundant than it
otherwise would be, due in part to the s-process which allows enough time for isotopes created by other processes to decay by [[beta decay|electron emission]] (neutron
→ proton).<ref name="Greenwood1997p12-13"/><ref group="注">Essentially, a [[neutron]] becomes a [[proton]] while an [[electron]] and [[antineutrino]] are
emitted.</ref> Such a slow process tends to favor isotopes with [[mass number]]s (A = protons + neutrons) around 90, 138 and 208, which have unusually stable [[Atomic
nucleus|atomic nuclei]] with 50, 82 and 126 neutrons, respectively.<ref name="Greenwood1997p12-13" /><ref group="注">This stability is thought to result from very low
[[neutron cross-section]]s {{harv|Greenwood|1997|pp=12–13}}. Electron emission of isotopes with those mass numbers is simply less prevalent due to this stability,
resulting in them having a higher abundance.</ref><ref name="CRC2008" /> <sup>89</sup>Y has a mass number close to 90 and has 50 neutrons in its
nucleus.
-->

少なくとも32のイットリウムの人工同位体が確認されていて、質量数は76から108にわたる。<ref name="NNDC">{{cite web|url = http://www.nndc.bnl.gov/chart/|
author = NNDC contributors
|editor = Alejandro A. Sonzogni (Database Manager)|title = Chart of Nuclides
|publisher = National Nuclear Data Center, Brookhaven National Laboratory
|accessdate = 2008-09-13|year = 2008|location = Upton, New York}}</ref>このうち最も不安定なものは半減期150nsの<sup>106</sup>Yであり、その次に半減期200nsの<sup>76</sup>Yである。最も安定なものは半減期106.626日の<sup>88</sup>Yである。<ref name="NNDC" />また、<sup>91</sup>Y、<sup>87</sup>Y、<sup>90</sup>Yの半減期はそれぞれ58.51日、79.8時間、64時間であり、その他の同位体の半減期は全て1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である。<ref name="NNDC" />

質量数88以下のイットリウムの同位体は主に[[陽電子放出|β+崩壊]](陽子→中性子)により[[ストロンチウム]]([[原子番号|Z]] = 38)同位体になる。<ref name="NNDC" />質量数90以上のイットリウム同位体は主に[[β崩壊|β-崩壊]](中性子→陽子)により[[ジルコニウム]](Z = 40)同位体になる。<ref name="NNDC" />また、質量数97以上の同位体ではβ-崩壊が[[中性子放出]]を遅らせることも知られている。<ref name="nubase">{{cite journal|last = Audi|first = Georges|title = The NUBASE Evaluation of Nuclear and Decay Properties|journal = Nuclear Physics A|volume = 729|pages = 3–128|publisher = Atomic Mass Data Center|year = 2003|doi=10.1016/j.nuclphysa.2003.11.001}}</ref>

イットリウムの質量数78~102の[[準安定同位体]]が少なくとも20個知られている。<ref name="NNDC" /><ref group="注">準安定同位体は安定同位体より高いエネルギー状態にあり、この状態は[[ガンマ線]]や[[転換電子]]を放出するまで続く。これらは同位体の質量数の横に'm'と書かれることで示される。</ref>いろいろな励起状態が<sup>80</sup>Yと
<sup>97</sup>Yで確認されている。<ref name="NNDC"/>ほとんどのイットリウム同位体は[[基底状態]]より不安定であると予想されるが、<sup>78m</sup>Y、<sup>84m</sup>Y、
<sup>85m</sup>Y、<sup>96m</sup>Y、<sup>98m1</sup>Y、<sup>100m</sup>Y、<sup>102m</sup>Yは基底状態のものより長い半減期を持つ。これは、これらの同位体は[[同位体転移]]よりむしろβ崩壊によって崩壊するからである。<ref name="nubase" />

== 歴史 ==
1787年、軍隊の中尉でありパートタイムとしての化学者であった[[w:en:Carl Axel Arrhenius|Carl Axel Arrheniius(en)]]はスウェーデンの村[[イッテルビー]](今は[[w:en:Stockholm archipelago|Stockholm archipelago(en)]]の一部)の古い石切り場で重い黒い岩石を見つけた。彼は、これは当時見つかったばかりの[[タングステン]]が含まれる未知の鉱物だと考え、<ref name="Emsley496">[[#Emsley2001|Emsley 2001]], p. 496</ref>これを''イッテルバイト''と名付け、<ref group="注">''イッテルバイト(Ytterbite)''は発見された場所の近くの村(Ytterby)の名前に由来し、語尾の-iteは鉱物であることを示している。</ref>さらなる分析のため、そのサンプルを大勢の化学者に送った。<ref name="Krogt">[[#Krogt|Van der Krogt 2005]]</ref>

