コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

元亨釈書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
元亨釈書
寛永元年(1624)版, 国立公文書館

著者 虎関師錬
日本の旗 日本
言語 漢文
分野 仏教史, 高僧伝, 紀伝体歴史書
出版日 元亨2年8月16日1322年9月27日
巻数 30巻 (書籍一覧)

元亨釈書』(げんこうしゃくしょ)は、日本の歴史書鎌倉時代に漢文体で記した日本初の仏教通史。著者は臨済宗の僧、虎関師錬1278年 - 1346年)。全30巻。

元亨2年8月16日1322年9月27日[1]に朝廷に上呈されたので、書名に「元亨」が冠せられる。「釈書」は釈、つまり仏の書物。収録年代は、仏教初伝以来、鎌倉後期まで700余年に及び、僧の伝記や仏教史を記す。南北朝時代大蔵経に所収された。

活字翻刻本としては『大日本仏教全書』本と『国史大系』本[2]がある。注釈本としては江戸期の『元亨釈書和解』[3]が著名。

構成

[編集]

内容的に「五格」(五つの方式)に分類されている。すなわち「伝・賛・論・表・志」と師錬はのべているが、その構成面からみると「伝」「表」「志」の三つに分類される。「賛・論」は「伝」の付属と見るのが一般的。

  • 巻01 - 巻19  僧俗記部 (400名余りの道俗の伝記)
  • 巻20 - 巻26  資治部  (編年の仏教史)
  • 巻27 - 巻30  部    (10分類による各類史)

内容

[編集]

