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'''党の指導性'''(とうのしどうせい、{{lang-de|Führung der Partei}}、{{lang-en|leadership of the party, party leadership}})または「'''[[前衛党]]の指導性'''」は、[[レーニン主義]]の原則の一つ<ref>「資本主義の最終段階とする[[帝国主義]]観、労農同盟による[[プロレタリア独裁]]、[[一国社会主義]]の可能性、民族・植民地問題と国際プロレタリア革命の関連、前衛党の指導性と組織原則などを中核理論とする。」[[大辞林]]([[三省堂]])「レーニン主義」の項</ref><ref>"He advocated the organization of the working class by a disciplined and centralised Communist Party believing, unlike Marx, that class consciousness could only develop under the guidance and direction of party leadership. "[http://sociologyindex.com/leninism.htm Leninsm - sociologyindex.com]</ref><ref>[http://www.marxists.org/archive/lenin/works/1901/witbd/ What Is To Be Done?]</ref>。
'''党の指導性'''(とうのしどうせい)とは、[[政府]]と[[国民]]を、特定の[[政党]]が方向付け「牽引」する制度を指す。[[ソビエト連邦共産党]]の[[ウラジーミル・レーニン]]と[[ヨシフ・スターリン]]が創設した制度である。

[[マルクス・レーニン主義]]を掲げる多くの[[社会主義国]]の[[憲法]]などに明記され、[[共産党]]が[[国家]]・[[政府]]・[[軍]]・[[司法]]・[[宗教団体]]など社会のあらゆる組織を「指導」する根拠とされた。国家を指導する党を'''指導政党'''とも呼ぶ<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1985/s60-1030301.htm 戦後の日本外交と1984年の我が国の主要な外交活動 - 各国との関係の増進]([[外務省]])</ref>。



== 概要 ==
== 概要 ==
{{see also|マルクス主義|レーニン主義|マルクス・レーニン主義|社会主義国|一党独裁}}
[[レーニン主義]]で、[[共産主義]]の[[プロレタリア独裁]]理論を背景に「[[共産主義]]社会」を目指す過渡期の段階である「[[社会主義]]社会」では「党の指導性」が必要とされ、[[政府]][[司法]][[軍部]]などから[[職場]]・[[地域]]・[[学校]]などまで、あらゆる階層の社会集団に共産党が[[細胞 (政党)|細胞]]を置き、意思決定を「助言」し、あるいは実施する。
「党の指導性」は、「前衛党の指導性」の他、「共産党の指導体制」<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/data.html 中華人民共和国 - 外務省]</ref>、「共産党の指導原理」<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1990/h02-1-1.htm 国際社会の変化とわが国の外交課題 - 外務省]</ref>、「共産党の指導的地位」<ref name="show">[http://jp.showchina.org/09/01/01/200806/t188085.htm 中国共産党は人民を指導して国の主人公にさせる - Show China](中華人民共和国大使館からリンクされているサイト)</ref>などとも呼ばれる。また[[中華人民共和国]]や[[朝鮮民主主義人民共和国]](北朝鮮)、[[ベトナム]]などでは「党の領導」とも表記される<ref>[http://iir.nccu.edu.tw/attachments/journal/add/10/2-1__.pdf 中国共産党中央の権力構造の分析]</ref><ref>[http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2009/0213/10053601.html 統一部の北朝鮮権力機構図改正版、「党の領導」明示 - 韓国新聞</ref>。[[ソビエト連邦共産党]]の[[ウラジーミル・レーニン]]と[[ヨシフ・スターリン]]が創設した。


[[ソビエト連邦]]や[[中華人民共和国]]など多くの[[マルクス・レーニン主義]]を掲げる[[社会主義国]]では、[[憲法]]などの基本法に共産党による国家への指導が明記されている。
このため[[憲法]]が存在して言論・報道・集会などの自由や権利が明記されている場合でも、実際には全ての組織で[[一独裁制]]実施される。の結果として、政府組織と党組織の間の役割分担の曖昧化、国家組織の形骸化と党の肥大化、実権や出世や利権を求める層が共産党に大量流入する事による党幹部の汚職や腐敗、軍が「党の軍」であるか「国家の軍」であるかの位置づけの曖昧化などが発生しがちである。