[[File:Johan Gadolin.jpg|thumb|150px|left|alt= Black and white bust painting of a young man with neckerchief in a coat. The hair is only faintly painted and looks
grey.|[[ヨハン・ガドリン]] はイットリウムの酸化物を発見した。]]
1789年、[[ヨハン・ガドリン]]は[[w:en:University of Åbo|University of Åbo(en)]]でArrheniusのサンプルから新しい酸化物を同定し、完全な分析結果を1794年に発表した。<ref>[[#Gadolin1794|Gadolin 1794]]</ref> [[w:en:Anders Gustaf Ekeberg|Anders Gustaf Ekeberg(en)]]は1797年にこれを確認し、新しい酸化物を''イットリア(yttria)''と名付けた。<ref name="Greenwood1997p944">{{harvnb|Greenwood|1997|p=944}}</ref>数十年後、[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]は[[元素]]に最初の近代的な定義を与え、新たな土の成分の発見は新たな元素の発見と等価であるとしたので、''イットリウム(yttrium)''という名もこれに倣った。というのは、土の成分の名前(yttria)の語尾には-aが付き、新たな元素の名前(yttrium)の語尾には-iumをが付けられたからだ。<!--「earths」の訳を「土の成分」としました。もっと良い訳があると思います。-->

1843年に[[w:en:Carl Gustav Mosander|Carl Gustav Mosander(en)]]はイットリアのサンプルから三つの酸化物、すなわち白色の[[酸化イットリウム]]、黄色の[[酸化テルビウム|酸化テルビウム(III,IV)]](ややこしいことに、当時これは'エルビア'と呼ばれていた。)、バラ色の[[酸化エルビウム]](これは'テルビア'と呼ばれていた。)を見つけた。<ref>{{cite journal|journal=Annalen der Physik und
Chemie|volume=60
|year=1843|pages=297–315|title=Ueber die das Cerium begleitenden neuen Metalle Lathanium und Didymium, so wie über die mit der Yttererde vorkommen-den neuen Metalle
Erbium und Terbium
|first = Mosander|last = Carl Gustav
|issue = 2|language= German|doi = 10.1002/andp.18431361008}}</ref>4つ目の酸化物、[[酸化イッテルビウム]]は1878年に[[ジャン・マリニャック]]により単離された。<ref>{{cite news|author = ''Britannica'' contributors|encyclopedia = Encyclopaedia Britannica
|year = 2005|publisher = Encyclopædia Britannica, Inc}}, "ytterbium"</ref>新たな元素は後にこれらの酸化物から単離された。<ref name="Stwertka115" />さらに数十年後、7つの他の新しい金属が「ガドリンのイットリア」から見つかった。<ref name="Krogt" />イットリアは1つの酸化物ではなく鉱物であることがわかったので、[[w:en:Martin Heinrich Klaproth|Martin Heinrich Klaproth(en)]]はこれをガドリンを称え[[ガドリナイト]]と名付け直した。<ref name="Krogt" />

金属イットリウムは1828年に[[フリードリヒ・ヴェーラー]]が[[塩化イットリウム(III)]]の無水物と[[カリウム]]を熱したときに初めて単離された。<ref>{{cite book|last = Heiserman|
first = David L.|title = Exploring Chemical Elements and their Compounds|location = New York|publisher = TAB Books|isbn = 0-8306-3018-X|chapter = Element 39: Yttrium|
pages = 150–152|year = 1992}}</ref><ref>{{cite journal|journal = Annalen der Physik|volume = 89|issue = 8|pages = 577–582|title = Ueber das Beryllium und Yttrium|first
= Friedrich|last = Wöhler|doi = 10.1002/andp.18280890805|year = 1828}}</ref>

:YCl<sub>3</sub> + 3 K → 3 KCl + Y

1920年代初頭まで、元素記号は'''Yt'''が採用されていたが、のちに'''Y'''が使われるようになった。<ref>{{cite journal|journal = Pure Appl. Chem.|
volume = 70|issue = 1|pages = 237–257
|year = 1998|first = Tyler B.|last = Coplen|coauthors = Peiser, H. S.|title = History of the Recommended Atomic-Weight Values from 1882 to 1997: A Comparison of
Differences from Current Values to the Estimated Uncertainties of Earlier Values (Technical Report)|publisher = IUPAC's Inorganic Chemistry Division Commission on
Atomic Weights and Isotopic Abundances|doi = 10.1351/pac199870010237}}</ref>

