ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー
『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』 | ||||
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ダイナソーJr. の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 | Pine Tracks, Fun City[1] | |||
ジャンル |
オルタナティヴ・ロック インディー・ロック ノイズロック グランジ | |||
時間 | ||||
レーベル | SST (103) | |||
プロデュース | ウォートン・ティアーズ | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
ダイナソーJr. アルバム 年表 | ||||
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『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』(You're Living All Over Me)は、アメリカのオルタナティヴ・ロックバンド、ダイナソーJr.が1987年12月14日にSSTレコードからリリースした通算2枚目のアルバムである。
概要
[編集]本作では、デビュー作である前作『ダイナソー』の様式をさらに洗練させており、引き込まれるようなボーカルに加え、グランジを先取りしたようなラウドなギターとドライブ感のあるリズムを特徴としている。本作はリリースと同時に高く評価され、現在ではオルタナティヴ・ロックで最も偉大で影響力のあるアルバムとされている。
背景
[編集]ダイナソーJr. は彼らの最初のアルバム『ダイナソー』を1985年にリリースしたが、評論家達にはほとんど注目されず、初年度はわずか1500枚ほどの売り上げにとどまっていた[2]。
1stアルバムの発売後、バンドは何度かニューヨークでライブを行った。ニューヨークのオルタナティヴ・ロックバンド、ソニック・ユースのメンバーがダイナソーJr.の演奏を初めて見た時には、特に感銘を受けることはなかった。しかし、その数ヶ月後に再び彼らの演奏を見ると、ダイナソーJr.のファンであると公言してバンドに接触し[3]、1986年9月にアメリカ北東部と北中西部でのツアーにバンドを招待した。
本作のタイトルは、ギター/ボーカルのJ・マスシスが長期のツアーによる窮屈な状態に苛立って発した言葉である、と長い間噂されていた。しかし、マスシスはこの噂を否定し、「俺は妹のように思ってたんだ...ああ、つまり、当時俺を悩ませてた人のことさ。」とインタビューに答えた[4]。
音楽スタイル
[編集]『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』は、主に インディーロック、オルタナティヴ・ロック、ノイズロック、またはグランジ のアルバムと表現され、これらのジャンルへの影響をよく指摘されている[5]。本作は、最初のアルバム『ダイナソー』から2年の時を経て、サウンドが洗練された一方で、とりわけローファイであることには変わりは無い。
再びマスシスが主要なソングライターとなった一方で、ルー・バーロウもアルバムの最後の2曲として、パンクに影響を受けた「ルーズ」と実験的な「ポレド」を作曲した。「ポレド」はアルバムのその他の曲とは異なり、前半部はバーロウが自身のバンド、セバドーでやっているような、ローファイなウクレレの弾き語りで、後半部はサウンド・コラージュと抽象的なノイズの集合体である[6]。
リリースと反響
[編集]本作は、まだバンドがダイナソーの名前だった頃に発売された(その後、訴訟によりダイナソーJr.に改名)。アルバムは発売の数ヶ月後にSSTによって回収され、バンド名を新たにダイナソーJr.と印刷されたものを発行した。バンドは「リトル・フューリー・シングス」のミュージックビデオを、ジム・スプリングとイェンス・ヤーゲンセンの監督のもと制作した[7]。
NME誌は、1987年のアルバムリリースと同時に、「今年アメリカから生まれた最も衝撃的なロック音楽」であり、バンドを「ハスカー・ドゥとR.E.M.とをつなぐミッシングリンク」と評したジャック・バロン氏の絶賛レビューを掲載した[8]。批評家のロバート・クリストガウ氏は、ヴィレッジ・ヴォイス誌にて「B+」の評価をつけ、「不満を募らせる連中が望むのは、人生にちょっとした構造と意味を持たせることだ。それがそんなに難しいことなのか?」と記した[9]。
評価と影響
[編集]本作はインディー、オルタナティヴ・ロックの古典とされている。1995年には、オルタナティヴ・プレス誌の「'85年から'95年のトップ99アルバム」では5位にランクインした[10]。2005年には、スピン誌の「1985年から2005年のグレイテスト・アルバム100」において31位にランクインした[11]。 ピッチフォークが2002年に発表した「1980年代のベストアルバム100」リストでは40位につき[12]、2018年に発表された新版リストでは200枚中46位にランクインした[13]。本作は音楽批評書死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバムにも収録されている[14]。加えて、本作はJ・マスシスがダイナソーJr.で最も好きなアルバムでもある[15]。
『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』は、特にシューゲイザーに多大な影響を与えたことにも定評がある。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズは、彼らの代表作の一つ『ユー・メイド・ミー・リアライズ』EPの数ある影響元の中で本作を挙げている[16][17]。この2バンドはやがて一緒にツアーを回ることになる。ニルヴァーナに影響を与えたとも言われている[18]。デス・キャブ・フォー・キューティーの2000年のアルバム『ウィ・ハヴ・ザ・ファクツ・アンド・ウィーア・ヴォーティング・イエス』に収録されている楽曲「Little Fury Bugs」の曲名は「Little Fury Things」に由来する[19]。
2005年には、オール・トゥモローズ・パーティーズ主催の「ドント・ルック・バック」コンサートシリーズの一環として、本作が全曲ライブで披露された[20]。
2011年、ニック・アットフィールド氏はコンティニウム社の33⅓シリーズの一環として、本作について本を執筆した[21]。
収録曲
[編集]特記の無い限り作詞作曲はJ・マスシス。
オリジナルリリース時収録曲
- リトル・フューリー・シングス "Little Fury Things" - 3:06