[[マルクス主義]]の原則とされている[[プロレタリア独裁]]では社会主義革命後の過渡期では[[プロレタリアート]]による[[独裁]]が必要とされているが、更に[[レーニン主義]]の党組織論である[[前衛党]]理論ではプロレタリアートを指導するのは少数精鋭の[[共産党]]のみである。この[[一党独裁]]の理論を、[[ロシア革命]]によって権力を獲得した[[ボリシェヴィキ]]が[[国家]]の憲法に明記し制度化したものが「党による指導(性)」である。
党の指導性が主張される国及び主張する組織内の認識では、指導政党の存在のみが許される場合([[一党独裁制]])と、指導政党の指導に服する政党([[衛星政党]])・組織の存在が許される場合([[ヘゲモニー政党制]])の両方がある。


「党による指導」通常、「[[社会主義]]社会」全体に必要とされるためその対象は[[政府]]だけでは無く、[[軍部]][[司法]]、更には[[職場]]・[[労働組合]]・[[地域]]・[[学校]]・[[文化]]団体などのあらゆる社会的組織も対象となる。実際には、あらゆる階層の社会集団に共産党が[[細胞 (政党)|細胞]]を置き、意思決定を「助言」し、あるいは実施する。
なお、[[ファシズム]]も特定政党(ドイツの[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチ党]]、イタリアの[[ファシスト党]]、スペインの[[ファランヘ党]]など)が政府と国民を「指導」するが、「党の指導性」という表現を用いた例は見られない。これらも[[一党独裁]]ではあるが、国家や指導者が[[指導者原理]]などにより[[独裁政治]]を行う政体である。

例えば[[中華人民共和国]]では、[[中華人民共和国憲法]]に「[[中国共産党]]が国家を領導する」と明記されているが、更に中華人民共和国国防法で「中華人民共和国の武装力は中国共産党の領導を受ける」と明記されている<ref>[http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2006_17126/slides/07/26.html 領導者としての中国共産党(権力執行機関の掌握:軍の場合) - 比較文化論]</ref><ref>[http://www.npc.gov.cn/wxzl/gongbao/2000-12/05/content_5004681.htm 中華人民共和国国防法(中文)]</ref>。このため軍隊である[[中国人民解放軍]]は、国家機関の[[中華人民共和国中央軍事委員会]]と党機関の[[中国共産党中央軍事委員会]]の両方の指導を受ける形だが、国家は党の指導を受けるため、党機関の指導が優先される。また実際にも両機関の構成員はほぼ同一であり、国家による支配は形骸化している。このため人民解放軍は「国家の軍隊(国軍)ではなく、党の軍隊(党軍)」と呼ばれる事が多い<ref>「現代アジア事典」([[長谷川啓之]]、[[文眞堂]]、2009年)1384p[http://books.google.co.jp/books?id=YVnYVoEncIAC&pg=PA547&dq=%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D%E3%80%80%E5%85%9A%E3%81%AE%E8%BB%8D%E9%9A%8A&hl=ja&ei=Brm6Tev_CJLcvQP5hc3FBQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CDcQ6AEwAA#v=onepage&q=%E4%BA%BA%E6%B0%91%E8%A7%A3%E6%94%BE%E8%BB%8D%E3%80%80%E5%85%9A%E3%81%AE%E8%BB%8D%E9%9A%8A&f=false]</ref>。

また、旧[[ソビエト連邦]]や[[キューバ]]の[[一党制]]<ref>[http://embacuba.cubaminrex.cu/Default.aspx?tabid=1931 単一政党しか存在しない理由はなにか - キューバ大使館]</ref>に対し、[[中華人民共和国]]や[[朝鮮民主主義人民共和国]]などは複数政党が存在する[[人民民主主義]]制だが、この場合も他の政党([[衛星政党]])は指導政党からの指導を受ける([[ヘゲモニー政党制]])事が憲法に明記されており、いずれも実質的には[[一党独裁]]である。

また、党の指導に従わない者は通常、「反党分子」「反革命分子」などと呼ばれ弾圧や[[粛清]]の対象となった<ref>「現代中国の政治と文学: 批判と粛清の文学史」([[小山三郎]]、[[東方書店]]、1993年)274p</ref><ref>「朝鮮民主主義人民共和国の法と司法制度」([[金圭昇]]、[[日本評論社]]、1985年)306p</ref>。このため[[憲法]]が存在して言論・報道・集会などの自由や権利が明記されている場合でも、実際には全ての組織で共産の支配徹底される。の結果として、政府組織と党組織の間の役割分担の曖昧化、国家組織の形骸化と党の肥大化、実権や出世や利権を求める層が共産党に大量流入する事による党幹部の汚職や腐敗、軍が「党の軍」であるか「国家の軍」であるかの位置づけの曖昧化などが発生しる。