1987年に、[[w:en:yttrium barium copper oxide|イットリウムバリウム銅酸化物(en)]]が[[高温超電導]]を示すことが発見された。この性質を示す物質としては第二番目に見つかったもので、<ref name="Wu">{{cite journal|first = M. K.|last = Wu|coauthors = Ashburn, J. R.; Torng, C. J.; Hor, P. H.; Meng, R. L.; Gao, L.; Huang, Z. J.; Wang, Y.
Q. and Chu, C. W.|title = Superconductivity at 93 K in a New Mixed-Phase Y-Ba-Cu-O Compound System at Ambient Pressure
|journal = [[Physical Review Letters]]|year = 1987|volume = 58|issue = 9|pages = 908–910|doi = 10.1103/PhysRevLett.58.908|pmid=10035069}}</ref>窒素の沸点以上で[[超電導]]を示す物質としては初めての見つかったものである。<ref group="注">[[YBCO]]の[[転移温度|超伝導転移温度]]は93Kで、窒素の沸点は77Kである。</ref>

== 産出 ==
[[File:Xenotímio1.jpeg|thumb|200px|alt= Three column shaped brown crystals on a white background|[[ゼノタイム]]の結晶はイットリウムを含んでいる。]]

=== 存在量 ===
イットリウムはほとんどの[[希土類鉱石]]から見つかり、<ref name="Hammond" />いくつかの[[天然ウラン|ウラン鉱石]]からも見つかるが、単体としては決して見つからない。<ref>{{cite
web|author = Lenntech contributors|url = http://www.lenntech.com/periodic-chart-elements/y-en.htm|accessdate = 2008-08-26|title = yttrium|publisher = Lenntech}}</ref>地殻の約31[[ppm]]がイットリウムであり、<ref name="Cotton">{{cite journal|title=Scandium, Yttrium & the Lanthanides: Inorganic & Coordination Chemistry|first=Simon A. |last=Cotton| doi= 10.1002/0470862106.ia211 |date= 2006-03-15}}</ref>これは28番目に高く、[[銀]]の400倍の存在度である。<ref name="Emsley497">[[#Emsley2001|Emsley 2001]], p. 497</ref>イットリウムは土壌から10~150ppmの濃度(乾燥質量の平均で23ppm)で見つかり、海水中には9[[ppt]]ほど含んでいる。<ref name="Emsley497" />[[アポロ計画]]で採集された[[月の石]]は比較的高い濃度でイットリウムを含んでいた。<ref name="Stwertka115">[[#Stwertka1998|Stwertka 1998]], p. 115</ref>

イットリウムはたいていの生物に含まれ、人間の肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨で濃縮する傾向があるが、イットリウムの生物学上の役割は今のところ知られていない。<ref>{{cite journal|journal = Journal of Biological Chemistry|year = 1952
|volume = 195|pages = 837–841|url = http://www.jbc.org/cgi/reprint/195/2/837.pdf|format=PDF| title = The Skeletal Deposition of Yttrium|first = N. S.|last =
MacDonald|coauthors = R. E. Nusbaum, G. V. Alexander|pmid = 14946195|issue = 2}}</ref>人体からはふつう0.5mg程度のイットリウムが検出され、[[母乳」には4ppmほど含まれている。<ref name="Emsley495">[[#Emsley2001|Emsley 2001]], p.195</ref>イットリウムは新鮮な食用作物から20~100ppmの濃度で見つかり、キャベツに含まれる量が最大である。<ref name="Emsley495" />樹木の種は700ppm以上含んでいて、知られている中で最大濃度である。<ref name="Emsley495" />

=== 生産 ===
イットリウムとランタノイドの化学的類似性によりランタノイドと同じような過程で濃縮され、イットリウムはランタノイドと同じ鉱石、すなわち[[希土類鉱物]]中で見つかる。軽希土と重希土の間でわずかな分離があるが、決して完全に分離してるわけではない。イットリウムは、その小さい[[原子量]]にかからわず、重希土の中で濃縮される。<ref name="Morteani">{{cite journal|journal = European Journal of Mineralogy; August; v.;
no.; p.|year = 1991|volume = 3|issue = 4|pages = 641–650|url = http://eurjmin.geoscienceworld.org/cgi/content/abstract/3/4/641|title = The rare earths; their minerals,
production and technical use|first = Giulio|last = Morteani}}</ref><ref name="Kanazawaa">{{cite journal|journal = Journal of Alloys and Compounds|year = 2006|volume =
408–412|pages = 1339–1343|doi = 10.1016/j.jallcom.2005.04.033|title = Rare earth minerals and resources in the world|first = Yasuo|last = Kanazawa|coauthors = Masaharu
Kamitani}}</ref>

