「エナメル質」の版間の差分
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'''エナメル質'''( |
'''エナメル質'''(エナメルしつ、Enamel、琺瑯質)は[[歯]]の[[歯冠]]の最表層にある、[[生体]]で最も硬い[[硬組織]]で<ref name="ross441">[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 441</ref><ref name="kumegawa10" /><ref name="fujita94">[[#藤田ら|藤田尚男、藤田恒夫 (2001)]] p.94</ref>、[[モース硬度]]は6~7を示す<ref name="kumegawa10" />。このエナメル質と、[[象牙質]]、[[セメント質]]、[[歯髄]]で歯は構成される<ref>[[#栁澤|栁澤 (1996)]] pp.11-12</ref>。通常目に見える部分がこのエナメル質であり、象牙質に支えられている。象牙質の支持がなければエナメル質は硬くてもろいため、容易に折れてしまう<ref name="johnson"/>。96%は[[無機質]]で残りが[[水]]と[[有機質]]であり<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 1:[[#CateJPN|日本語版]]p. 3,p. 273</ref>、色は明黄色からネズミ色がかった白色である。エナメル質の下に象牙質がない端の部分では、青みがかって見えることもある。半透明であるので、エナメル質の下にある象牙質や[[歯科修復材料]]の色が歯の外見に強く影響を与える。厚さは部位により異なり、多くの場合、切端部、咬合部で最も厚く(2.5mm以上)歯頸部(エナメル-セメント境)で最も薄い<ref name="cate219">[[#Cate|Cate (1998)]], p. 219</ref><ref name="kumegawa10">[[#久米川|久米川、前田 (1990)]] p.10</ref>。 |
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== 構造 == |
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エナメル質の基本構造は[[エナメル小柱]]と呼ばれている<ref name="johnson"/>。エナメル小柱は組織化されたパターンの中に多くの[[ハイドロキシアパタイト]]の結晶が入っている<ref name="ross441"/>。断面は、頭を外側に、下を内側においた鍵穴のように見える。 |
エナメル質の基本構造は[[エナメル小柱]]と呼ばれている<ref name="johnson"/>。エナメル小柱は組織化されたパターンの中に多くの[[ハイドロキシアパタイト]]の結晶が入っている<ref name="ross441"/>。断面は、頭を外側に、下を内側においた鍵穴のように見える。 |
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エナメル小柱の中のハイドロキシアパタイトの結晶の配置は |
エナメル小柱の中のハイドロキシアパタイトの結晶の配置は非常に複雑となっている。エナメル質を作る[[エナメル芽細胞]]と[[トームス突起]]の両方が結晶のパターンに影響を与える。エナメル小柱頭部の結晶は小柱の長軸に完全に平行となっている<ref name="cate219"/><ref name="ross441"/>が、尾部では方向が長軸とややずれる<ref name="ross441"/>。 |
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エナメル小柱の配置は内部構造よりも理解しやすい。エナメル小柱は歯に沿って列を作り、象牙質に垂直に配置されている<ref name="cate224">[[#Cate|Cate]], p. 224</ref>。[[永久歯]]では、エナメル-セメント境付近のエナメル小柱はわずかに[[歯根]]の方に傾く。象牙質の支持を受けないエナメル質は破折しやすいので、歯の[[保存修復学|保存修復]]においてエナメル質の走行を理解することは重要である<ref name="cate224"/>。 |
エナメル小柱の配置は内部構造よりも理解しやすい。エナメル小柱は歯に沿って列を作り、象牙質に垂直に配置されている<ref name="cate224">[[#Cate|Cate (1998)]], p. 224</ref>。[[永久歯]]では、エナメル-セメント境付近のエナメル小柱はわずかに[[歯根]]の方に傾く。象牙質の支持を受けないエナメル質は破折しやすいので、歯の[[保存修復学|保存修復]]においてエナメル質の走行を理解することは重要である<ref name="cate224"/>。 |
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エナメル小柱のまわりはエナメル小柱間質として知られている。エナメル小柱間質はエナメル小柱と同じ構成を持っているが、結晶の方向が異なるので、[[組織学]]的に区別される<ref name="cate219"/>。エナメル小柱間質とエナメル小柱の結晶が会う境界は、エナメル小柱鞘と呼ばれる<ref>[[#Cate|Cate]], p. 221</ref> 。 |
エナメル小柱のまわりはエナメル小柱間質として知られている。エナメル小柱間質はエナメル小柱と同じ構成を持っているが、結晶の方向が異なるので、[[組織学]]的に区別される<ref name="cate219"/>。エナメル小柱間質とエナメル小柱の結晶が会う境界は、エナメル小柱鞘と呼ばれる<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 221:[[#CateJPN|日本語版]]p. 277</ref> 。 |
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顕微鏡でエナメル質の断面を見たときに見える縞を[[レチウス条]]とよぶ<ref name="cate224"/>。トームス突起の直径の変化によっておこるこれらの縞は、木の年輪のようにエナメル質の成長を示す。レチウス条が終わるところで、[[周波条]]という浅い溝が見える<ref>[[#Cate|Cate]], p. 230</ref>。[[新産線]]は他の縞より暗く出生前後の境界を示す<ref>[[#Cate|Cate]], p. 76; [[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 441</ref>。 |
顕微鏡でエナメル質の断面を見たときに見える縞を[[レチウス条]]とよぶ<ref name="cate224"/>。トームス突起の直径の変化によっておこるこれらの縞は、木の年輪のようにエナメル質の成長を示す。レチウス条が終わるところで、[[周波条]]という浅い溝が見える<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 230:[[#CateJPN|日本語版]]p. 290</ref>。[[新産線]]は他の縞より暗く出生前後の境界を示す<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 76; [[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 441</ref>。また、反射光を用いて顕微鏡でエナメル質を見た際に現れる明帯と暗帯が交互に並ぶ領域を、[[ハンター・シュレーゲル条]]と呼ぶ<ref name="cate286JP">[[#Cate|Cate (1998)]], [[#CateJPN|日本語版]]p. 286</ref>。これは小柱の走行の変化によりおこる光学的現象であり、光の方向が変わると明帯と暗帯は逆転する<ref name="cate286JP" />。 |
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=== 境界部 === |
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歯頸部にあるエナメル質とセメント質の境界をエナメル-セメント境(セメント-エナメル境とも)とよび、これは解剖学的歯頸線と一致する。歯頸線は唇(頬)側および舌(口蓋)側では歯根側に凸弯し、近心側および遠心側では歯冠側に凸弯する<ref>[[#藤田恒太郎|藤田恒太郎ら (2000)]] p.18</ref>。拡大して見た場合、なめらかな曲線ではなく、鋸歯のような複雑な形を示す<ref>[[#藤田恒太郎|藤田恒太郎ら (2000)]] p.19</ref>。境界部でエナメル質とセメント質は約30%が移行的に連続するが、約60%はセメント質がエナメル質を覆い、約10%が連続せずに象牙質が露出している<ref>[[#OralStudio|Oral Studio歯科辞書]] [http://www.oralstudio.net/stepup/jisho/sakuin/E382BB/03960_06.php セメント - エナメル境]</ref><ref name="yanagizawa19">[[#栁澤|栁澤 (1996)]]p.19</ref>。エナメル質を覆っている部分のセメント質は[[セメント舌]]と呼ぶ<ref name="yanagizawa19" />。また、[[大臼歯]]では、歯頸部から歯根部にかけて球状のエナメル質塊が存在することがあり、これを[[エナメル滴]]と呼ぶ<ref>[[#栁澤|栁澤 (1996)]]p.11</ref>。 |
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エナメル質と象牙質の境界をエナメル象牙境と呼ぶ。横断研磨標本において、同部を調べると、一定の間隔でエナメル小柱が蛇行、ねじれ弯曲などのために暗くなっている部分があり、これを[[エナメル叢]]と、エナメル象牙境からエナメル質表層まで向かう薄板状の構造を[[エナメル葉]]と、象牙質側からの紡錘状の侵入物を[[エナメル紡錘]]とよび、これらの部分は石灰化度が低く有機物が多い<ref>[[#栁澤|栁澤 (1996)]]p.14</ref>。 |
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== 構成成分 == |
== 構成成分 == |
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無機質は大部分が[[リン酸カルシウム]]の結晶である<ref name="johnson">Johnson</ref>。他に、[[炭酸]]や、約四十種類の微少元素が含まれる<ref>[[#大塚|大塚ら]] p. 304</ref>。微少元素の構成割合はエナメル質の深さ、加齢、地理的条件によって異なる<ref>[[#大塚|大塚ら]] pp. 304-305</ref>。無機質が多いため、エナメル質は硬い([[モース硬度]]6~7<ref name="kumegawa10" />、[[ヌープ硬度]]300<ref>[[#和久本|和久本 他]] p.11</ref>)が脆い<ref>[[#Cate|Cate]], p. 218:[[#CateJPN|日本語版]]p. 274</ref>。エナメル質と比較すると、象牙質は結晶化の程度が低く、硬さは低いが、脆さも低く、エナメル質を支えるのに必要であり、象牙質の支えの無いエナメル質は容易に破折する<ref name="johnson"/>。 |
無機質は大部分が[[リン酸カルシウム]]の結晶である<ref name="johnson">[[#Johnson|Johnson (1999)]]</ref><ref>[[#栁澤|栁澤 (1996)]]p.12</ref>。他に、[[炭酸塩]]や[[クエン酸塩]]、[[乳酸塩]]の他、[[フッ素]]、[[ナトリウム]]、[[クロム]]、[[マグネシウム]]、[[亜鉛]]、[[鉛]]、[[銅]]、[[鉄]]、[[スズ]]、[[コバルト]]、[[ストロンチウム]]、[[マンガン]]、[[アルミニウム]]、[[ケイ素]]、[[銀]]など、約四十種類の微少元素が含まれる<ref>[[#大塚|大塚ら (1996)]] p. 304</ref><ref>[[#覚道|覚道ら (2000)]] pp.240-241</ref>。微少元素の構成割合はエナメル質の深さ、加齢、地理的条件によって異なる<ref>[[#大塚|大塚ら (1996)]] pp. 304-305</ref>。無機質が多いため、エナメル質は硬い([[モース硬度]]6~7<ref name="kumegawa10" />、[[ヌープ硬度]]300<ref>[[#和久本|和久本 他 (2008)]] p.11</ref>~451<ref name="iwahisa6-7">[[#岩久|岩久ら (2002)]] pp. 6-7</ref>、[[ビッカース硬さ]]408<ref name="iwahisa6-7" />)が脆い<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 218:[[#CateJPN|日本語版]]p. 274</ref>。エナメル質と比較すると、象牙質は結晶化の程度が低く、硬さは低いが、脆さも低く、エナメル質を支えるのに必要であり、象牙質の支えの無いエナメル質は容易に破折する<ref name="johnson"/>。無機質の割合が高いために、組織学的研究のために標本を作る場合、通常の脱灰法では融解して形を留めず<ref name="fujita84">[[#藤田ら|藤田尚男、藤田恒夫 (2001)]] p.84</ref>、光線顕微鏡の標本は通常切削標本である。 |