巻1 – 19:僧俗伝記部

[編集]
巻1 伝智1 南天竺菩提達磨・高麗慧灌・呉国智蔵・元興寺道昭・北天竺善無畏・興福寺慈訓・唐国鑑真・延暦寺最澄・金剛峯空海
巻2 伝智2 建仁寺栄西
慧解1 龍門寺義淵・大安寺道慈・元興寺智光・東大寺良弁善珠・元興寺明詮・東大寺明一・元興寺慈宝・梵福山善謝・普光寺慈雲勝悟善議安澄光意・秋篠寺常楼常騰品慧道證奉実・石淵寺勤操・元興寺護命・海卯寺道雄・延暦寺安慧・延暦寺義真・延暦寺円澄
巻3 慧解2 守印・東寺実慧・興福寺明福延祥長訓実敏源仁・叡山光定・高尾峯真済・延暦寺円仁・法琳寺常暁・禅林寺宗叡・法輪寺道昌・貞観寺真雅隆海・元慶寺遍照・延暦寺円珍
巻4 慧解3 園城寺益信・醍醐寺聖宝・遍照寺寛朝・醍醐寺仁海・築波山徳一・叡山薬智・叡山安然・叡山玄昭・興福寺増利・醍醐寺信敒・興福寺壱和・叡山禅喜・延暦寺良源・興福寺仲算・東大寺法蔵・金龍寺千観・興福寺真義・園城寺勧修・慧心院源信・檀那院覚運・叡山覚超・園城寺慶祚・叡山実因・延暦寺院源・園城寺明尊・高野山明算・三井慶耀
巻5 慧解4 叡山安海・興福寺主恩・叡山桓舜・禅林寺永観・叡山寛印・叡山皇慶・醍醐寺延殷・観勝寺大円・三井宗範延義・興福寺永縁・伝法院覚鑁・大谷寺源空・高野山明遍・笠置山貞慶・栂尾寺高弁
巻6 浄禅1 唐国義空・叡山覚阿・永平寺道元・長楽寺栄朝・松島寺法心・鷲峯覚心・宋国道隆・宋国普寧・浄妙寺了然・東福寺普門・南禅寺徳倹
巻7 浄禅2 慧日山弁円
巻8 浄禅3 宋国祖元・宋正念・宋子曇・宋一寧・三聖寺湛照・禅興寺道海・円覚寺昭元・東福寺慧暁・東福寺順空・南禅寺祖円
巻9 感進1 百済国義覚・百済道寧・百済道蔵・多武峰定慧・薬師寺祚蓮・東大寺実忠・吉野山報恩・湯川寺玄賓・大安寺慧勝・天王寺道公・叡山法勢貞崇寛忠・勝尾寺證如智泉・清水寺延鎮成尊・延暦寺源心・金剛山満米・東寺日蔵・鞍馬寺峯延・白山蔵縁・叡山成意・興福寺安願・叡山長円心誉・三井覚助平願・叡山真遠・金勝寺光空・石山寺妙尊・三井珍蓮雲浄信誓恩融・比良山静安・薬師寺慧達・延暦寺延昌・延暦寺尋禅・延暦寺源泉・松島寺見仏
巻10 感進2 無動寺相応・大安寺行教教円義照・勝尾寺行巡・醍醐寺観賢・仁和寺成典・延暦寺増命・延暦寺尊意泰舜・叡山明達・雲居寺浄蔵・叡山修入円賀・三井公伊・薬師寺済源・延暦寺陽生・多武峰増賀・仁和寺寛空範俊信覚・醍醐寺勝覚
巻11 感進3 理蒲・叡山叡桓・子島寺真興・延暦寺慶円・延暦寺余慶叡実・一条院定照・書写山性空・叡山平忍・叡山蓮防・勝林院寂源・修学院勝算・三井行円・大原山良忍・石塔寺寂禅行空蓮長・楞厳院以円・叡山教真・小田原経源・兎原慶日覚勝・国上山仏蓮・高野山維範・安倍山暹覚・高野山琳賀・賢林寺戒深・南星峯円久行仙・仁和寺性信・仁和寺覚法基灯・叡山叡好・愛太子山仁鏡・薢嶽良算・雪彦山玄常・超勝寺清海・鞍馬寺重怡
巻12 感進4 園城寺行尊・㝡福寺延朗・安部山慶円・三輪山常観性蓮・三井寺斉遠・海部峯広恩蓮蔵持法法蓮
忍行 興福寺賢憬仁耀・叡山慧亮・三井證空・戸隠山長明・釈迦院文豪・慈光院延救・無動寺仙命・楞厳院信敬蓮照・那智山応照春朝・修禅寺永助・三井叡効
巻13 明戒 東大寺普照・唐国法進・唐如宝道忠豊安・東大寺明裕・中川寺実範・泉湧寺俊芿・西大寺叡尊・極楽寺忍性
巻14 檀興 菅原寺行基・愛宕山慶俊・禅林寺真紹観喜最仙・補陀落寺勝道恒寂・高野山真然・高野山祈親蓮入・眉間寺道寂・谷汲寺豊然・相応寺壱演・山崎寺慈信・行願寺行円・良峯寺源算・六波羅蜜寺光勝・神護寺文覚・東大寺重源
巻15 方応 聖徳太子役小角・越知山泰澄・南天竺菩提(=菩提僊那)・林邑国仏哲伏見翁・勝尾山善仲・弥勒寺開成・園城寺教待
巻16 力遊 百済国曇慧・高麗国慧便・百済慧聡・高麗慧慈・百済観勒・高麗僧隆・百済慧弥・高麗曇微・呉国福亮・唐国神叡・唐道璿・唐道栄慧済・僧慧隠智通知鳳浄達行善・興福寺玄昉行賀・梵釈寺永忠・零巌寺円行・安祥寺慧運・唐補陀落寺慧蕚真如奝然・宋呉門寺寂昭・宋伝法院成尋
願雑1
古徳
豊国徳斉徳積慧妙道顕道信法員弘曜慧忠行表仁秀澄叡慈恒寿遠守寵道詮承俊良真
巻17 願雑2
王臣
聖武皇帝貞観皇帝寛平皇帝寛和皇帝蘇我稲目蘇我馬子司馬達等藤原鎌足和気真綱藤原良相高階公輔藤原義孝高階良臣源顕基平維茂・別駕射親元・橘守輔源親元平時範源俊房三善為康藤原敦光平実親源雅通藤原仲遠紀躬高平時頼
願雑3
士庶
薬延感世尋寂乗蓮惟高藤井久任野敦末秦武元願西源伝清原信俊大江親通西音壬良門修覚
巻18 願雑4
尼女
善信法明都藍皇后光明子舎利如意如蔵皇后歓子高階敦遠妻・藤原敦光女・藤原経実妻・釈妙願西妙法藤原兼澄
願雑5
神仙
皇太神宮白山明神丹生明神新羅明神天満大自在天神法道久米陽勝窺仙都良香藤太主と源太主生馬仙法空
巻19 願雑6
霊怪
転乗海蓮慧増頼真春命蓮尊明蓮妙達道命源尊常照阿清蔵満円能道乗円善安珍無空講仙
度総論