[[File:Yttrium 1.jpg|thumb|right|200px|alt = Roughly cube shaped piece of dirty grey metal with a uneven superficial structure. |イットリウムのかけら。イットリウムと他の希土類元素を分離するのは難しい。]]
希土類元素の主な産出源は以下の通り。<ref name="Naumov">{{cite journal|journal = Russian Journal of Non-Ferrous Metals|year = 2008
|volume = 49|issue = 1|pages = 14–22|title = Review of the World Market of Rare-Earth Metals
|first = A. V.|last = Naumov|doi=10.1007/s11981-008-1004-6|doi_brokendate = 2010-03-20}}</ref><!--The brokern doi is in the printed article and on the web page so the
problem is within doi and springer-->
* [[バストネサイト]](<nowiki>[</nowiki>(Ce, La, etc.)(CO<sub>3</sub>)F<nowiki>]</nowiki>)のような鉱石を含む炭酸塩、フッ化物は平均0.1%(希土類元素全体で100%とする)<ref name="CRC2008" /><ref name="Morteani" />のイットリウムと99.9%の他の16種の希土類元素を含む。<ref name="Morteani" />バストネサイトの1960年から1990年までの主な産出源はカリフォルニアの[[w:en:Mountain Pass rare earth mine|Mountain Pass rare earth mine]]であり、当時のアメリカは最大のレアアース産出国だった。<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />
* [[モナザイト]] (<nowiki>[</nowiki>(Ce, La, etc.)PO<sub>4</sub><nowiki>]</nowiki>)はほとんどがリン酸塩で、侵食された花崗岩の重力分離や輸送でつくられた[[漂砂鉱床]]で見つかる。軽希土鉱石としてのモナザイトは2%<ref name="Morteani" />または3%<ref name="Stwertka116">[[#Stwertka1998|Stwertka 1998]], p. 116</ref>ほどイットリウム含んでいる。19世紀初めに最大の鉱床がインドとブラジルに見つかり、両国は19世紀半ばまで最大のイットリウムの産出国だった。<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />
* [[ゼノタイム]]は希土類のリン酸塩で、[[リン酸イットリウム]](YPO<sub>4</sub>)としてイットリウムを60%以上含む、重希土鉱石である。<ref name="Morteani" />最大の鉱山は中国の[[w:en:Bayan Obo|Bayan Odo(en)]]であり、1990年代にMountain Pass mineが閉山して以来、中国は最大の重希土輸出国である。<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" />

<!--どなたか以下の翻訳をお願いします。
* Ion absorption clays or Lognan clays are the weathering products of granite and contain only 1% of REEs.<ref name="Morteani" /> The final ore concentrate can contain
up to 8% of yttrium. Ion absorption clays are mostly mined in southern China.<ref name="Morteani" /><ref name="Naumov" /><ref>{{cite journal|journal = Chinese Journal of Geochemistry|year = 1996|volume = 15|issue = 4|pages = 344–352|doi = 10.1007/BF02867008|title = The behaviour of rare-earth elements (REE) during weathering of
granites in southern Guangxi, China|first = Zuoping|last = Zheng|coauthors = Lin Chuanxian}}</ref> Yttrium is also found in [[samarskite]] and [[fergusonite]].<ref
name="Emsley497">[[#Emsley2001|Emsley 2001]], p. 497</ref>
-->

イットリウムを他の希土類から分離するのは難しい。さまざまな酸化物からなる鉱石から、純度の高いイットリウムを得る1つの方法は、酸化物を[[硫酸]]に溶かして[[イオン交換クロマトグラフィー]]により分別することである。その後[[シュウ酸]]を加えると、イットリウムのシュウ酸塩が沈殿する。酸素中で熱することで、シュウ酸塩を酸化物へ変える。これを[[フッ化水素酸]]と反応させると[[フッ化イットリウム]]が得られる。<ref name="Holleman" />

一年あたりの世界の酸化イットリウム生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンである。<ref name="Emsley497" />わずか数トンの金属イットリウムが[[フッ化イットリウム]]を酸化することにより毎年生産され、[[カルシウム]][[マグネシウム]]合金の金属スポンジに利用される。[[アーク炉]]内の1600℃以上の温度でイットリウムは融解する。<ref name="Emsley497" /><ref name="Holleman">{{cite book|publisher = Walter
de Gruyter|year = 1985|edition = 91–100|pages = 1056–1057|isbn = 3-11-007511-3|title = Lehrbuch der Anorganischen Chemie|first = Arnold F.
|last = Holleman|coauthors = Egon Wiberg, Nils Wiberg}}</ref>