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有機質について特徴的なこととして、象牙質や[[骨]]と異なり、エナメル質は[[コラーゲン]]を含まず、代わりに[[アメロゲニン]]、[[エナメリン]]などの[[エナメルタンパク]]が含まれていることがあげられる。これらの[[蛋白質]]の役割は完全には判明していないが、いくつかの機能の一つとして、エナメル質形成期の構造の形成を助けるという機能があると考えられており<ref>[[#Cate|Cate]], p. 198:[[#CateJPN|日本語版]]pp. 253-254</ref>、アメロゲニン遺伝子の異常がエナメル質形成不全症を引き起こすことがわかっている<ref name="hayakawa87">[[#早川|早川ら]] p. 87</ref>。他に、[[脂質]]が有機質の半分を占める<ref name="hayakawa85">[[#早川|早川ら]] p. 85</ref>ほか、クエン酸・乳酸なども含まれている<ref name="hayakawa85" />。 |
有機質について特徴的なこととして、象牙質や[[骨]]と異なり、エナメル質は[[コラーゲン]]を含まず、代わりに[[アメロゲニン]]、[[エナメリン]]などの[[エナメルタンパク]]が含まれていることがあげられる。これらの[[蛋白質]]の役割は完全には判明していないが、いくつかの機能の一つとして、エナメル質形成期の構造の形成を助けるという機能があると考えられており<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 198:[[#CateJPN|日本語版]]pp. 253-254</ref>、アメロゲニン遺伝子の異常がエナメル質形成不全症を引き起こすことがわかっている<ref name="hayakawa87">[[#早川|早川ら (2000)]] p. 87</ref>。他に、[[脂質]]が有機質の半分を占める<ref name="hayakawa85">[[#早川|早川ら (2000)]] p. 85</ref>ほか、クエン酸・乳酸なども含まれている<ref name="hayakawa85" />。 |
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== 発生 == |
== 発生 == |
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エナメルの形成は歯の発生の一過程である。発生途上の歯を[[顕微鏡]]で見たとき、[[エナメル器]]、[[歯堤]]、[[歯乳頭]]等として知られる細胞の集まりを確認することが出来る<ref name="ross443">[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 443</ref>。一般的に歯の発生段階は、'''蕾状期'''、'''帽状期'''、'''鐘状期'''となる。エナメル質の形成は鐘状期の後期から行われる。 |
エナメル質の形成は[[歯の発生]]の一過程である。発生途上の歯を[[顕微鏡]]で見たとき、[[エナメル器]]、[[歯堤]]、[[歯乳頭]]等として知られる細胞の集まりを確認することが出来る<ref name="ross443">[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 443</ref>。一般的に歯の発生段階は、'''蕾状期'''、'''帽状期'''、'''鐘状期'''となる。エナメル質の形成は鐘状期の後期から行われる。 |
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エナメル |
エナメル器より起こる[[内エナメル上皮]]が[[エナメル芽細胞]]となりこれが象牙質の形成開始後にエナメル質の形成を始める。人間のエナメル質は妊娠三~四月の時から、切端、咬頭の側から順に、一日あたり4マイクロメートルずつ成長していく<ref name="cate224"/>。エナメル芽細胞は口腔の上皮が落ち込んでできたものであり、このため、エナメル質は歯の他の組織([[中胚葉性]])と異なり、[[外胚葉性]]のものである<ref name="fujita88">[[#藤田ら|藤田尚男、藤田恒夫 (2001)]] p.88</ref>。 |
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全ての人間のプロセス同様、エナメル質の生成も複雑であるが、一般的に二つの段階に分けられる<ref>[[#Cate|Cate]], p. 197:[[#CateJPN|日本語版]]p. 249</ref>。'''分泌相'''と呼ばれる第一段階は、タンパク質や部分的に石灰化した有機質を含んでおり、有機質の分泌と成長の進行を行っている。'''成熟相'''と呼ばれる第二段階は厚さの成長が止まってから完全に成熟までの期間で、主にエナメル質の石灰化が進行する。 |
全ての人間のプロセス同様、エナメル質の生成も複雑であるが、一般的に二つの段階に分けられる<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 197:[[#CateJPN|日本語版]]p. 249</ref>。'''分泌相'''と呼ばれる第一段階は、タンパク質や部分的に石灰化した有機質を含んでおり、有機質の分泌と成長の進行を行っている。'''成熟相'''と呼ばれる第二段階は厚さの成長が止まってから完全に成熟までの期間で、主にエナメル質の石灰化が進行する。 |
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分泌相ではエナメル芽細胞は極性を持つ円柱状の細胞である。この細胞の粗面小胞体では、エナメルタンパクが周囲に産出し、エナメル質基質がアルカリフォスファターゼ酵素により部分的に石灰化するのに寄与している<ref name="ross445">[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 445</ref> 。 |
分泌相ではエナメル芽細胞は極性を持つ円柱状の細胞である。この細胞の粗面小胞体では、エナメルタンパクが周囲に産出し、エナメル質基質がアルカリフォスファターゼ酵素により部分的に石灰化するのに寄与している<ref name="ross445">[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 445</ref> 。 |
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この第一層が形成されると、エナメル芽細胞は象牙質から離れ、先端部にトームス突起が形成される。エナメル質の形成は隣接したエナメル芽細胞で続けられ、その結果トームス突起を保護するように、壁に囲まれたくぼみができる。また、トームス突起の縁でもエナメル質が形成され、くぼみの中にエナメル母体が析出する<ref>[[#Cate|Cate]], p. 208</ref>。 くぼみのエナメル母体は棒状になり、くぼみを囲む芽細胞の壁も最終的に棒同士を繋ぐエナメルになる。棒状のエナメル質と棒同士を繋ぐエナメル質は、カルシウム結晶の方向だけが異なる。 |
この第一層が形成されると、エナメル芽細胞は象牙質から離れ、先端部にトームス突起が形成される。エナメル質の形成は隣接したエナメル芽細胞で続けられ、その結果トームス突起を保護するように、壁に囲まれたくぼみができる。また、トームス突起の縁でもエナメル質が形成され、くぼみの中にエナメル母体が析出する<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 208</ref>。 くぼみのエナメル母体は棒状になり、くぼみを囲む芽細胞の壁も最終的に棒同士を繋ぐエナメルになる。棒状のエナメル質と棒同士を繋ぐエナメル質は、カルシウム結晶の方向だけが異なる。 |
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成熟相では、エナメル芽細胞がエナメルの形成に必要な物質を運ぶ。組織学的にいって最も注目すべきは、エナメル芽細胞が縦に筋を作りはじめるという点である<ref name="ross445"/>。これによって、エナメル芽細胞が分泌期のような増殖をやめて運搬機能を発揮しはじめたということが分かる。ここで運搬される物質は、石灰化の最終段階に使われるタンパク質がほとんどである。主なものにアメロゲニン、アメロブラスチン、エナメリン、タフテリンなどがある<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 447</ref>。成熟期において、アメロゲニンとアメロブラスチンは使用された後に除去され、エナメリンとタフテリンだけが残る<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 448</ref>。 |
成熟相では、エナメル芽細胞がエナメルの形成に必要な物質を運ぶ。組織学的にいって最も注目すべきは、エナメル芽細胞が縦に筋を作りはじめるという点である<ref name="ross445"/>。これによって、エナメル芽細胞が分泌期のような増殖をやめて運搬機能を発揮しはじめたということが分かる。ここで運搬される物質は、石灰化の最終段階に使われるタンパク質がほとんどである。主なものにアメロゲニン、アメロブラスチン、エナメリン、タフテリンなどがある<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 447</ref>。成熟期において、アメロゲニンとアメロブラスチンは使用された後に除去され、エナメリンとタフテリンだけが残る<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 448</ref>。 |
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成熟期が終わり、歯が口腔内に萌出する前にエナメル芽細胞は無くなる。このため、エナメル質は体の多くの組織と異なり、再生する手段がない<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 3</ref>。う蝕や外傷などによるエナメル質の欠損の後、体も歯科医師もエナメル質を回復することが出来ない。ただし、石灰化自体は唾液中に存在する過飽和のカルシウムとリン酸により萌出後も進行する<ref name="hanada">[[#花田|花田]]</ref>。 |
成熟期が終わり、歯が口腔内に萌出する前にエナメル芽細胞は無くなる。このため、エナメル質は体の多くの組織と異なり、再生する手段がない<ref>[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 3</ref>。う蝕や外傷などによるエナメル質の欠損の後、体も歯科医師もエナメル質を回復することが出来ない。ただし、石灰化自体は唾液中に存在する過飽和のカルシウムとリン酸により萌出後も進行する<ref name="hanada">[[#花田|花田 (2008)]]</ref>。 |
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エナメル質は非病理学的な過程に影響されることがある。[[喫煙]]や[[コーヒー]]、[[茶]]などに長期的にふれることにより変色する<ref>American Dental Hygienists' Association</ref>。エナメル質のみでなく象牙質もであるが、硬化していく<ref name="summitt2">[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 2</ref>。その結果、年をとるほど、歯の色が暗くなっていく。さらに、流動体の浸透性が低下し、酸に解けにくくなり、水分の含有量が減少する<ref name="summitt2"/>。 |
エナメル質は非病理学的な過程に影響されることがある。[[喫煙]]や[[コーヒー]]、[[茶]]などに長期的にふれることにより変色する<ref>[[#ADHA|American Dental Hygienists' Association (2007)]]</ref>。エナメル質のみでなく象牙質もであるが、硬化していく<ref name="summitt2">[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 2</ref>。その結果、年をとるほど、歯の色が暗くなっていく。さらに、流動体の浸透性が低下し、酸に解けにくくなり、水分の含有量が減少する<ref name="summitt2"/>。 |
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|+'''乳歯のエナメル質の石灰化の進行'''<ref>Ash and Nelson, p. 54</ref> |
|+'''乳歯のエナメル質の石灰化の進行'''<ref>[[#Ash|Ash and Nelson (2003)]], p. 54</ref> |
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! style="background:#efefef;padding:3px" | 出生時エナメル質形成量 |