巻20 – 26:資治表部

[編集]
巻20 欽明天皇皇極天皇(539~645)
巻21 孝徳天皇元明天皇(645~715)
巻22 元正天皇淳仁天皇(715~764)
巻23 称徳天皇仁明天皇(764~850)
巻24 文徳天皇朱雀天皇(850~946)
巻25 村上天皇白河天皇(946~1086)
巻26 堀河天皇順徳天皇(1086~1221)

巻27 – 30:志部

[編集]
巻27 学修
度受
諸宗 三論唯識華厳天台
会儀
封職
巻28 寺像 向原寺四天王寺元興寺大安寺頂法寺禅林寺犬寺崇福寺興福寺神願寺長谷寺東大寺石山寺葛木(寺)像・鵜田寺招提寺西大寺粉河寺神護寺慈氏(寺)像・村岡(寺)像・勝尾(寺)像・鞍馬寺清水寺・山王(=比叡山山王院)像・園城寺貞観寺感応寺円教(寺)像・蟹満寺
巻29 音芸 経師・聲明・唱導・念仏
拾異 山背大兄王・栄常・諦鏡・藤原永手・大君氏・飛鳥貞成・賀陽良藤・粟田録治・諾楽京(=平城京)女・大安寺側女・賈盤島・蓼原村盲女・熊野村比丘・藤原時重・大江諸世・慧勝・藤原常行仲算童・役夫賀能・土州中村猟者[4]・徳満・大峯比丘
巻30 黙争
序説
略例・智通論

佛教大学図書館デジタルコレクション、宮内庁書陵部資料目録・画像公開システム、国史大系版を基に作成。

テキスト

[編集]

本節は主に『国書総目録』による。

写本

[編集]
  • 国立国会図書館 :永禄元年(1558)、大菴呑碩写[5]
  • 国立公文書館:慶長元年(1615)、周杲写。15冊。
  • 国立公文書館:抄本。摂津徴書巻78
  • 静嘉堂文庫
  • 京都大学松本文庫:巻13, 14のみ。1冊
  • 松ヶ岡文庫:巻1, 2のみ。1冊。室町時代末期写。積翠文庫旧蔵
  • 東福寺:30冊。重要文化財(1941年7月3日指定)[6]
    • 巻2, 3, 10, 22は虎関師錬自筆。巻1, 5, 6, 11-16, 21, 23, 25-30は大道一以写。巻18は性海霊見写。
  • 六地蔵寺:巻1, 2, 4, 9のみ。永禄7年(1564)写
  • 個人:15冊。吉川重喜写。重要文化財(1959年12月18日指定)[7]