== 例 ==
憲法等で公式に「党の指導性」を明記した主な国には以下がある。

=== 過去の社会主義国 ===
* {{Flagicon|HUN}} [[ハンガリー]] - 1989年2月、ハンガリ一社会主義労働者党が党の指導的役割の放棄と複数政党制の容認を決定。1990年 人民共和国から共和国に移行。
* {{Flagicon|SSR}} [[ソビエト連邦]] - 1990年、憲法から共産党の指導的役割条項を削除し、複数政党制を容認<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1990/h02-3-4.htm ソ連 - 外務省]</ref>。1991年解体。

=== 現在の社会主義国 ===
* {{Flagicon|CHN}} [[中華人民共和国]] - [[中華人民共和国憲法|憲法]]に「[[社会主義]]」、「[[プロレタリア独裁|独裁]]」、「党の領導」を明記<ref>[http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2006_17126/slides/07/8.html 中華人民共和国憲法を読む(2004年、抜粋)]</ref><ref>[http://www.togenkyo.net/modules/reference/category0001.html 中華人民共和国憲法(1999年修正)]</ref>
* {{Flagicon|VIE}} [[ベトナム|ベトナム社会主義共和国]] - 憲法(1992年)に「社会主義」、「独裁」、「党の領導」を明記<ref>[http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/asiapacific/19920415.O1J.html ベトナム社会主義共和国憲法(1992年)]</ref>
* {{Flagicon|PRK}} [[朝鮮民主主義人民共和国]](北朝鮮) - [[朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法|憲法]](2009年改定)に「社会主義」、「独裁」、「党の領導」を明記<ref>[http://www.geocities.co.jp/WallStreet/3277/09kenpou.html 朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法]</ref>
* {{Flagicon|CUB}} [[キューバ|キューバ共和国]] - 憲法に「社会主義」、「党の指導」を明記<ref>{{PDFlink|[http://www.waseda.jp/hiken/jp/public/review/pdf/16/01/ronbun/A04408055-00-016010057.pdf キューバ共和国憲法(1976年)]}}</ref>

=== 現在のイスラム社会主義国 ===
*{{Flagicon|SYR}} [[シリア|シリア・アラブ共和国]] - [[バアス党]]による事実上の一党独裁<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/syria/data.html シリア・アラブ共和国 - 外務省]</ref>。憲法にバアス党を「指導政党」と明記<ref>[http://www.maxtie.com/jp/nationalPortal/newsDetail/fc9181e923fe082b0123feb19d830354.html シリアの政治 - maxtie.com]</ref><ref>[http://jime.ieej.or.jp/htm/extra/2000/06/21/br01.htm 第9回バアス党地域指導部大会 - 中東経済研究所]</ref>。[[ソ連型社会主義]]の影響を受けているが、[[イスラム社会主義]]を掲げ、[[マルクス・レーニン主義]]は提唱していない。

== 類似の例 ==
[[一党独裁]]だが、憲法等で公式に「党の指導性」を明記していない主な例には以下がある。

=== 過去の類似の例 ===
*{{Flagicon|ITA1861}} {{Flagicon|DEU1935}} [[イタリア]]の[[ファシスト党]]や[[ドイツ]]の[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチ党]]などは、事実上の[[一党独裁]]だが、制度上は「党の指導」は明記されていない。イタリアの[[ファシズム]]は[[国家主義]]を掲げ、国家指導者である[[ベニート・ムッソリーニ]]が独裁を行い、ファシスト党に有利に選挙制度を改正し、[[イタリア共産党]]を非合法化したが、[[イタリア社会党]]など他の政党は弾圧されながらも存続した。またドイツの[[ナチズム]]は[[民族主義]]を掲げ、[[指導者原理]]の理論により個人である[[アドルフ・ヒトラー]]が民族共同体の指導者として、党や国家を道具として独裁を行い、他党を解散した<ref>「全体主義」([[エンツォ・トラヴェルソ]]、[[平凡社新書]]、2010年)p40-44</ref>。なおムッソリーニは[[ドゥーチェ]]、ヒトラーはヒューラー(総統)の称号を使用したが、これらは政権獲得後は党だけではなく国家や民族を含めた指導者の意味を持ち、党の役職である[[ソビエト連邦共産党書記長]]などとは異なる。
*{{Flagicon|IRQ1991}} [[イラク|イラク共和国]] (1979-2003年、[[サッダーム・フセイン]]統治下) - [[バアス党|社会主義アラブ・バアス党]]による事実上の一党独裁だが、憲法に「指導政党」とは明記されていない。憲法(1970年)では、「革命司令部評議会」が「最高の国家機関」(第37条)で、[[バアス党|社会主義アラブ・バアス党]]から選出され、評議会議長が大統領である<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110000212818 イラク共和国暫定憲法 - 国立情報学研究所]</ref>。[[イラク戦争]]後の[[イラク憲法]](2005年改正)で「バアス党の擁護」禁止が明記された(第7条)。