! style="background:#efefef;padding:3px" | 出生時エナメル質形成量 |
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=== 乳歯と永久歯におけるエナメル質の違い === |
=== 乳歯と永久歯におけるエナメル質の違い === |
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乳歯、永久歯ともにエナメル質の結晶はハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2を最小単位として形成されるが、乳歯のエナメル質は永久歯の |
乳歯、永久歯ともにエナメル質の結晶はハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2を最小単位として形成されるが、乳歯のエナメル質は永久歯のエナメル質と比較して結晶粒子が小さく<ref name="shintani95">[[#新谷|新谷 (2011)]] p.95</ref>、厚さが1/2でほぼ全体での厚さが等しく1~2mmである<ref>[[#下岡|下岡ら (1996)]] p. 105</ref><ref name="shintani95" />。また含水量が多く(乳歯2.8%、永久歯2.3%)、硬度が低く、化学反応性が大きく、脱灰の影響を受けてのう蝕やフッ化物による歯質強化を受けやすい<ref name="shintani95" />。 |
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== 破壊 == |
== 破壊 == |
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一つは脱灰であり<ref name="ross443"/>、その最も大きな理由は[[砂糖]]の摂取による[[う蝕]]である。 |
一つは脱灰であり<ref name="ross443"/>、その最も大きな理由は[[砂糖]]の摂取による[[う蝕]]である。 |
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[[口腔]]内には多くの種類の[[細菌]]([[口腔常在菌]])が多数含まれており、砂糖の主成分である[[スクロース]]が口腔内に広がった際、一部の口腔常在菌はスクロースに働き、[[乳酸]]を産生する。この乳酸が口腔内の[[水素イオン指数|pH]]を低下させる<ref name="ross453">[[#Ross|Ross ''et al.'']], p. 453</ref>事でう蝕が進行する。(詳細については[[う蝕]]の項目を参照) |
[[口腔]]内には多くの種類の[[細菌]]([[口腔常在菌]])が多数含まれており、砂糖の主成分である[[スクロース]]が口腔内に広がった際、一部の口腔常在菌はスクロースに働き、[[乳酸]]を産生する。この乳酸が口腔内の[[水素イオン指数|pH]]を低下させる<ref name="ross453">[[#Ross|Ross ''et al.'' (2002)]], p. 453</ref>事でう蝕が進行する。(詳細については[[う蝕]]の項目を参照) |
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う蝕が進行し、エナメル質が、細菌の進入を防ぐことが出来なくなれば、エナメル質の下の象牙質も同様になる。象牙質はう蝕の進行がエナメル質より早く、健全なエナメル質を支持する象牙質がう蝕によって破壊された場合、エナメル質はその脆性のため、容易に歯から破折してしまう。 |
う蝕が進行し、エナメル質が、細菌の進入を防ぐことが出来なくなれば、エナメル質の下の象牙質も同様になる。象牙質はう蝕の進行がエナメル質より早く、健全なエナメル質を支持する象牙質がう蝕によって破壊された場合、エナメル質はその脆性のため、容易に歯から破折してしまう。 |
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う蝕のみでなく、[[吐瀉物]]に含まれる酸や、[[工場]]で[[空気]]中に含まれる酸などにより脱灰される場合もあり、これを[[酸蝕症]]と呼ぶ<ref name="Gandara" />。 |
う蝕のみでなく、[[吐瀉物]]に含まれる酸や、[[工場]]で[[空気]]中に含まれる酸などにより脱灰される場合もあり、これを[[酸蝕症]]と呼ぶ<ref name="Gandara" />。 |
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脱灰で失われるのみでなく、物理的な力により破壊されることも多い。このなかで最も知られるものは、[[ブラキシズム|歯ぎしり]]、[[噛みしめ]]等による、エナメル質の破壊であり、非常に早く進行する。咬耗によるエナメル質の減少は正常で有れば年間8マイクロメートルである。一般に誤解されていることとして、エナメル質がすりへる主要な原因は[[咀嚼]]によるものだということがある。しかし、現実には、歯は咀嚼中滅多にふれあわない。さらに、正常な咬合で有れば、[[歯周靱帯]]や咬合の配置により、生理学的に補われる。本当に破壊的な力は、歯ぎしりのような動作である。これは[[咬耗症]]として、エナメル質に復元不可能な損害をもたらす。このほか、[[摩耗症|摩耗]](歯ブラシのような外的な力による物)、[[外傷歯|外傷]]による破折等が知られる<ref name="Gandara">Gandara and Truelove |
脱灰で失われるのみでなく、物理的な力により破壊されることも多い。このなかで最も知られるものは、[[ブラキシズム|歯ぎしり]]、[[噛みしめ]]等による、エナメル質の破壊であり、非常に早く進行する。咬耗によるエナメル質の減少は正常で有れば年間8マイクロメートルである。一般に誤解されていることとして、エナメル質がすりへる主要な原因は[[咀嚼]]によるものだということがある。しかし、現実には、歯は咀嚼中滅多にふれあわない。さらに、正常な咬合で有れば、[[歯周靱帯]]や咬合の配置により、生理学的に補われる。本当に破壊的な力は、歯ぎしりのような動作である。これは[[咬耗症]]として、エナメル質に復元不可能な損害をもたらす。このほか、[[摩耗症|摩耗]](歯ブラシのような外的な力による物)、[[外傷歯|外傷]]による破折等が知られる<ref name="Gandara">[[#Gandara|Gandara and Truelove (1999)]]</ref>。破折の最も軽い状態である亀裂については、加齢とともに増加し、50歳代以降ではすべての歯に見られたとの報告もある<ref>[[#韓|韓ら (2008)]]</ref>。 |
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なお、エナメル質を形成するエナメル芽細胞は、歯の萌出時にはすでに存在しないため、一度失われたエナメル質が再生することはない。また、エナメル質には神経が存在しないため、破壊がエナメル質のみに限局している場合、疼痛を感じることもない。 |
なお、エナメル質を形成するエナメル芽細胞は、歯の萌出時にはすでに存在しないため、一度失われたエナメル質が再生することはない。また、エナメル質には神経が存在しないため、破壊がエナメル質のみに限局している場合、疼痛を感じることもない。 |
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[[画像:FluorideTrays07-05-05.jpg|right|250px|thumb|フッ化物で満たされたトレイ]] |
[[画像:FluorideTrays07-05-05.jpg|right|250px|thumb|フッ化物で満たされたトレイ]] |
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また、フッ化物によるう蝕の予防も認められており、[[水道水フッ化物添加]]、[[フッ化物配合歯磨剤]]、[[フッ化物歯面塗布]]など、多くの手段が知られる<ref>[[#荒川|荒川ら]] pp. 161-166</ref>。このうち、特に[[水道水フッ化物添加]]は多くの面で非常に有効であるとされるが、これについては、反対する人もあり、[[水道水フッ化物添加についての議論|議論がなされている]]。 |
また、フッ化物によるう蝕の予防も認められており、[[水道水フッ化物添加]]、[[フッ化物配合歯磨剤]]、[[フッ化物歯面塗布]]など、多くの手段が知られる<ref>[[#荒川|荒川ら (2003)]] pp. 161-166</ref>。このうち、特に[[水道水フッ化物添加]]は多くの面で非常に有効であるとされるが、これについては、反対する人もあり、[[水道水フッ化物添加についての議論|議論がなされている]]。 |
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歯ぎしり、噛みしめ等によるエナメル質の破壊を防ぐ方法としては、[[マウスピース]]や[[薬物療法]]などが知られる。 |
歯ぎしり、噛みしめ等によるエナメル質の破壊を防ぐ方法としては、[[マウスピース]]や[[薬物療法]]などが知られる。 |
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また、近年では[[歯科用レーザー]]であるNd:YAGレーザーや[[炭酸ガスレーザー]]、Er:YAGレーザーとフッ化物歯面塗布を併用し、エナメル質の強化や耐酸性の強化を行う研究が進められている<ref name="naruhashi">[[#成橋|成橋ら (2011)]]</ref>。 |
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=== 診断 === |
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エナメル質の状態を診査し、治療の必要性を判断することは重要である。エナメル質のう蝕や物理的な力による破壊に対する診断に最も一般的な方法は視診であるが、確実な診断のために、問診・医療面接による把握や[[探針]]や[[デンタルフロス]]を用いた触診、咬翼法や[[オルソパントモグラフ]]、[[歯科用コーンビームCT]]によるX線診断、[[光ファイバー]]を用いた透照診、[[ダイアグノデント]]等の[[レーザー]]による[[蛍光]]診断や電気抵抗値を測定する電気診などの方法が用いられる<ref name="wakumoto15">[[#和久本|和久本ら (2008)]] p.15</ref><ref>[[#う蝕治療ガイドライン|う蝕治療ガイドライン (2009)]] pp.16-22</ref><ref>[[#月星|月星 (2009)]] pp.16-21</ref>。 |
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==== 電気診 ==== |
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健全なエナメル質の[[電気抵抗]]は600kΩ以上であるが、エナメル質のう蝕が進行するに連れて電気抵抗が低下し、象牙質まで達すると250kΩ以下(小児では280kΩ以下)となる<ref name="wakumoto15" /><ref>[[#庄司|庄司 (2011)]] p.68</ref>。この電気抵抗を[[カリエスメーター]]を使用して測定することで診断する<ref name="wakumoto15" />。 |
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==== レーザーによる蛍光診断 ==== |
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ダイアグノデントやそれを改良したダイアグノデントペンは、波長655nmの半導体レーザーを利用してエナメル質等の歯質の蛍光強度を非侵襲的に測定することで健全なエナメル質とう蝕エナメル質を区別することができる<ref>[[#morita|モリタ ダイアグノデントペン 製品特徴]]</ref>。特にダイアグノデントペンは隣接面う蝕用のチップを持つことから同部のう蝕の検出に有効であるとされており<ref name="takamori">[[#高森|高森ら (2011)]]</ref><ref>[[#青山|青山ら (2009)]]</ref>、X線の被爆を可能な限り抑えたい小児歯科や<ref name="takamori" />、在宅診療や集団歯科検診などの幅広い分野での診断への利用が期待されている<ref name="naruhashi" />。 |
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== エナメル質への歯科処置 == |
== エナメル質への歯科処置 == |
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=== エナメル質の除去 === |
=== エナメル質の除去 === |
