元亨釈書
表示
寛永元年(1624)版, 国立公文書館 | |
| |
著者 | 虎関師錬 |
---|---|
国 | 日本 |
言語 | 漢文 |
分野 | 仏教史, 高僧伝, 紀伝体歴史書 |
出版日 | 元亨2年8月16日(1322年9月27日) |
巻数 | 30巻 (書籍一覧) |
『元亨釈書』(げんこうしゃくしょ)は、日本の歴史書。鎌倉時代に漢文体で記した日本初の仏教通史。著者は臨済宗の僧、虎関師錬(1278年 - 1346年)。全30巻。
元亨2年8月16日(1322年9月27日)[1]に朝廷に上呈されたので、書名に「元亨」が冠せられる。「釈書」は釈、つまり仏の書物。収録年代は、仏教初伝以来、鎌倉後期まで700余年に及び、僧の伝記や仏教史を記す。南北朝時代に大蔵経に所収された。
活字翻刻本としては『大日本仏教全書』本と『国史大系』本[2]がある。注釈本としては江戸期の『元亨釈書和解』[3]が著名。
構成
[編集]内容的に「五格」(五つの方式)に分類されている。すなわち「伝・賛・論・表・志」と師錬はのべているが、その構成面からみると「伝」「表」「志」の三つに分類される。「賛・論」は「伝」の付属と見るのが一般的。
- 巻01 - 巻19 僧俗伝記部 (400名余りの道俗の伝記)
- 巻20 - 巻26 資治表部 (編年の仏教史)
- 巻27 - 巻30 志部 (10分類による各類史)
内容
[編集]巻1 – 19:僧俗伝記部
[編集]巻1 | 伝智1 | 南天竺菩提達磨・高麗慧灌・呉国智蔵・元興寺道昭・北天竺善無畏・興福寺慈訓・唐国鑑真・延暦寺最澄・金剛峯空海 |
---|---|---|
巻2 | 伝智2 | 建仁寺栄西 |
慧解1 | 龍門寺義淵・大安寺道慈・元興寺智光・東大寺良弁・善珠・元興寺明詮・東大寺明一・元興寺慈宝・梵福山善謝・普光寺慈雲・勝悟・善議・安澄・光意・秋篠寺常楼・常騰・品慧・道證・奉実・石淵寺勤操・元興寺護命・海卯寺道雄・延暦寺安慧・延暦寺義真・延暦寺円澄 | |
巻3 | 慧解2 | 守印・東寺実慧・興福寺明福・延祥・長訓・実敏・源仁・叡山光定・高尾峯真済・延暦寺円仁・法琳寺常暁・禅林寺宗叡・法輪寺道昌・貞観寺真雅・隆海・元慶寺遍照・延暦寺円珍 |
巻4 | 慧解3 | 園城寺益信・醍醐寺聖宝・遍照寺寛朝・醍醐寺仁海・築波山徳一・叡山薬智・叡山安然・叡山玄昭・興福寺増利・醍醐寺信敒・興福寺壱和・叡山禅喜・延暦寺良源・興福寺仲算・東大寺法蔵・金龍寺千観・興福寺真義・園城寺勧修・慧心院源信・檀那院覚運・叡山覚超・園城寺慶祚・叡山実因・延暦寺院源・園城寺明尊・高野山明算・三井慶耀 |
巻5 | 慧解4 | 叡山安海・興福寺主恩・叡山桓舜・禅林寺永観・叡山寛印・叡山皇慶・醍醐寺延殷・観勝寺大円・三井宗範・延義・興福寺永縁・伝法院覚鑁・大谷寺源空・高野山明遍・笠置山貞慶・栂尾寺高弁 |
巻6 | 浄禅1 | 唐国義空・叡山覚阿・永平寺道元・長楽寺栄朝・松島寺法心・鷲峯覚心・宋国道隆・宋国普寧・浄妙寺了然・東福寺普門・南禅寺徳倹 |
巻7 | 浄禅2 | 慧日山弁円 |
巻8 | 浄禅3 | 宋国祖元・宋正念・宋子曇・宋一寧・三聖寺湛照・禅興寺道海・円覚寺昭元・東福寺慧暁・東福寺順空・南禅寺祖円 |