=== 現在の類似の例 ===
*{{Flagicon|SGP}} [[シンガポール]]の[[人民行動党]]は、事実上の[[一党独裁]]制だが、憲法に指導政党とは明記されていない<ref>[http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/222/022212.pdf シンガポール憲法の改正]</ref>。

== 議論 ==
*[[カール・カウツキー]]は[[社会主義]]の立場から[[間接民主主義|議会制民主主義]]を主張し、レーニンの一党独裁を批判した。
*[[ローザ・ルクセンブルク]]は[[プロレタリア独裁]]を肯定したが、プロレタリア独裁は[[階級]]の独裁であって一党一派の独裁では無いとして、レーニンの[[前衛党]]論を批判した。
*[[レフ・トロツキー]]は、[[ヨシフ・スターリン]]支配下の[[ソビエト連邦]]を「官僚によって歪められ、堕落した労働者国家」と呼び、複数政党制の必要性を主張した<ref>[http://marxists.anu.edu.au/nihon/trotsky/1930-3/kato-kouryou.htm 資本主義の死の苦悶と - 第4インターナショナルの任務(トロツキー)]</ref>。
*[[日本共産党]]は綱領で、日本における社会主義では特定の政党に「「指導」政党としての特権」を与えないとしている<ref>[http://www.jcp.or.jp/jcp/Koryo/index.html 日本共産党綱領(2004年)]</ref>。
*[[中華人民共和国]]の政府系サイト(Show China)では「中国共産党の指導と執政」が必要な理由を、(1)社会主義現代化建設を推し進め、中華民族の偉大な復興を実現させる (2)中国の国家の統一と社会の調和・安定を守る (3)政権の安定を保証する (4)数億の人民を団結、凝集させ、共同ですばらしい未来を建設する、と記している<ref name="show"/>。
*[[朝鮮労働党]]の機関紙の[[労働新聞 (朝鮮労働党)|労働新聞]]等は2011年1月の新年共同社説で「今年の総進軍を成功裏に促すための決定的担保は、党の領導的役割をあらゆる面で高めること」として、党の指導の強化を主張した<ref>[http://www.piks.or.tv/date/newyear/20110101.html 【新年共同社説】2011年「今年もう一度軽工業に拍車をかけ、人民生活向上と強盛大国建設で決定的転換を起こそう」- 『労働新聞』『朝鮮人民軍』『青年前衛』共同社説全文(翻訳:主宰者)]</ref>。

== 関連書籍 ==
*"The Communist Party leadership in Poland: a study in elite stability" (Richard Felix Staar, 1961)
*"The Communist Party leadership in Albania" (Jani I. Dilo, Institute of Ethnic Studies, Georgetwon University, 1961)

== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[一党独裁制]]([[党国体制]])
*[[一党独裁制]]([[党国体制]])
*[[プロレタリア独裁]]
*[[プロレタリア独裁]] - [[ソ連型社会主義]] - [[人民民主主義]]
*[[ファシズム]] - [[ナチズム]]
*[[ソ連型社会主義]]
*[[ナチズム]]
*[[イスラ社会主義]]

*[[人民民主主義]]
== 外部リンク ==
*[http://jp.showchina.org/09/01/200806/t188302.htm 中国の民主政治建設 - 中華人民共和国 政府白書]
*[http://www.piks.or.tv/date/newyear/20110101.html 【新年共同社説】2011年「今年もう一度軽工業に拍車をかけ、人民生活向上と強盛大国建設で決定的転換を起こそう」- 『労働新聞』『朝鮮人民軍』『青年前衛』共同社説全文]