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歯の修復治療の大部分ではエナメル質の除去を行う。エナメル質のう蝕部位の除去のほか、象牙質や歯髄への通路を確保するため、またう蝕部位の除去後の修復、補綴のためにエナメル質の切削を行う。([[保存修復学|保存修復]]・[[歯内治療学|歯内治療]]・[[歯科補綴学|補綴治療]]等も参照。)また、脱灰が発生する前にエナメル質を除去することもある。歯の咬合面の溝の健康なエナメル質を除去し、それを歯科材料に取り替える[[シーラント]]もある<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 273</ref>。これは将来のう蝕から保護するための予防処置で、7年にわたり、う蝕のリスクを55%低下させる<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 274</ref>。特に治療の必要が無くても、[[審美歯科学|審美的な理由]]でエナメル質を除去することがある。歯の外見を良くするため、[[クラウン (歯科)|クラウン]]や[[ラミネートベニヤ]]を入れるためには歯を削る必要がある。象牙質に支持されていないエナメル質を残すと、エナメル質の破折を招くことがあるので、エナメル質の走行を覚え、それに基づきエナメル質を切削する事が重要である<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 7</ref>。 |
歯の修復治療の大部分ではエナメル質の除去を行う。エナメル質のう蝕部位の除去のほか、象牙質や歯髄への通路を確保するため、またう蝕部位の除去後の修復、補綴のためにエナメル質の切削を行う。([[保存修復学|保存修復]]・[[歯内治療学|歯内治療]]・[[歯科補綴学|補綴治療]]等も参照。)また、脱灰が発生する前にエナメル質を除去することもある。歯の咬合面の溝の健康なエナメル質を除去し、それを歯科材料に取り替える[[シーラント (歯科)|シーラント]]もある<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 273</ref>。これは将来のう蝕から保護するための予防処置で、7年にわたり、う蝕のリスクを55%低下させる<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 274</ref>。特に治療の必要が無くても、[[審美歯科学|審美的な理由]]でエナメル質を除去することがある。歯の外見を良くするため、[[クラウン (歯科)|クラウン]]や[[ラミネートベニヤ]]を入れるためには歯を削る必要がある。象牙質に支持されていないエナメル質を残すと、エナメル質の破折を招くことがあるので、エナメル質の走行を覚え、それに基づきエナメル質を切削する事が重要である<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 7</ref>。 |
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=== エッチング === |
=== エッチング === |
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修復材料であるレジンを歯質に接着させるため、Buonocoreは酸により歯を溶解させる[[エッチング]]を[[1955年]]に開発した<ref>[[#川原|川原ら]] p. 74</ref>。歯科修復物を歯に接着させる時、頻繁に使われる<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 191.</ref>。これは[[コンポジットレジン]]やシーラントのようないくつかの修復物を長期的に持たせるために重要である<ref name="ross443"/>。エナメル質中の無機質を溶解させ、エナメル質表面から約10マイクロメートルを除去し、5から50マイクロメートルの多孔質層を作る<ref name ="summitt193">[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 193</ref>。この多孔質層にレジンが侵入し、硬化することで接着する<ref name="wakumoto141142">[[#和久本|和久本 他]] p.141-142</ref>。 |
修復材料であるレジンを歯質に接着させるため、Buonocoreは酸により歯を溶解させる[[エッチング]]を[[1955年]]に開発した<ref>[[#川原|川原ら (1986)]] p. 74</ref>。歯科修復物を歯に接着させる時、頻繁に使われる<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 191.</ref>。これは[[コンポジットレジン]]やシーラントのようないくつかの修復物を長期的に持たせるために重要である<ref name="ross443"/>。エナメル質中の無機質を溶解させ、エナメル質表面から約10マイクロメートルを除去し、5から50マイクロメートルの多孔質層を作る<ref name ="summitt193">[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 193</ref>。この多孔質層にレジンが侵入し、硬化することで接着する<ref name="wakumoto141142">[[#和久本|和久本 他 (2008)]] p.141-142</ref>。 |
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エナメルに対するエッチングの影響は |
エナメルに対するエッチングの影響は使用する酸の量、タイプおよびエナメルの現状などにより変化する<ref name ="summitt193"/>。 |
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エッチングによる形成には3パターンある<ref name ="summitt193"/>。タイプ1はエナメル小柱が溶解されたパターン、タイプ2はエナメル小柱間質が溶解されたパターン、タイプ3はエナメル小柱があった証拠がなにも残っていないパターンである。タイプ1が最も好ましい物であり、タイプ3は最低である。これらのパターンに別れる理由はまだはっきりとはわかっていないが、エナメル質中の結晶の走行の違いによる物ではないかという説が最も一般的である<ref>[[#Cate|Cate]], p. 235:[[#CateJPN|日本語版]]p. 294</ref>。 |
エッチングによる形成には3パターンある<ref name ="summitt193"/>。タイプ1はエナメル小柱が溶解されたパターン、タイプ2はエナメル小柱間質が溶解されたパターン、タイプ3はエナメル小柱があった証拠がなにも残っていないパターンである。タイプ1が最も好ましい物であり、タイプ3は最低である。これらのパターンに別れる理由はまだはっきりとはわかっていないが、エナメル質中の結晶の走行の違いによる物ではないかという説が最も一般的である<ref>[[#Cate|Cate (1998)]], p. 235:[[#CateJPN|日本語版]]p. 294</ref>。 |
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=== エナメルボンドレジン === |
=== エナメルボンドレジン === |
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=== 歯のホワイトニング === |
=== 歯のホワイトニング === |
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着色や変色したエナメル質に対し、機械的動作や化学的方法を用い、歯を明るくする<ref name="ada2007">American Dental Association (2007)</ref>のが、[[ホワイトニング]]である。(詳細は[[ホワイトニング]]の項目参照) |
着色や変色したエナメル質に対し、機械的動作や化学的方法を用い、歯を明るくする<ref name="ada2007">[[#ADA|American Dental Association (2007)]]</ref>のが、[[ホワイトニング]]である。(詳細は[[ホワイトニング]]の項目参照) |
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機械的動作としては、[[専門的機械的歯面清掃]]がある他、[[歯磨剤]]はエナメル質に付着した汚れを緩やかに研磨する。有効な方法だが、歯自体の色を落とすことが出来ない<ref name="ada2007"/>。 |
機械的動作としては、[[専門的機械的歯面清掃]]がある他、[[歯磨剤]]はエナメル質に付着した汚れを緩やかに研磨する。有効な方法だが、歯自体の色を落とすことが出来ない<ref name="ada2007"/>。 |
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化学的な方法は、エナメルや象牙質を酸化させる事で歯の色を本質的に変える<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 402</ref>。歯科診療所にて行われるオフィスブリーチと患者が自身で行うホームブリーチがある。[[過酸化水素]]、[[過酸化尿素]]、[[過ホウ酸ナトリウム]]等の酸化剤が一般的に用いられる |
化学的な方法は、エナメルや象牙質を酸化させる事で歯の色を本質的に変える<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 402</ref>。歯科診療所にて行われるオフィスブリーチと患者が自身で行うホームブリーチがある。[[過酸化水素]]、[[過酸化尿素]]、[[過ホウ酸ナトリウム]]等の酸化剤が一般的に用いられる<ref>[[#ADA|American Dental Association (2007)]] notes the intrinsic change; [[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 403 list the two most common agents</ref><ref>[[#岩久|岩久ら (2002)]] p. 312</ref>。pHを下げることは、脱灰によりう蝕となる危険がある。漂白後も、再石灰化環境にあるエナメル質は周囲の無機質イオンを取り込む可能性も示唆されている<ref>[[#岩谷|岩谷ら (2009)]]</ref>が、薬品を選ぶ際には注意し、リスクを評価する必要がある<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 404</ref>。 |
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物理的動作と化学的方法の両方を用いる手段もある。たとえば、Microabrasionは最初に酸でエナメル質22~27マイクロメートルを脱灰させ、次に研磨を行う<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'']], p. 420</ref>ことでエナメル質の表面的な着色を除去する。変色の部位が深いか、象牙質の中である場合、この方法は成功しない。 |
物理的動作と化学的方法の両方を用いる手段もある。たとえば、Microabrasionは最初に酸でエナメル質22~27マイクロメートルを脱灰させ、次に研磨を行う<ref>[[#Summitt|Summitt ''et al.'' (2001)]], p. 420</ref>ことでエナメル質の表面的な着色を除去する。変色の部位が深いか、象牙質の中である場合、この方法は成功しない。 |
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== エナメル質の異常 == |
== エナメル質の異常 == |
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=== 遺伝・染色体異常 === |
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様々なタイプの[[エナメル質形成不全]]がある。最も一般的な低石灰化型は完全に石灰化していないもので、常染色体優 |
様々なタイプの[[エナメル質形成不全]]がある。遺伝性のものは低形成型(I型)、低成熟型(II型)、低石灰化型(III型)、[[タウロドント]]併発性低形成/低成熟型(IV型)の4通りに、非遺伝性の先天的なものはエナメル質減形成とエナメル質石灰化不全に分けられる<ref name="shintani110">[[#新谷|新谷 (2011)]] p.110</ref>。最も一般的な低石灰化型は完全に石灰化していないもので、常染色体優性の[[染色体異常|遺伝疾患]]である<ref name=harris7>Harris (2002), p. 7: see section titled "X-Linked Inheritance"</ref>。結果、エナメル質は咬耗症や摩耗症などで容易に損耗し<ref>[[#二階|二階ら (1999)]] pp. 26-27</ref>、出てくる象牙質のために黄色く見える。低形成型は[[X染色体]]上のアメロゲニン遺伝子の異常<ref name="hayakawa87" />で、正常なエナメル質がほとんど形成されず、低石灰化型と同じような症状となる<ref name="harris7"/>。また、近年にはMolar Incisor Hypomineralization(MIH)と呼ばれる[[第一大臼歯]]と[[切歯]]に限局して発生する原因不明のエナメル質形成不全の報告がなされている<ref name="shintani110" /><ref>[[#yonedu|米津 他(2010)]]</ref>。 |