巻9 | 感進1 | 百済国義覚・百済道寧・百済道蔵・多武峰定慧・薬師寺祚蓮・東大寺実忠・吉野山報恩・湯川寺玄賓・大安寺慧勝・天王寺道公・叡山法勢・貞崇・寛忠・勝尾寺證如・智泉・清水寺延鎮・成尊・延暦寺源心・金剛山満米・東寺日蔵・鞍馬寺峯延・白山蔵縁・叡山成意・興福寺安願・叡山長円・心誉・三井覚助・平願・叡山真遠・金勝寺光空・石山寺妙尊・三井珍蓮・雲浄・信誓・恩融・比良山静安・薬師寺慧達・延暦寺延昌・延暦寺尋禅・延暦寺源泉・松島寺見仏 |
巻10 | 感進2 | 無動寺相応・大安寺行教・教円・義照・勝尾寺行巡・醍醐寺観賢・仁和寺成典・延暦寺増命・延暦寺尊意・泰舜・叡山明達・雲居寺浄蔵・叡山修入・円賀・三井公伊・薬師寺済源・延暦寺陽生・多武峰増賀・仁和寺寛空・範俊・信覚・醍醐寺勝覚 |
巻11 | 感進3 | 理蒲・叡山叡桓・子島寺真興・延暦寺慶円・延暦寺余慶・叡実・一条院定照・書写山性空・叡山平忍・叡山蓮防・勝林院寂源・修学院勝算・三井行円・大原山良忍・石塔寺寂禅・行空・蓮長・楞厳院以円・叡山教真・小田原経源・兎原慶日・覚勝・国上山仏蓮・高野山維範・安倍山暹覚・高野山琳賀・賢林寺戒深・南星峯円久・行仙・仁和寺性信・仁和寺覚法・基灯・叡山叡好・愛太子山仁鏡・薢嶽良算・雪彦山玄常・超勝寺清海・鞍馬寺重怡 |
巻12 | 感進4 | 園城寺行尊・㝡福寺延朗・安部山慶円・三輪山常観・性蓮・三井寺斉遠・海部峯広恩・蓮蔵・持法・法蓮 |
忍行 | 興福寺賢憬・仁耀・叡山慧亮・三井證空・戸隠山長明・釈迦院文豪・慈光院延救・無動寺仙命・楞厳院信敬・蓮照・那智山応照・春朝・修禅寺永助・三井叡効 | |
巻13 | 明戒 | 東大寺普照・唐国法進・唐如宝・道忠・豊安・東大寺明裕・中川寺実範・泉湧寺俊芿・西大寺叡尊・極楽寺忍性 |
巻14 | 檀興 | 菅原寺行基・愛宕山慶俊・禅林寺真紹・観喜・最仙・補陀落寺勝道・恒寂・高野山真然・高野山祈親・蓮入・眉間寺道寂・谷汲寺豊然・相応寺壱演・山崎寺慈信・行願寺行円・良峯寺源算・六波羅蜜寺光勝・神護寺文覚・東大寺重源 |
巻15 | 方応 | 聖徳太子・役小角・越知山泰澄・南天竺菩提(=菩提僊那)・林邑国仏哲・伏見翁・勝尾山善仲・弥勒寺開成・園城寺教待 |
巻16 | 力遊 | 百済国曇慧・高麗国慧便・百済慧聡・高麗慧慈・百済観勒・高麗僧隆・百済慧弥・高麗曇微・呉国福亮・唐国神叡・唐道璿・唐道栄・慧済・僧旻・慧隠・智通・知鳳・浄達・行善・興福寺玄昉・行賀・梵釈寺永忠・零巌寺円行・安祥寺慧運・唐補陀落寺慧蕚・真如・奝然・宋呉門寺寂昭・宋伝法院成尋 |
願雑1 古徳 |
豊国・徳斉・徳積・慧妙・道顕・道信・法員・弘曜・慧忠・行表・仁秀・澄叡・慈恒・寿遠・守寵・道詮・承俊・良真 | |
巻17 | 願雑2 王臣 |
聖武皇帝・貞観皇帝・寛平皇帝・寛和皇帝・蘇我稲目・蘇我馬子・司馬達等・藤原鎌足・和気真綱・藤原良相・高階公輔・藤原義孝・高階良臣・源顕基・平維茂・別駕射親元・橘守輔・源親元・平時範・源俊房・三善為康・藤原敦光・平実親・源雅通・藤原仲遠・紀躬高・平時頼 |
願雑3 士庶 |
薬延・感世・尋寂・乗蓮・惟高・藤井久任・野敦末・秦武元・願西・源伝・清原信俊・大江親通・西音・壬良門・修覚 | |
巻18 | 願雑4 尼女 |
善信・法明・都藍・皇后光明子・舎利・如意・如蔵・皇后歓子・高階敦遠妻・藤原敦光女・藤原経実妻・釈妙・願西・妙法・藤原兼澄女 |
願雑5 神仙 |
皇太神宮・白山明神・丹生明神・新羅明神・天満大自在天神・法道・久米・陽勝・窺仙・都良香・藤太主と源太主・生馬仙・法空 | |