==用途==
[[File:Aperture Grille.jpg|thumb|alt=Forty columns of oval dots, 30 dots high. First red than green than blue. The columns of red starts with only four dots in red
from the bottom becoming more with every column to the right||イットリウムは[[ブラウン管]]テレビの赤色を作り出す元素の1つである。]]
[[コバルト]]、[[鉄]]との合金は永久磁石として利用される。赤色の蛍光体、高圧水銀灯などに利用される。また、イットリウム-[[アルミニウム]]-ガーネット(Y<SUB>3</SUB>Al<SUB>5</SUB>O<SUB>12</SUB>: [[イットリウム・アルミニウム・ガーネット|YAG]])は[[レーザー]]発振に使われる(→[[YAGレーザー]])。

[[セラミックス]]の原料にイットリウムを混ぜると、[[セラミックス]]の耐久性が増す場合がある。

イットリウムを含む[[銅酸化物高温超伝導体]]は、液体窒素温度(およそ77 K)より高い転移温度を持つ超伝導物質である。([[Y系超伝導体]]を参照のこと。)

イットリウムを含む酸化物は[[カラーテレビ]]の赤色蛍光体として利用されている。

== 脚注 ==
<references group="注" />

== 出典 ==
{{reflist|2}}

== 参考文献 ==
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2011年3月3日 (木) 18:13時点における版

ストロンチウム - イットリウム - ジルコニウム
Sc
Y
La

一般特性
名称, 記号, 番号イットリウム, Y, 39
分類遷移元素
, 周期, ブロック3 (IIIA), 5 , d
密度, 硬度4472 kg/m3, __
銀白色
イットリウム
原子特性
原子量88.90585 u
原子半径 (計測値)180 (212) pm
共有結合半径162 pm
VDW半径データなし
電子配置[Kr]4d15s2
電子殻2, 8, 18, 9, 2
酸化数酸化物3 (弱塩基性酸化物)
結晶構造六方最密構造
物理特性
固体 (常磁性)
融点1799 K (2779 °F)
沸点3609 K (6037 °F)
モル体積19.88 ×10-6 m3/mol
気化熱363 kJ/mol
融解熱11.4 kJ/mol
蒸気圧5.31 Pa (1799 K)
音の伝わる速さ3300 m/s (293.15 K)
その他
クラーク数0.003 %
電気陰性度1.22 (ポーリング)
比熱容量300 J/(kg·K)
導電率1.66 ×106/m·Ω
熱伝導率17.2 W/(m·K)
第1イオン化エネルギー600 kJ/mol
第2イオン化エネルギー1180 kJ/mol
第3イオン化エネルギー1980 kJ/mol
第4イオン化エネルギー5847 kJ/mol
第5イオン化エネルギー7430 kJ/mol
第6イオン化エネルギー8970 kJ/mol
第7イオン化エネルギー11190 kJ/mol
第8イオン化エネルギー12450 kJ/mol
第9イオン化エネルギー14110 kJ/mol
第10イオン化エネルギー18400 kJ/mol
(比較的)安定同位体
同位体NA最長のt½ は 106.65 (Y-88)
89Y100%中性子50個で安定
注記がない限り国際単位系使用及び標準状態下。

イットリウム(: yttrium)は原子番号39の元素である。銀光沢のある遷移金属ランタノイドと化学的性質が似ているので、歴史的に希土類元素として分類されてきた[1]。イットリウムが他のランタノイドとともに希土類鉱物に含まれ、自然界に単体としては存在しない。自然界では唯一安定な同位体89Yのみ見出される。

常温、常圧で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP) で、比重は 4.47、融点は 1520℃、沸点は 3300℃(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中で表面は酸化されるが、内部までは侵されない。には易溶だが、アルカリには溶けない。熱水と反応する(水とはゆっくり反応)。

1787年にCarl Axel Arrhemois(en)がスウェーデンのイッテルビーの近くで新しい鉱物を見つけ、町名に因んでイッテルバイトと名付けた[2]ヨハン・ガドリンはArrheniusの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、Anders Gustaf Ekeberg(en)はそれをイットリアと名付けた。単体のイットリウムは1828年にフリードリヒ・ヴェーラーにより初めて単離された[3]

イットリウムの最も重要な用途は蛍光体であり、赤色蛍光体はテレビのブラウン管ディスプレイやLEDに用いられている[4]。他の用途では電極電解質電気フィルタレーザー超伝導体などがあり、医療技術にも応用されている。また微量元素としてさまざまな材料の性質を高めるためにも使われる。イットリウムは生理活性物質ではないが、ヒトがイットリウム化合物にさらされると肺を患う可能性がある[5]