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=== 局所的な要因 === |
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乳歯の[[根尖性歯周炎]]による[[ターナー歯]]や外傷による障害などによる、後続永久歯のエナメル質の障害がある<ref name="shintani110" />。 |
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=== 全身的な要因 === |
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エナメル発育不全は正常なエナメル質からはずれた様々な程度の症状を広く定義している。 |
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[[ポルフィリン症|造血性ポルフィリン症]]は体内で[[ポルフィリン]]の沈着を引き起こす遺伝病である。この沈着がエナメル質でも発生し、赤い蛍光色となる<ref>eMedicine: ''[http://www.emedicine.com/derm/topic145.htm Erythropoietic Porphyria]''</ref>。 |
[[ポルフィリン症|造血性ポルフィリン症]]は体内で[[ポルフィリン]]の沈着を引き起こす遺伝病である。この沈着がエナメル質でも発生し、赤い蛍光色となる<ref>eMedicine: ''[http://www.emedicine.com/derm/topic145.htm Erythropoietic Porphyria]''</ref>。 |
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[[フッ素症]]は斑状菌を発生させ、露出部からフッ化物が出る<ref name="ross453"/>。 |
[[フッ素症]]は斑状菌を発生させ、露出部からフッ化物が出る<ref name="ross453"/>。 |
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[[テトラサイクリン系抗生物質]]は形成中のエナメル質を |
[[テトラサイクリン系抗生物質]]の[[妊婦]]への投与は[[胎児]]の形成中のエナメル質を黄色・黄褐色<ref>[[#藤井|藤井 (2001)]] p.80</ref>~茶色に着色させる<ref name="miyake404">[[#三宅|三宅 (1997)]] p.404</ref>。このため、妊娠後半期の投与に注意が必要な薬であり<ref>[[#kitasato|木村ら (2001)]]</ref>、妊婦への投与は必要性がない限りは行われない。 |
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[[グルテン]]アレルギーが引き金となって起こる[[自己免疫疾患]]である[[セリアック病]] |
[[グルテン]]アレルギーが引き金となって起こる[[自己免疫疾患]]である[[セリアック病]]もまた、エナメル質の脱灰を引き起こす。 |
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== 動物のエナメル質 == |
== 動物のエナメル質 == |
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[[ファイル:RottweilerTeeth01.jpeg|right|150px|thumb|[[ロットワイラー (犬種)|ロットワイラー]]の歯]] |
[[ファイル:RottweilerTeeth01.jpeg|right|150px|thumb|[[ロットワイラー (犬種)|ロットワイラー]]の歯]] |
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[[後生動物]]の中で歯にエナメル質を持つ生物は、[[硬骨魚綱|硬骨魚類]]、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[哺乳類]]である([[軟骨魚綱|軟骨魚類]]はエナメロイド)。研究者達の調査により、人間と人間以外の哺乳類のエナメル質との間に違いはほとんど無いということが示された。エナメル質の構造にほとんど違いはなく、エナメル器やエナメル芽細胞もヒトと同様に存在する<ref>Frandson and Spurgeon, p. 305</ref>。哺乳類間でのエナメル質の相違はわずかであるが重要である。形態、数、歯のタイプなどの点において確かな違いが存在する。 |
[[後生動物]]の中で歯にエナメル質を持つ生物は、[[硬骨魚綱|硬骨魚類]]、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[哺乳類]]である([[軟骨魚綱|軟骨魚類]]はエナメロイド)。研究者達の調査により、人間と人間以外の哺乳類のエナメル質との間に違いはほとんど無いということが示された。エナメル質の構造にほとんど違いはなく、エナメル器やエナメル芽細胞もヒトと同様に存在する<ref>[[#Frandson|Frandson and Spurgeon (1992)]], p. 305</ref>。エナメル小柱の横断面は動物により六角形、円形、長円形などを示す<ref name="fujita95">[[#藤田ら|藤田尚男、藤田恒夫 (2001)]] p.95</ref>。哺乳類間でのエナメル質の相違はわずかであるが重要である。形態、数、歯のタイプなどの点において確かな違いが存在する。 |
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[[イヌ]]は、[[唾液]]中のpHが8.0~9.0と非常に高く<ref name="fujita">[[#藤田|藤田]]</ref>、歯の脱灰を防ぎ再石灰化を促進させるので、人間に比べて虫歯になりにくい<ref name=pinney187>Pinney, p. 187</ref>。外傷などにより歯が破折した時やう蝕になった場合、人間と同じように歯に修復物を詰めて治療することができる。この場合、全身麻酔下で一度で行う<ref name="fujita" />。人間の歯と似ているため、イヌのエナメル質もテトラサイクリンによって着色される。したがって、若いイヌにテトラサイクリンが処方される場合、その危険性を説明しなければならない。また、人間同様エナメル質形成不全が発生する可能性もある<ref name="pinney187"/><ref>Pinney, p. 186</ref>。 |
[[イヌ]]は、[[唾液]]中のpHが8.0~9.0と非常に高く<ref name="fujita">[[#藤田|藤田桂一 (2008)]]</ref>、歯の脱灰を防ぎ再石灰化を促進させるので、人間に比べて虫歯になりにくい<ref name=pinney187>[[#Pinney|Pinney (1991)]], p. 187</ref>。外傷などにより歯が破折した時やう蝕になった場合、人間と同じように歯に修復物を詰めて治療することができる。この場合、全身麻酔下で一度で行う<ref name="fujita" />。人間の歯と似ているため、イヌのエナメル質もテトラサイクリンによって着色される。したがって、若いイヌにテトラサイクリンが処方される場合、その危険性を説明しなければならない。また、人間同様エナメル質形成不全が発生する可能性もある<ref name="pinney187"/><ref>[[#Pinney|Pinney (199)]], p. 186</ref>。 |
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[[ネズミ目]]のエナメル質の構造は[[ヒト]]、[[サル]]、[[イヌ]]、[[ブタ]]などと異なる<ref>Fejerskov</ref>。[[ウマ]]では、エナメル質と象牙質がかみ合っているが、これは強さを高め、摩耗を減らす働きがある<ref>Martin; Randall-Bowman</ref>。 |
[[ネズミ目]]のエナメル質の構造は[[ヒト]]、[[サル]]、[[イヌ]]、[[ブタ]]などと異なる<ref>[[#Fejerskov|Fejerskov (1979)]]</ref>。[[ウマ]]では、エナメル質と象牙質がかみ合っているが、これは強さを高め、摩耗を減らす働きがある<ref>[[#Martin|Martin (2007)]]; [[#Randall-Bowman|Randall-Bowman (2004)]]</ref>。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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{{Reflist|2}} |
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== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
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* <cite id="ADA">{{Cite web|author=American Dental Association |year=2007 |url=http://www.ada.org/public/topics/whitening_faq.asp |title=Oral Health Topics A-Z: Tooth whitening treatments |pages=Online FAQ |language=English |accessdate=7 October 2007}}</cite> |
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* American Dental Hygienists' Association |
* <cite id="ADHA">{{Cite web|author=American Dental Hygienists' Association |year=2007 |url=http://www.adha.org/oralhealth/index.html |title=Oral Health Information] |language=English |accessdate=7 October 2007}}</cite> |
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* Ash, Major M., Jr. and Nelson, S.J. |
* {{Cite book|author=Ash, Major M., Jr. and Nelson, S.J. |title= Dental anatomy, physiology, and occlusion |edition=8th ed. |year=2003 |month= |publisher=W.B. Saunders |location=[[フィラデルフィア|Philadelphia]] |language= English|isbn=0-7216-9382-2|ref=Ash}} |
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* Blackwell, Bonnie (1996) "[http://www.dinosauria.com/jdp/fossil/teeth.htm Why Teeth Fossilize Better Than Bone]", Dinosaur mailing list, accessed 7 October 2007 |
* Blackwell, Bonnie (1996) "[http://www.dinosauria.com/jdp/fossil/teeth.htm Why Teeth Fossilize Better Than Bone]", Dinosaur mailing list, accessed 7 October 2007 |
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* British Nutrition Foundation |
* {{Cite web|author=British Nutrition Foundation |year=2004 |url=http://www.nutrition.org.uk/home.asp?siteId=43§ionId=649&parentSection=321&which=undefined |title=Dental Health |language=English |accessdate=7 October 2007}} |
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* Brown, Theodore L. |
* {{Cite book|author= Brown, Theodore L.|title=Chemistry : the central science |edition= 9th ed.|year= 2003|publisher= Prentice Hall |location= Upper Saddle River, N.J. ; [Great Britain] |id= ISBN {{ISBN|0-13-049140-3}} (pbk); {{ISBN|0-13-047038-4}} (Access code card); {{ISBN|0-13-038165-9}} (CD-ROM) |ref= Brown}} |