巻19 | 願雑6 霊怪 |
転乗・海蓮・慧増・頼真・春命・蓮尊・明蓮・妙達・道命・源尊・常照・阿清・蔵満・円能・道乗・円善・安珍・無空・講仙 |
度総論 |
巻20 – 26:資治表部
[編集]巻20 | 欽明天皇~皇極天皇(539~645) |
---|---|
巻21 | 孝徳天皇~元明天皇(645~715) |
巻22 | 元正天皇~淳仁天皇(715~764) |
巻23 | 称徳天皇~仁明天皇(764~850) |
巻24 | 文徳天皇~朱雀天皇(850~946) |
巻25 | 村上天皇~白河天皇(946~1086) |
巻26 | 堀河天皇~順徳天皇(1086~1221) |
巻27 – 30:志部
[編集]巻27 | 学修 | |
---|---|---|
度受 | ||
諸宗 | 三論・唯識・律・華厳・天台・密・禅 | |
会儀 | ||
封職 | ||
巻28 | 寺像 | 向原寺・四天王寺・元興寺・大安寺・頂法寺・禅林寺・犬寺・崇福寺・興福寺・神願寺・長谷寺・東大寺・石山寺・葛木(寺)像・鵜田寺・招提寺・西大寺・粉河寺・神護寺・慈氏(寺)像・村岡(寺)像・勝尾(寺)像・鞍馬寺・清水寺・山王(=比叡山山王院)像・園城寺・貞観寺・感応寺・円教(寺)像・蟹満寺 |
巻29 | 音芸 | 経師・聲明・唱導・念仏 |
拾異 | 山背大兄王・栄常・諦鏡・藤原永手・大君氏・飛鳥貞成・賀陽良藤・粟田録治・諾楽京(=平城京)女・大安寺側女・賈盤島・蓼原村盲女・熊野村比丘・藤原時重・大江諸世・慧勝・藤原常行・仲算童・役夫賀能・土州中村猟者[4]・徳満・大峯比丘 | |
巻30 | 黙争 | |
序説 | ||
附 | 略例・智通論 |
佛教大学図書館デジタルコレクション、宮内庁書陵部資料目録・画像公開システム、国史大系版を基に作成。
テキスト
[編集]本節は主に『国書総目録』による。
写本
[編集]- 国立国会図書館 :永禄元年(1558)、大菴呑碩写[5]
- 国立公文書館:慶長元年(1615)、周杲写。15冊。
- 国立公文書館:抄本。摂津徴書巻78
- 静嘉堂文庫
- 京都大学松本文庫:巻13, 14のみ。1冊
- 松ヶ岡文庫:巻1, 2のみ。1冊。室町時代末期写。積翠文庫旧蔵
- 東福寺:30冊。重要文化財(1941年7月3日指定)[6]
- 巻2, 3, 10, 22は虎関師錬自筆。巻1, 5, 6, 11-16, 21, 23, 25-30は大道一以写。巻18は性海霊見写。
- 六地蔵寺:巻1, 2, 4, 9のみ。永禄7年(1564)写
- 個人:15冊。吉川重喜写。重要文化財(1959年12月18日指定)[7]
版本
[編集]- 五山版, 貞治3-永和3年(1364-1377), 30冊
- 所蔵:国立公文書館(巻5, 6, 12-14, 20)、宮内庁書陵部、京都大学(15冊)、大東急記念文庫(8冊)、両足院(8冊)、輪王寺日光図書館(巻15)
- 五山版, 至徳元-明徳2(1384-1391), 10冊
- 叡山文庫天海蔵、石川武美記念図書館成簣堂文庫(15冊)、
- 慶長4年(1599)版, 10冊
- 所蔵:国立公文書館、東洋文庫岩崎文庫、京都大学、大東急記念文庫、石川武美記念図書館成簣堂文庫、陽明文庫(6冊)、個人
- 慶長10年(1605)版, 下村生蔵刊[8][9], 10冊
- 慶長(1596-1615)版, 10冊
- 所蔵:宮内庁書陵部