特徴

性質

イットリウムは軟らかく、銀光沢のある第3族の遷移金属である。周期律から予想される通り、電気陰性度は同じ第3族で原子番号がより若いスカンジウムよ り小さく、逆にランタンよりは大きい。第5周期内では、隣のジルコニウムよりイットリウムの電気陰性度のほうが小さい[6][7]。イットリウムは初めのDブロック元素である。

ふつうの単体は空気に対し比較的安定で、これは金属表面で保護力の強い酸化イットリウム(Y2O3)の膜が形成し、不動態化するためである。水蒸気で約750℃にまで熱せられると、この膜は厚さ10µmにまで達することがある[8]。ところが純度が非常に高い単体では逆に空気に対して不安定となり、粉末状のイットリウムは400℃を超えると発火する。窒化イットリウム(YN)は単体が1000℃まで熱せられたときに生成する[8]

ランタノイドとの類似点

イットリウムとランタノイド元素はとても似ていて、これらは歴史的に希土類元素として同一グループに分類されてきた[1]。よってこれらは常に希土類鉱物中に同時に見出される[9]

イットリウムはスカンジウムなどの周期表での位置が近い元素よりも、ランタノイド元素に化学的性質が似ている[10]。もし物理的性質だけに着目すればイットリウムの原子番号は64.5から67.5に相当する。これはランタノイドのガドリニウムエルビウムの間である[11]

また反応次数も大体同じであり[8]テルビウムジスプロシウムと化学反応性が似ている[4]。原子半径やイオン半径もランタノイドのものと似てるので、重希土のイオンは'イットリウム族'と呼ばれてることがあり、イットリウムはまるで重希土のように振る舞う[8][12]。原子半径の類似性はランタノイド収縮により説明できる[13]

イットリウムとランタノイドの注目すべき一つの違いは、イットリウムはもっぱら三価しか取らないが、およそ半数のランタノイド元素は三価以外の原子価を取ることができることである[8]

化合物と化学反応

+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな無機化合物を形成するし、一般に3つの価電子を全て結合に使うため酸化数は+3である[14]酸化イットリウム(III)(Y2O3)がよい例であり、6つの配位結合をもつ白色の固体である[15]

イットリウムは水に対し不溶性のフッ化物水素化物シュウ酸塩を作るが、その臭化物、塩化物、ヨウ価物、窒化物、硫化物はすべて水溶性物質である[8]。Y3+イオンはd軌道とf軌道が空であるから、その溶液は無色である[8]

は容易にイットリウムと反応してY2O3を生成する[9]。濃硝酸フッ化水素酸との反応性は高くないが、その他の強酸とは容易に反応する[8]

約200℃の下でハロゲンと反応してフッ化イットリウム(III)(YF3)や塩化イットリウム(III)(YCl3)、臭化イットリウム(III)(YBr3)などのハロゲン化物を生成する[5]。同様に、適当に高い温度下でイットリウムは炭素リンセレンケイ素硫黄などと反応し2成分化合物を作る[8]

有機イットリウム化学は炭素-イットリウム結合を含む化合物を研究する分野である。これらの化合物の中で、酸化数が0のイットリウムの存在が知られている[16][17]。(塩化物の融解状態で+2のものが確認されていて[18]、+1のものは気相のクラスター中で見つかっている[19]。)いくつかの三量体の合成反応で有機イットリウム化合物が触媒の役割を担っていることが観察された。[17]これらの化合物はYCl3を初めの物質として使い、次にY2O3と濃縮した塩酸塩化アンモニウムを代わる代わる使っていた[20][21]

ハプト数とは隣接する配位子が中心原子にどのように配位結合しているかを表すもので、これはギリシャ文字のイータηで示される。イットリウム錯体はd0金属中心にハプト数η7としてカルボランが配位したものの最初の例である[17]炭素インターカレーション化合物(en)|のグラファイト-Yまたはグラファイト-Y2O3の気化によりY@C82のような原子内包フラーレン(en)が生成する[4]電子スピン共鳴による研究でY+3や(C82)3-のイオン対の生成が認められた[4]。Y3、Y2、YC2などの炭化物を水素化することで炭水化物をつくれる[8]

主な化合物

  • Y2O3(酸化イットリウム)
  • Y3Fe5O12(YIG:イットリウム-鉄-ガーネット)
  • YVO4
  • YB66(分光結晶として有用)
  • YBa2Cu3O7Y系超伝導体

元素合成と同位体

太陽系内のイットリウムは恒星内元素合成によりつくられ、そのうち約72%がs過程、約28%がr過程による。[22]r過程は超新星爆発に伴う軽い元素による中性子捕獲からなっており、s過程は脈動赤色巨星の内側での遅い中性子捕獲である。[23]