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2011年5月3日 (火) 11:59時点における版

党の指導性(とうのしどうせい、ドイツ語: Führung der Partei英語: leadership of the party, party leadership)または「前衛党の指導性」は、レーニン主義の原則の一つ[1][2][3]

マルクス・レーニン主義を掲げる多くの社会主義国憲法などに明記され、共産党国家政府司法宗教団体など社会のあらゆる組織を「指導」する根拠とされた。国家を指導する党を指導政党とも呼ぶ[4]


概要

「党の指導性」は、「前衛党の指導性」の他、「共産党の指導体制」[5]、「共産党の指導原理」[6]、「共産党の指導的地位」[7]などとも呼ばれる。また中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ベトナムなどでは「党の領導」とも表記される[8][9]ソビエト連邦共産党ウラジーミル・レーニンヨシフ・スターリンが創設した。

ソビエト連邦中華人民共和国など多くのマルクス・レーニン主義を掲げる社会主義国では、憲法などの基本法に共産党による国家への指導が明記されている。

マルクス主義の原則とされているプロレタリア独裁では社会主義革命後の過渡期ではプロレタリアートによる独裁が必要とされているが、更にレーニン主義の党組織論である前衛党理論ではプロレタリアートを指導するのは少数精鋭の共産党のみである。この一党独裁の理論を、ロシア革命によって権力を獲得したボリシェヴィキ国家の憲法に明記し制度化したものが「党による指導(性)」である。

「党による指導」は通常、「社会主義社会」全体に必要とされるため、その対象は政府だけでは無く、軍部司法、更には職場労働組合地域学校文化団体などのあらゆる社会的組織も対象となる。実際には、あらゆる階層の社会集団に共産党が細胞を置き、意思決定を「助言」し、あるいは実施する。

例えば中華人民共和国では、中華人民共和国憲法に「中国共産党が国家を領導する」と明記されているが、更に中華人民共和国国防法で「中華人民共和国の武装力は中国共産党の領導を受ける」と明記されている[10][11]。このため軍隊である中国人民解放軍は、国家機関の中華人民共和国中央軍事委員会と党機関の中国共産党中央軍事委員会の両方の指導を受ける形だが、国家は党の指導を受けるため、党機関の指導が優先される。また実際にも両機関の構成員はほぼ同一であり、国家による支配は形骸化している。このため人民解放軍は「国家の軍隊(国軍)ではなく、党の軍隊(党軍)」と呼ばれる事が多い[12]

また、旧ソビエト連邦キューバ一党制[13]に対し、中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国などは複数政党が存在する人民民主主義制だが、この場合も他の政党(衛星政党)は指導政党からの指導を受ける(ヘゲモニー政党制)事が憲法に明記されており、いずれも実質的には一党独裁である。

また、党の指導に従わない者は通常、「反党分子」「反革命分子」などと呼ばれ弾圧や粛清の対象となった[14][15]。このため憲法が存在して言論・報道・集会などの自由や権利が明記されている場合でも、実際には全ての組織で共産党の支配が徹底される。この結果として、政府組織と党組織の間の役割分担の曖昧化、国家組織の形骸化と党の肥大化、実権や出世や利権を求める層が共産党に大量流入する事による党幹部の汚職や腐敗、軍が「党の軍」であるか「国家の軍」であるかの位置づけの曖昧化などが発生しうる。

憲法等で公式に「党の指導性」を明記した主な国には以下がある。

過去の社会主義国

  • ハンガリーの旗 ハンガリー - 1989年2月、ハンガリ一社会主義労働者党が党の指導的役割の放棄と複数政党制の容認を決定。1990年 人民共和国から共和国に移行。
  • ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦 - 1990年、憲法から共産党の指導的役割条項を削除し、複数政党制を容認[16]。1991年解体。