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* {{Cite book|author=Cate, A.R. Ten|title=Oral Histology: development, structure, and function|edition=5th ed.|year=1998|publisher=St. Louis, Mo. ; London: Mosby|isbn=0-8151-2952-1|ref = Cate}} |
* {{Cite book|author=Cate, A.R. Ten|title=Oral Histology: development, structure, and function|edition=5th ed.|year=1998|publisher=St. Louis, Mo. ; London: Mosby|isbn=0-8151-2952-1|ref = Cate}} |
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** {{Cite book|和書|author=A.R. Ten Cate|others=[[川崎堅三]]ほか訳|title=tenCate 口腔組織学|origyear=1998|edition=第5版|date=2001-03-20|publisher=[[医歯薬出版]]|language=日本語|isbn=4-263-45515-0|ref= CateJPN}} |
** {{Cite book|和書|author=A.R. Ten Cate|others=[[川崎堅三]]ほか訳|title=tenCate 口腔組織学|origyear=1998|edition=第5版|date=2001-03-20|publisher=[[医歯薬出版]]|language=日本語|isbn=4-263-45515-0|ref= CateJPN}} |
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* eMedicine |
* {{Cite web|author=eMedicine |year=2007 |url=http://www.emedicine.com/ |title=Homepage |language=English |accessdate=7 October 2007}} |
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* Fejerskov, O. |
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* {{Cite book|editor= Summitt, James B. and Robbins, J. William and Schwartz, Richard S.|title=Fundamentals of Operative Dentistry: A Contemporary Approach |edition=2nd Edition |date=2001-01-15|publisher=Quintessence Publishing |location=[[シカゴ|Chicago]], [[イリノイ州|Ill]]. |series= |language=English |id= |isbn=978-0867153828 |oclc= |doi= |pages= |chapter= |chapterurl= |quote= |ref=Summitt}} |
* {{Cite book|editor= Summitt, James B. and Robbins, J. William and Schwartz, Richard S.|title=Fundamentals of Operative Dentistry: A Contemporary Approach |edition=2nd Edition |date=2001-01-15|publisher=Quintessence Publishing |location=[[シカゴ|Chicago]], [[イリノイ州|Ill]]. |series= |language=English |id= |isbn=978-0867153828 |oclc= |doi= |pages= |chapter= |chapterurl= |quote= |ref=Summitt}} |
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* {{Cite book|和書|author=|editor=[[日本歯科保存学会]] う蝕治療ガイドライン作成委員会 |title=MI(Minimal Intervention)を理念としたエビデンス(根拠)とコンセンサス(合意)に基づくう蝕治療ガイドライン |url=http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/usyoku/usyokugl.pdf |format=PDF |accessdate= 2011-04-10 |edition=第1版第1刷|date=2009-10-29 |publisher=[[永末書店]] |location=[[京都市]][[上京区]] |isbn=978-4-8160-1209-9 |ref=う蝕治療ガイドライン}} |
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* {{Cite journal|和書 |author=[[青山剛大]] |coauthors=[[中野健二郎]]、[[成橋昌剛]]、[[佐藤かおり (歯科)|佐藤かおり]]、[[冨士谷盛興]]、[[千田彰]] |year=2009 |month=10 |title=DIAGNOdent penの隣接面う蝕検出能に関するin vitro研究 |journal=日本歯科保存学会学術大会プログラムおよび講演抄録集 |volume=131 |pages=web only |publisher=日本歯科保存学会 |location=[[東京都]][[豊島区]] |id=J-GLOBAL ID [http://jglobal.jst.go.jp/detail.php?JGLOBAL_ID=201002242069522382 201002242069522382] 日本歯科保存学会平成21年度秋季学術大会(第131回)口演A14 |url=http://wwwsoc.nii.ac.jp/jscd/member/pdf/abstract131/a01-24.pdf#page=14 |format=PDF |accessdate=2011-04-29 |ref=青山 }} |
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* {{Cite book|和書|author=編著 [[荒川浩久]]、[[神原正樹]]、[[安井利一]]|title=スタンダード口腔保健学|date=2003-03-30|edition=第1版|publisher=[[学建書院]]|isbn=4-7624-0634-1|ref = 荒川}} |
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* <cite id="kitasato">{{Cite web|author=編集 [[木村利美]]、[[国分秀也]]、[[嶋田美樹 (北里大学)|嶋田美樹]]、[[島田慈彦]] 改訂 [[小林昌宏]] |date=2001-09-25 |url=http://www.khp.kitasato-u.ac.jp/bumon/drug/CKNews/CKNews13check.pdf |title=-妊婦・胎児の薬物動態に関する適正使用情報II- |format=PDF |doi= |work=Clin Kinetics Mews |pages=No.13 |publisher=[[北里大学病院]]薬剤部 |accessdate=2010-12-05}}</cite> |
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* {{Cite book|和書|author=[[久米川正好]]、[[前田憲彦]]|editor=[[赤井三千男]]|title=歯の解剖学入門|edition=第1版|date=1990-05-31|publisher=[[医歯薬出版]]|isbn=4-263-40572-2|pages=pp. 1-27|chapter=第1章 総論|ref = 久米川}} |
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* {{Cite book|和書 |author=[[庄司茂]] |title= 機能的な歯内治療 痛みの防止と残した歯の価値を高めるために |edition=第1版第1刷 |date= 2011-04-01 |publisher=[[デンタルダイヤモンド社]] |location=[[東京都]][[千代田区]] |isbn=978-4-88510-226-4 |ref=庄司}} |
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* {{Cite book|和書|author=[[新谷誠康]] |editor=[[吉田昊哲]]、[[嘉ノ海龍三]]、[[山﨑要一]] |others= |title=小児歯科は成育医療へ ―今を知れば未来がわかる |date=2011-04-01 |publisher=[[デンタルダイヤモンド社]] |location=[[東京都]][[千代田区]] |series=DENTAL DIAMOND 増刊号 |language= |id={{ISSN|0386-2305}} 第36巻第6号 通巻520号 |isbn=978-4-88510-227-1 |pages=p.95/p.110 |chapter=各論 小児歯科臨床-87のヒント 05.小児う蝕 乳歯歯質と永久歯歯質の違い/06.口腔領域の異常 歯質の異常 |ref=新谷}} |
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* {{Cite book|和書|author=[[高森一乗]]、[[田中裕子]]、[[白川哲夫]] |editor=[[吉田昊哲]]、[[嘉ノ海龍三]]、[[山﨑要一]] |others= |title=小児歯科は成育医療へ ―今を知れば未来がわかる |date=2011-04-01 |publisher=[[デンタルダイヤモンド社]] |location=[[東京都]][[千代田区]] |series=DENTAL DIAMOND 増刊号 |language= |id={{ISSN|0386-2305}} 第36巻第6号 通巻520号 |isbn=978-4-88510-227-1 |pages=103 |chapter=各論 小児歯科臨床-87のヒント 05..小児う蝕 DIAGNOdent penを応用したう蝕の診査・診断 |ref=高森}} |
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* {{Cite book|和書|author=[[月星光博]]|title=外傷歯の診断と治療 増補新版|edition=第2版第1刷 |date=2009-08-10 |publisher=[[クインテッセンス出版]]|series=シリーズMIに基づく歯科臨床|isbn=978-4-7812-0090-3|chapter=|ref=月星}} |
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* {{Cite journal|和書|author=[[成橋昌剛]]、[[冨士谷盛興]]、[[山田三良 (歯科)|山田三良]]、[[千田彰]] |year=2011 |month=4 |title=レーザーはここまできた! practive &Evidence 3 齲蝕治療にレーザーを活用する! |journal=歯界展望 |volume=117 |issue=4 |pages=656-660 |publisher=[[医歯薬出版]] |location=[[東京都]][[文京区]] |issn=0011-8702|ref=成橋}} |
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* {{Cite book|和書|author=編集[[二階宏昌]]他|title=歯学生のための病理学 口腔病理編|date=1999-05-10|edition=第2版|publisher=[[医歯薬出版]]|isbn=4-263-45438-3|ref = 二階}} |
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* {{Cite book|和書|author=[[花田信弘]] |editor=[[田上順次]]、[[花田信弘]]、[[桃井保子]] |title=う蝕学 - チェアサイドの予防と回復のプログラム - |edition=第1版第1刷 |date=2008-03-05 |publisher=[[永末書店]] |location=[[京都市]][[上京区]] |series= |language= |id= |isbn=978-4-8160-1192-4 |oclc= |doi= |volume= |pages=pp. 8-13 |chapter=第I部 総論 第1章 う蝕のライフサイクルと予防 1.ライフサイクルとう蝕 |chapterurl= |quote= |ref=花田}} |