Grainy irregular shaped yellow spot with red rim on a black background
ミラは太陽系内のほとんどのイットリウムを創った赤色巨星のうちの1つである。

イットリウムの同位体はウランの核分裂反応の主要生成物である。廃棄物処理の観点からみると、最も重要なイットリウム同位体は91Y、90Yであり、それぞれの半減期は58.1日、64時間である。[24]前者は分裂により直接に生成するが、後者はその短い半減期にもかかわらず、29年の長い半減期を持つ親核種のストロンチウム-90(90Sr)と平衡状態になる。

少なくとも32のイットリウムの人工同位体が確認されていて、質量数は76から108にわたる。[24]このうち最も不安定なものは半減期150nsの106Yであり、その次に半減期200nsの76Yである。最も安定なものは半減期106.626日の88Yである。[24]また、91Y、87Y、90Yの半減期はそれぞれ58.51日、79.8時間、64時間であり、その他の同位体の半減期は全て1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である。[24]

質量数88以下のイットリウムの同位体は主にβ+崩壊(陽子→中性子)によりストロンチウム(Z = 38)同位体になる。[24]質量数90以上のイットリウム同位体は主にβ-崩壊(中性子→陽子)によりジルコニウム(Z = 40)同位体になる。[24]また、質量数97以上の同位体ではβ-崩壊が中性子放出を遅らせることも知られている。[25]

イットリウムの質量数78~102の準安定同位体が少なくとも20個知られている。[24][注 1]いろいろな励起状態が80Yと 97Yで確認されている。[24]ほとんどのイットリウム同位体は基底状態より不安定であると予想されるが、78mY、84mY、 85mY、96mY、98m1Y、100mY、102mYは基底状態のものより長い半減期を持つ。これは、これらの同位体は同位体転移よりむしろβ崩壊によって崩壊するからである。[25]

歴史

1787年、軍隊の中尉でありパートタイムとしての化学者であったCarl Axel Arrheniius(en)はスウェーデンの村イッテルビー(今はStockholm archipelago(en)の一部)の古い石切り場で重い黒い岩石を見つけた。彼は、これは当時見つかったばかりのタングステンが含まれる未知の鉱物だと考え、[26]これをイッテルバイトと名付け、[注 2]さらなる分析のため、そのサンプルを大勢の化学者に送った。[2]

ヨハン・ガドリン はイットリウムの酸化物を発見した。

1789年、ヨハン・ガドリンUniversity of Åbo(en)でArrheniusのサンプルから新しい酸化物を同定し、完全な分析結果を1794年に発表した。[27] Anders Gustaf Ekeberg(en)は1797年にこれを確認し、新しい酸化物をイットリア(yttria)と名付けた。[28]数十年後、アントワーヌ・ラヴォアジエ元素に最初の近代的な定義を与え、新たな土の成分の発見は新たな元素の発見と等価であるとしたので、イットリウム(yttrium)という名もこれに倣った。というのは、土の成分の名前(yttria)の語尾には-aが付き、新たな元素の名前(yttrium)の語尾には-iumをが付けられたからだ。

1843年にCarl Gustav Mosander(en)はイットリアのサンプルから三つの酸化物、すなわち白色の酸化イットリウム、黄色の酸化テルビウム(III,IV)(ややこしいことに、当時これは'エルビア'と呼ばれていた。)、バラ色の酸化エルビウム(これは'テルビア'と呼ばれていた。)を見つけた。[29]4つ目の酸化物、酸化イッテルビウムは1878年にジャン・マリニャックにより単離された。[30]新たな元素は後にこれらの酸化物から単離された。[31]さらに数十年後、7つの他の新しい金属が「ガドリンのイットリア」から見つかった。[2]イットリアは1つの酸化物ではなく鉱物であることがわかったので、Martin Heinrich Klaproth(en)はこれをガドリンを称えガドリナイトと名付け直した。[2]

金属イットリウムは1828年にフリードリヒ・ヴェーラー塩化イットリウム(III)の無水物とカリウムを熱したときに初めて単離された。[32][33]

YCl3 + 3 K → 3 KCl + Y

1920年代初頭まで、元素記号はYtが採用されていたが、のちにYが使われるようになった。[34]

1987年に、イットリウムバリウム銅酸化物(en)高温超電導を示すことが発見された。この性質を示す物質としては第二番目に見つかったもので、[35]窒素の沸点以上で超電導を示す物質としては初めての見つかったものである。[注 3]