版本

[編集]
  • 五山版, 貞治3-永和3年(1364-1377), 30冊
    • 所蔵:国立公文書館(巻5, 6, 12-14, 20)、宮内庁書陵部、京都大学(15冊)、大東急記念文庫(8冊)、両足院(8冊)、輪王寺日光図書館(巻15)
  • 五山版, 至徳元-明徳2(1384-1391), 10冊
  • 慶長4年(1599)版, 10冊
    • 所蔵:国立公文書館、東洋文庫岩崎文庫、京都大学、大東急記念文庫、石川武美記念図書館成簣堂文庫、陽明文庫(6冊)、個人
  • 慶長10年(1605)版, 下村生蔵刊[8][9], 10冊
    • 所蔵:東洋文庫岩崎文庫、宮内庁書陵部、京都大学谷村文庫、京都大学松本文庫、東京大学駒澤大学広島市立中央図書館、名古屋市蓬左文庫、、栗田文庫(現在不明)神宮文庫、松ヶ岡文庫、大東急記念文庫、天理大学附属天理図書館、石川武美記念図書館成簣堂文庫、穂久邇文庫、阪本龍門文庫、佛教大学[8]
  • 慶長(1596-1615)版, 10冊
    • 所蔵:宮内庁書陵部
  • 元和3年(1617)版, 寿閑開板, 京都[9], 10冊
    • 所蔵:東洋文庫岩崎文庫、京都大学、東京大学、西尾市岩瀬文庫、石川武美記念図書館成簣堂文庫、天理大学附属天理図書館古義堂文庫、個人
  • 寛永元年(1624)版, 15冊:羅山子跋文[9]。底本は東福寺写本[10]
  • 寛文元年(1661)版, 15冊
  • 刊年不明
    • 香川大学神原文庫(巻13, 14)、京都大学谷村文庫(欠本)、京都大学松本文庫(欠本)、大阪府立中之島図書館、飯田市立中央図書館 (巻29, 30欠)、刈谷市中央図書館(15冊)、刈谷市中央図書館(16冊)、高野山金剛三昧院(巻10欠)、神宮文庫(15冊)、大和文華館(15冊)、石川武美記念図書館成簣堂文庫(15冊)、石川武美記念図書館成簣堂文庫(12冊)、長野県立歴史館(10冊)、長野県立歴史館(15冊)

近代の刊本

[編集]
  • 国史大系 第14巻 百錬抄 愚管抄 元亨釈書』, 経済雑誌社, 1901:底本は寛永元年版本[11]
  • 大日本仏教全書 101 日本高僧伝要文抄 外四部』仏書刊行会
  • 『訓読 元亨釈書』上下, 藤田琢司編, 禅文化研究所, 2011:底本は東福寺写本[12]

インターネット

[編集]

現代語訳

[編集]
  • 今浜通隆訳『元亨釈書: 仏教説話の宝書 』, 教育社, 1980
  • 今浜通隆訳『元亨釈書全訳注』上中, 新典社, 2020-22

脚注

[編集]
  1. ^ 『元亨釈書』上表文
  2. ^ 『国史大系』第14巻
  3. ^ [1]『通俗元亨釈書和解』巻之上; [2]『通俗元亨釈書和解』巻之中; [3]『通俗元亨釈書和解』巻之下
  4. ^ 目次に記載なし。宮内庁, vol.29, image 18-19。佛教大, vol.10, image 52-53。国史大系, p. 1165
  5. ^ 国立国会図書館デジタルコレクション
  6. ^ 国指定文化財等データベース
  7. ^ 国指定文化財等データベース
  8. ^ a b 佛教大学図書館デジタルコレクション、解題
  9. ^ a b c 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
  10. ^ 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ, image 913
  11. ^ p. 6
  12. ^ 禅文化研究所

参考文献

[編集]

この記事は、クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス CC BY-SAに基づいて『国書総目録』(岩波書店発行・国文学研究資料館提供)を改変して利用している(許諾)。

  • 『国訳一切経』 和漢撰述 (史伝部 第19, 20) 大東出版社、1963
  • 『大乗仏典 : 中国・日本篇』第25巻、中央公論社、1989

外部リンク

[編集]