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* {{Cite journal|和書|author=[[藤田桂一]]|year=2008|month=5|title=小動物歯科診療の歴史ならびに現状と展望(II)|journal=日本獣医師会雑誌|volume=58|issue=5|pages=pp. 298-300|publisher=[[日本獣医師会]]|issn=0446-6454|ref = 藤田}} |
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* {{Cite book|和書|author=[[藤井彰]] |title=歯科薬理学サイドリーダー|edition=第2版第1刷|date=2001-06-10|publisher=[[学建書院]]|isbn=4-7624-1142-6 |ref = 藤井}} |
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* <cite id="yonedu">{{Cite web |author=[[米津卓郎]]、[[新谷誠康]] |year=2010 |month=9 |url=http://www.tdc.ac.jp/hospital/ch/dentalcomm0602.pdf#page=4 |title=リレーミニレクチャー エナメル質の形成障害と小児歯科臨床における対応 |format=PDF |work=東京歯科大学千葉病院医療連携NEWS デンタルドットコム |pages=4 |publisher=[[東京歯科大学]][[東京歯科大学千葉病院|千葉病院]]医療連携室 |accessdate=2011-04-30}}</cite> |
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* {{Cite book|和書|author=[[和久本貞雄]]、[[久光久]]、[[伊藤和雄]] |title=最新 保存修復 |edition=第2版第14刷 |date=2008-01-20 |publisher=[[医歯薬出版]] |location=[[東京都]][[文京区]] |isbn=978-4-263-40408-9 |ref=和久本}} |
* {{Cite book|和書|author=[[和久本貞雄]]、[[久光久]]、[[伊藤和雄]] |title=最新 保存修復 |edition=第2版第14刷 |date=2008-01-20 |publisher=[[医歯薬出版]] |location=[[東京都]][[文京区]] |isbn=978-4-263-40408-9 |ref=和久本}} |
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* <cite id="morita">{{Cite web |url=http://www.dental-plaza.com/article/diagnodent_pen/m02merit/index.html |title=光学式う蝕検出装置 ダイアグノデントペン 製品特長 |work=歯科情報ポータルサイト デンタルプラザ |publisher=[[モリタ製作所|モリタ]] |accessdate=2011-04-29}}</cite> |
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==関連項目== |
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[[hu:Fogzománc]] |
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[[pt:Esmalte dentário]] |
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[[ru:Зубная эмаль]] |
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2011年4月30日 (土) 12:23時点における版
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歯 |
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A-歯冠 |
1-エナメル質 2-象牙質 3-歯髄 4-歯肉 |
B-歯根 |
5-セメント質 6-歯槽骨 7-血管 8-神経 |
エナメル質(エナメルしつ、Enamel、琺瑯質)は歯の歯冠の最表層にある、生体で最も硬い硬組織で[1][2][3]、モース硬度は6~7を示す[2]。このエナメル質と、象牙質、セメント質、歯髄で歯は構成される[4]。通常目に見える部分がこのエナメル質であり、象牙質に支えられている。象牙質の支持がなければエナメル質は硬くてもろいため、容易に折れてしまう[5]。96%は無機質で残りが水と有機質であり[6]、色は明黄色からネズミ色がかった白色である。エナメル質の下に象牙質がない端の部分では、青みがかって見えることもある。半透明であるので、エナメル質の下にある象牙質や歯科修復材料の色が歯の外見に強く影響を与える。厚さは部位により異なり、多くの場合、切端部、咬合部で最も厚く(2.5mm以上)歯頸部(エナメル-セメント境)で最も薄い[7][2]。
構造
エナメル質の基本構造はエナメル小柱と呼ばれている[5]。エナメル小柱は組織化されたパターンの中に多くのハイドロキシアパタイトの結晶が入っている[1]。断面は、頭を外側に、下を内側においた鍵穴のように見える。
エナメル小柱の中のハイドロキシアパタイトの結晶の配置は非常に複雑となっている。エナメル質を作るエナメル芽細胞とトームス突起の両方が結晶のパターンに影響を与える。エナメル小柱頭部の結晶は小柱の長軸に完全に平行となっている[7][1]が、尾部では方向が長軸とややずれる[1]。
エナメル小柱の配置は内部構造よりも理解しやすい。エナメル小柱は歯に沿って列を作り、象牙質に垂直に配置されている[8]。永久歯では、エナメル-セメント境付近のエナメル小柱はわずかに歯根の方に傾く。象牙質の支持を受けないエナメル質は破折しやすいので、歯の保存修復においてエナメル質の走行を理解することは重要である[8]。
エナメル小柱のまわりはエナメル小柱間質として知られている。エナメル小柱間質はエナメル小柱と同じ構成を持っているが、結晶の方向が異なるので、組織学的に区別される[7]。エナメル小柱間質とエナメル小柱の結晶が会う境界は、エナメル小柱鞘と呼ばれる[9] 。
顕微鏡でエナメル質の断面を見たときに見える縞をレチウス条とよぶ[8]。トームス突起の直径の変化によっておこるこれらの縞は、木の年輪のようにエナメル質の成長を示す。レチウス条が終わるところで、周波条という浅い溝が見える[10]。新産線は他の縞より暗く出生前後の境界を示す[11]。また、反射光を用いて顕微鏡でエナメル質を見た際に現れる明帯と暗帯が交互に並ぶ領域を、ハンター・シュレーゲル条と呼ぶ[12]。これは小柱の走行の変化によりおこる光学的現象であり、光の方向が変わると明帯と暗帯は逆転する[12]。
境界部
歯頸部にあるエナメル質とセメント質の境界をエナメル-セメント境(セメント-エナメル境とも)とよび、これは解剖学的歯頸線と一致する。歯頸線は唇(頬)側および舌(口蓋)側では歯根側に凸弯し、近心側および遠心側では歯冠側に凸弯する[13]。拡大して見た場合、なめらかな曲線ではなく、鋸歯のような複雑な形を示す[14]。境界部でエナメル質とセメント質は約30%が移行的に連続するが、約60%はセメント質がエナメル質を覆い、約10%が連続せずに象牙質が露出している[15][16]。エナメル質を覆っている部分のセメント質はセメント舌と呼ぶ[16]。また、大臼歯では、歯頸部から歯根部にかけて球状のエナメル質塊が存在することがあり、これをエナメル滴と呼ぶ[17]。
エナメル質と象牙質の境界をエナメル象牙境と呼ぶ。横断研磨標本において、同部を調べると、一定の間隔でエナメル小柱が蛇行、ねじれ弯曲などのために暗くなっている部分があり、これをエナメル叢と、エナメル象牙境からエナメル質表層まで向かう薄板状の構造をエナメル葉と、象牙質側からの紡錘状の侵入物をエナメル紡錘とよび、これらの部分は石灰化度が低く有機物が多い[18]。
構成成分
無機質は大部分がリン酸カルシウムの結晶である[5][19]。他に、炭酸塩やクエン酸塩、乳酸塩の他、フッ素、ナトリウム、クロム、マグネシウム、亜鉛、鉛、銅、鉄、スズ、コバルト、ストロンチウム、マンガン、アルミニウム、ケイ素、銀など、約四十種類の微少元素が含まれる[20][21]。微少元素の構成割合はエナメル質の深さ、加齢、地理的条件によって異なる[22]。無機質が多いため、エナメル質は硬い(モース硬度6~7[2]、ヌープ硬度300[23]~451[24]、ビッカース硬さ408[24])が脆い[25]。エナメル質と比較すると、象牙質は結晶化の程度が低く、硬さは低いが、脆さも低く、エナメル質を支えるのに必要であり、象牙質の支えの無いエナメル質は容易に破折する[5]。無機質の割合が高いために、組織学的研究のために標本を作る場合、通常の脱灰法では融解して形を留めず[26]、光線顕微鏡の標本は通常切削標本である。
有機質について特徴的なこととして、象牙質や骨と異なり、エナメル質はコラーゲンを含まず、代わりにアメロゲニン、エナメリンなどのエナメルタンパクが含まれていることがあげられる。これらの蛋白質の役割は完全には判明していないが、いくつかの機能の一つとして、エナメル質形成期の構造の形成を助けるという機能があると考えられており[27]、アメロゲニン遺伝子の異常がエナメル質形成不全症を引き起こすことがわかっている[28]。他に、脂質が有機質の半分を占める[29]ほか、クエン酸・乳酸なども含まれている[29]。
発生
発生途上の歯を示す組織学のスライド。 スライドの上方が口である。 |
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エナメル質の形成は歯の発生の一過程である。発生途上の歯を顕微鏡で見たとき、エナメル器、歯堤、歯乳頭等として知られる細胞の集まりを確認することが出来る[30]。一般的に歯の発生段階は、蕾状期、帽状期、鐘状期となる。エナメル質の形成は鐘状期の後期から行われる。
エナメル器より起こる内エナメル上皮がエナメル芽細胞となりこれが象牙質の形成開始後にエナメル質の形成を始める。人間のエナメル質は妊娠三~四月の時から、切端、咬頭の側から順に、一日あたり4マイクロメートルずつ成長していく[8]。エナメル芽細胞は口腔の上皮が落ち込んでできたものであり、このため、エナメル質は歯の他の組織(中胚葉性)と異なり、外胚葉性のものである[31]。
全ての人間のプロセス同様、エナメル質の生成も複雑であるが、一般的に二つの段階に分けられる[32]。分泌相と呼ばれる第一段階は、タンパク質や部分的に石灰化した有機質を含んでおり、有機質の分泌と成長の進行を行っている。成熟相と呼ばれる第二段階は厚さの成長が止まってから完全に成熟までの期間で、主にエナメル質の石灰化が進行する。
エナメル質の発生を示す組織学のスライド。 |
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分泌相ではエナメル芽細胞は極性を持つ円柱状の細胞である。この細胞の粗面小胞体では、エナメルタンパクが周囲に産出し、エナメル質基質がアルカリフォスファターゼ酵素により部分的に石灰化するのに寄与している[33] 。
この第一層が形成されると、エナメル芽細胞は象牙質から離れ、先端部にトームス突起が形成される。エナメル質の形成は隣接したエナメル芽細胞で続けられ、その結果トームス突起を保護するように、壁に囲まれたくぼみができる。また、トームス突起の縁でもエナメル質が形成され、くぼみの中にエナメル母体が析出する[34]。 くぼみのエナメル母体は棒状になり、くぼみを囲む芽細胞の壁も最終的に棒同士を繋ぐエナメルになる。棒状のエナメル質と棒同士を繋ぐエナメル質は、カルシウム結晶の方向だけが異なる。
成熟相では、エナメル芽細胞がエナメルの形成に必要な物質を運ぶ。組織学的にいって最も注目すべきは、エナメル芽細胞が縦に筋を作りはじめるという点である[33]。これによって、エナメル芽細胞が分泌期のような増殖をやめて運搬機能を発揮しはじめたということが分かる。ここで運搬される物質は、石灰化の最終段階に使われるタンパク質がほとんどである。主なものにアメロゲニン、アメロブラスチン、エナメリン、タフテリンなどがある[35]。成熟期において、アメロゲニンとアメロブラスチンは使用された後に除去され、エナメリンとタフテリンだけが残る[36]。
成熟期が終わり、歯が口腔内に萌出する前にエナメル芽細胞は無くなる。このため、エナメル質は体の多くの組織と異なり、再生する手段がない[37]。う蝕や外傷などによるエナメル質の欠損の後、体も歯科医師もエナメル質を回復することが出来ない。ただし、石灰化自体は唾液中に存在する過飽和のカルシウムとリン酸により萌出後も進行する[38]。