産出

Three column shaped brown crystals on a white background
ゼノタイムの結晶はイットリウムを含んでいる。

存在量

イットリウムはほとんどの希土類鉱石から見つかり、[7]いくつかのウラン鉱石からも見つかるが、単体としては決して見つからない。[36]地殻の約31ppmがイットリウムであり、[4]これは28番目に高く、の400倍の存在度である。[37]イットリウムは土壌から10~150ppmの濃度(乾燥質量の平均で23ppm)で見つかり、海水中には9pptほど含んでいる。[37]アポロ計画で採集された月の石は比較的高い濃度でイットリウムを含んでいた。[31]

イットリウムはたいていの生物に含まれ、人間の肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨で濃縮する傾向があるが、イットリウムの生物学上の役割は今のところ知られていない。[38]人体からはふつう0.5mg程度のイットリウムが検出され、[[母乳」には4ppmほど含まれている。[39]イットリウムは新鮮な食用作物から20~100ppmの濃度で見つかり、キャベツに含まれる量が最大である。[39]樹木の種は700ppm以上含んでいて、知られている中で最大濃度である。[39]

生産

イットリウムとランタノイドの化学的類似性によりランタノイドと同じような過程で濃縮され、イットリウムはランタノイドと同じ鉱石、すなわち希土類鉱物中で見つかる。軽希土と重希土の間でわずかな分離があるが、決して完全に分離してるわけではない。イットリウムは、その小さい原子量にかからわず、重希土の中で濃縮される。[40][41]

イットリウムのかけら。イットリウムと他の希土類元素を分離するのは難しい。

希土類元素の主な産出源は以下の通り。[42]

  • バストネサイト([(Ce, La, etc.)(CO3)F])のような鉱石を含む炭酸塩、フッ化物は平均0.1%(希土類元素全体で100%とする)[3][40]のイットリウムと99.9%の他の16種の希土類元素を含む。[40]バストネサイトの1960年から1990年までの主な産出源はカリフォルニアのMountain Pass rare earth mineであり、当時のアメリカは最大のレアアース産出国だった。[40][42]
  • モナザイト ([(Ce, La, etc.)PO4])はほとんどがリン酸塩で、侵食された花崗岩の重力分離や輸送でつくられた漂砂鉱床で見つかる。軽希土鉱石としてのモナザイトは2%[40]または3%[43]ほどイットリウム含んでいる。19世紀初めに最大の鉱床がインドとブラジルに見つかり、両国は19世紀半ばまで最大のイットリウムの産出国だった。[40][42]
  • ゼノタイムは希土類のリン酸塩で、リン酸イットリウム(YPO4)としてイットリウムを60%以上含む、重希土鉱石である。[40]最大の鉱山は中国のBayan Odo(en)であり、1990年代にMountain Pass mineが閉山して以来、中国は最大の重希土輸出国である。[40][42]


イットリウムを他の希土類から分離するのは難しい。さまざまな酸化物からなる鉱石から、純度の高いイットリウムを得る1つの方法は、酸化物を硫酸に溶かしてイオン交換クロマトグラフィーにより分別することである。その後シュウ酸を加えると、イットリウムのシュウ酸塩が沈殿する。酸素中で熱することで、シュウ酸塩を酸化物へ変える。これをフッ化水素酸と反応させるとフッ化イットリウムが得られる。[44]

一年あたりの世界の酸化イットリウム生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンである。[37]わずか数トンの金属イットリウムがフッ化イットリウムを酸化することにより毎年生産され、カルシウムマグネシウム合金の金属スポンジに利用される。アーク炉内の1600℃以上の温度でイットリウムは融解する。[37][44]

用途

イットリウムはブラウン管テレビの赤色を作り出す元素の1つである。

コバルトとの合金は永久磁石として利用される。赤色の蛍光体、高圧水銀灯などに利用される。また、イットリウム-アルミニウム-ガーネット(Y3Al5O12: YAG)はレーザー発振に使われる(→YAGレーザー)。

セラミックスの原料にイットリウムを混ぜると、セラミックスの耐久性が増す場合がある。

イットリウムを含む銅酸化物高温超伝導体は、液体窒素温度(およそ77 K)より高い転移温度を持つ超伝導物質である。(Y系超伝導体を参照のこと。)

イットリウムを含む酸化物はカラーテレビの赤色蛍光体として利用されている。

脚注

  1. ^ 準安定同位体は安定同位体より高いエネルギー状態にあり、この状態はガンマ線転換電子を放出するまで続く。これらは同位体の質量数の横に'm'と書かれることで示される。
  2. ^ イッテルバイト(Ytterbite)は発見された場所の近くの村(Ytterby)の名前に由来し、語尾の-iteは鉱物であることを示している。
  3. ^ YBCO超伝導転移温度は93Kで、窒素の沸点は77Kである。

出典

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