現在の社会主義国

現在のイスラム社会主義国

類似の例

一党独裁だが、憲法等で公式に「党の指導性」を明記していない主な例には以下がある。

過去の類似の例

現在の類似の例

議論

  • カール・カウツキー社会主義の立場から議会制民主主義を主張し、レーニンの一党独裁を批判した。
  • ローザ・ルクセンブルクプロレタリア独裁を肯定したが、プロレタリア独裁は階級の独裁であって一党一派の独裁では無いとして、レーニンの前衛党論を批判した。
  • レフ・トロツキーは、ヨシフ・スターリン支配下のソビエト連邦を「官僚によって歪められ、堕落した労働者国家」と呼び、複数政党制の必要性を主張した[28]
  • 日本共産党は綱領で、日本における社会主義では特定の政党に「「指導」政党としての特権」を与えないとしている[29]
  • 中華人民共和国の政府系サイト(Show China)では「中国共産党の指導と執政」が必要な理由を、(1)社会主義現代化建設を推し進め、中華民族の偉大な復興を実現させる (2)中国の国家の統一と社会の調和・安定を守る (3)政権の安定を保証する (4)数億の人民を団結、凝集させ、共同ですばらしい未来を建設する、と記している[7]
  • 朝鮮労働党の機関紙の労働新聞等は2011年1月の新年共同社説で「今年の総進軍を成功裏に促すための決定的担保は、党の領導的役割をあらゆる面で高めること」として、党の指導の強化を主張した[30]

関連書籍

  • "The Communist Party leadership in Poland: a study in elite stability" (Richard Felix Staar, 1961)
  • "The Communist Party leadership in Albania" (Jani I. Dilo, Institute of Ethnic Studies, Georgetwon University, 1961)

脚注

  1. ^ 「資本主義の最終段階とする帝国主義観、労農同盟によるプロレタリア独裁一国社会主義の可能性、民族・植民地問題と国際プロレタリア革命の関連、前衛党の指導性と組織原則などを中核理論とする。」大辞林三省堂)「レーニン主義」の項
  2. ^ "He advocated the organization of the working class by a disciplined and centralised Communist Party believing, unlike Marx, that class consciousness could only develop under the guidance and direction of party leadership. "Leninsm - sociologyindex.com
  3. ^ What Is To Be Done?
  4. ^ 戦後の日本外交と1984年の我が国の主要な外交活動 - 各国との関係の増進外務省
  5. ^ 中華人民共和国 - 外務省
  6. ^ 国際社会の変化とわが国の外交課題 - 外務省
  7. ^ a b 中国共産党は人民を指導して国の主人公にさせる - Show China(中華人民共和国大使館からリンクされているサイト)
  8. ^ 中国共産党中央の権力構造の分析
  9. ^ [http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2009/0213/10053601.html 統一部の北朝鮮権力機構図改正版、「党の領導」明示 - 韓国新聞
  10. ^ 領導者としての中国共産党(権力執行機関の掌握:軍の場合) - 比較文化論
  11. ^ 中華人民共和国国防法(中文)
  12. ^ 「現代アジア事典」(長谷川啓之文眞堂、2009年)1384p[1]
  13. ^ 単一政党しか存在しない理由はなにか - キューバ大使館
  14. ^ 「現代中国の政治と文学: 批判と粛清の文学史」(小山三郎東方書店、1993年)274p
  15. ^ 「朝鮮民主主義人民共和国の法と司法制度」(金圭昇日本評論社、1985年)306p
  16. ^ ソ連 - 外務省
  17. ^ 中華人民共和国憲法を読む(2004年、抜粋)
  18. ^ 中華人民共和国憲法(1999年修正)
  19. ^ ベトナム社会主義共和国憲法(1992年)
  20. ^ 朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法
  21. ^ キューバ共和国憲法(1976年) (PDF)
  22. ^ シリア・アラブ共和国 - 外務省
  23. ^ シリアの政治 - maxtie.com
  24. ^ 第9回バアス党地域指導部大会 - 中東経済研究所
  25. ^ 「全体主義」(エンツォ・トラヴェルソ平凡社新書、2010年)p40-44
  26. ^ イラク共和国暫定憲法 - 国立情報学研究所
  27. ^ シンガポール憲法の改正
  28. ^ 資本主義の死の苦悶と - 第4インターナショナルの任務(トロツキー)
  29. ^ 日本共産党綱領(2004年)
  30. ^ 【新年共同社説】2011年「今年もう一度軽工業に拍車をかけ、人民生活向上と強盛大国建設で決定的転換を起こそう」- 『労働新聞』『朝鮮人民軍』『青年前衛』共同社説全文(翻訳:主宰者)

関連項目

外部リンク