エナメル質は非病理学的な過程に影響されることがある。喫煙やコーヒー、茶などに長期的にふれることにより変色する[39]。エナメル質のみでなく象牙質もであるが、硬化していく[40]。その結果、年をとるほど、歯の色が暗くなっていく。さらに、流動体の浸透性が低下し、酸に解けにくくなり、水分の含有量が減少する[40]。
出生時エナメル質形成量 | エナメル質石灰化完了時期 | ||
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上顎歯 | 乳中切歯 | 5/6 | 生後1.5ヶ月 |
乳側切歯 | 2/3 | 生後2.5ヶ月 | |
乳犬歯 | 1/3 | 生後9ヶ月 | |
第一乳臼歯 | 咬頭は結合;咬合面は完全に石灰化 歯冠の高さの1/2から3/4まで石灰化 |
生後6ヶ月 | |
第二乳臼歯 | 咬頭は結合; 咬合面の石灰化は不完全; 歯冠の高さの1/5から1/4まで石灰化 |
生後11ヶ月 | |
下顎歯 | 乳中切歯 | 3/5 | 生後2.5ヶ月 |
乳側切歯 | 3/5 | 生後3ヶ月 | |
乳犬歯 | 1/3 | 生後9ヶ月 | |
第一乳臼歯 | 咬頭は結合; 咬合面は完全に石灰化 | 生後5.5ヶ月 | |
第二乳臼歯 | 咬頭は結合; 咬合面の石灰化は不完全 | 生後10ヶ月 |
乳歯と永久歯におけるエナメル質の違い
乳歯、永久歯ともにエナメル質の結晶はハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2を最小単位として形成されるが、乳歯のエナメル質は永久歯のエナメル質と比較して結晶粒子が小さく[42]、厚さが1/2でほぼ全体での厚さが等しく1~2mmである[43][42]。また含水量が多く(乳歯2.8%、永久歯2.3%)、硬度が低く、化学反応性が大きく、脱灰の影響を受けてのう蝕やフッ化物による歯質強化を受けやすい[42]。
破壊
エナメル質は無機質が多く、人体で最も硬い組織であるが、いくつかの理由で失われる。
一つは脱灰であり[30]、その最も大きな理由は砂糖の摂取によるう蝕である。
口腔内には多くの種類の細菌(口腔常在菌)が多数含まれており、砂糖の主成分であるスクロースが口腔内に広がった際、一部の口腔常在菌はスクロースに働き、乳酸を産生する。この乳酸が口腔内のpHを低下させる[44]事でう蝕が進行する。(詳細についてはう蝕の項目を参照)
う蝕が進行し、エナメル質が、細菌の進入を防ぐことが出来なくなれば、エナメル質の下の象牙質も同様になる。象牙質はう蝕の進行がエナメル質より早く、健全なエナメル質を支持する象牙質がう蝕によって破壊された場合、エナメル質はその脆性のため、容易に歯から破折してしまう。
前歯。歯ぎしりのために、通常はエナメル質 の下に隠れている象牙質や歯髄が見える。 |
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う蝕のみでなく、吐瀉物に含まれる酸や、工場で空気中に含まれる酸などにより脱灰される場合もあり、これを酸蝕症と呼ぶ[45]。
脱灰で失われるのみでなく、物理的な力により破壊されることも多い。このなかで最も知られるものは、歯ぎしり、噛みしめ等による、エナメル質の破壊であり、非常に早く進行する。咬耗によるエナメル質の減少は正常で有れば年間8マイクロメートルである。一般に誤解されていることとして、エナメル質がすりへる主要な原因は咀嚼によるものだということがある。しかし、現実には、歯は咀嚼中滅多にふれあわない。さらに、正常な咬合で有れば、歯周靱帯や咬合の配置により、生理学的に補われる。本当に破壊的な力は、歯ぎしりのような動作である。これは咬耗症として、エナメル質に復元不可能な損害をもたらす。このほか、摩耗(歯ブラシのような外的な力による物)、外傷による破折等が知られる[45]。破折の最も軽い状態である亀裂については、加齢とともに増加し、50歳代以降ではすべての歯に見られたとの報告もある[46]。
なお、エナメル質を形成するエナメル芽細胞は、歯の萌出時にはすでに存在しないため、一度失われたエナメル質が再生することはない。また、エナメル質には神経が存在しないため、破壊がエナメル質のみに限局している場合、疼痛を感じることもない。
予防
エナメル質の脱灰の影響や毎日の砂糖の摂取への脅威は大きく、う蝕を予防することは歯の健康を維持し、良質な口腔衛生を保つ大切な方法である。ほとんどの国では、歯ブラシを一般的に使用し、エナメル質上の細菌や食物残渣を減らす事でう蝕を予防している。このほか、デンタルフロス等を使用することもある。
また、フッ化物によるう蝕の予防も認められており、水道水フッ化物添加、フッ化物配合歯磨剤、フッ化物歯面塗布など、多くの手段が知られる[47]。このうち、特に水道水フッ化物添加は多くの面で非常に有効であるとされるが、これについては、反対する人もあり、議論がなされている。
歯ぎしり、噛みしめ等によるエナメル質の破壊を防ぐ方法としては、マウスピースや薬物療法などが知られる。
また、近年では歯科用レーザーであるNd:YAGレーザーや炭酸ガスレーザー、Er:YAGレーザーとフッ化物歯面塗布を併用し、エナメル質の強化や耐酸性の強化を行う研究が進められている[48]。
診断
エナメル質の状態を診査し、治療の必要性を判断することは重要である。エナメル質のう蝕や物理的な力による破壊に対する診断に最も一般的な方法は視診であるが、確実な診断のために、問診・医療面接による把握や探針やデンタルフロスを用いた触診、咬翼法やオルソパントモグラフ、歯科用コーンビームCTによるX線診断、光ファイバーを用いた透照診、ダイアグノデント等のレーザーによる蛍光診断や電気抵抗値を測定する電気診などの方法が用いられる[49][50][51]。
電気診
健全なエナメル質の電気抵抗は600kΩ以上であるが、エナメル質のう蝕が進行するに連れて電気抵抗が低下し、象牙質まで達すると250kΩ以下(小児では280kΩ以下)となる[49][52]。この電気抵抗をカリエスメーターを使用して測定することで診断する[49]。
レーザーによる蛍光診断
ダイアグノデントやそれを改良したダイアグノデントペンは、波長655nmの半導体レーザーを利用してエナメル質等の歯質の蛍光強度を非侵襲的に測定することで健全なエナメル質とう蝕エナメル質を区別することができる[53]。特にダイアグノデントペンは隣接面う蝕用のチップを持つことから同部のう蝕の検出に有効であるとされており[54][55]、X線の被爆を可能な限り抑えたい小児歯科や[54]、在宅診療や集団歯科検診などの幅広い分野での診断への利用が期待されている[48]。
エナメル質への歯科処置
エナメル質を形成するエナメル芽細胞は、歯の萌出時にはすでに存在しないため、一度失われたエナメル質が再生することはない。このため、う蝕等でエナメル質を失った場合、修復治療を行う必要がある。(保存修復、コンポジットレジン修復法等も参照。)
エナメル質の除去
歯の修復治療の大部分ではエナメル質の除去を行う。エナメル質のう蝕部位の除去のほか、象牙質や歯髄への通路を確保するため、またう蝕部位の除去後の修復、補綴のためにエナメル質の切削を行う。(保存修復・歯内治療・補綴治療等も参照。)また、脱灰が発生する前にエナメル質を除去することもある。歯の咬合面の溝の健康なエナメル質を除去し、それを歯科材料に取り替えるシーラントもある[56]。これは将来のう蝕から保護するための予防処置で、7年にわたり、う蝕のリスクを55%低下させる[57]。特に治療の必要が無くても、審美的な理由でエナメル質を除去することがある。歯の外見を良くするため、クラウンやラミネートベニヤを入れるためには歯を削る必要がある。象牙質に支持されていないエナメル質を残すと、エナメル質の破折を招くことがあるので、エナメル質の走行を覚え、それに基づきエナメル質を切削する事が重要である[58]。
エッチング
修復材料であるレジンを歯質に接着させるため、Buonocoreは酸により歯を溶解させるエッチングを1955年に開発した[59]。歯科修復物を歯に接着させる時、頻繁に使われる[60]。これはコンポジットレジンやシーラントのようないくつかの修復物を長期的に持たせるために重要である[30]。エナメル質中の無機質を溶解させ、エナメル質表面から約10マイクロメートルを除去し、5から50マイクロメートルの多孔質層を作る[61]。この多孔質層にレジンが侵入し、硬化することで接着する[62]。
エナメルに対するエッチングの影響は使用する酸の量、タイプおよびエナメルの現状などにより変化する[61]。
エッチングによる形成には3パターンある[61]。タイプ1はエナメル小柱が溶解されたパターン、タイプ2はエナメル小柱間質が溶解されたパターン、タイプ3はエナメル小柱があった証拠がなにも残っていないパターンである。タイプ1が最も好ましい物であり、タイプ3は最低である。これらのパターンに別れる理由はまだはっきりとはわかっていないが、エナメル質中の結晶の走行の違いによる物ではないかという説が最も一般的である[63]。
エナメルボンドレジン
エッチングによって作られた多孔質層であるが、従来型マクロフィラーレジンを填塞する際には、フィラーの大きさが小柱の大きさより大きいために同部に入る事ができず十分な接着力を行えない可能性があり、これに対応するために前処理としてエッチングされたエナメル質に塗布させる液状のレジンが開発された[62]。
歯のホワイトニング
着色や変色したエナメル質に対し、機械的動作や化学的方法を用い、歯を明るくする[64]のが、ホワイトニングである。(詳細はホワイトニングの項目参照)
機械的動作としては、専門的機械的歯面清掃がある他、歯磨剤はエナメル質に付着した汚れを緩やかに研磨する。有効な方法だが、歯自体の色を落とすことが出来ない[64]。
化学的な方法は、エナメルや象牙質を酸化させる事で歯の色を本質的に変える[65]。歯科診療所にて行われるオフィスブリーチと患者が自身で行うホームブリーチがある。過酸化水素、過酸化尿素、過ホウ酸ナトリウム等の酸化剤が一般的に用いられる[66][67]。pHを下げることは、脱灰によりう蝕となる危険がある。漂白後も、再石灰化環境にあるエナメル質は周囲の無機質イオンを取り込む可能性も示唆されている[68]が、薬品を選ぶ際には注意し、リスクを評価する必要がある[69]。
物理的動作と化学的方法の両方を用いる手段もある。たとえば、Microabrasionは最初に酸でエナメル質22~27マイクロメートルを脱灰させ、次に研磨を行う[70]ことでエナメル質の表面的な着色を除去する。変色の部位が深いか、象牙質の中である場合、この方法は成功しない。
エナメル質の異常
遺伝・染色体異常
様々なタイプのエナメル質形成不全がある。遺伝性のものは低形成型(I型)、低成熟型(II型)、低石灰化型(III型)、タウロドント併発性低形成/低成熟型(IV型)の4通りに、非遺伝性の先天的なものはエナメル質減形成とエナメル質石灰化不全に分けられる[71]。最も一般的な低石灰化型は完全に石灰化していないもので、常染色体優性の遺伝疾患である[72]。結果、エナメル質は咬耗症や摩耗症などで容易に損耗し[73]、出てくる象牙質のために黄色く見える。低形成型はX染色体上のアメロゲニン遺伝子の異常[28]で、正常なエナメル質がほとんど形成されず、低石灰化型と同じような症状となる[72]。また、近年にはMolar Incisor Hypomineralization(MIH)と呼ばれる第一大臼歯と切歯に限局して発生する原因不明のエナメル質形成不全の報告がなされている[71][74]。
局所的な要因
乳歯の根尖性歯周炎によるターナー歯や外傷による障害などによる、後続永久歯のエナメル質の障害がある[71]。
全身的な要因
胎児赤芽球症によって引き起こされる慢性のビリルビン脳症は幼児に多数の症状が現れる疾病である。その一つとして、エナメル質形成不全とエナメル質の緑色の着色を引き起こすことがある[75]。
造血性ポルフィリン症は体内でポルフィリンの沈着を引き起こす遺伝病である。この沈着がエナメル質でも発生し、赤い蛍光色となる[76]。
フッ素症は斑状菌を発生させ、露出部からフッ化物が出る[44]。
テトラサイクリン系抗生物質の妊婦への投与は胎児の形成中のエナメル質を黄色・黄褐色[77]~茶色に着色させる[78]。このため、妊娠後半期の投与に注意が必要な薬であり[79]、妊婦への投与は必要性がない限りは行われない。
グルテンアレルギーが引き金となって起こる自己免疫疾患であるセリアック病もまた、エナメル質の脱灰を引き起こす。
動物のエナメル質
後生動物の中で歯にエナメル質を持つ生物は、硬骨魚類、両生類、爬虫類、哺乳類である(軟骨魚類はエナメロイド)。研究者達の調査により、人間と人間以外の哺乳類のエナメル質との間に違いはほとんど無いということが示された。エナメル質の構造にほとんど違いはなく、エナメル器やエナメル芽細胞もヒトと同様に存在する[80]。エナメル小柱の横断面は動物により六角形、円形、長円形などを示す[81]。哺乳類間でのエナメル質の相違はわずかであるが重要である。形態、数、歯のタイプなどの点において確かな違いが存在する。
イヌは、唾液中のpHが8.0~9.0と非常に高く[82]、歯の脱灰を防ぎ再石灰化を促進させるので、人間に比べて虫歯になりにくい[83]。外傷などにより歯が破折した時やう蝕になった場合、人間と同じように歯に修復物を詰めて治療することができる。この場合、全身麻酔下で一度で行う[82]。人間の歯と似ているため、イヌのエナメル質もテトラサイクリンによって着色される。したがって、若いイヌにテトラサイクリンが処方される場合、その危険性を説明しなければならない。また、人間同様エナメル質形成不全が発生する可能性もある[83][84]。
ネズミ目のエナメル質の構造はヒト、サル、イヌ、ブタなどと異なる[85]。ウマでは、エナメル質と象牙質がかみ合っているが、これは強さを高め、摩耗を減らす働きがある[86]。
脚注
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関連項目