- クラックド "Kracked" - 2:50
- スラッジ・フィースト "SludgeFeast" - 5:17
- ザ・ラング "The Lung" - 3:51
- ライサンズ "Raisans" - 3:50
- タールピット "Tarpit" - 4:36
- イン・ア・ジャー "In a Jar" - 3:28
- ルーズ "Lose" - 3:11
- 作詞・作曲:ルー・バーロウ
- ポレド "Poledo" - 5:43
- 作詞・作曲:ルー・バーロウ
- SST盤CDボーナストラック
- ショウ・ミー・ザ・ウェイ "Show Me the Way" - 3:45
- 作詞・作曲:ピーター・フランプトン
2005年以降のリイシュー盤収録曲
- リトル・フューリー・シングス "Little Fury Things"
- クラックド "Kracked"
- スラッジ・フィースト "SludgeFeast"
- ザ・ラング "The Lung"
- ライサンズ "Raisans"
- タールピット "Tarpit"
- イン・ア・ジャー "In a Jar"
- ルーズ "Lose"
- ポレド "Poledo"
- ジャスト・ライク・ヘブン "Just Like Heaven" - 2:53
- ザ・キュアーのカバー。
- インペリアル・レコード盤のみのボーナストラック
- スロウ・ダウン "Slow Down" - 0:49
- イン・ア・ジャー (Live) "In a Jar" - 3:24
クレジット
[編集]- ダイナソー Jr.
- 参加ミュージシャン
- リー・ラナルド – バッキングボーカル (「リトル・フューリー・シングス」)
- プロダクション
- ウォートン・ティアーズ – プロデューサー、エンジニア
- デイヴ・パイン – エンジニア
- モーラ・ジャスパー – アートワーク
参考文献
[編集]- ^ “You're Living All Over Me: Dinosaur Jr.”. Clash (2 February 2014). 2024年11月26日閲覧。
- ^ Azerrad (2001), p. 354.
- ^ Azerrad (2001), pp. 354–355.
- ^ “Rank Your Records: J Mascis Rates Dinosaur Jr. Albums from Bummer to Classic | NOISEY” (18 August 2016). 2024年11月26日閲覧。
- ^ “Dinosaur, You're Living All Over Me, Bug Review: Floppy fringes, form an orderly queue...”. bbc.co.uk (2005年). 2024年11月26日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “We Talked to Lou Barlow About Anxiety, Ukulele, and His New Solo Album 'Brace the Wave'”. sfweekly.com (2015年9月21日). 2016年1月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月26日閲覧。
- ^ “Dinosaur Jr - Little Fury Things”. YouTube.com (2013年2月6日). 2021年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月26日閲覧。
- ^ Barron, Jack (September 19, 1987). “Dinosaur: You're Living All Over Me”. NME: 31.
- ^ Christgau, Robert (April 12, 1988). “Christgau's Consumer Guide”. The Village Voice 2024年11月26日閲覧。
- ^ “Alternative Press Top 99 of '85-'95”. 2024年11月26日閲覧。
- ^ A.B. (July 2005). “SPIN 100 Greatest Albums 1985-2005”. SPIN: 80 2024年11月26日閲覧。.
- ^ “The Top 100 Albums of the 1980s”. Pitchfork. p. 7 (November 21, 2002). 2024年11月26日閲覧。
- ^ “The 200 Best Albums of the 1980s”. Pitchfork. p. 8 (September 10, 2018). 2024年11月26日閲覧。
- ^ Robert Dimery; Michael Lydon (23 March 2010). 1001 Albums You Must Hear Before You Die: Revised and Updated Edition. Universe. ISBN 978-0-7893-2074-2
- ^ “Rank Your Records: J Mascis Rates Dinosaur Jr. Albums from Bummer to Classic | NOISEY” (18 August 2016). 2024年11月26日閲覧。
- ^ “The Quietus | Features | A Quietus Interview |”. The Quietus. 2024年11月26日閲覧。
- ^ Murphy, Tom (April 23, 2009). “My Bloody Valentine's Kevin Shields talks Loveless and the influence of bands like Sonic Youth and Dinosaur Jr.”. Westword. 2024年11月26日閲覧。
- ^ “50 Artists Who Inspired Kurt Cobain”. NPR.org. 2024年11月26日閲覧。
- ^ “Death Cab For Cutie: "Indie Rock Is Dead"” (英語). Rock and Roll Globe (2020年3月27日). 2020年6月23日閲覧。
- ^ “Dinosaur Jr. Setlist at KOKO, London”. setlist.fm. 2024年11月26日閲覧。
- ^ Attfield, Nick (2011), You're Living All Over Me, Continuum Books, ISBN 978-1-4411-8778-9