- 元和3年(1617)版, 寿閑開板, 京都[9], 10冊
- 所蔵:東洋文庫岩崎文庫、京都大学、東京大学、西尾市岩瀬文庫、石川武美記念図書館成簣堂文庫、天理大学附属天理図書館古義堂文庫、個人
- 寛永元年(1624)版, 15冊:羅山子跋文[9]。底本は東福寺写本[10]
- 所蔵:国立公文書館、東洋文庫岩崎文庫、宮内庁書陵部、東京国立博物館、大谷大学(2冊補写)、京都大学、京都大学谷村文庫、京都大学松本文庫、筑波大学(巻7欠)、駒澤大学、早稲田大学、東京大学、東京大学史料編纂所、東北大学狩野文庫、名古屋大学岡屋文庫、龍谷大学、秋田県立図書館、大阪府立中之島図書館、東京都立中央図書館加賀文庫(7冊)、宮城県図書館、山口県立図書館、西尾市岩瀬文庫、名古屋市鶴舞中央図書館、高野山三宝院、高野山持明院、高野山宝城院、金刀比羅宮図書館、松ヶ岡文庫、前田育徳会尊経閣文庫、成田山仏教図書館、薬師寺(巻1, 2, 21, 22欠)、陽明文庫、旧彰考館文庫、東京大学鶚軒文庫、東京大学国文学研究室(本居文庫)、個人
- 寛文元年(1661)版, 15冊
- 所蔵:金沢大学、薬師寺(巻17, 18欠, 14冊)
- 刊年不明
近代の刊本
[編集]- 『国史大系 第14巻 百錬抄 愚管抄 元亨釈書』, 経済雑誌社, 1901:底本は寛永元年版本[11]
- 『大日本仏教全書 101 日本高僧伝要文抄 外四部』仏書刊行会
- 『訓読 元亨釈書』上下, 藤田琢司編, 禅文化研究所, 2011:底本は東福寺写本[12]
インターネット
[編集]- 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
- 宮内庁書陵部資料目録・画像公開システム: 五山版, 1364-1377
- 国書データベース
- 国立公文書館
- 国立国会図書館デジタルコレクション
- 禅文化研究所黒豆データベース
- 佛教大学図書館デジタルコレクション:1605刊
現代語訳
[編集]- 今浜通隆訳『元亨釈書: 仏教説話の宝書 』, 教育社, 1980
- 今浜通隆訳『元亨釈書全訳注』上中, 新典社, 2020-22
脚注
[編集]- ^ 『元亨釈書』上表文
- ^ 『国史大系』第14巻
- ^ [1]『通俗元亨釈書和解』巻之上; [2]『通俗元亨釈書和解』巻之中; [3]『通俗元亨釈書和解』巻之下
- ^ 目次に記載なし。宮内庁, vol.29, image 18-19。佛教大, vol.10, image 52-53。国史大系, p. 1165
- ^ 国立国会図書館デジタルコレクション
- ^ 国指定文化財等データベース
- ^ 国指定文化財等データベース
- ^ a b 佛教大学図書館デジタルコレクション、解題
- ^ a b c 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
- ^ 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ, image 913
- ^ p. 6
- ^ 禅文化研究所
参考文献
[編集]この記事は、クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス CC BY-SAに基づいて『国書総目録』(岩波書店発行・国文学研究資料館提供)を改変して利用している(許諾)。